9 喜屋武小禄と葉月 その三
結界と呼ばれる種類の魔法があります。
魔力を使って壁を作って攻撃を防いだり、外と中を区切ったりする魔法です。
基本的で魔法で、簡単に使うことが出来ます。自分の魔力を形にするだけなので。でも、応用も数多くあり、奥深い魔法でもあります。それだけで公認魔導師になれる研究のしがいがある魔法です。そのレベルになると難易度が跳ね上がりますが・・・。
強度と大きさ、持続時間によって、消費する魔力が変わり、力量を把握していないと簡単に破壊されてしまいます。
そして、もう1つ。結界に分類される魔法があります。
それは自分の世界に引きずり込む結界魔法です。
世界中でもこの魔法の使い手は多くありません。いえ、多かったら困ります。
使用者の作りだした全くの別世界に引き込まれてしまったら逃れる術はほぼありません。必要な魔力も展開時の一度きり。イカれた魔法です。
脱出する条件を満たすか、魔法の使用者を倒すしか出る方法はありません。その人が創りだした世界の中で・・・。
そして、私達はその創り出された世界の中にいました。
空は赤黒くて地面は真っ黒。真っ白な朽ちた木が広がっています。とても不気味な世界です。
「まんまと引っかかりましたね」
この世界の理は何でしょうか?内容によっては詰んでいることもあります。
「・・・そうじゃな」
神様はまたため息。今日は多いですね。
引き込まれる時に柊さんとはぐれてしまいました。
バラバラにされるのがこの世界の理の一つなのでしょう。
葉月さんは私に憑いているので、はぐれることにはなりませんでした。
「これは神隠しじゃ。また、厄介な場所に来てしまった」
神隠し。事件の資料とかで見たことはありますが、まさか実際に体験するとは・・・。
先程とは違う黒っぽい霊魂が集まってきました。
殺気を感じます。引き込んだ相手を散けさせて襲うのが、ここのやり方なのでしょうか?。
それらはたいして強くはありませんでした。まぁ、実際には見えてないのでかなり厄介な相手なのでしょう。
成仏したのでしょうか?
「私達も死んだらこうなるんですか?」
「どうなるかは知らん。こやつらは魂の一部が一時的に残っているだけじゃ。時間が経てば、自然に消えていく」
消えていく霊魂を優しい顔で見つめています。
「・・・葉月さんとこれらは何が違うのですか?」
「ほとんど一緒じゃよ。神も霊も違いはない。はっきりとした意識があるかないかでしかない。まなを得る方法を知らなければ、わしもこうなっていたかもな」
そう言ってから、私の方を見ます。
「さぁ、行こうか。この世界の核になっている霊魂を斬る」
「・・・どこにいるか分かるんですか?」
この世界はかなりの広さがあります。逃げ回られたら、かなり苦労するでしょう。
「わしはこっち側の神様じゃぞ。余裕じゃ」
腕を組んでうんうんうなずいています。
自信満々なのが不安です。
とはいえ、私がどうこう出来る訳でもないので、従うことにしましょう。
「神隠しに遭っている時点で心配ですけどね」
顔が少し引きつっています。
「任せろ。あっちじゃ」
神様の指差した先には明らかに怪しい大木がありました。
他の木より明らかに大きく不気味で、この異様な世界の中心と言ってもいいかもしれません。
「あの木ですか?」
「ああ、間違いない」
固有魔法でほうきを出します。今回は明るいオレンジ色にしました。理由は特にありません。
「行きましょう。後ろに乗ってください」
私が乗ってから、後ろで私の腰に腕を回してしがみつきます。
「急がなくていいからな」
「そんなに飛ばしませんよ」
急いで変な罠にかかりたくないですから・・・。
探知系の魔法で異変がないか確認しながら進むことになるでしょう。
周囲にある木々からある程度、離れた高さで飛び始めます。
例の大木は100メートル以上ありそうです。とても目立っています。
見渡す限りでは同じようなものはないので、何かしらはありそうです。
下からは霊魂のうめき声が聞こえてきます。・・・この世界、嫌になってきました。いえ、最初からなんですけどね。早く終わらせたいです。
大樹の根元へ着きました。
近くで見るとさらに不気味です。
大自然の中にそびえる生命力あふれる大樹とは正反対。空気は淀んでいて、あまり良くない魔力の流れを感じます。
少女の霊魂は大樹の根元にありました。変わらずに「カミサマ」とつぶやいています。
