8 喜屋武小禄と葉月 その二
昼食を終えてから明け暮れへ向かいます。
速達の仕事が終わったら、必ず一度は顔を出さなければなりません。理由はよく分からないです。決まりとしか言えません。本当に忙しい時とかは連絡を入れれば免除になります。
事務所で出勤処理をしてから待機室へ。
「おはようございます」
真っ先に目に入ったのはソファーでした。
なぜか大きめの毛布が積み重なっています。・・・何なんですか?これは・・・。
「小禄。おはよう」
海帆さんと南君さんがいました。
二人はティータイムのようです。机にはお菓子の山がありました。
ソファーの山は気にしていないようです。
「すごい量ですね」
見たこともないような高級そうなお菓子ばかりでした。
「桂一郎さんが昨日のパーティーでもらってきたらしいの。高そうな味がするから食べな」
南君さんの言っている高そうな味とはなんでしょうか?いくつか貰いました。
「ところで、真也さんはどこですか?」
南君さんは布団を指差します。
「朝まで魔法隊と例のギフトの現場にいたみたいで」
結局、徹夜したんですか。・・・パトロールは諦めましょうか。
「なにかあった?」
南君さんが覗き込んできます。
うっ。顔に出ていたのでしょうか?
「あの、今日はパトロールでもいいですか?」
「いいよ。でも、予定変更なんて珍しいね」
魔法でボードの予定を書き直してくれました。
「はい。柊さんと葉月さんと・・・」
「ああ、悪霊退治ね」
「すみません」
「いいのよ。小禄も海帆も真面目過ぎなのよ」
追加でお菓子をくれました。
「みんなで食べてね」
「ありがとうございます」
魔法でそれをしまいます。
「おはよー」
夜々さんが来ました。大きな袋が後ろで浮いています。
「おはようございます」
「小禄だ。ねぇ、真也どこ?」
私はソファーを見ます。
それを見て「浮け」と命令して布団を浮かせます。
制服姿で寝ている真也さんが姿を現しました。
ブルッと体を震わせて目を覚まします。
「ざむい・・・」
ややかすれた声で起床します。
「おはよう」
夜々は真也の前に立ちます。
「ささ・・さす」
何を言っているのか分かりません。目も全然開いていません。
「私だけ帰して仕事してたの?」
「はい・・・じびばぜん」
ため息をついて袋を机に置きます。
中身はきっとパールで使われなかった余り物で作った軽食でしょう。
真也さんの主食です。少し頂いたこともあります。とても美味しいです。
「そう。別にいいわ。報告はしておくけどね」
「止めて下さい」
無視して小分けにされた料理を共有の冷蔵庫に入れていきます。
「無視しないでー」「言わないでー」とアワアワしていました。
西島のリーダーとは思えない・・・なんというか、情けない姿です。
「小禄さん。行かなくていいの?」と海帆。
「そうでした。行ってきます」
「退勤処理はしとくから、今日は戻ってこなくていいよ」
南君さんはバイバイと手を振っています。
「ありがとうございます。お先に失礼します」
私は待ち合わせの場所に急ぎました。
・・・
カランコエの塔。
新暦が始まって世界が安定し始めた頃、パドマと呼ばれる世界機関が各国に配置を義務付けた避難所である。非常時には結界を展開して人々を守ってくれるのだ。紗倉見にもいくつもあって、周辺は公園になっている場合がほとんど・・・。そして、待ち合わせスポットでもある。
空は曇っていてなんだか嫌だ。
夕方に雪降るんだっけ?その前には帰りたいな。
子鹿のようにプルプルと可愛らしく震えてる私と横には落ち込んでいる葉月。さっきからため息ばかり吐いて空を見上げている。
「そんなにショックなの?」
「誰のせいじゃと思っておる?」
「私は関係ないよ」
もう一度、ため息。ため息の多い神様だな。
「ペアを組んでるんだし、それくらい知っててもいいと思うけどね」
「これは神であるわしの仕事。小禄を巻き込みたくない」
「私は?」
どうでもよさそうな顔だ。
「囮は必要じゃからな」
ヒドい、この神様。性格悪いは間違ってないじゃん。
