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クムパプユアネ_World:M  作者: 浮巣つぬ
明け暮れ
15/49

9

 明け暮れの屋上に海帆を呼び出しました。

 暗闇の中に広がるランタンの光。

 その柔らかな世界に私達は包まれています。

「珍しいですよね。ここでお話するなんて・・・」

 海帆のことです。何となく分かっているのでしょう。

 でも、私の言葉を待っています。

 覚悟を決めて海帆の目をまっすぐ見ます。そして、口を開きました。

「海帆。・・・私はケレーディアの戦いに参加することになりました」

 それを聞いた彼女は笑顔でした。

「はい。分かりました。私も準備しますね」

 私にも分かるくらいの作り笑顔。

 いつもの可愛らしい笑顔からは想像も出来ないものでした。

 身体に力が入ります。

「いいえ。行くのは私一人だけです」

 精一杯取り繕った笑顔は崩れて・・・。

「なぜですか?」

 声が冷たくなりました。

世界機関(パドマ)から召集されたのは私一人だけです。私が留守の間、海帆には明け暮れにいてもらいます」

「私は・・・」

 彼女は震えていました。

「私は明け暮れの魔導師ではありません。それに南君さんのペアです。どこへでも付いていきます」

 それは、怒りなのか悲しみなのか・・・海帆のこんな声を聞いたことはありませんでした。

「これは命令です。諦めて下さい」

 海帆の頬を涙が伝っていました。

「嫌です。嫌ですよ」

 彼女が泣く姿を見るのもこれが初めてかもしれません。

「私の何がダメなんですか?教えて下さい。いつもフワッとした理由で逃げて誤魔化して何も認めてくれないじゃないですか。なんで弟子にしたんですか。なんでペアになったんですか。なんで私を選んだんですか・・・」

 言葉が出てきません。

 海帆とペアを組んでから二年は経っているでしょう。

 次期公認魔導師の候補とまで言われていた魔法使いでした。

 そんな海帆を二年間も弟子として拘束してしまっているのです。いえ、殺してしまっているのです。才能も努力も・・・。

 同期だけでなく後輩も魔導師になっていく中で焦りとか不安とかもあるでしょう。

 でも、それを一度も表に出すようなことはありませんでした。

 私に魔導師として認められる為に、その日まできっと頑張ってしまうでしょう。

 でも、海帆を魔導師にしてしまうということは・・・。

 ・・・私は師匠失格なのでしょう。

 こんなに頑張っている海帆を正当に評価もせず、信じてあげられていません。

「・・・話はおしまいです。私は夜勤があるので、海帆は早く家に帰って温まりなさい」

 ようやく出てきた言葉も碌でもないものでした。

 それを聞いて、肩を落とします。

「・・・はい。分かりました」

 涙を拭って、ほうきで飛んでいきました。

 見えなくなるまでほうきのランタンの光を目で追っていました。

 ・・・きっとこれで良かったのです。

 私なんて捨てて、新しい人とペアを組んだ方がきっと幸せになれるでしょうから。

 それに、嫌われるのには慣れています。

「ごめんなさい」

 思ってもない言葉が口からこぼれます。

 ・・・これ以上、何もこぼれないようにランタンの火を消しました。



・・・・・



 クムパプユアネ


 それは人の心だったり、人の作ったルールだったり、魔法だったりする。

 そして、この世界の(ことわり)とは異なるもう1つの理。多くの人の心が集まり、作り出した理。


 柊はそんなフワッとした何かをそう呼んでいた。

 2つの理が(いびつ)に混ざり合ったのがこの世界。

 もしかしたら、それが彼女にも見えているのかもしれない。

 もうすぐ千年を迎えるこの世界。

 これからもっともっと混沌となっていくだろう。

 あなたはどうするつもりなのかな?柊。




 南君が召集されることになった。

 と、言ってもやることはいつもの明け暮れと変わらないだろう。

 明け暮れでいうアンノウン退治やヒャッハーな連中の制圧。それが神様に変わっただけ。

 少し騒がしくなっているのは明け暮れの管轄外だからだ。

 世界機関(パドマ)の兵器である南君がどう扱われようとこちらからは口出し出来ない。

 いつかはこうなると思っていたから、少なくとも私は驚かなかった。

 それに南君だけでなく世界中に配属されている兵器が集められるのだろう。

 今回の戦いはそれだけ本気なのだ。

 海帆にはどこまで伝えたのかな?

