表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クムパプユアネ_World:M  作者: 浮巣つぬ
明け暮れ
14/49

8

 寒い。

 空は曇っていて暖かさは全く感じられない。

 なんだか年を越してからの寒さは停滞感があって特に嫌い。

 なので、今日も舞木に明け暮れまで送ってもらう。

 暖房は苦手だけど、仕方がない。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 軽い耐寒魔法をかけてもらう。

 それでもまだ寒い。

 体質のせいで効果は薄い。

 これでも、魔法の効果を消さないように頑張ってるのに。

 身震いしながら明け暮れへの短い距離を歩く。

 持続時間も短い。

 着く前には効果が無くなる。

 ・・・せっかくやってくれたのに。少し残念。

 敷地内に入ると人集りがあった。

 面倒なことに巻き込まれたくないので無視。

 待機室、暖かくなってるといいな。

 通り過ぎようとした時、牧田さんの野太い声が人集りの中から聞こえる。

「逆井か?おはよう。いいところにいた」

「・・・何か用?」

 面倒なことじゃないのを祈る。

 魔法隊の人達が道を開けてくれて、その間を会釈しながら通る。

 牧田さんと氷漬けにされた魔法隊が3人いた。

 治安悪いな。明け暮れの目の前で事件なんて。

「悪いな。呼び止めて」

「はぁ・・・なんでこうなったの?」

「ケレーディア先生が来ていてな。そのペアの方がやったらしい。護衛を凍らせてどこかに行ってしまった」

 鼻で笑ってしまう。

「マジッすか」

「悪いがこの魔法を消し去ってくれ」

 ケレーディア家は国の名前にもなっているくらい偉い魔導師で、世界機関(パドマ)にもかなりの影響力がある。

 その人の為に魔法隊の被害を揉み消すなんて・・・。

「それもう逮捕でしょう」

「難しい問題なんだ。氷を溶かしてくれれば、後は何とでもなる」

 周りの魔法隊の人達もうんうんとうなずく。悪い大人ばっかりだな。

 氷に触れる。それは禁術だった。

 ・・・本当に捕まえなくていいのかよ。

「後で缶ジュースでもおごれよ」

 私はその氷の魔法を消し去った。

 ・・・あれ?これ、私も悪くなってしまったのでは?




