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第0章2 【始まりの日】

 世の中、"幸運"ってもんは天下の回りもので、毎日せっせこと頑張っていれば、いつかそのうち良いことが舞い込んでくる。なぁんてうちのマスターは言うが、幸運なんてもんがやって来るわけねぇだろ、いい加減にしろ。てめぇが俺ら使って幸運を呼び出してるだけだろうが!


 まあ、今回の宝探しばっかりは、ちと俺様も興味のあるもんだからいいけど、普通に考えて、5年前に瘴気事件のあった場所に大事な団員を駆り出させるかよ......いや、あの人はそういう人だったな。


「おーい、『モルガン』、目的の島っつーのは見えてきたかー」


 船の先頭で双眼鏡を覗く『モルガン』の隣に立ち、俺は声をかける。


モルガン「まだまだ見え......いや、見えてきたぞ。嫌な香りのする島が」


「マジか。この距離で感じんのかよ......」


モルガン「流石は5年前に瘴気事件があっただけはあるな。そろそろ肉眼でも見えてくると思うが、見た目だけなら普通の島だ」


「どれどれ......」


 モルガンから双眼鏡を受け取り、俺も目的の島を一目見ようとレンズを覗く。


 なるほどな。確かにありゃ、見た目だけなら普通の島だ。だが、程度の低い魔導士である俺にすら見えるほどの黒いオーラが放たれている。バカみてぇにって量ではないが、嫌な予感がするな......


「なあ、今からでも引き返して、マスターに見つかりませんでしたって頭下げねぇ?」


モルガン「馬鹿言え。そんなことをしたところで、あの人は見つかるまで探せって追い返すに決まってる。例え、俺達が向かう島にとんでもねぇバケモンがいたとしてもな」


「ひぇぇっ、恐ろしあー......」


「おい、お前ら、そろそろ接岸の準備に入る。無いとは思いたいが、何が起きてもいいようにそれなりの対策をしておけ」


「へーい」

「了解」


 下の操縦室から『シャウト』の指示が飛んできた。まだ接岸できるようになるまで5分はかかりそうなのに......と俺は思ったが、5分前行動だ、ってやたら時間にうるさいのがあいつだ。文句を言うだけ無駄だ無駄。


「うしっと、じゃあ準備しますかー。今回はどんな宝が待ってんだろうなー」


モルガン「瘴気に塗れた獣でないといいな」


「だな」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「よっと、無事上陸~」


モルガン「負のオーラは凄まじいが、体になにか来るほどではないな」


シャウト「見た目だけ、というわけか」


 長い船旅を終え、俺達はようやっと目的の島に足を踏み入れた。うん、The南国の島って感じのする場所だな。だけど、ところどころの見た目は超秋らしい感じのする場所だが。


「で、宝ってどの辺にあるんだ?」


モルガン「さあな。マスターが言うにはこの島に絶対にあるって話だが」


「おいおい、ガバガバじゃねぇかよ......」


シャウト「どんな物かは見てみんことには分からんが、とりあえず魔道具を使って探していこう。ラウスはこれ、モルガンはこれを使え」


 結局地道な作業じゃねぇかよ。あーあ、俺が夢見てたトレジャーハンターってのはこんなんじゃなかったのになぁ。


 しゃぁねぇ、いつも通り肉体労働で頑張りますかっ。


「わぁー!船だ船だー!本物の超大きい船だー!」


 ......?


「おい、今のは誰だ?」


モルガン「俺じゃない」

シャウト「俺ではない」


「ってことは、お前らも聞こえたよな?」


モルガン「ああ、聞こえた」

シャウト「女子の声が聞こえたな」


 幻聴ではないか......。


 あれ?この島って今は無人島で誰もいないはずじゃなかったか?それなのに、ついさっき甲高い女の声がした気がするが、2人も聞こえたってことを考えると......