 どうせ、突き放すようなことをしたのだろう。

 兵器であることすら海帆は知らないみたいだし、今回も秘密にしていると思う。

 朝からご機嫌斜めだったし。

 そんな海帆と出来る限り気にしないように振る舞う南君。見てて少し面白かった。

 そんなチーム夕火の二人は会議中。

 真也と桂一郎さんの4人でシフトの調整とか向こうでの日程の確認などなど、色々話し合っているらしい。

 小禄も速達が早く終わったら会議に参加する予定だ。

 ・・・私はいなくていいのかな?

 いつもは寝てるけど、今日くらいは起きてるよ・・・たぶん。


 そんな私は夜々と待機室でいざという時に備えていた。

 まぁ、いつもの待機なんだけど。

 今は夜々と向かい合って座っている。

 インスタントの紅茶を飲みながら、夜々が作ってきたクッキーをつまむ。

 真珠から教わりながら作っているので美味しい。絶対褒めないけど。

 ・・・と言うか、机の下では私の体質を悪用して足を当てて感想を言えと訴えてくる。

 上では私の顔をニヤニヤしながら覗き込んでいた。

「・・・なんだよ」

「何か言うことないの?」

「ない」

 ふーんと言いながらクッキーが遠ざけられる。

「じゃあ、もうあげない。南君に作ってきたクッキーだし」

 ニヤニヤ仕返す。

「南君のは分けてあるでしょ?」

 軽く睨まれた。

「深くまで見るのは禁止」

「はいはい」

 手を伸ばしてもう一枚つまむ。

 諦めたみたいで元の位置に戻した。

「みんな、おっはよー」と、元気な声と共に待機室の扉が開く。

 そして、ピンク髪の女性が入ってきた。


 彼女は神楽(かぐら)(ひさぎ)

 明け暮れのリーダーで東島を一人で担当している。

 全てが平均的な体格で自称20歳。

 でも、真也が所属するよりずっと前から明け暮れのリーダーだったことを考えると、結構な年齢だと思う。

 不思議なことに20代に見えるけど・・・。

 紗倉見最強の魔導師。でも、戦闘したり、魔法を使っているのを見たことはない。だけど、東島で大きな事件とか起こってないから何かしらやってるのだろう。


 この明るい感じ。私は苦手。

 私は横目で見て「どうも」とだけ言う。

 夜々は会釈する。

 それを見た楸はわざとらしく大きなため息を吐く。

「ちょっと二人とも。社会人なんだから挨拶はしっかりしないと」

 プンプン怒っているけど、全然怖くない。

 面倒くさかったので夜々とタイミングを合わせて会釈した。

「もういいや」と、また、ため息を吐いて夜々の隣に座る。

「ところで南君は何してる?」

「会議中」

「そう。じゃあ、ここで待ってよ」

 私は嫌そうな顔をしているだろう。

 夜々は小さくなっている。人見知りなのだ。仕事中とかそんなことは少ないんだけど・・・。

「このクッキー誰の?」

「わ、私が作りました。良かったらどうぞ」

 魔法で楸の前まで運ばれる。

「へー、すごいじゃない。ありがとう」

 1枚つまんだ。

「とっても美味しい。もっともらっていい?」

「は、はい」

 褒められて嬉しそう。

 ・・・あれ?そういえば、東島はどうなったんだろう?

