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ケレーディアという国名は旧暦から続く魔導師の家系であるケレーディア家から付けられています。
この名付け方は珍しくありません。
新暦はかなり長い間、魔法を中心とした戦争が続いていました。
取っては取り返され、地名は数ヶ月、時には数日で変わることもあったようです。
それがある程度、落ち着いてきた頃に新しい国がいくつも生まれました。
しかし、国名を付けるのは簡単ではありません。
長い戦争の中で何度も名前が変更され、どれが相応しいか分からなくなっていました。
味方として戦っていた仲間達も昔は敵だった。そんな複雑なことが多くあり、歴史を振り返るほどややこしくなっていました。
そんな中、とある国が勇敢に戦ってくれた魔導師を国の名前にしたのです。
それが広がっていき、今でもいくつかの国や地域は魔導師の名前が由来になっています。
ケレーディアは温暖な気候で自然の豊かな国です。
国の大部分が森に覆われていて都市と呼べるのは首都であるアーユスのみ。
大きめの町や村があり、そこを中心に大自然の中でのんびりと暮らしている魔法使いが多いと聞いています。
もちろん、公認魔導師もいます。
しかし、ここでは町やその周辺に住む魔法使いが協力して対応するのが基本らしいです。
ガイドブックに書いてありました。
優秀な魔導師さんが多いからこんなことが出来るのでしょう。
ガイドブックに載っていた大自然の景色は見ることはありません。
行きたいと思った場所に付箋は貼ってますが、仕事がこれでもかと詰め込まれているのです。
公認魔導師ではなく、もう少し偉い立場の人間なら遊びに行けたでしょう。
私が降り立った空港は首都、アーユスから少し離れた町です。
そこで紗倉見の大使の方と合流することになっていました。
なんでも元明け暮れの大先輩なんだとか。
「こっちよー」
待ち合わせの場所で手を振っているふくよかな夫婦がいました。
「ようこそ、ケレーディアへ。木々島です。よろしく」
「千疋南君です。こちらこそ、よろしくお願いします」
軽く会釈をして握手をします。
「よろしくね」
奥さんもにこやかに笑っていました。
「早速だが移動しましょう」
時間を気にしている木々島さん。
そう。忙しいケレーディアでの滞在はもう始まっているのです。
それから、すぐに車に乗って空港を後にしました。
「こっちは暖かいですね」
少し外に出ただけで汗ばんでしまいます。
紗倉見は冬だったので体が変な感じです。
「そうでしょう?一年中こんな感じ。紗倉見は今、寒いものね」
奥さんが飴をくれました。
「ありがとうございます」
飴をなめながら景色を眺めます。
舗装はされていますが、山道なのでほとんど木しか見えません。
たまに大きな畑や田んぼが見えるくらいです。
時々、木々島夫妻と会話もしながら時間をつぶしました。
車に揺られ、1時間くらい経ったでしょうか?
