12
テーブルの上でロウソクの火が揺れている。
暗い部屋を薄く照らして壁や天井に模様を映す。
私はそれを甘くて弱いお酒を飲みながら見ていた。
夜々はもう寝てしまった。
柊や海帆と遊んでたみたいだし、疲れちゃったのだろう。
ゆっくりと時間をかけて飲んでいて、ようやくグラスが空っぽになる。
・・・今日も帰ってこないのか。
私ももう寝よう。そう思って席を立つ。
それとほぼ同時に端末がなった。
真也からだ。こんな時間に何だろう?
「何?」
『玄関開けて』
玄関の扉が叩かれる音がした。
「は?鍵は?」
「忘れた」
何やってんだよ。
急いで鍵を開けにいく。
開けるとすぐに入ってきて扉を閉める。
「さみぃ」
身震いしている。
「おかえり」
「ちょっと、簡単に鍵を開けるとか無用心過ぎない?」
こいつは何言ってるんだ?きっと今、真也を睨んでいるだろう。そもそも鍵を忘れたのが悪い。
「じゃあ、何が正解なんだよ」
「何が正解なんだろうね。寒いから暖房入れて」
靴を脱いでリビングへ向かう。マイペースな奴。
魔法でヒーターをつけた。
ロウソクはまだ消していなかったけど、さすがに暗いと思って明かりを付けようとする。
「このままでいいよ」とか言われたのでそのままにする。
「何か飲む?」
「酒」
「はいはい」
私達はあまり合う物事は少ないけど、お酒の好みはなぜか同じだった。
甘ったるくてアルコールの弱いお酒。
さっきまで飲んでいたミカンのお酒を用意した。
「これ、結構美味しかったよ」
「へぇ」
グラスを振って色を見てから一口飲む。
「本当だ。明け暮れに1本持って帰っていい?」
「ダメ」
わざとらしく「えー」と言って残念そうにする。
「それにしても、この時間って珍しい。どうしたの?」
帰ってくる時は夜々と同じのことが多い。
夜遅くに帰ってくる時があったかな?それくらい珍しいことだった。
「そうだった。これを真央に渡しに来たんだ」
魔法で大きな茶封筒を出した。
私も魔法隊にいたのでそれが何なのか分かる。
「お前ここにそんなの持ってくんなよ」
「真央起きてるか分かんないから渡しといて」
ニタニタしながら机に置く。
こいつマジで言ってんのか?重要な書類だろ?
「自分で渡せ。私を巻き込むな」
何が書いてあるか知らないけど、私達、一般人が知ってはいけないことや危ないことが書かれている。
「冗談冗談」
ニシシと笑っている。一発殴りたい。
真也を睨んでいると、階段を降りてくる音が聞こえた。そして、リビングの扉が開く。
「姉貴ー。なんかある?」
入ってきたのは真央。私の弟だ。
私と同じ茶髪だが、だらしなくボサボサに伸びていてる。
「あれ?真也がいる」
「よっ」
「帰ってきてたんだ」
真央はすぐに机の上の茶封筒に気付く。
「え?それって・・・」
「これ?今回の作戦。これを届けに来たんだ」
ここで作戦のやり取りすんなよ。
真央も呆れたような顔をしている。
「メールで送れよ」
「いいじゃん。それにお酒飲みたくなったの」
嫌そうに茶封筒を受け取っている。
「まぁ、いいや。姉貴。カップ麺どこだっけ?」
薄明かりの中でキョロキョロ探している。
「また?」
「またです」
棚にあるカップ麺を見つけて、魔法で引き寄せてキャッチする。
「カップ麺ばかりでしょ?作るよ」
ヘッと馬鹿にしたように小さく笑う。
「弟なりに気をつかってるの。感謝してね」
ヒラヒラと手を振って出ていった。
「それでは、良い夜をー」
階段を上る音がする。
「・・・なんだあいつ」と真也。
「ベッドから落ちればいいのに」
「そうだね」
真央は不規則な生活を送っている。