 明け暮れにある医務室でケレーディア先生を待っていました。

 世界機関(パドマ)の所有物である私は半年に一度の健康診断が義務づけられています。

 ただ、今回は自称神様の戦線布告のせいで前倒しになったようです。

「こんにちは。南君さん。久し振りね」

 薄墨色の長い髪の女性が入ってきます。

 彼女がエイル・ケレーディア先生。まだ20代と言っていました。

 旧暦から続く名門、ケレーディア家の一人娘で魔法は既に継承しているそうです。

 今は世界中を転々として活躍しています。

 ケレーディア先生はいつも通りでした。取り繕っているだけかもしれませんが・・・。

「こんにちは。今日はありがとうございます。この忙しい時に・・・」

「気にしないで」

 先生は魔法で道具や端末などを出して準備を始める。

「ところで、外で魔法使いが氷漬けにされたのですが、何か知りませんか?」

 私の言葉に少し硬直してから苦笑いします。

「・・・まぁ、たぶん、昼くらいには溶けるんじゃないかな?」

「やっぱりですか。魔法隊が揉み消してくれるそうです」

「・・・まぁ、その話は置いといて、健康診断を始めましょう」

 置いておくんですか・・・。

 まぁ、あの魔法はどうしようもないですし、仕方ないです。

 柊待ちです。

 魔法隊が凍らされたなんて知られたらニュース番組とかで大盛り上がりです。悪い意味で。

 ・・・きっと今頃、魔法隊は隠蔽と捜索で大忙しでしょう。




 神札シリーズの出荷を終えてから、ふらりと近くの浜辺に寄った。

 この寒い時期の海岸はほとんど人がいない。そういう場所が私は好き。

 ベンチに座って温かい缶コーヒーを開ける。

 曇り空の下で海を眺めながら、神札シリーズの新作を考えていた。

 しばらくして近くに一人の女性が現れた。

 ここら辺では見ない顔立ちでお姫様のような綺麗な立ち姿をしている。

 雪の様な白いショートカットで瞳は青い。

 どっかで見たような気はするけど、思い出せない。モヤモヤする。

 彼女も海を眺めている。もしかしたら、その先の東島のビル群を眺めているのかもしれないけど。

 ・・・人来ちゃったし、帰ろ。

 そう思って立ち去ろうとした時、目が合ってしまった。

 なんだか嫌な予感がした。

 彼女は近づいてきて、すいません。と声をかけてきた。

「はい。どうしました?」

 面倒なことにならなきゃいいけど。

「あのですね。ここら辺に美味しいご飯屋さんはありませんか?お腹がペコペコで・・・」

 うーん。困った質問だ。まだ朝早いから飲食店なんてほとんど開いていない。

 コンビニとかではダメなんだろうな。

 すぐそこにコンビニはある。

 けど、こんなことを聞くのはきっと座って食べたいのだろう。

 寒いし。

「ここら辺で開いているお店はないと思います」

「そうですか・・・なら、オススメのお店はありますか?」

 パールって即答したいけど、開店までまだ数時間ある。

 それに、まだ朝早い。他のお店もほとんど開いてない。

「ありますけど、まだ開いてませんね。他のお店もまだだと思いますよ」

 困り顔でうーん。とうなる。

 しかし、すぐに何かを思いついたようで、明るい表情をして顔を上げる。

「名案を思いつきました」

「・・・何でしょう」

「オススメのお店が開くまで待ちます。それまで一緒にデートしましょう」

 唖然としてしまう。

 この人ヤバい。

 さっさと断って逃げよう。

 なんだか急に圧みたいなのを感じた。こっちが勝手に感じてるだけなんだろうけど・・・。

 一歩後ずさる。

 地面に足が着いた瞬間、靴底が凍って地面から離れなくなった。

「おや?どうされました?」

 なんて言って、可愛らしく首を傾げている。この魔法はあなたのでしょ。

 逃がすつもりはないらしい。

 暴れたら逃げられるかもしれないけど、面倒事を増やしたくない。

 朝から魔法隊とかのお世話になるのは御免だ。

「では、海を越えた先にある早朝からやっているお店を教えます。そちらに行って下さい」

「そうですか。・・・私はほうきが得意ではないので乗せてくれませんか?」

 あー・・・どんどん面倒なことになってくる。

 頭を抱える。

 言われた通りにした方がサッサと終わるのか?