「まぁ、あれじゃ。小禄からは色んなものを貰っておるからな。これ以上の迷惑はかけられん」
「そんな風には思ってないと思うよ」
「・・・神も人も難しいんじゃよ」
そう言ってから立ち上がって手を振る。小禄が来たみたいだ。
「お待たせしました」
急いで来たんだろう。顔がいつもより赤い。
葉月は未だに「本当に行くのか?」とか聞いている。スルーされてるけど・・・。
「南君さんからお菓子の差し入れですよ」
両手一杯にお菓子が現れた。やっぱりいいなぁその魔法。
お礼を言ってもらった。
「じゃ、行こうか。悪霊退治に」
「はい」
私達は森へ向かって歩き出した。お菓子を食べながら、ちょっとしたお散歩だ。
神様はもらったお菓子を一口、食べる。
「なかなかの美味じゃな」
驚いた顔をしている。
「たしかに、高級そうな味ですね」
「・・・何それ?」
たしかに美味しいけど、高級そうな味って何だろう?私にはよく分からなかった。
・・・
広大な西島のほとんどは森で覆われています。
一般的な森ではなく、朽ちた文明に自然が侵食していったような場所です。
新暦が始まってもうすぐ千年ですが、まだ未開拓の地が多く残されてると言われています。
悪霊とやらはそこにいるのでしょうか?
そもそも私は見たことないですよ。
ある地点で葉月さんが手を差し出します。
「握るのじゃ」
言われた通りにします。
景色が少し変わりました。森はフワフワした球体状の何かが漂っています。
「これはマナ。普段見えないよね」
「これがですか」
マナは魔法使い達が自然から得る魔力のことです。
魔法が世界の修正力で無害な状態になったものという説や元々、自然界に存在した物質でそれを取り込んだ人という生物が心を得た説など色々あります。
触ってみましたが、なにも感じません。
「あの・・・これは?」
「幽霊とか神様とか、目に見えない魂がいる世界って言えばいいのかな?まぁ、難しい場所だよ」
まったく分かりません。・・・というより、分からなくていい場所なのでしょう。人である間は・・・。
「いたぞ」
葉月さんの声。
そこにいたのは人の形に近い何かでした。青白く顔のようなものも確認できます。
左右を見渡しながらノソノソ歩いています。こちらには気づいているのでしょうか?視界には入っているでしょうが反応はありません。
葉月さんは刀を出して、ためらいなく斬り伏せます。
「あのいいんですか?魂なんですよね?」
魂とか心とか分かりませんが、たぶん気持ちとかあるんですよね?
「問題ない。ほっといても、しばらく消えていく」
「なら・・・」
「わしらはな、本来はいてはいけない存在なんじゃ」
「それってどういう・・・」
その時、柊に声をかけられました。
「二人とも周りを見て」
さっきと同じような存在が歩いていました。しかも、何体も・・・。
「分かっとる。珍しいこともあるもんじゃな」
それらは同じ方へ向かっています。
「小禄、まだ時間は大丈夫か?」
「はい。まだまだ大丈夫です」
「分かった。此奴らについていこう」
私達は霊魂が目指す先へ進みます。
森の開けた場所にそれはいました。
髪の長い女の子のような存在が浮いています。
下には幾重にも重なった魂達がまるで1つの生き物のようにうごめいて、手を伸ばしていました。
葉月さんはそれらを斬って少女の霊魂を見上げます。
「カミサマ・・・カミサマ・・・」とつぶやいています。
「お主もか」
剣を構えました。
私と柊さんは少し離れた所から見ています。
疑問に思ったことを聞いてみることにしました。
「柊さん」
「どした?」
「私、まだよく分かりませんが、こんな開けた場所にいるのっておかしくないですか」
柊さんは首をかしげます。
霊魂のことは分かりませんが、見える人に来てください。と言っているようにしか見えませんでした。
「これって罠だったり・・・」
「まかさ、そんな・・・」
霊魂は葉月さんに気づいたのか手を伸ばしました。
「カミサマ・・・カミサマ・・・ミツケタ・・・」
次の瞬間、私達は世界に引き込まれました。