神様は手元に刀を出しました。
それに気がついた霊魂は笑います。不気味な笑い声が辺りに響きました。
地面から私達の倍以上の背丈がありそうな霊魂が十体程度、現れます。さらに森からも霊魂の集団が集まり、囲まれてしまいました。
「小禄、少しもらうぞ」
「はい」
神様の刀に魔力が帯びます。
私も頑張らなくては・・・。
「一魔ノ万具」
手のひらに魔力を集めて、それをあらゆる魔法道具に変化されるのが私の固有魔法です。
「小っこいのは任せたぞ」
「了解しました」
拳銃の形をした道具を作り出し、魔法弾を撃ち込みます。
動きも遅い霊魂達は魔法攻撃を当てると消えていきました。なぜ攻撃が当たるのかは知りません。
神様も霊体と実体を切り替えながら、次々と倒していきます。
数分後には全てを倒しきっていました。
残るは少女の霊魂のみです。
銃口を向けると神様に止められます。
「わしにやらせてくれ」
神様は真剣な表情だったので、引き下がることにしました。
稽古の時でさえ、あんな怖い表情を見たことはありません。
「どうぞ」
ため息を吐いて、拳銃を消します。
普段ならこんなことは絶対にしません。
「すまんな」
刀を払って、構えました。
少女の霊魂は神様の前にゆっくりと着地しました。
「ホンモノ?イッショ?」
「ああ、本物じゃし、一緒じゃよ」
少女の霊魂に刀が振り下ろされました。
私はこれで終わりだと思っていましたが、そうはなりません。
「ヘヘ・・・エヘヘ・・・カミサマ・・・ワタシノ・・・カミサマ・・・」
次の瞬間、少女の霊魂は耳を塞ぎたくなる程の大きな悲鳴を上げます。
「終わりじゃないんですか?」
「そういうことか。小禄、来るぞ」
どういうことですか?質問する暇もなく、異変が起こります。
大樹の上に黒い何かが集まっています。恐らく、この世界にいる霊魂達でしょう。
「カミサマ・・・カミサマ・・・」
少女の霊魂の斬られた部分がくっついて浮かび上がっていき、その集まりの中に消えていきました。
そして、空に集まった霊魂達が私達に突進してきます。
私は咄嗟に巨大な盾を作り、防ぎました。
霊魂達は地面に散らばって、再び囲まれてしまいます。
盾をナイフに変え、神様と背中合わせになりました。
「これで終わりですかね?」
「さぁな」
「大変ですね。悪霊退治」
「そうじゃろ?・・・やるぞ」
「はい」
戦闘が始まる・・・その時でした。
「っぃ世界」
衝撃のようなものが霊魂が一瞬で消滅させました。
「広・・過ぎ・・・。疲れた」
柊さんが肩で息をしながら朽ちた木に寄りかかっています。
神様は笑みを浮かべます。
「遅いぞ」
柊さんはごにょごにょと聞き取れない声で何か言っています。
「無茶言うな」とか言ったのでしょう。
最後に残ったのは少女の霊魂でした。
神様は声をかけます。
「これで終わりじゃ。長い間、辛かったな」
刀を突き刺しました。
少女の霊魂が消えていきます。
「カミサマ・・・カミサマ・・・」
安らかな表情に見えます。
「・・・アリガトウ」
奇妙な世界は歪んで消えていき、元の世界へと戻りました。
元の世界は既に暗くなっていました。
大きなため息が出ます。まさか、ここまでの戦闘をするとは思っていませんでした。
緊張が解けたのか、体が重くなった気がします。
「今日はここまでだね。・・・寒い。帰ろう」
柊さんは早速、ブルブル震えています。
「はい。そうしましょう」
「うむ。暗いと危ないからな」
辺りを明るく、そして、暖かくする魔法のランタンを出します。
「いい物を持ってるね」
「朝は寒いことも多いですから」
何を思ったのでしょうか?なぜか柊さんに頭をなでられました。
「お疲れ様」
「はい。疲れました」
「えらいえらい」と言われました。
恥ずかしいので止めてほしいですね。悪くはないですけど・・・。
「危険なのが分かったじゃろ?次回からは・・・」
「はい。よく分かりました。私に黙って、こんな危ないことをしてたんですね」
ニコッとして言います。
神様は気まずそうに、外方を向きました。
柊さんを自宅へ送り届けてから町に戻ります。少しだけ舞木さんとお話できて嬉しかったり・・・。
柊さんに夕ご飯のお誘いをされましたが、雪が降りそうなので断りました。
町は賑わっていて、とても平和です。
先程まで戦闘をしていたので不思議に感じます。
いつもの光景なのに別世界のようです。
雪が降り出しました。
「少し歩きませんか?」