 時間はあるから向こうに送るくらいなら・・・いっか。

 嫌だったけど、私は了承した。




 明け暮れの待機室には夜々と体調の悪そうな真也がいた。

 真也は一番大きいソファーを占領して毛布に包まっている。

「おはよ。どうしたの?」

「徹夜したら体調が悪くなりました」

 聞こえるか聞こえないかの声でボソボソ喋る。

 本当にしんどそう。

「でも、昨夜の担当は南君だった気がするけど」

 私の疑問に夜々が答える。

「昨日、真央(まお)とゲームしてたんだって。信じられない」

 怒っている時の声だ。きっと真珠にも報告がいくだろうな。また、しばらく帰らなさそう。

「今日は・・・みんないるから大丈夫かなって・・・みんなを信じてるから・・・」

 全然かっこよくない。

「頼んだ」

 毛布を頭まで被って寝ようとする。

「朝礼は?」

「無し」

 こいつが東島のリーダーで大丈夫なのか?とも思うけど、他にいないしな。

 そこに海帆が入ってきた。急ぎの用みたいだ。

「真也さんいない?」

「そこで丸まってる」

 真也は顔だけ出す。

「何?」

「ケレーディア先生のペアの方が見つからないみたいです。協力して欲しいと魔法隊が言っています」

「・・・知らん。明け暮れ(うち)の仕事じゃない」

 この人は限界が近いみたいだ。目が開いてない。

 次に歴の長い私がなんとかしなくては・・・嫌だけど。

「ケレーディアの先生様はなんて言ってるの?」

「ほっといていいとは言っている。けど、何かあったら魔法隊の責任だからね。場所だけでも把握しておきたいみたい」

「ほっとこう。もう眠い。考えたくない」

 情けない声。

 でも、私もそれでいいと思う。

 お昼頃には帰るだろうし、無理に寒い中を探す必要はない。私は行きたくない。

「柊みたいね。だらしない」

 と、夜々。

 なんか突然攻撃された。

「どういう意味だよ」

「そのままの意味よ」

「もう喧嘩しないで。真也さんも真面目にやってください。真珠さん呼びますよ」

 それを聞いてのっしり上体を起こす。分かりやすい奴。

「分かった」

 真也は端末を出して電話する。

 きっと小禄(おろく)に頼むんだろう。

「小禄さん、お願いがあるんだけど・・・」

 やっぱり。

 電話を終えると息を吐いて、これでいいでしょ。と私達を見る。

 私と海帆は冷たい視線を送る。

「今日はひきずってでも連れて帰るからね」

 夜々は怖い方の笑顔だった。

 今日はパールでお説教か。近寄らんようにしよ。




 冷たい海風を簡単な結界魔法で防ぎながら東島へ向かっている。

 彼女はルミナ・スノードロップさん。

 今は紗倉見を旅行中。

 ペアの方とはぐれてしまって、探しているうちにお腹が空いたので近くにいた私に声をかけたらしい。

 そこまでは理解したけど、そこからデートとか言い出すのは分からない。

 ペアはどんな人なんだろう?

 相当、苦労してそう。


 今日は海渡りの人も少ない。一番の理由は風が強いからだろう。

 渡る前に魔法隊の人にも声かけされた。

 海渡りは止めないけど、水上バスを使ってほしいと。

 魔導師の証明書を出したら渋々だけど、納得してくれた。

 でも、墜落したら大事件で、ほうきが得意な飛行部隊が捜索しなければいけなくなる。

 魔法省から罰金とほうきの使用禁止の罰則。さらには、訓練所による長くて厳しい罰則者講習を受けることになる。それをクリアしないと、再びほうきには乗れない。

 講習料も高いし、なにより知り合いから怒られ、指導されるのは嫌だ。

 元だけど魔法隊だったので顔見知りが多い。


 数キロなので、あっという間に危なげなく海を越えられた。

 結界まで使ったんだから当たり前か。

 私達が訪れたのは港の側にある小さなお店。

 ここは夜勤明けのおじさんとか、水商売関係のお姉さんとか、徹夜明けの若者とか普段あまり見かけない人達が集まる。

 朝が来て一日が終わる人達の静けさが良い雰囲気を出している。

 ルミナさんは大人しくなった。私の服の裾を掴んで不安げにしている。

 初めての人にはその独特の雰囲気は少し怖く感じるかもしれない。

「大丈夫です。でも、あまり騒がないで下さいね」

 自分の口に人差し指を当てる。

「わ、分かりました」

 ルミナさんの手を引く。

 結局、一緒に入ることにした。

 中は程良く暖かい。質素な椅子とテーブルが並んでいる。

 店主のおっちゃんが、いらっしゃい。とぶっきらぼうに言う。

 会釈して空いている席に座る。

 ピークの時間は過ぎているはずだけど、客はそこそこ入っていた。

「お客様。ご注文が決まったら手を上げて下さいニャ」

 棚の上にいる老猫。

 あの子が注文と会計をしている。

 喋れるようだし、魔獣なんだろう。

 老猫の目が光ってメニュー表と注がれた水がテーブルに浮遊してやってくる。

 メニュー表には魚料理が多い。

 私は朝の焼き魚定食でいいかな。普通のやつと違って朝食仕様となる。

 ルミナさんは顎に手を当てて悩んでいる。

 お嬢様っぽいから馴染みがないのかな?

「同じ物にします」

「分かりました。すみません」

 店主が顔を上げる。

「朝の焼き魚定食2つ」

 お札を机に置く。

「ありがとうニャ。少々お待ちくださーい」

 それはフワリと浮かんで消えて、数秒後にお釣りが現れる。

「あの猫ちゃん、可愛いですね」

 猫を見上げる。可愛いのかな?