「東島はどうしたんだよ」

 楸は「よくぞ聞いてくれました」と、悪戯っ子みたいに笑う。

 これで小禄に任せたとかだったら可哀想だな・・・。

「なんと小禄に変わってもらいました」

 ・・・あいつも大変だな。

 冷たい視線を送っておいた。

「朝は東島(こっち)にいることが多いから細かい買い出しとか頼むんだよね」

 ・・・それは何となく分かる。

 その時、端末が鳴った。

「出動ね」

 夜々が立ち上がる。

 内容を確認する。

 西島の南海岸沿いに多数のアンノウンが現れたらしい。

 ここからだと、かなり遠い。

 今回は繋ぎの門(コガンチェロ)を使うらしい。

 簡単に言えば2つの場所を繋ぐ魔法機巧。

 内容を読んでいると体が浮いた。夜々の仕業だ。

「いってきます」

「うん。頑張れー」

 楸はヒラヒラ手を振っている。

「早くない?繋ぎの門の準備が出来てからでも遅くはないでしょ」

「うるさい。門の前で待機してすぐに向かうの」

 早足で歩く夜々の後をフワフワと浮かんでいく。

 待機室を出る時、軽く手をぶつけた。

「痛い」

「公認魔導師なんだからそれくらい我慢しなさい」

 気にせずに歩く夜々。

 ちょっとだけ、悪戯することにした。

「血が出た。本当に待って」

 とても痛そうな声を出す。我ながら名演技だと思う。

「え。ごめんなさい」

 足を止めて、こちらに振り向く。

 焦っている夜々の顔。

 それをニヤニヤしながら見下ろす。

「嘘だけどね」

 私は壁に叩きつけられた。




 明け暮れではよく急な仕事が舞い込む為、臨機応変に対応しなくてはなりません。

 例えば、今日のように突然、留守番を任されることもあります。

 そんな時でも動じてはいけません。

 ここは防衛省の最上階。明け暮れ東島支部です。

 色々あって、喜屋武(きゃん)小禄(おろく)は備え付けのお風呂で体を温めていました。

 速達の途中で連絡があって待機を交代しました。

 定時まで帰らなかったら先に上げっていいそうです。きっと夕方まで帰ってこないのでしょう。

 今日はゆったりと過ごすことにしました。

 明け暮れの東島支部は改装に改装を重ねて高級ホテルみたいになっています。

 楸さんといい、真也さんといい、歴が長いと部屋を私物化しがちです

 今入っているお風呂も足を伸ばせるくらい広く、まるで温水プールのようでした。

 いつもみたいにウトウトしてきた時、声がします。

「ここにおったか」

 ヒョコッと天井から神様が顔を出していました。

 半霊体の状態ですり抜けたのでしょう。

「すみません。ここまで来てもらって」

「気にしとらんよ。それより、わしも入っていいか?」

「はい。でも、服ちゃんと脱いで下さいね」

 神様の袴は実体から霊体になる時、状態が元に戻るようです。

 濡れたとしても霊体になると元通り。

 最初は風呂場で脱ぎ捨てていました。

 便利な能力ですが見てる私は少し嫌なので脱衣所で脱いでもらっています。


「温かいな」

 神様は大きく息を吐きます。

「はい。温かいですね」

 本当に温かくて幸せです。特に寒いこの時期は身体に染み渡ります。

「ん?」

 神様は突然、猫のように何もない壁を見つめます。

「どうしました?」

「・・・いや、なんでもない。気にするな」

 気になる言い方です。・・・幽霊とかではないですよね。

「安心せい。小禄の思ってるようなものではない」

 私の不安を感じ取ったのでしょうか?当てられてしまいました。

「いいえ。葉月さんが猫みたいに見えただけです」

 悔しかったので嘘を吐きました。

「神を猫とか言うな。失礼じゃな」

 とは言っていますがとても上機嫌です。

 大きなお風呂ですからね。気分が高まるのでしょう。

 これだけ大きなお風呂に二人きりは初めてかもしれません。家のは狭いですし。