私の提案に神様はうなずきました。
人気のない所でほうきを降ります。
杖で自分に触れると、温かい服装に一瞬で替わります。ついでに神様も。袴以外の服は私のお下がりです。
「すまんな」
「いいんですよ」
私は良い気分ではありませんでした。
宿主になってからずっとあの活動を秘密にされていたのです。それに・・・。
気まずいのでしょうか?神様は手を握ってきました。
「温かいな」
「・・・そうですか」
素っ気なく返すと、手の力が強くなります。
「怒っておるのか?」
「別に怒ってませんよ」
実際は半分くらい・・・。
「今回のことか?」
「それもですけど、隠し事ばっかりじゃないですか」
出会ってから稽古や仕事で忙しくて、時間を設けられないことも多かったのはたしかに悪いと思います。でも、隠されるのはやっぱり嫌です。
「そうかの?人とはそういうものじゃろ」
「葉月さんは神様ですよね」
眉をしかめて困り顔です。
「お主もかなり性格悪いと思うぞ」
・・・あのこと、気にしてたんですね。
「なら、似たもの同士ですね」
「・・・じゃな」
繋いだ手を引っ張り、海へやってきました。
海は荒れています。
こんな日でも海渡りをする人がいるみたいです。ほうきの先に付けるランタンの灯りがひらほら見られます。
そして、その先には東島の高層ビルの夜景が見えました。悪い天気の夜は人も少なくて、お気に入りの場所です。
「なんじゃ?わしに惚れたか?」
ロマンチックな場所だから、こんなことを行ったのでしょう。
からかうように神様は笑います。
「宿主止めますよ」
「すまんすまん」
ベンチに腰掛け、二人で夜景を眺めました。
先程のランタンを出して、邪魔にならない所に置きます。
「今日はどうした?」
心配しているようです。憑かれると宿主の感情みたいなのが少しは分かるみたいで、心のモヤモヤとかはバレてしまいます。
柊さんもそうですが、心を知られるって隠し事が出来ないから困りますね。・・・私は隠し事をされてましたけど・・・。
「なんでしょうね。少し疲れたのかもしれません。か弱い乙女なので・・・」
鼻で笑われます。
この神様は本当に失礼ですね。
・・・少し気持ちを吐き出すことにしました。
「私は強くなれましたか?」
「ああ、とても強くなったぞ。どこへ出しても恥ずかしくないぞ」
「なんですか?それ」
軽く笑ってから一度大きく息を吐きました。
「葉月さん」
「なんじゃ?」
今日、見た光景を思い出します。
「最近、人を殺すのが怖いんですよ」
色んな人の死を見てきました。そして、初めて見た霊魂。それもこの世から消えたのです。
握る手に力が入ります。
「何というか私の未来みたいで・・・きっと私は碌な死に方・・・」
波の音が聞こえます。妙にハッキリと・・・。
神様は口を開きます。
「心配なすることない。わしが守る。神様が味方なんじゃ心強いじゃろ?」
私を慰めてくれる時の優しい笑みでした。この神様はズルいです。
「・・・どうですかね」
顔をそらして夜景を見ます。なんだか恥ずかしくなってしまって・・・。
何も解決してないのに不安はかき消されてしまいました。
・・・なんだか暑くなってきました。・・・ランタンの力は偉大です。
「もう大丈夫か?」
寄りかかってきます。
「はい。まぁ、少しは落ち着いたというか・・・」
「なら、良かった。怖くなったら何度でも受け止めてやる。ぺあじゃからな」
「・・・ありがとうございます」
雪がうっすら積もってきました。
「もう帰るか」と神様は立ち上がります。
「葉月さん。お願いがあります」
「ん?」
「葉月さんのこともっと教えてください」
「うーむ」と腕を組んで悩んでいます。反応はあまり良くないです。
「私達はペアですからね」
ニッコリ笑います。
神様は諦めたのか今日、最後のため息を吐きました。
「そうじゃな」
私の手を引いて、立ち上がらせてくれました。
「今日みたいに少しずつな」
神様は先に歩き出してしまいます。早足で・・・。
きっとまだまだ神様は教えてくれないでしょう。何となく分かります。ズルい神様ですから・・・。
きっかけはどうあれ、神様のことを少し知ることが出来ました。
嬉しいような寂しいような。でも、前には進めたと思います。今日はそれで良しとしましょう。
「絶対ですよ。それくらいの願い事、叶えて下さいね。神様」
ランタンを持って、神様を追いかけました。