首都、アーユスに入りました。
森から一転して近代的な建物に囲まれます。変な感じです。
基本的に背の低い建物が広がっていて、その上を数多くの魔法使い達が飛んでいました。
ほうきや絨毯などが飛び交っていて、紗倉見以上に魔法が浸透しているのが分かります。
中にはとんがり帽子とローブを羽織っている魔女なんかもいました。
紗倉見ではあまり見かけませんが、魔法の根強い国では昔ながらの服装として着ている方も多いそうです。昔は舞木も真っ黒なやつを着ていました。
そして、アーユスの中央には巨大な塔とそれを取り込むように生えている魔法樹があります。
魔法樹とは簡単に言えば巨大な魔術機巧です。
本物の木のように見えますが、魔法でそのように調整されています。
天候を操ったり、結界を張って攻撃を防いだり、国中から魔力を集めたり、やろうと思えば国民を意思の持たない兵士に変えることも可能です。
もちろん、兵士に変えるなんて出来ないように魔法樹の技師や国の機関などが厳重に管理しています。
魔法樹の始まりは小さな村を守る結界魔法だそうです。それが時代と共に性能が向上して、まるで成長したかのように大きくなっていきました。その様子を見て魔法樹と呼ばれ、今の形になったのです。
「立派な魔法樹ですね」
「そうでしょう?私達も初めて見た時は圧倒されちゃったのよ」
奥さんはよく話す人でここに来るまでに少し仲良くなれた気がします。
「でも、近くで見るともっとすごいわよ」
ニコニコ笑っています。
「そうなんですか?楽しみです」
明後日の神様との戦争が無ければどんなに良かったことか。
これから、あの魔法樹で今回の戦争の対策会議に参加することになっています。
会議とは言っていますが、話し合いをする訳ではありません。
世界機関が決めた作戦を集まった参加者に説明する会です。
例えば、私のような兵器をどのタイミングでどのように使われるかなどなど・・・。私にとってあまりいい話ではないでしょう。
正直、とっても怖いです。
でも、行かなければなりません。
魔法樹周辺から数キロは立ち入り禁止区域になっています。
その境には高いレンガの壁があり、私はそこを通過するための門の前で下りました。
木々島夫妻は許可が下りなかったようです。
外はやっぱり暑くてすぐに汗がにじみます。
「ここまでだな。終わったら連絡してくれ」
「はい。ありがとうございました」
警備員の方に通行許可証と身体検査を受けてから立ち入り禁止区域へ入りました。
検問所から魔法樹周辺の建物までたぶん1キロ。
ここから向こうまで舗装された一本道を進みます。
それ以外の場所は芝生になっていました。
驚いたことに壁のこちら側は涼しいのです。
心地よい風が抜けていきます。
これも魔法樹の力なのでしょうか?
一本道の真ん中くらいに一人の女性が立っていました。
藍白髪の女性でまるで物語から出てきたかのような綺麗な方です。
私は彼女を知っています。見たことはありますが、会うのは初めてでした。
そんな彼女は私の姿を見ると、首をかしげました。
「紗倉見からの協力者ってあなたですか?」
「はい。初めまして。千疋南君と言います」
「あーそうですか。・・・初めまして。ルミナ・スノードロップです。今回、拉致される者です」
やっぱりそうでした。
エイルさんから話は聞いています。雑談の時に写真も見せてもらったこともあります。
・・・なんだか不満そうです。それに拉致される者って・・・まるで他人事。
変わった人と言ってましたが、たしかにその通りですね。
「誰かと勘違いされていたのですか?」
「・・・はい」
寂しげな表情でした。
でも、そこまで落ち込まれるとちょっと嫌な気持ちになります。
「紗倉見でとても深い関係になった人がいたので・・・きっとその方だと思ってワクワクしながら待っていたんです」
恋人とかでしょうか?
たしかに私より深い関係の人の方が安心できるでしょう。
その気持ちは分かります。分かりますけど・・・。
「なんて名前の方ですか?」
名前だけでも聞いてみることにしました。
もしかしたら、知っている人かもしれません。
「八声舞木さんです」
「・・・は?」
思わず声が出ました。慌てて、すぐに口を押さえます。
なぜ、舞木の名前が出てくるのでしょう。
・・・それに深い関係とは?
そんな私の反応を見たルミナさんは悪戯っ子のように笑います。
さっきまでの表情は嘘だったのでしょうか?