 ・・・神様を背中から抱き寄せます。

 特に抵抗とかはされませんでした。

「どうしたんじゃ?甘えたいのか?」

「少し疲れたので葉月さんを補給しているだけです」

「よく分からんが逆上せない程度にな」

 神様は体を預けてくれました。

「はい。分かってますよ」

 耳元に口を近づけます。

「・・・葉月」

さらに強く引き寄せました。




 地獄のような時間は終わりました。

 ここまで息苦しい会議は初めてです。

 色々あるのは分かってますけど、私抜きとか出国した後でとかやりようはあったと思います。

 いつも優しい海帆がピリッとするだけであんなに変わるんですね。

 ようやく、解放されて廊下で深呼吸。

 空気が美味しい気がします。

 相当、淀んでいたようです。

 さて先日、私はいつも通りでいたいと言いましたが、その結果いくつかの簡単な仕事を任されます。

 たしかにそう言いましたけど、今日は出国の準備もあるので早帰りになるかな?と思っていました。

 驚いていると「いつも通りでしょ」と、真也さんがニッコリしていました。

 それが朝一番の出来事です。

 少しだけイラッとしました。

 渡された仕事リストの内容はデスクワークがほとんどです。

 夜々の作ってくれたクッキーでも食べながらのんびりやることにしましょう。

 海帆はまだ真也さんと話していました。

 何を話しているのかだいたい予想が付きます。

 クッキーを取りに待機室へ。

 さっき、出動要請が来ていたので誰もいないと思ってましたが・・・。

「ヤッホー」

 楸さんがいました。

「おはようございます。珍しいですね。どうしてここに?」

「南君に会いに来たんだよ。行くんでしょ?」

 来てくれたのは嬉しいです。しかし、別のことが気になります。

「そうですけど・・・向こうには誰がいるんですか?」

 東島に公認魔導師が誰もいないのは偉い人達から怒られてしまいます。

 誰かいるとしたら小禄でしょうけど・・・。

「ん?小禄」

 一番忙しいのにまた都合良く使われて・・・。

「それより、ここに座って」

 ポンポン叩いている隣の椅子に座りました。

 なんだか緊張します。こうして二人で楸さんと話すのは初めてかもしれません。

 楸さんの目は真っ直ぐ私の目を・・・いえ、そのさらに奥の心を見つめているみたいでした。

「緊張してる?」

「はい。心の準備はしていたつもりですけど、やっぱり怖いですね」

「南君なら大丈夫だよ。あれから頑張ったんでしょ」

 ニッコリ笑う楸さん。

「・・・はい」

 私の手を取り、手のひらに視線を落とします。

「温かいね」

 何か懐かしい物でも眺めている目でした。

「この魔法のこと、嫌いかもしれないけどさ・・・信じてあげて。きっと答えてくれるから」

 肯定も否定も出来ません。

 言葉も出てきませんでした。

「まぁ、あんなことがあったんだから難しいよね」

 なぜか頭をなでられます。

「もうそんな歳じゃないですよ」

「そうかな?私にとっては皆可愛い後輩だよ」

 仕方なく受け入れました。

「よし。お姉さんが奢ってあげる。パールでいい?」

「いえ、今日はこの後、仕事が・・・」

 楸さんは首を傾げました。

「え?記憶が正しければ明日出国だよね」

「はい。いつも通りとお願いしたら真也さんが・・・」

 そこに運悪く真也さんが部屋に入ってきてしまいました。

「あっ、おはようございます」

 何も知らない真也さんはペコペコ会釈しています。

「お前、南君に仕事任せたの?」

「そ、そうですけど・・・」

 いきなり怒り気味の楸さんに動揺していました。

 そんな真也さんをにらみつけます。

「いくらいつも通りと言ってもさ、前日だよ。普通、仕事任せる?」

「でも・・・」

「でもじゃないでしょう。真也は昔からそんな感じだよね」

「・・・はい」

