第0章20 【終わりを告げる物語】
3年後ーー
あれから、シージュアルの街は私たちのギルドを中心にして栄え、私がイメージしていたようにワイワイガヤガヤとした楽しいギルドになっていました!……唯一の誤算さえ除けばですけど。
レイジ「大丈夫かい?ゼラ。今日はやけに元気が足りないね。男にでも振られたかい」
この赤と黒が入り交じった禍々しい髪色をしている女性の名は『レイジ』。憤怒の魔女として、1番怒らせると面倒な人と認知されている人です。まあ実際、本当に怒らせちゃダメなのはヨミさんなんですけど……
「レイジさんじゃありませんし、そんなわけないですよ~」
私は堕落したように肩を落とし、そのまま机に向かって顔から寝そべるように倒れました。
リナ「何があったらあんたみたいなのがそうなるのよ。ねぇ、ヨミなら知ってるんじゃない?」
嫉妬の魔女『リナ』が私の背中をつんつんとつつきながらそう言います。
ヨミ「知らん。強いて言うなら、ギルド運営が思った以上に大変じゃということじゃな」
ガーラ「ゼラゼラは大変ですね~。あ、食べないのならヨミヨミのクッキーくださーい」
ヨミ「好きなだけ食え。暴食の魔女」
ヨミさんは、なぜか自分のと私のを両方差し出してしまいました。まあ、食べるつもりなんてサラサラ無かったですし構いませんけど、一言くらい確認してくださいよ。めんどくさがりな怠惰の魔女さん。
ユナ「ゼラは少し頑張りすぎ。少し休んだ方がいい。星占いにもそう出てる」
コスモ「ユナは占いに頼りすぎかと」
ユナ「何か言った?」
コスモ「す、すみません……」
占い好きと少女と、引っ込み思案な少女は、それぞれ順に傲慢の魔女『ユナ』、色慾の魔女『コスモ』。
今しがた見てもらえたように、私たち『魔女』と呼ばれる存在は、特にこれといった脅威はなく、ただただ無為にお茶を飲むだけの茶会をしています。まあ、脅威はないって言っても、それはあくまで怒らせなければって話なんですが。
基本、ここにいる人たちは怒らせない方が得策です。なぜなら、全員が全員、普通の人間には扱えない能力を持っているからです。
まず、憤怒の魔女レイジ・スカイローズ。彼女は、周りの人間に自身の感情を伝播させるという能力を持ち、その気になれば国1つをまとめあげて戦争を起こすことだってできます。使える範囲は限られてますけどね。
次に暴食の魔女ガーラ・グルントン。濃い青色の髪をしたボブショートの少女でとても甘えん坊な人です。彼女は、普段は温厚ですが食べることに目がない人です。人間だって食べちゃいます。というか、この世界そのものを食べてしまうことも出来ると思います。言い過ぎじゃないですよ。
次に嫉妬の魔女リナ・イグドラシル。桃色の明るい髪色が特徴的で、困ったらとりあえず暴力で解決しちゃう脳筋な魔女です。嫉妬なんて呼ばれ方をしてますけど、能力がそれであるだけで、実際の彼女は嫉妬とは無縁の世界で生きています。ちなみに、能力というのは自分が受けたダメージを、周りの人間にも共有させるってことですね。一見シンプルに見える力ですが、これが中々に厄介で、国から危険人物指定を出されているほどです。
次、傲慢の魔女ユナ・バーリエル。黒髪ロングの鬼族少女です。占いが大好きで、いつもいつも占いをしています。が、彼女の占いは百発百中、絶対に外れません。というのも、彼女の能力は未来を見る力で、そら絶対に外れませんよねって話です。そのお陰か、たくさんの人から占いを頼まれています。
次、色慾の魔女コスモ・カラドビア。黄緑色の髪をした薄暗い少女で、かなり人見知りをする人です。オマケに、自分を強く主張できず、いつもいつも引いてばかりの人です。そんな彼女は、人の目を集めるという力を持っています。これが中々に恐ろしくて、彼女を見ている人は"見る"ということだけに力を使ってしまい、その他のことに力を使わなくなるので数分としないうちに死んでしまいます。もちろん、国からの危険人物指定ですね。いるだけで殺されてしまうんですから。
次に怠惰の魔女ツクヨミ。いや、説明はいりませんよね。魔女の中でも最強の存在です。普段はめんどくさがりな人ですが、やる時はやる人です。はい次!
