表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

第0章9 【活気溢れる街】

「頼もー!」


 サクッと金を数分後に元の瓦礫に戻る錬金術を発動させ、そのままの足でボロい酒場にまで戻ってきました。


リゲル「よう、上手くいったか」


「うーん、取引次第ですかね」


リゲル「取引?」


「ええ、取引です。まずはコチラを」


 私はカーマネからもらった契約書をリゲルに見せます。


リゲル「こいつは......」


「この土地一帯の所有権です。今は私になってますよ」


リゲル「......何がお望みだ?嬢ちゃん」


「いえ。私がここの土地を持ったところで、今は後ろの彼と宝石探しをして旅をしている最中。まともな管理なんてできないんですよ。そ・こ・で、この土地、買い取りませんか?」


リゲル「高ぇのか?」


「高いですよ~。なんせ、金500kgで買ったものですから」


 私がその一言を放った瞬間、一気に静かになっていた酒場がざわめき出しました。


リゲル「......いくらだ。言っとくが、うちにそんな大金はねぇぞ」


「そうですね~。......うーん、じゃあ、このお店で一番贅沢なご飯一飯分で!」


リゲル「......……はっ!こりゃ、随分と高ぇな!」


 一瞬唖然としたような顔になったリゲルが、すぐさま涙を流した笑みへと表情を変え、私が差し出した契約書にペンで何かを書き加えました。


「......そうですね。今日から、この土地はあなたの物です!」


 リゲルが書き足した内容は、『この土地を更に酒場の店主リゲルに飯一飯分との取引で譲渡する』という旨のものです。私は、すぐさまその下に先程の名前を書き加えようとしました。でも、ここは本名を使っても良いと思い、自分の名前を書きました。もちろん、上に書いてある名前は読み取れないほどに滲み潰して。


リゲル「取引成立だな!」


「ですね!」


 驚くほどにあっさりと解決してしまったこの街の問題。こんな事で解決できるのに、なぜ彼らはそれかま出来なかったのか。そんな事、私が知るようなことではありませんが、少なくとも彼らがとても喜んでいるということだけは分かりました。


リゲル「よっしゃぁ!テメェら今日はたらふく食いやがれ!そして飲みやがれぇ!」


「「「 おっしゃァァァァ! 」」」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから数時間。私たちは今が昼か夜かなんて忘れて、ただひたすらに暴れ回りました。といっても、度々酔っ払った人同士が小さな喧嘩をする程度で、それ以外は楽しそうに喧嘩をしていました。


 人生初のお酒に手を出そうとしたんですが、そこは、1人この場に馴染んでいないラウスが止めてきました。むぅ、大人しくラウスも呑まれてればいいのに。


「ど、どういう事ですか!これは!」


 と、楽しく騒いでいるところに、つい数時間前に聞いた男の声が響き渡りました。


「あ、どうも」


カーマネ「どうもじゃありませんよ!なんですかこれ!あなた様から貰った金が、見ての通りただの瓦礫に戻ったんですよ!?なんなんですかこれ!」


 予想通りの反応ですね。


「知りませんよ~。私は、"無償"でこの土地を譲ってもらいましたから」


カーマネ「何を言いますか!それは錬成による金の生成が違法だからと約束したからではありませんか!と、とにかく!あの取引は無効です!契約書を返してください!」


「と、申されておりますが、どうします?」


リゲル「人様から物取り上げるたァ、そりゃぁ、権利侵害ってやつなんじゃねぇか?なぁおめぇら!」


 デカいビールジョッキ片手にリゲルが店中に向かって叫びます。


「おうおう!その通りだ!」

「俺らからこれ以上取るな!」

「船乗り舐めんなよゴルァ!」


 リゲルの叫びに賛同する声は多く、皆が酔いで頬を赤らめたまま上着だけを脱ぎます。


 うわぁ。流石(?)船乗り。筋肉ーー特に腕ーー凄いです。


カーマネ「ひっ、お、お前ら何なんだ!」


リゲル「よう兄ちゃん!」


 ドシン!と、リゲルがカウンターの奥から大ジャンプでカーマネの前まで飛び降ります。衝撃で足元の板が若干崩れ落ちました。


リゲル「生憎だが、さっきそこの嬢ちゃんにこの土地高く売ってもらってな。欲しけりゃ俺ら船乗り倒してから買い取るんだな」


カーマネ「ひっ、ひぃ……」


 金の力はあっても、常日頃からダラダラしているカーマネでは、筋肉ムキムキな船乗りたちには敵いそうにありません。ちょっと可哀想ですかね?