 何を見せられているのでしょう。

 出国前に上司が上司に説教されている姿を見るのはその・・・なんというか・・・嫌です。

 それから、たっぷりとお説教されていました。

 途中から、真也さんは面倒くさそうに聞き流していましたけど・・・。

 結局、私の仕事は全て真也さんに任されました。

「じゃあ、今日はこれで上がりってことでいいね」

 真也さんは大きなため息。

「・・・はい」

「いいんですか」

「うん。じゃあ、南君頑張ってきてね。後のことはやっておくから」

「はい。お疲れ様でした」

「うん。お疲れ」

 楸さんに手を引かれ、明け暮れを後にします。

 召集前、最後の退社はなんだかいつも通りでした。まぁ、それが良いのかもしれませんね。




 南海岸沿いにはこれまで見たこともない数のアンノウンが出現していた。

 中型のアンノウンだけでなく、年明けに戦った大型のアンノウンも確認できる。

 どれもこれも個性的で気持ち悪い。

 ここまでの大群は初めてかも。でも、明け暮れである私達は立ち向かわなくはいけない。

 今、私は盾として使われている。

 浮遊する夜々に放たれる恐ろしい数の光線を防いでいた。

 避けられるのにわざわざ私に消させている。

 終世界を使う時、浮遊魔法は解除されるのですぐに効果を抑えないと私は落ちてしまう。

 私はギリギリの戦いなのだ。

 なぜ味方に殺されかけているんだろう。

 空からは夜々の作り出した無数の炎の玉が隕石のようにアンノウンに落ちていく。

 その光景は世界の終焉を見ているみたいだ。

 戦闘が始まってから数分、アンノウンはいなくなった。

 海はアンノウンが消滅する光で輝いている。

「あの・・・さっきのことを怒ってるの?」

「うん。ごめんなさいは?」

「・・・ごめん」

「いいでしょう」

 私達は海岸へ着地する。

 牧田と数人の魔法隊が駆け寄ってきた。

「大丈夫か?」

「うん。なんとか・・・」

 無駄に疲れた。

 夜々は「余裕ね」と、鼻を鳴らす。

 空では飛行部隊がアンノウンの残りがいないか確認していた。

 ほうきで綺麗に編隊を組んで飛んでいる。

「今回はやりがいがあって楽しかった」

 夜々は楽しそうに笑っていた。

 まぁ、普段あれだけ思いっ切り魔法を使う機会はほとんどないから仕方ないか。

「良かったね」

 私は苦笑い。

 その時、海がピカッと光って飛行部隊に光線が放たれた。

 飛行部隊はなんとか回避。

 そして、こちらに戻ってきた。

 またアンノウンがゾロゾロと海から現れる。

「まだいるのか」

 牧田は魔法隊に指示を出して陸へ避難させる。

「切りが無い。海水を浮かせてみる」

 え?嘘でしょ?張り切り過ぎでしょ。

「そんな怖いことするの?」

「うん。水よ。宙でまとまれ」

 夜々の声に反応し、海水がいくつもの柱になって上っていく。

 そして、ある程度の所で球体となってまとまる。

 命令の範囲外の海水はなぜか流れ込まず、垂直の壁のようになっていた。

 海水はドンドン無くなっていき、まだ隠れていたアンノウンが姿を現す。

 さっきと同じかそれ以上の数。

 それよりも大きな問題が水の抜かれた海の奥の方にあった。

 草?のような見たこともない何かがある。

 とても大きくて数十メートルはあるかもしれない。

 海にすっぽり隠れていたんだろう。

 そこから少し離れた所にアンノウンが通ってきたであろう穴が空いていた。

「夜々、任せていい?」

「ええ、任せなさい」

「怖いからあの変なのと穴は壊さないでね」

「分かった」

 と、言って飛んでいった。

 アンノウンは夜々の存在に気がついて光線を放つ。

「水よ。攻撃を防げ」

 水球から水が飛んできてまるで結界魔法のように攻撃を防いだ。

 ・・・それが出来るならさっき私が死ぬ気で防ぐ必要無くないか?