「もしかして、お知り合いですか?」
顔が引きつります。
これ以上はややこしいことになりそうなので、先を急ぐことにしました。
「すみません。急いでいるので・・・」
歩き出すと歩幅を合わせて付いてきます。
「私が案内係ですよ。一緒に行きましょう」
そして、顔を覗き込んできて、また質問してきました。
「で、お知り合いですか?」
初対面で悪いですが、この人苦手です。
「・・・まぁ、知ってはいますけど」
「やっぱりですか。予想通りですね」
フフフとわざとらしく笑っています。
いきなり面倒くさい人に絡まれました。
「素敵な方ですよね。舞木さん」
このままだとずっとこんな感じなのでしょう。
・・・決して気になった訳ではありませんが、そのことについて聞いてみることにしました。
「・・・深い関係ってどこまでのことですか?」
「うーん・・・そうですね。どこまでだと思います?」
これが柊だったらとっくに海へ投げ捨ててます。
もういいです。無視して早足で先に進むます。
その頃には魔法樹周辺の背の高い建物群に入りました。
この道のりが無駄に長かった気がします。
頭上には魔法樹の枝や葉が広がっていました。
魔法樹によって管理されているのか、明るく優しい光が入り込んで陰ってはいません。
奇妙なくらい澄んでいる空気とひんやりとした冷たさ、人の少なさもあって別世界のようでした。
その神秘的な雰囲気をぶち壊すように「どこまでだと思います?」と何度も聞いてきます。
「・・・もう分かりませんよ。どこまでですか?」
ルミナさんは自分の口に指を当てます。
「秘密です」
イラッとしました。
なんなのですか?この人。
その時、コツンと杖で頭を叩かれるルミナさん。
「止めなさい。バカ」
ケレーディア先生でした。
頭を抱えてうずくまり、「暴力反対ですよ」とか言ってプンプンしています。
先生は無視して、ごめんね。と苦笑い。
「ルミナは人をからかう癖があるの。悪い子だけど、仲良くしてあげてね」
・・・悪い子なんですね。
「ペアになんてことを言うのですか」
「うるさい。この時期にフラフラしてもう少し大人しくしてなさい」
それを聞いて、ルミナさんは頬を膨らませています。
「さぁ、こっちよ」
そこは魔法樹を構成している塔でした。
その周囲はとても薄い膜のような層が展開されています。それが木のように見えているのです。
躊躇いなく通過する二人の後に続きます。
内部はさらに驚きで見たこともない魔法式が宙を漂っていました。それも、数え切れないくらい。
触れても何も起きません。というより、触れた感覚がありません。本当に不思議です。
この膜の中では見えているだけではなく、溶け込んでいる魔法式も多くあるでしょう。
それがしっかりと動くように調整され、管理と更新を繰り返しているのです。
国民を守るために・・・。
これが人の積み重ねの結晶。そして、この国の中枢機関です。
「ここまで入っていいんですか?」
「本当はダメだけど、世界機関が安全な場所で対策会議がしたいってうるさくてね。本当に最低限の人数だけ入れることになったの」
こんな会話をしている間もルミナさんはなぜか楽しそうにクルクル回っていました。
「この層から内側の生物の動向は常に監視しているし、あの草原で内部も含めて身体検査もしているから大丈夫でしょう」
ん?・・・内部も含めて?ちょっと怖いので触れないでおきましょう。
塔の中は近代的で綺麗な空間でした。
何と例えればいいでしょうか?映画とかで出てくる真っ白な研究所に近い感じです。
でも、やはり人はいません。この建物に入れる人はさらに限られているのでしょう。
エレベーターの前まで来ました。
「では、私はここまでです」
と、突然に言い出したのはルミナさん。
彼女の案内はここまでのようでした。
でも、今回の戦争の中心人物ですよね?参加しなくていいのでしょうか?