仕事はキチンとやっているみたいだけど、ほとんど部屋から出てこない。
物音がしない日があったり、数日間会わないこともあって困っている。
真也のグラスは空になった。口に合ったみたいだ。
私もグラスを空にして「次は何飲む?」と聞く。
腕を組んでうーんと、うなって悩んでいる。
そして「今日はいいや。明け暮れへ帰る」と、変なことを言いだす。
「は?本当に何しに来たの?」
「だから、真央にあれを渡しにきたんだよ。それに、柊達が初めての夜勤だからね。先輩として見守らないと」
肩を落として背もたれに体重をあずける。
呆れた。冷たい視線を送る。
「ごめんって。落ち着いたらまた帰るから」
真也は立ち上がる。
「分かったよ。早く戻れ」
鍵も閉めなくちゃしけないし、玄関まで送ることにした。
「これから長い作戦があって、もしかしたら二人ともいない時があるかもしれないから気をつけてね」
靴を履きながらそんなことを言っていた。
今日はやけに魔法隊のお客さんが少ないと思ったらそういうことか。何かしらの準備があるんだろう。
「戦争でも始めるつもりか?」
「秘密。でも、国民にあまり負担をかけないようにするつもりだよ」
外は雪が降っていた。
「最近、多いね」と、真也は空を見上げる。
「・・・そうだな」
そんな真也を何となく見ていた。
それに気付かれて「何見てんだよ」と照れていた。
「さっきのあれ。忘れるなよ。ここは私達の家なんだから」
「・・・またね」
聞こえないフリをして歩き出す。
「ああ、待ってるからな。バーカ」
昔みたいに子供のような悪口を言った。聞こえないフリをしたお返しだ。
振り返らず、手を振っている。
私はその後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
何となく歩きたくなって、夜の町を感じながら明け暮れへ向かっている。
明け暮れで仕事を始めてから5年。生きているのが不思議なくらいだ。
振り返ってみると、すごく短くて。とても長くて。どうしようもない時間だったと思う。
いつまでこの仕事を続けるのだろう?想像もつかない。でも、その時は・・・。
魔法省はまだいくつか明かりが見えた。
数え切れないくらいの人達がこの件で動いている。
僕達もその時が来たら頑張らないと・・・。
玄関口から中に入ると違和感があった。
僕はこの違和感を知っている。繋ぎ門だ。
ほとんどの人は感じないだろうし、敏感な人でも空気が多少重くなった程度にしか感じないと思う。
僕も繋ぎの門と関わることが無かったら、気付くことはできないだろう。
何度も出動の時に使っているのと、事件現場でも繋ぎの門を使った痕跡なんかを見たり感じたりしたことがあるから分かる。
何かあったのかな?
出動要請はなかったはずだけど・・・。
念のため、魔法省にある繋ぎ門の様子を見に行ったけど、問題は無かった。
違和感はほとんど消えていてどこで使われたのか分からない。一体、なんだったのかな?
まぁ、柊に聞けば分かるか。
とりあえず、待機室へ向かう。
さっき外から見た時に待機室の明かりが付いていた。
「お疲れ」
扉を開けると二人は対戦ゲームをして遊んでいた。
「うわっ、もう帰ってきた」
上司にする発言ではない。
「お疲れ様です。真珠さんと話せましたか?」
・・・なんで、真っ先に真珠が出てくるんだよ。
「ん?そんなでもないよ」
と、適当に誤魔化す。誤魔化せてるかは分からないけど・・・。
「ところで柊、何かあった?」
「ん?何もなかったよ」
おかしい。柊の体質なら僕よりも感じ取れる。
何も感じないはずない。
「そう。なら、いいけど」
気のせいだったのかな?