「水よ。敵を貫け」

 今度は水球から水の針が降り注ぐ。

 無茶苦茶だな。こいつ。

「噂では聞いていたがやはりすごいな。あれが輝銀(きぎん)女王(じょうおう)の力か」

「ほーんと何なんだろうね」

 私達は夜々を見上げていた。

 上から降り注ぐ水の魔法。

 下からはアンノウンが消えてゆく光が上っている。

 そして、その中心に浮かんでいる夜々はまるで物語に出てくる魔王みたいだった。

 私と牧田さんは双眼鏡であの草を見る。

「帝だな」

「たぶん」

 うろ覚えだけど、見たことがある気がする。

「すまんが連絡をしてくる。任せていいか?」

「うん。いってらっしゃい」

 夜々の戦闘が終わったのはそのすぐ後だった。


 それから数時間後、私と夜々は不気味な草を監視してアンノウンの出現に備えていた。

 ここら辺一帯は既に封鎖されたらしい。

 飛行部隊が空高くから情報収集している。

 それをすごいねとか話ながら差し入れのお菓子とかをつまんでいた。

 真也がようやく到着する。

 繋ぎの門は使わせてくれなかったのだろう。

 宙に浮く巨大な水球を見てドン引きしていた。

「お疲れ様。すごいことしたね」

「遅い。待ちくたびれた」

「仕方ないだろ。繋ぎの門は使えなかったんだから」

 やっぱりか。あれは一度動かすだけでも相当なコストがかかるらしい。異常事態の時にしか使わせてくれない。

 望遠魔法で例の草を見る。

「本当だ。帝だね。・・・どうしてこんな時に」

 ため息を吐いている。

「で、どうすんだ?」

「うーん・・・夜々。後、どのくらい浮かせてられる?」

「いつまでも大丈夫」

 こいつ元気だな。

「分かった。辛くなったらすぐに言ってね」

「うん」

「もうすぐ魔法研究所の人が来ると思うからそれまでチーム夜風で待機かな。柊は明け暮れでこれやっといて」

 雑用リストを渡された。

「南君はもう帰らせたから、海帆と一緒に待機しながらそれを消化しておいてね」

「は?」

 面倒くさそうな仕事と役回りを任される。

 そして、ここから数時間、名も知らぬ魔法隊の人とのドライブが始まろうとしていた。




 入浴後はのんびりして、食事をして、仕事に取りかかりました。

 何やら西島が大変なことになってそうです。

 アンノウンに帝の文字まで見えました。

 明日から仕事がさらに増えそうな予感がします。

 ・・・見なかったことにしましょう。

 私はデスクワーク中です。

 急きょ予定が変わってしまったので仕事の調整と明日の速達の割り振りや連絡などなど・・・必要最低限の仕事だけこなし、余った時間は神様と遊ぶことにしました。

 現実逃避ではありません。

 私が仕事をしている間、神様は広い待機室をフラフラ見回っていました。

 ここには珍しい魔法機巧や可愛い小物などがたくさん飾ってあります。

 楸さんの趣味でしょうか?