「いや、来なさいよ」
と、ケレーディア先生。やっぱり参加することになっているのですね。
「堅苦しいのは苦手なんです。それに寝てしまうならフラフラしていた方が楽しいじゃないですか」
そんなことを言い終えるのと同時くらいにエレベーターが到着しました。
「行きましょう」
エイルさんは呆れたように言いながら、乗り込んでいました。私も続きます。
「いってらっしゃい」
手を振って見送られました。
上昇するエレベーターからケレーディアの町並みと遠くに広がる森が見えます。
「夜はもっと綺麗なの。この景色を見られるのは限られた人だけだからラッキーだったね」
「はい。今でもとても綺麗ですよ」
どうせなら、海帆にも見せてあげたかったです。
でも、そんな時間はすぐに終わります。
明け暮れにもありそうな会議室に通されました。
既に十数人の人が集まっています。
「じゃあ、また後でね」
ケレーディア先生とは離れた席になってしまいました。
指定された後方の席に座ります。
二人用の長机で既に小さな女の子が座っていました。
「こんにちはー」
その子はとても明るくて可愛らしい声でした。
「こんにちは」
挨拶を返すと嬉しそうに笑います。
「私はミオソティスって言います。えーと・・・」
メモ帳を開いて何かを確認してから「ミオって呼んで下さい」と続けます。
それには何が書いてあるのでしょう?
「私は千疋南君。よろしくね」
「南君さん。よろしくお願いします」
足をバタバタさせています。可愛いです。
「ここにいるってことは南君さんも兵器なの?」
ミオさんは変わらず笑っています。
・・・そういうことですか。
「私は人間ですよ。あなたもそうでしょう?」
「はい。人間で兵器です」
彼女の笑顔が怖く見えます。
一体、彼女は・・・。
その時、扉が勢いよく開きます。
入ってきたのは二人組の男女。
小柄な女性と2メートルはありそうな大男でした。
「お待たせしました。世界機関三十人議会リスンバル代表のリーレイです。こっちは弟子のヨウエイ。今回はこの作戦に参加していただき、ありがとうございます」
大男の手に持っている資料に彼女が触れると浮遊してみんなに配られます。
「それが今回の作戦などがまとめられた資料です。では、簡単に説明を行います」
今回の自称神様の名前はカマーラン・カリストレ。
カビアンド・ビシドレーヌと呼ばれる国の第一王子だった男で何年も前にとある事件で失踪したことになっていました。
この手の事件は公認魔導師なら一度は目にするとは思いますが私は知りません。きっと隠蔽でもしたのでしょう。
この男は魔法には恵まれなかったらしく、神の力を得た今でもヌミボロプ製の船と呼ばれる空に浮かぶ巨大な魔術機巧で攻撃をしているようでした。
そのほとんどが奇襲のような形で公認魔導師が対応しきれずにやられてしまうそうです。
今回のように宣戦布告することもありました。
しかし、侵攻までの時間が短く、世界機関もうまく支援できなかったようです。
世界機関は今回の侵攻を最初で最後のチャンスだとしています。
侵攻までの時間が長く、かなりの準備をしたようです。
次にいつこんな機会が訪れるか分かりません。そして、どのくらいの人が犠牲になるかも分からないのです。
なので、立てられた作戦もかなり本気のものでした。
兵器を召集したという時点で分かってはいました。
「世界機関が用意した兵器を用いて敵を殲滅します」
リーレイさんはそう言いました。
資料にもそう書いてあります。
一番手は私。その次はミオさんでした。
「兵器の紹介です。千疋南君さん。我々、世界機関が所有する兵器の中でもトップクラスの威力を誇ります」
視線がこちらに集まります。本当に嫌です。
下を向きました。
「そして、次はミオソティスさん。彼女もかなりの高性能。細かいことは機密なので言えませんが、我々はこれで勝てると考えています」
「頑張ります」
ミオさんは立ち上がって大声で言いました。
参加者は気まずそうに顔を逸らします。
「ありがとう。しかし、今回はそれだけではありません。禁術、ダモクレスの剣の使用許可も下りました」