リゲル「兄ちゃん。何も暴力的に行こうだなんて俺らは思ってねぇんだよ。たーだ、兄ちゃんの態度次第では。ニヒッ」


 腰を抜かして倒れたカーマネに詰め寄り、リゲルは親指を後ろに向けて立てます。すると、他の筋肉質な船乗りたちが、自らの筋肉を自慢するように様々なポーズを取ります。


カーマネ「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 なんとも情けないものです。筋肉質の男たちを相手にして、腰を抜かしたまま逃げ去ってしまうなんて。


リゲル「よっしゃァァァァァァァ!」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


リゲル「嬢ちゃん、今日はありがとな!お礼……つっても、何もねぇが、俺らにできることなら何でもやってやるよ。そこの兄ちゃんもな」


「ああ」


 俺はただ単に黙って見ていたに過ぎないが、この酒場の奴らは俺がゼラの連れってだけで妙に親しくしてくる。


 ……それにしてもすげぇな。たったの1日でこの街の有様をすっかりと変えちまったんだから。いや、ゼラは変えるきっかけを与えただけか。


「……なぁ、リゲルだったか?」


リゲル「ああ、リゲルは俺だが」


「1つ、聞きたいことがあるんだがいいか?」


リゲル「おう、いいぜ。1つと言わず、なんでも聞きやがれ!まあ、答えられるかは補償しねぇけどな!」


 まあ、こいつらが知ってるわけねぇだろうけど、一応この時間が無駄じゃなかったって、シャウト達に胸張って言えるような情報だけは持ち帰りたいな。


「……なあ、最近この辺で、宝石泥棒が来たみたいな話を聞かなかったか?」


リゲル「ああ?んなもん、こんな街だからなぁ。いくらでも聞くぜ」


「じゃあ、キラキラ光るデカい石を持った奴が現れるとかしなかったか?」


 我ながら、なんとも曖昧な聞き方だと思ったが、グランストーンがどんな代物なのか分からない以上、こう聞くしかない。後でゼラにちゃんとどんなものなのか聞いとかないとな。つっても、あいつ自身記憶が曖昧みたいだし、特に意味はなさそうだが。


リゲル「あー、キラキラ光るデカい石か……」


「そうそう。これくらいの大きさのやつ」


 両手を使って、少し大きめの輪を描いてジェスチャーする。こんなんで伝わってくれればいいんだがな。


リゲル「……あー!それくらいなら、つい最近見たぞ!」


「マジで!?」


リゲル「ああ。兄ちゃんの探しもんかどうかは知らんが、つい最近、黒ローブ着た男がこの街に来てな。夜になったが泊まる場所かないって言うから、貸してやったんだよ。結構な金くれたしな。んで、その時男に自慢されたんだよ。でっけぇ宝石が手に入ったって」


「見たのか!?それ!」


リゲル「ああ見たぞ。すげぇキラキラしてて、めっちゃ光るでかい石だったな。なんていうか、こう、石からすげぇ力みたいなもん感じたんだ!」


 ……これは、もしかしなくても本物かもしれないな。


「なあ、その男どこに行くとか言ってたか?」


リゲル「確か……あーそうだ。これからステイネスのアジトに帰るとかうんたらかんたら独り言呟いてた気がするぞ」


 やっぱあそこかよ……


 アジトか……いつ向かってもいそうな気はするが、できるならなるべく早くに行きたいな。つっても、今は内乱中。かなり危険だ。でも……どうしたらいいんだろうな?


「……ありがとな、情報くれて」


リゲル「礼を言いてぇのはこっちだよ!兄ちゃんと嬢ちゃんのお陰で、こちとらこれから幸せライフだからな!」


 チラとゼラの方を見る。


 結局、止めたかいも虚しく、男たちに酒を浴びせられ、すっかりと出来上がっちまった。まあ、あいつは酒に強いのか、何とか理性は保ってるようだけどな。


 もう少しだけ、楽しませてやるか。これは、結果的に情報を手に入れられるようになったお礼だぞ、と。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして、いつの間にやら晴れていた空もすっかりと日を落とし、さすがに帰るかとなって、結局酔いつぶれてしまったゼラをおんぶして人通りの少ない夜道を帰る。