 そして、今は宙をフワフワしながら寝ていました。

 神様は本来、睡眠とかしないようですが、私に憑いてからは寝たりしています。

 実体を得た影響でしょうか?よく分かりません。

 基本的に死んだように静かに寝ています。

 でも、お酒を飲んだ時はいびきがうるさいことも多いです。慣れましたけど・・・。

 仕事が終わりました。

 ちょうど、こちらに漂ってきた神様を抱き寄せます。

「葉月さん。終わりました」

 目がゆっくりと半分くらい開きます。

「・・・ん?朝か?」

「違いますよ。仕事が終わったので遊びましょう」

「そうか。ここ東島じゃったな」

 また壁の方を見ています。

「何かあるんですか?」

「ああ、少し気になってな」

 私には何も分かりませんが神様は何か感じている様子でした。

「なら、何があるのか見てみますか?」

「よいのか?」

 驚いた顔です。

「はい。私はこう見えて紗倉見でも偉い方の魔導師なんですよ。入れない場所はほとんどありません。それに私の許可ならそれなりのことは許されます」

 一枚のカードキーを見せつけます。

 これがあればどこでも入れます。禁域と呼ばれる世界機関が管理している場所は無理ですが・・・。

「おぉ、流石じゃな」

 悪いことをしているみたいでワクワクしてきました。


 そこは倉庫でした。

 記憶が正しければ、色んな政策やイベントで使われた魔法道具や魔法機巧なんかが置かれていたはずです。勿論、無効化処理はしています。

 早速、カードキーを使って扉を開けます。

 入るのは初めてです。

「少し埃っぽいですね」

 中に入ると神様は「あそこじゃな」と、指差します。

 かなり古い魔導書や書物が並んでいる本棚でした。

 それに近づいていくにつれて、私も違和感を覚えます。

 本が一冊入りそうなくらいの小さな木箱。他のよりも丁寧に保管されていました。

 手に取ってみます。

「大丈夫なのか?」

「今のところは・・・」

 木箱の蓋を開けると溜まっていた空気が広がります。淀んだ魔力も感じました。

 たまにこういったことがありますが、基本的に問題はありません。魔法が世界に還っていくだけなので。

 中には一冊の本がありました。ボロボロで文字が所々かすれています。それに見たことの無い文字でした。旧暦の文字でしょうか?

 本自体から異様な魔力を感じます。

 ここにあるのは明らかにおかしい代物です。

 発掘などで使う特殊な手袋をしてから触れてみます。

 これのどこに魔力が宿っているのか検討もつきません。

 神様は表紙と背表紙を交互に見ながらタイトルを読み上げました。

「交わる・・・世界と・・・願い事?」

 神様は首を傾げます。

「どういう意味ですか?・・・というか、読めるんですね」

「ああ、西れ・・・いや、今で言う旧暦の文字じゃな」

「かなり長生きなんですね」

 神じゃからな。とか言って自慢げでした。

「じゃが、どういう意味はよく分からん。擦れて著者も分からんな」

「そうですか」

 ページとめくってみます。

 ほとんど文字は残っていませんでした。

「ここまでにしよう。嫌な魔力を感じる」

 肩を軽く叩いて低い声でそう言いました。

 これ以上は良くないということなのでしょう。

「分かりました」

 木箱にしまって元の場所に戻します。

 相当、特殊な魔法がかけられた木箱のようです。

 ふたをしただけで異様な魔力はかなり抑えられています。

「これはわしらだけの秘密にしよう」

「はい。たまにはそういうのもいいですね」

 私達は部屋を後にしました。

 でも、なぜそんな物がここにあるのでしょうか?

 ・・・いいえ、これ以上は止めましょう。

 仕事でもない限り危ないことはするべきではありません。

 気を取り直して、神様と遊びましょう。




 やっと明け暮れまで帰ってこれた。

 この後、まだ仕事をするのか・・・。

 トボトボ歩きながら待機室へ。

「お帰り」

 海帆と楸がいた。

 お互い向かい合って話していたみたい。

 海帆は愚痴でも言ってたんだろう。

「ただいま」

 ソファーに寝転ぶ。

 なんか疲れた。

 海帆はだいぶ落ち着いたみたいだった。

 モヤモヤを吐き出して少しスッキリしたのかな?

「海帆ー。仕事、これー」

 リストをヒラヒラする。

「真也・・あいつまた人に押しつけたのか」

「そうなんですよ。代わりにやって下さい」

 チラッと2人を見るとゴミを見るような視線。

 怖かったから毛布をかぶる。

「じゃあ、2人でやろう。暇でしょ」

 海帆が近づいてきた。

 声色はいつも通りに戻っていたけど、またいつあんな感じになるか分からない。

 ここは起きるのが正解だろう。

「はぁい」

 渋々起き上がった。

 腕を引かれて事務所へ向かう。

「柊は帰る前に話があるから屋上に来てね」

 笑顔で手を振っている。

「嫌だ」

 と言って待機室の扉を閉めた。




 星が光っている。

 この光達は途方もない旅をしてここまで来ている。

 それだけの時間があったのなら人類(わたしたち)は答えにたどり着けるのだろうか。

 彼らの旅はまだまだ続く。

 果たしてゴールはあるのかな?