「・・・私には分からないですね」

「そこの赤毛のお客様。黙るニャ」

 ペコペコ頭を下げる。

 それから定食が到着するまで静かな時間を過ごした。




 健康診断が終わりました。

 すぐ分かる範囲の異常はないそうです。

 いつもはゆっくりお茶を飲みながら雑談をしますが、今日は桂一郎さんにお話があるらしくすぐに執務室へ案内しました。

 桂一郎さんは健康診断がある時にはいつも明け暮れにいます。

 ケレーディアの要人が来ているのに留守には出来ないみたいです。

 いつも軽い挨拶程度なのですが、それが重要なことなのでしょう。

「ケレーディア先生。この大変な時に遠路はるばるありがとうございます」

 余所行きの声で握手する桂一郎さん。

「いえいえ、こちらこそ無理に予定を変更していただき感謝しています」

 政治家がよくやる一連のやり取り?みたいなのをしてから2人は椅子に向かい合って座ります。

 私は先生の隣に座りました。

「今回の用件です」

 机に小さな魔法の手紙が出されます。

 それには、封印魔法が掛けられていました。端末でいう暗証番号のような魔法です。

「千疋君。開けてくれ」

 桂一郎さんは魔法が使えません。いつも明け暮れの誰かが魔法を解きます。

 杖を一振りして封印を解きます。

 手紙は自動で開いて中の紙に文字が浮かび上がります。

 内容を要約すると、千疋南君を今回の自称神様との戦闘で使用するということでした。

「これは世界機関(パドマ)としての決定です。私は反対したのですが、正確なデータの無い兵器(なぎみ)をここで使いたいみたいです」

 部屋が沈黙に包まれました。

 魔導師ならよくあることですが、本当に突然のことでした。

 急に早くなる心臓とその音がハッキリと聞こえます。

 私が呼ばれるのは普通の召集とは違います。

 でも、いつかこうなると思ってました。

「分かりました。世界機関の決定です。受け入れます」

 桂一郎さんの言葉は当然です。

 私に関することは紗倉見ではどうすることも出来ません。

 私は世界機関の兵器なのですから・・・。

「ごめんなさい。ケレーディア(うち)のことなのに」

 私達に頭を下げる。

 先生も話を切り出せなかったのでしょう。

 私の魔法がどんなものなのかを唯一知っている人です。

 どうなるかも予想出来ます。

「止めてください。それに世界中から魔導師が集まります。出番なんてないかもしれませんよ」

 グチャグチャの感情で絞り出した言葉でした。

 数多くの魔導師が挑んで今に至ります。

 状況が違うとはいえ今回もどうなるか分かりません。

 桂一郎さんが手を叩きます。

「今回はこの辺にしましょう。紗倉見も出来る限りの協力をします」

「・・・ありがとうございます」

 見たこともない暗い表情でした。

 その後、先生を見送って、また執務室に戻ります。

 この件は先生自身の口から伝えたかったようです。

 どんなに謝っても許されないことだと言っていました。

 執務室に真也さんも呼ばれたようです。目はちゃんと開いています。

「話は聞いたよ」

 真也さんは普段と変わらない様子でした。

 こういうことは真也さんが一番知っているはずです。今までいくつかの残忍な事件にも立ち会っているでしょうから。

「僕の方からは頑張っておいでとしか言えないかな。ごめんね」

「大丈夫です。謝らないで下さい」

 笑顔を作って答えます。見透かされてそうですが。

「今日の夜勤を夕月君に変わってもらおうか?」

「いいえ。出国までいつも通りでいたいです。変に気を遣わないで下さいね」

 二人はうなずいてくれました。

「他の人には僕から伝えておくよ。でも、海帆さんには南君から話してあげて」

「・・・はい」

 この話を聞いたら海帆はなんと言うでしょうか?

 長い間一緒にいましたが、兵器としての私の話をしたことはありませんでした。いえ、話せませんでした。

 海帆はいつも頑張っていて、どんなに危険な仕事でも付いてきてくれます。

 私に認められる魔導師になる為に・・・。

 これから、こういうことは増えていくでしょう。

 ・・・・・

 最近思うのです。

 私達はペアを組むべきではなかったと。




「またお待ちしておりますニャー」

 老猫のお見送りに会釈しながらお店を出た。

 ルミナさんは目を輝かせていた。

「このようなお店は初めてでしたが素晴らしかったです。お腹いっぱいです」

 よく分からないけど、満足してくれたみたいで良かった。

「良かったです。では、これで帰ってもいいですか?」

「ダメです」

 ・・・やっぱりか。

 今さらだけど、ルミナさんを魔法隊に預けた方が良かったのでは?