「あー、シャウト達もう戻ってっかなー?まあ、それなりの情報は手に入れたわけだし、怒られるようなことはねぇだろ」


 とまあ、そんな独り言を呟きつつ、数十分と歩き続けて、やっと宿にまで戻ってきた。そういや、リゲルがうちに泊まってけなんて言ってたが、この宿を見ると、マジであそこスラムだったんだなと思う。だって、あの家マジでボロボロだったからな。そのうち建て直さなきゃならねぇやつだ。


シャウト「遅かったな」


 と、宿の前にまで行くと、そこには律儀にもシャウトとモルガンの2人が待っていた。


モルガン「こんなに時間がかかるとは、それなりにいいものが得られたのだろうな?」


「ああ。十分すぎるもんが手に入った。ほぼこいつのお陰でな」


 俺は背に乗ったゼラの顔を見る。


 すーすーと寝息を立てやがって。本当に子供だな。……でも、こんな子供があんなすげぇことをやっちまうんだよな。世の中恐ろしいぜ。


シャウト「詳しい話は明日聞こう」


「ああ、助かるぜ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 翌日ーー


シャウト「なるほど。やはり、ステイネスにグランストーンを持ち去った奴がいるのか……」


「多分な。リゲルの話からすると、多分1ヶ月以内にはあのスラムを訪れているわけだし、本当に俺らとすれ違うようなタイミングであの島に訪れたんだろうな。それも、ゼラが気づかない時間に」


シャウト「だろうな。ただ、そうなると黒ローブの男とやらはどこでグランストーンの情報を得たのだろうな」


 あれだけ外に出たがっていたゼラが気づかないタイミング。俺らはそこそこにデカい船を使って行ったからすぐにバレたが、小さい船で、仮に夜に行ったとしても、多分すぐに気づかれる。そんな気がする。じゃあ、いかにして黒ローブの男はゼラに気づかれないようにグランストーンを盗み出せたのかって問題になる。


「多分、奴はグランストーンの居場所を知ってたと思う」


シャウト「だろうな。あれだけ草木が生えている島だ。場所を知っていなければ、短時間で宝石奪取とはならないだろう」


「ってなると、やっぱ黒ローブの男は、ステイネスでもとびきりでけぇ勢力の……」


シャウト「『影』……だろうな」


「だな」


 『影』とは、内乱ばかりのステイネスでも頭1つ飛び抜けているやべー勢力だ。ステイネスだけに囚われず、世界中のあちこちで盗みや殺人、放火といった世界共通意識の犯罪を犯している。


 ……そんな奴らにグランストーンを奪われたとなりゃぁな……。


「どうする?諦めるか?」


シャウト「マスターが許すわけないだろ」


「だよな。絶対に『男が同じ盗人相手に怯えてんじゃないよ!このチキン野郎が!』くらいには言ってきそうだな」


シャウト「……戦力の確保が重要だ」


 戦力って言われても、今すぐに揃えられるようなもんはどこにもねぇだろ。シージュアルのババア共の力を借りたところで、元々非戦闘員がほとんどなんだ。


 ……いや、シャウトがなんの考えもなしに……


 ……


 ……そういや、この国にはなんの考えもなしに来ちまったんだな。一応目標達成出来たから結果的には来てよかったと思うけど。


シャウト「……今すぐに集められそうな戦力はないが、白愛(しろまな)王国に兵隊を貸してくれるところがある」


「マジか……」


シャウト「昨日聞けた情報だ。この国の兵士に聞いたから、信用性は高い」


「んじゃ、そこで兵隊借りれるだけ借りてステイネスに突撃ってことでいいか?」


シャウト「ああ。それで行こう」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 はいはーい。どうでしたでしょうか?月影王国編。


 今回、国の中心には近づかず、港町での物語となってしまいましたが、そんなところにでも大きな物語っていうのは眠っているものです。あの人たちの街、1000年経ったネイさんたちの時代ではどうなっているんでしょうね?


 さて、お次のおはなしは和を尊ぶ白愛王国でのおはなしです。私たちが目指すグランストーンがステイネスにあることを知ったラウス一行。ステイネスでの巨大組織『影』と戦う戦力を整えるため、一行は白愛王国を目指すことになります。しかし、そこの兵隊さんたちはステイネスの組織と戦うことに恐れを顕にしてしまいます。果たして、戦力をひとつも揃えられない私たちはどうなっちゃうのでしょうか?それは、これから描く物語で明らかにしていきます。

 短編の連続ってのも、意外と書きやすいもんなんですね。というか、今までの章の構成練ってから登場人物の振り分けと敵メンバーの名前を一々考えてたグラストに比べりゃ、かなり書きやすいです。語り手も基本ゼラだけでいいですしね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