禁術とは世界機関が定めている使ってはいけない通常魔法のことです。
「これだけの兵器があればあの船団も跡形もないでしょう」
「ちょっと待って」
エイルさんが机を強めに叩きながら立ち上がります。
「なんですか?」
「こんな作戦聞いてない。こんなの認められる訳ない」
それもそうです。
この作戦でどのくらいの被害が出るのかは分かりません。
書類にも被害に関してはぼかして書かれています。
「ちゃんとに国民は避難させています。それに何の犠牲もなしに神様を倒せると思っているのですか?」
「それは・・・そうだけれど」
ここにいる人達は神様による殺戮の映像を見たことがあるでしょう。
大きな都市が崩壊して、真っ黒に染まっている映像です。
そこら辺に転がる人の死体。必死に救助活動に参加する人達や泣き叫ぶ子供達。
そして、死体は群醜帝となって人に襲いかかる。そんな映像です。
それを考えたら、ある程度の犠牲は必要になってくるのかもしれません。
今回の犠牲は私達なのですが・・・。
「そもそもこの作戦を私は知りません。それにケレーディア代表の報告も・・・」
リーレイさんはニヤッと笑います。
「当たり前じゃないですか。あなたがいたら話は進みません。作戦はあなたが吞気に紗倉見で健康診断をしている間に決めさせてもらいました。それに代表者って行っても代行じゃないですか。あんな俗物、買収するのは簡単ですよ」
ルミナさんの目の前まで近づいて睨みます。
「ここまで何人死んだと思ってるんですか?それに悪いのは侵攻してくる神様でしょう?」
「それは・・・」
「私はこの戦争を一人の犠牲者だけで終わらせたいんです。それに、きっと大丈夫ですよ。実験ではちゃんと生き返ってます。エイルさんも知ってますよね?この兵器にかなりの犠牲と多くのお金が費やされていることを。いつまでも大切に仕舞っておく訳にはいかないんですよ」
ルミナさんは言い返せずに下を向いています。強く手を握りながら・・・。
「では、ここまでで他に質問のある方はいますか。いなければ、話を続けます」
元の位置に戻って参加者を見渡します。
一人の少女が手を挙げました。
先ほど見たようなとんがり帽子とローブ姿の伝統的な魔法使いの装いです。
ただ、黒や紺などの目立たない色が一般的ですが、彼女のは深紅の色をしていてとても目立ちます。
リーレイさんは嫌そうな顔をして言いました。
「何ですか?メアリー・クレマチス様」
金色髪の綺麗な女の子です。
「話が違います。私達のペアが最初に挑むことになっていたはずです」
クレマチスさん。
今、この人を知らない人は少ないでしょう。少し前に悪い意味で有名になりましたから。
「認められる訳ありません。あなたは一国のお姫様なんですよ」
「勝手なんですね」
「あなたがそれを言いますか?」
リーレイさんは半年前くらいの事件のことを言っているのでしょう。
彼女は一晩でウディンコンティアと呼ばれる国を制圧して、女王の座に就いているそうです。
ニュースで言ってました。
でも、不可解な点が多く、アンノウンの侵攻が始まったばかりということもあり、詳しいことは分かっていません。
まぁ、お姫様がなぜここにいるのか分かりませんが・・・。
「では、こういうのはどうでしょうか?」
そんなクレマチスさんに・・・杖を向けられました。なぜ?
「戦争の前に兵器が壊れてしまった。きっと、よくある話ですよね」
よくあることなのでしょうか?ないと思いますけど・・・。
無茶苦茶なことを言っています。
今日はそんな人達ばかりです。
「それは世界機関と敵対するってことでいいのかな?」
怖い問いかけに、はい。と答えるクレマチスさん。
「あの神もどきと戦えるなら何でもいいです。それに私の件で何も動けなかった世界機関に敵対なんてできるんですかね?」
クレマチスさんが言い終えるのとほぼ同時、エイルさんがクレマチスさんの頭を叩きます。
「イッ・・・何よ」
不満そうに睨んでいます。
「あなたは馬鹿じゃないの?こんな時にまで敵を作って・・・約束も守れないの?」
約束って何でしょう?