 そんなことを考えながら歩いていると、声がした。

「ん?舞木か?」

 目の前に葉月さんが現れる。

「珍しいんな。ここで会うとは」

 ルミナさんはすぐに後ろに隠れてしまう。

「そうですね。・・・まだおはようですかね」

 おはようとこんにちはの間くらいの微妙な時間帯。

「うーむ・・・おはようじゃな。で、そちらのお嬢さんは?」

「あぁ、彼女は・・・」

 顔をひょこっと出して私の言葉を遮った。

「迷子で不安になっているところを舞木さんに食事に誘われた者です」

 ん?なにそれ?平気で嘘吐くじゃん。

 それを聞いた葉月さんは狼狽えながら後退り。

「わ、わし、知っとるぞ。な、なんぱってやつじゃな」

「違います」

 すぐに否定する。しかし・・・。

「そうか。・・・わ、分かった。柊には秘密にしておくから安心せい」

 あー・・・何も分かってない、この神様。酔ってんのかな。

 本当に今日はどこの時点で間違えたんだろう。次から次へと・・・。

 頭を抱える。

「あの柊さんって誰ですか?」

 無視する。口を開くとろくなことにならない。

 それを見て葉月さんが答えてしまう。

「舞木のペアじゃよ」

 なぜかルミナさんはハッとする。

「初耳です。秘密にしてたんですか」

 秘密も何も、あなたとはついさっき出会ったばかりでしょ。

「秘密の多いお年頃なんじゃな・・・お、小禄が来たな」

 葉月さんが空を見上げた。

「お待たせしました」

 小禄さんが空から降りてきた。

 風魔法で綺麗に着地する。

「八声先輩。さっき振りですね」

「うん。さっき振り」

 まともな人が来た。助かった。

「早かったな」

「はい。最近入ってきた新人さんがすごくてですね。早めに終わるんですよ」

 小禄さんはまた後ろに隠れたルミナさんを見つける。

「・・・八声先輩。その方は?」

「ルミナ・スノードロップさん。なんかペアの方とはぐれたみたいで・・・」

「で、なんぱしたと?」

 小禄さんがムッと葉月さんをにらむ。

「八声先輩はそんなことしません」

 ホッとした。

 小禄さんが天使に見える。

 次に笑顔でこちらに視線を向ける。

「してません・・・よね?」

 黒いオーラのような圧を感じる。

「絶対にしてません」

 いつもの優しい感じに戻る。

「冗談はこれくらいで終わりにして・・・」

 本当に冗談だったのかな?

「見つけましたよ。スノードロップさん」

 後ろの人がビクッと震える。

「ど、どういうことじゃ?」

「魔法隊が今、彼女を捜索中なんです。明け暮れへ来てくれませんか?皆、困ってましたよ」

「そういうことなら」

 引き渡そうとしますが、腰に抱きついて離れてくれない。

「こんな可憐な美少女見逃していいのですか?」

「はい。早く帰りたいです」

「そんなヒドい」

「ヒドいのはどっちですか。散々、嘘吐いて」

 この様子に小禄さんは苦笑いしていた。

「えぇ・・・嘘じゃったのか」

「否定してましたよね?」

 葉月さんは気まずそうに外方を向いて息を吐く。

「・・・すまんな、舞木。勘違いしておった」

「本当ですよ。悪徳な宗教勧誘とか気をつけてください。葉月さんは引っかかりやすいタイプです」

 葉月さんはむーーーと、唸る。

「・・・バレてしまっては仕方ありません」

 ルミナさんの腕の力が強くなる。

「逃げます」

「へ?」

 次の瞬間、突風が吹く。

 ルミナさんとなぜか私も一瞬で空高くまで吹き飛ばされてしまった。


「小禄。大丈夫か?」

「はい」

 私は空を見上げました。

 かなり高く吹き飛ばされたようです。

「どうする?追うか?」

「どうしましょうね」

 見つけたら声かけをして欲しいとしか言われてません。

 八声先輩も一緒のようですし、無理に追う必要もないでしょう。

「このままでいいと思います。明け暮れに連絡するので先にお店に入ってて下さい」

「分かった」

 神様との約束を優先しました。

 今日の私は悪い子です。

 もう一度空を見上げます。

 二人はいなくなっていました。

 うーん。ルミナさんですか。どこかで見た気がしますけど、どこで見たんでしたっけ?