二人はまた対戦を始める。
ソファーに座って少し考えることにした。
繋ぎの門か。真っ先に思い浮かぶのは・・・。
答えはすぐに出た。
そういうことか。僕は繋ぎの門を開けることのできる魔導師を知っている。
なるほどね。柊が気付かないって言うわけだ。
柊はまた負けていた。
「じゃあ、もう寝るから何かあったら起こしてね」
「もう寝るの?」
柊は僕と時計を交互に見ている。
仕事で疲れてるんだよ。こっちは・・・。
「もう眠いの。二人も早く寝なよ。体調管理も仕事だよ」
そこそこ先輩っぽいこと言った。
「いいや。まだ寝られない」
「えぇ、どうして?」
その疑問には海帆さんが答えてくれた。
「本当は一回勝負だったんですけど、柊が勝てなくて・・・。もう一回を何度も繰り返していたらこんな時間に・・・」
一勝もできてないんだ。
「・・・なんで勝てないんだろう?」
なんだか気楽でいいな。まぁ、だから明け暮れでやっていけてるんだろう。
「ところで、本当は真珠とどうだったんだ?」
ニヤニヤしている柊。
楸さんも含めて明け暮れのメンバーってこの話好きだよなぁ。正直言って面倒くさい。
少し柊を驚かせるか。
「柊はそんな態度でいいのかな?」
「・・・ど、どういう意味だよ」
僕の突然の言葉に動揺している。
「さぁ、どういう意味だろうね?でも、気付かれてないと思ってるなら少し甘いよ」
顔を歪める柊。海帆は何のことか分からず、首を傾げている。
「どういうことですか?」
「えーとね・・・」
「分かった。分かったからストップ」
こんなに動揺しているのは始めてかもしれない。
「何が分かったの?」
海帆さんが何も知らずに柊を追い詰める。
「ごめん。今日はもう寝よう」
「なんで?何も分からないんだけど・・・」
サササッとドアの前まで移動して「おやすみなさい」と言って出ていった。
海帆さんは不満そうに口を尖らせている。
「一体、何だったんですか?」
魔法でゲームの片付けを始めた。
「ん?普段からのサボりがバレてたってだけだよ」
「そうですか。いつもサボっているようなものだと思いますけど」
なかなかヒドいこと言うんだな。
欠伸が出る。シャワーを浴びて寝よ。
「後は任せていいかな?」
「はい。お疲れ様です」
「お疲れ様」
待機室を後にする。
今日は本当に疲れた。明日はもう少し楽だといいな。
お風呂に入って寝室のベッドに寝転がる。
天井を見ながら真也のことを考えていた。
いつからか分からないけど、中途半端なすれ違いが増えた気がする。
昔のように煽り合うことも相談することも減った。
それが大人になるってことなのかな?
まぁ、でも顔を見せにくるだけマシか。
・・・長い作戦ねぇ。
最近、起こっていることといえば・・・町の中に現れた小型アンノウン。
ウジャウジャいたら対応は大変だろうけど、真央が出るほどのことなのかな?
それに魔法隊も慌ただしい。何か一大事が迫っているのかもしれない。
起き上がって、押し入れから箱を取り出す。
その箱には魔法のステッキが入っている。
それを手に持って、またベッドに倒れ込む。
昔の私なら何も出来なかっただろう。でも、今の私にはこの力がある。
その行いが良くないことだと分かっているけど、私はこの力を使いたい。
少しでもみんなの力になりたいから。
~~~~~
ここは明け暮れ。柊に与えられた個室だ。
私はそこのベッドの上でくつろいでいた。
それは今日の朝、柊の送迎している時のことだ。
「舞木。朝、起きれないから一緒に泊まってくれない?」とお願いされた。
色々と面倒くさそうで嫌だったけど、何度も頼まれて折れてしまったのだ。
恥ずかしいからなのか分からないけど、明け暮れに忍び込むことになった。
真也さんに許可を取れば、普通に入れてくれると思うけどな。
突然、柊が入ってきた。
「ヤバい。バレたかも」
あー。繋ぎの門を使ったのが良くなかったのかな?変な痕跡が残るって聞くし・・・。
「大丈夫じゃない?見逃してくれると思う」
「そうかな?」
相当、焦ってるな。
「落ち着いて。お風呂入ってきなよ。こっちでメール送っておくから」
「・・・ありがとう」
息を吐いてから、トボトボと浴室に歩いていく。
そんなに焦るなら最初から申請しておけば良かったのに。
私は真也さんにメールを打つ。
これが何かしらの貸しにならないといいけど・・・。
次回からケレーディアのお話が3話くらい続きます。
今回のお話と前回、前々回のお話は元は1つのお話だったので分割して書きやすくなって良かったなと思っています。