クレマチスさんは口をつむぎます。
突然のことにリーレイさん達もあ然としていました。
「リーレイ」
「な、何でしょうか?」
ルミナさんはため息を吐いてから話します。
「メアリー・・・じゃなくてクレマチス家の提案だけ通してくれない?後はあなた達の作戦通りでいいから」
少し考えるリーレイさん。
「分かりました。しかし、作戦は変えません。少し待ってあげるだけです。もちろん、私達には関係のない戦闘なので助けませんし、責任を取りません」
「それでいいです」と、クレマチスさん。
大きくため息を吐くのはリーレイさん。
「・・・何かやる気なくなっちゃった」
ヨウエイさんに合図をして歩き出します。
「では、魔導師の皆さん。この魔法の世では何が起こるか分かりません。心構えをお願いします。続きは明日と明後日の集まりで確認します。もちろん、資料の通りなので先に呼んでおいてくれたら嬉しいです」
魔法で扉を開けて部屋を出たところでこちらに振り向きました。
「今日は解散です。お集まりいただきありがとうございます」
お辞儀をすると扉は閉まりました。
・・・・・
寝支度を終えてからベッドに倒れ込みます。
あの後、すぐにミオさんもクレマチスさんもいなくなり、ケレーディア先生はとても混乱していました。
取り乱した時の海帆みたいで、ちょっと面白かったです。
私のその後は仕事というか、声かけで移動ばかりでした。
ケレーディア先生のご両親や公認魔導師の方々、ケレーディアに住む紗倉見出身の魔導師など。
ケレーディア中を大移動していました。
昼食は奥さんが用意してくれたおにぎり。車の中で食べました。美味しかったのですが、ゆっくりと食べたかったです。
夕食がいいお値段のするお店だったのが今日の良かったことでしょうか。
・・・嫌なくらい部屋が静かです。
落ち着いたからでしょうか?
急に不安になってきました。
作戦では一番手。覚悟を決めなければなりません。
不思議なことにここまではそんなことありませんでした。
まぁ、そんなことを考える暇もないほどバタバタしてましたし・・・。
海帆はちゃんとにやっているでしょうか?
帝の件。みんなは大丈夫でしょうか?
連絡用のチャットが動いていただけで私へのメッセージはありませんでした。
ため息が出ます。
明後日には決戦が待っているというのに私は何をやっているのでしょう。
疲れました。
天井をボーッと眺めていると、心に良くない気持ちがチリチリと大きくなっていきます。
本当に怖いです。まだ死にたくないですし、やりたいこともいっぱいあります。
・・・もう寝ましょう。明日も忙しいですから。
疲れて眠気の強い今のうちに・・・。
目を閉じます。
私をすぐに夢の世界へ落ちていきました。
温かいお茶を飲みながら夜空を見上げます。
ベランダから星座を探しながら眠気を待っていました。
私とエイルは魔法樹から少し離れた所に部屋を借りて暮らしています。
とても広くていいお部屋です。
魔法樹の側に公認魔導師が住める住居があるらしいのですが、エイルは嫌だと言って今の暮らしになっています。
エイルは今日、帰ってこないでしょう。
暇で暇で仕方がありません。
ため息が出ました。
ベランダから見える魔法樹が薄く紫色に光っています。
夜の姿を不気味と言う人がいるそうです。私は好きなんですけれど・・・。
ここ数日、なかなか眠れません。どうやっても、心が落ち着かないのです。
口では否定していますが、心の奥底では過去の呪縛から逃げられていないのかもしれません。
少し欠けた月がそれなりに明るく照らしてくれています。
なので、彼女を見つけるのも簡単でした。
「あなたの方から来るなんて珍しいですね」
メアリーです。ほうきに乗って来ました。
「そうかしら?」
「ええ。明日は雪が降るかもしれませんね」
ここで雪なんて見たことありませんけど・・・。
メアリーはほうきから下りてきて浮遊魔法で着地します。
私もこのくらい出来たらほうきに乗れるのでしょうか?