 空高くに吹き飛ばされた。

 ほうきにまたがり、浮遊魔法を駆使してルミナさんも乗せる。

 飛ぶの苦手なら危ないことをしないで欲しい。

「ありがとうございます」

「もう無茶苦茶ですよ」

「人生なんてそんなものです」

 イラッ。

「あの建物の屋上に行きましょう」

 ルミナさんが指差したのは東島の北側にある背の高いビルだった。

 どうとでもなれと諦めて、言われた通りにほうきを進める。

 何かあったら柊に頼んで何とかしてもらう。

 ビルに降り立つなり、ルミナさんは海の見える方へ歩き出す。

「風も強いし危ないですよ」

 小禄さんにメールを送ってから近づく。

「見て下さい。いい眺めです」

 私は首を傾げた。

 曇ってて海は荒れている。

 今のルミナさんみたいに目を輝かせるようないい眺めではないと思う。

 ・・・何か全然感性が合わない。

「そうですかね」

 灰色の景色をぼんやり眺める。

 そんな私に抱きついてきた。

「今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

 声はとても寂しそうな悲しそうなそんな声でした。

 この人、本当になんでもありだな・・・。

 取りあえず、頭をなでてあげた。

 柊だったらこうすればいい。

「あなた達何をしてるの?」

 その声に聞き覚えがあった。

 声の方向にはエイルさんがいた。

「久し振りね。舞木さん」

「どうも」

 ルミナさんを引き離す。

「お邪魔だった?」

「いいえ。迷惑してました。というか先生のペアの方だったんですね」

「そうよ。いつもフラフラしてるから置いてくるんだけどね」

 今日のは平常運転だったのか。

 ケレーディア先生が来てようやく思い出した。

「で、あなたがポーラさんですね」

 今回の宣戦布告の時に自称神様から要求された元王女様。

 あの写真が古かったのか成長していて分からなかったけど、面影はある。

 ルミナさんは一瞬、目を見開いてから優しく微笑む。

「今の私はルミナ・スノードロップです」

 私の手を取り、ギュッと握る。

「そうですか」

 モヤモヤがスッキリした。本当にそれだけ。

 手を離して距離を置いた。

「もっと興味を持って下さい」

 プンプン怒る。

「その様子なら大丈夫そうね。連れてきて正解だった」

 先生は笑い、ルミナさんは口を尖らせる。

「私だってか弱い乙女なのです」

 今回、連れてきたのは気分転換の為とかかな?

 数日後のは神様との戦争。しかも、自分が狙われてるとなると心がグチャグチャになるだろう。

 ・・・グチャグチャだから謎の行動が多かったのかな?うん。きっとそうだ。

「さてと、帰る時間ね」

「予定より早いですよ」

「あなたがこんな遠くまで来てるからでしょう」

 ルミナさんは下手な口笛を吹きながら視線をそらす。

「さようなら」

 私はヒラヒラ手を振る。

「えぇ、冷たい」

「散々振り回されて疲れました」

 先生のほうきにルミナさんが乗る。

「舞木さん。久し振りに話してあげなさい」

 それが誰のことかは分かっている。

「・・・気が向いたら」

「お願いね」

 ほうきが浮く。

「最後に1つお願いしてもいいですか?」

 ルミナさんは叫ぶ。

 はぁと、空返事。

 変なことを言われるのだろう。

「次に会った時、舞木さんオススメのお店に一緒に行きましょう」

 言葉がすぐには出ない。

 面食らってしまった。

 普通のお願いなんだけど、これからのことを考えるとかなり重いお願いだ。

 息を吐く。

 そして、答えた。

「・・・それくらいならいいですよ」

「絶対ですよ」

 ルミナさんは笑った。

「はい。また会いましょう」

 その笑顔は輝いていた。



・・・・・



 辺りが暗くなってきた。

 今日は本当に疲れた。主に朝の出来事だけど・・・。

 いつもの待ち合わせの時間に明け暮れの駐車場で柊を待っていた。

「ただいま」

「おかえり」

 柊はニヤニヤしていた。

「今日、ナンパしたんだって?」

 小禄さんがそんなこと言う訳ないし、葉月さんかな?

「誤解です」

 車を走らせる。

「ふーん」

 疑いの様子で私に触れてきた。

「成る程ね。よーく分かった」

 何が分かったんだよ。

「運転中だぞ。悪戯するな」

 ごめんごめん、と謝ってからいつも通りゲームを始める。

「・・・南君が行くってさ」

「そっか」

 何となくそんな気はしてた。

 この時期に健康診断に来るとは思えないし。



『久し振りに話してあげなさい』



 先生の言葉を思い出す。

 そういう意味で言ったのか。

 立場的に色々と言えないのは分かるけど、もう少し伝え方があったと思う。

「私には関係ないよ。・・・けど、感謝はしとく」

 柊は馬鹿にする様に笑う。

「不器用な奴ばっか」

「うるさい」

 後半の数行に1週間は使ったと思います。

 行き詰まってました。

 自分の国語力と語彙力の無さを嘆きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