 私達はそんな壮大な旅の一瞬を観測しているに過ぎない。

 一般的には平凡な景色なんだろう。けど、私はどの景色よりも美しいと思う。

 私はそんな星々の儚い輝きを眺めながら、自動販売機にあった新作の缶コーヒーを飲んでいた。

 ・・・何が美味しいのか分からない。

 もういいや。と思って一気に飲み干す。

 最近の新作は外れが多い。こんなこと前にもあった気がするけど、あれはいつだったか・・・。

「寒っ」

 何重にも重ね着をした柊が現れる。

 なんだかんだで来てくれた。

「寒くないの?」

「それなりに着込んでるだけ。柊がおかしいんだよ」

 そんなはずはないとか言いながら、さっき私が飲んでいた新作の缶コーヒーを開ける。

「それ、美味しくないよ」

「先に言えよ」

 と言いながら一口。

「・・・微妙」

「でしょ」

 柊は私の横にきた。

 そして、同じように空を眺める。

「・・・で、何の用だ?」 

「柊にお願いがあるんだ」

 面倒くさそうな顔。

「聞くだけね」

「ありがとう。私のお願いは柊に味方になって欲しいの」

 こいつ何言ってんだ?みたいなポカンとした顔に変わった。

「どういうこと?」

「私達が千年に向かうと共に世界は大きく変わっていく。神様を自称する集団や世界機関、もしかしたら、第三、第四の勢力が現れたりするかもしれない。秩序の存在しない混沌とした世界になった時、私に付いてきて欲しいの」

 柊はもう一口飲んで白い息を吐いてからこちらを見る。

「嫌だね。私が付いていくのは舞木だけだよ」

 その時の柊はいつもみたいなだらしない表情ではなく、真っ直ぐな目をした格好いい表情だった。

 ・・・本当に変わったな。

「なんだよ。その顔」

 ニヤニヤしてたかな?ちょっと恥ずかしい。

「ん?何でも無いよ」

 また、町を眺める。

「それだけ?もう寒いし帰りたいんだけど」

「うん。これだけ。でも、考えておいてね。その時が来たら、また聞くからさ」

「・・・分かった。じゃあな」

「うん。またね」

「さ、さびーーー」

 小走りで帰っていく。

 さっきまでの格好良さは全く感じなかった。



・・・・・



 私が帰った頃には小禄はもういなかった。

 すっかり遅くなってしまった。

 バレたら偉い人達に怒られるなぁ。

 ソファーに寝転がって息を吐く。

 端末で小禄の連絡にお疲れ様と返信した後、異変に気付いた。

 そう言えば、小禄には神様がいたんだったな。


 倉庫の奥の奥。

 そこの本棚に隠しておいた木箱。

 これを開くのは久し振りだ。

 何度も捨てようと思った。何度も朽ちないように封印しようと思った。

 でも、どちらも出来なかった。

 普段は忘れていたいけど、ふとした時に思い出して触れたくなる。

 だから、この木箱に封じ込めた。

 本に異常は無い。

 特に追及する必要はないか。

 これ以上、首を突っ込むことはしないだろうし・・・。

 もうほとんど読めない本をなでるように触る。

 この本みたいに思い出は薄くなって、大切に思っていた人の顔でさえ擦れていく。

 でも、あの人の意思は絶対に消えない。私が忘れないから。私があなたの願いを叶えるから。

 どんなに困難でも、どんなに間違っていても・・・。

 私はつぶやいた。


「私が人類を救ってみせます。見ていてくださいね。桜さん」

 気付けば、0話から一年経っていました。

 のんびりやっていたり、仕事が忙しかったりしてなかなか更新出来ませんでした。

 第一章は後、神様の戦闘と帝についてで終わる予定です。目標は今年中に第一章を終わらせることです。たぶん、出来ないと思いますが頑張って書こうと思います。

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