満を持して、強欲の魔女ゼラ・スターフィリア。そう私です。あれから色々と力を自覚し、今ではヨミさんに並ぶくらいの強力な魔女になっています。まず、この世界の法則を無視して欲しいものを何でもかんでも作ることができます。あと、魔法も好き勝手に撃てます。ええ、国から危険人物指定を受けていますとも。それでも、ギルドマスターという立場にいます。ちなみに、スターフィリアという家名は、私が自分で付けました。この国で生きていく以上、家名という偉い立場である証拠は必要ですから。あと、これも後になって知ったことなんですが、どうやら私はエルフと呼ばれる種族だったみたいです。
ここまで、魔女を紹介してきましたが、どいつもこいつもろくでもない奴らの集まりなんですよね。そら、こうして茶会をしてるだけでも、周りに監視役の騎士がたくさんつくことになっています。お勤めご苦労様です。
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まあ、その後なんだかんだ平和な茶会ーーほぼほぼレイジさんの愚痴会ーーは終わり、私は大量の始末書を持ってギルドに帰りました。この始末書は、あの場で監視役をしていた人から渡された物です。ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……あー、ざっと見ただけで30枚くらいありますね。
ヨミ「まぁた、あのバカどもが暴れておるな」
「とほほ……」
ヨミ「まあ、そう落ち込むな。始末書なんぞ、いつも通り燃やしてしまえばええじゃろ」
「そう強い態度でいられるヨミさんが羨ましいです……」
私たちのギルドは、とってもとっても喧しくてうるさいギルドになりました。ええ、なり過ぎたくらいに……。
……年々成果を上げて、仕事が増え続ける我がグランメモリーズ。そして、増える仕事に対応するようにして増えるメンバー。そのメンバーが、みんな分を弁えている人たちだったらいいのですが、実際現実そうも行かなくて、行く先々で問題を起こしては、ギルドマスターである私に迷惑をかけてきます。そして、その度にヨミさんの慰めと国からの始末書を受ける日々ーーまあ、始末書は全部燃やしてるんですけどーー自然とストレスは溜まっていきます。
「はぁ……ドキドキワクワクな冒険は何処に……」
ヨミ「大変じゃのう。また何かしらの理由を引っ提げてどっかにでも行くか?」
「私たちが危険人物指定を受けてから、自由に国と国を行き来できなくなってることくらい覚えてるはずですよ」
ヨミ「それもそうじゃの。じゃが、そんなもの妾達の力にかかれば、無理矢理にでも突破できるぞ」
「どうせゆっくり出来ないんで結構です」
私のストレスが溜まる原因。それは、ギルドのみんなが暴れるということよりも、こうして冒険出来ないことの方が大きいです。
3年前に抱いていた夢と希望。それは、2年としないうちに儚く散り、私はこうして仕事ウーマンとなってしまったのです。悲しい……。
「はぁ......」
ヨミ「ババアみたいなため息を吐きおって。そんなんじゃ、早死にするぞお主」
「ため息1つで早死にとか考えたくないですね。あ、私この後ユナさんと約束があるんで、ここいらで失礼しま~す」
ギルドの前にまで来て、ユナと約束をしていたことを思い出し、私はげんなりとした態勢のまま今通って来た道を逆方向に進み始めました。ほんの数分前の約束ですら忘れてしまうとは、いよいよ歳ですかね。まだ17なんですけど。
ヨミ「ついていった方がええか?」
「大丈夫で~す」
ヨミさんが不安そうな顔をしてこちらを見ていましたが、私は気にせずユナのところへ早く行こうと足取りを早めました。ちなみに、道中で始末書を燃やすことも忘れずに。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ユナ「......やっと来た」
「すみません。途中で無意識にギルドの方に行ってたもので」
ユナ「……まあいい。始める」
辺りには雪が降り積もっている山奥のウッドハウス。普段、ユナが1人でひっそり暮らしているという場所。地理的には月影王国に位置するところ。そこそこ遠いですけど、魔法でひとっ飛びできる距離なので、シージュアルからはそんなにかかりません。そんな場所に、なぜ私が来たのかというと......
ユナ「自分の未来を占う。......ゼラがそんなこと言うとは思わなかった」
「ははは、私もここ最近の体調不良がなければこんなこと頼みませんでしたよ」
ユナ「私の占いは百発百中。でも、この結果を聞いて運命が変わった人もいる。どんな結果になっても悲観しないように」
「分かってます」
仮に悲惨な未来が待っていたとしても、私の力を使えばどうにかなってくれるはずです。
ユナさんは、一冊の分厚い本を開き、私の耳では言葉として認識できない呪文を唱え始めました。いよいよ彼女の力が発動します。
ユナ「......」
「......」
ユナ「......?」
「どうしたんですか?」
ユナは、突然今までに見たことがないほど怪訝な顔つきになり、必死に本のページをめくりました。
ユナ「ゼラ......。あなた、1ヶ月としないうちに死ぬよ」
「......え」
突然告げられた『死』という言葉。私には理解できない言葉でした。でも、僅かな沈黙を置いて、私は死という言葉をゆっくり噛み砕いていきました。
ユナ「先に行っておくけど、戦いとかで死ぬんじゃない。あなたは世界から殺される」
「......な、何言ってるんですか......。私が、死ぬ......?」
隠そうとしても口から素直に出てしまう動揺の表れ。8年前の瘴気事件ですら生き残れた私が......死ぬ。
ユナ「あなたが死ぬ。その未来がハッキリと見えた。もう覆すことはできない。......でも、もう1つ不思議な結果が出ている」
「不思議な、結果......ですか」
ユナ「そう。運命は変わらない。運命は変えられない。でも、未来に可能性を残す手段があるとしたら、あなたはどうする?」
なんだか難しいことをいう人ですね。こちとら、もうすぐにでも死ぬと言われて、まだ動揺が収まっていない状態だというのに。
......未来に可能性を残すですか。その未来がどれくらい先なのか知りませんけど、ヨミさんたちがいなくなった後の未来なんて生きる価値はありませんし、わざわざユナが言うようなことに賭けてみてもって感じはしますね。
「......いや、違う。未来の可能性......」
お主は、そのうち大きな選択を迫られることになる。そうなった時、頼れる者は周りにはおらん。じゃが、自らの意思を残すことは出来る。近い未来、お主はユナと呼ばれる魔女と出会うじゃろう。お主が道に迷って、答えを決めきれなかった時。これを持って必ずユナの所へ行け。
あの時、この、ルビーのように真っ赤な宝石のネックレスをくれたヨミさんの言葉が脳裏を過ぎ去ります。
状況的には、あの言葉とぴったり重なっています。
......この宝石をユナに渡せば、きっと全てが分かるのでしょう。
「ユナさん。このネックレスの未来を占ってくれませんか?」
ユナ「......分かった」
いよいよ次回で最終回です!