でも、乗れるようになったら、エイルの後ろに乗れなくなってしまうので今のままでいいんです。
「・・・お願いがあるの」
目を合わせずに少し恥ずかしそうです。
「さらに珍しいです。いいですよ。お姉さんに何でも言ってください」
自信満々に言ってやりました。
メアリーは「ありがとう」なんてお礼を言います。本当にどうしたんでしょう?
「私が最初に戦うことは知ってる?」
「はい。聞きました。また無茶をすると、シェリーさんに怒られてしまいますよ」
シェリーさんとはメアリーとペアを組んでいる少女です。
「いいのよ。私がやらないと気がすまないの」
何を言っても聞かない、本当に仕方のない子です。
そういう悪い所は姉妹で似るのですから。
「そうですか。ところで、お願いって何ですか?」
「ルミナには戦争の時に吹雪を起こしてもらいたいの」
少し驚いてしまいました。まさか、そのことで私を頼ってくれるとは・・・。
メアリーなら私を頼らなくても戦えると思います。
それでも、何かしらで頼ってくれるのは素直に嬉しいです。
「私を頼ってくれるようになったんですね」
「あなたを頼るのはこれで最後よ」
照れてるのが分かります。
「そうなんですか?それは残念です」
ケレーディアではあり得ない冷たい風が吹きました。
メアリーはそれを感じて驚いた表情で私を見ました。
私は優しく抱きしめてあげます。
「・・・ルミナ?」
最近、メアリーの周囲では良くないことが多く起こっています。
一人で抱え込んで一人で解決するような子です。
本当ならシェリーさんが全快するまで一緒にいるべきでした。
一緒に協力して次を考えるべきでした。
「辛かったでしょう?私の胸で泣いてもいいんですよ」
半分ふざけて言いました。
「それは嫌。・・・でも、その・・・ありがとう」
「いいんです。あなたはもっと人を頼るべきです」
月が雲に隠れると辺りは一気に暗くなります。
しばらく、抱きしめていると無理矢理に引き離されてしまいます。
「止めて。もういいでしょ」
メアリーは温かくて良い香りがしたので、もう少し抱きしめたかったのですが・・・。
「ルミナこそいいの?・・・その色々とあったんでしょ?」
「今さら変に気を使わなくていいんです。それに今はルミナ・スノードロップ。昔の私はもういないのです」
空気が冷えてきました。
吐く息は白くなって、メアリーは身震いしています。
目の前を何かがゆっくりと通り過ぎて、私達は空を見上げました。
雪です。
「早過ぎじゃないかしら?」
「そうですか?天才魔導師ルミナ・スノードロップの弟子の大舞台です。このくらい張り切ってやらないと」
メアリーは温かくなるランタンを出しました。
久し振りに使ったのか埃が焦げる臭いがします。
「なんでいつも私が弟子ってことになってるのよ」
「ひどい。小さい頃はたくさん面倒みてあげたのに」
「いつもフラフラしてたじゃない。教わったのは氷の魔法くらいよ。参考になんなかったし・・・」
「え?参考になってなかったのですか?」
メアリーはうなずきます。
なんか少しショックです。
・・・まぁ、今はそんなことはいいでしょう。
雪が強くなってきました。
「せて、メアリー」
少しの間だけ真面目になりましょう。せっかくの機会ですから。
「あなたの考えていること、教えて下さい。この私が全て叶えてあげましょう」
ケレーディアでのお話は予定では三話で終わります。
新キャラをどこまでどのくらい出すかで詰まってしまいました。後、規模が大きくて難しかったのもあります。
新キャラはここが終われば、しばらくは出てこないのでそれも悩んでいるところです。
最近、書いてて思いますが、この物語の主役はエイルさんとルミナさんではないかと思うくらい二人が中心な気がしています。
紗倉見勢が活躍出来るように頑張って書いていきたいです。