「どっから聞こえたと思う?」


「「 多分あっちだ 」」


 2人が同じ方角を指さしてそう言う。俺も、向こうから聞こえた気がする。


「......まさか、亡霊とか?」


シャウト「そんなわけないだろう。俺達と同じように宝探しに来たって可能性の方が高い。とりあえず、姿だけでも確認しておこう」


「そうだな......」


 なぜだろう。今、ここであの声の主と接触するのは凄くダメな予感がする。なんでかは知らんが。


 とりあえず、俺達は個々に別れて声の聞こえた方を目指す。今でも感じられるくらいに負のオーラがある場所だ。ないとは思うが、死者の怨念、もしくは未練が形として残っていてもおかしくはないと俺は考える。非現実的だと、シャウトは遠回しにバカにしてきたが、世の中何が起きてもおかしくないし、相手は瘴気の影響から生まれたもののはずだから、絶対なんて言葉は通用しない。


「よっと。声が聞こえてきたのはこの辺なはずだが......」


 倒された太い木を軽く飛び越え、確かにあの時聞こえたはずのところに一番乗りする。だが、女の子らしき姿は見えない。だけど、その代わりと言うのか、明らかに人がつい最近通ったと思われる跡があった。跡と言っていいのかな?


「結構派手に倒してんな......これ、人間技か?......でも、獣だったら、こんな綺麗には倒せねぇし、足跡だってこんな小さく浅いもんじゃねぇよな......」


 ついさっき俺が飛び越えた丸太だが、あれはつい最近倒されたものだった。もっと詳しい奴が見てくれれば分かると思うが、多分2、3日前くらいに派手に倒されている。


 人っ子一人いねぇと思っていたはずの島で、まさかとんでもない怪力持ちの女の子(?)と接触をしようとしている。いいや、落ち着け俺。確かに、不自然なくらい綺麗に折られた木だが、何も普通の野生動物だったらこんな綺麗に折ることができないわけではない。多分、偶然こんな感じになったんだろう。......うん。


「あれー?船だと思ったのに、人っ子一人いませんねー。やっぱり、こんな島にやって来るバカなんていないんでしょうか?」


 ......今のはハッキリと聞こえた。若干背筋が凍るくらいにはハッキリと聞こえた、間違いねぇ。


 俺は一目散に声の聞こえた方へと駆け出し、声の正体である人物の姿を見る。


「お、女の子......」


 ついさっきまで俺達が「上陸~」と感傷に浸っていた場所に女の子が立っていた。


 見た目は10歳くらいの小さな子で、長い金髪を潮風に靡かせている。んでもって、服はいかにも原住民が着てそうな感じのする薄着で、光のない目をしていた。


「あ、人......」


「やべっ......」


 ついつい見惚れてしまっていた。俺はバレる前にーーもうバレたと思うけどーー木々の合間を縫って逃げ出す。さっさとあいつらに報告しよう!そしてこの島から脱出しよう!早くにそうしないと、何故かは知らんが凄く嫌な目に遭いそうな気がするんだ!


「はっ、はっ、はっ、はっ!」


 クソっ、この土地走りづれぇ。流石、人が住んでいないーーと思われていたーー土地なだけある。道なんてもんは俺が通ってきたところだけだし、それ以外の場所は細々とした木々が散乱していたり、背の高い雑草がぼうぼうと生えていたりとで、本当、走りにくい。


「はっ、はっ、はっ......ありゃ、あの女は?」


 それでも頑張って走り続け、ふとしたところで後ろを振り返る。すると、俺の後ろには誰も追っかけてきてはおらず、人の気配もどこにもなかった。


 もしや、追いかけられてると"勝手に"思い込んでいただけなのか?


 だとすると、俺の心配事は杞憂に終わってくれる......んなわけねぇか。人がいるんだ、"人が"。こんな、瘴気に包まれた孤島に1人の女の子がいた。見間違いじゃねぇ。どう考えてもおかしい。


「あーあ、帰りてぇ......」


 近くにあった切り株に腰を落とし、太陽がサンサンと照らしてくる空を見上げる。


「......あ」


 光のせいで最初はよく見えなかったが、段々と眩い景色に目が慣れてくると、上の方で太い木の枝に座っている少女の姿が目に映り込んできた。


「ふっふー、逃げ切れると思いましたかー?」


「やっべー!」


 俺は切らした息を整えずに走り出す。走りにくい道であることに変わりはないが、俺がさっきまで通った道を使えば楽に海岸にまで出られる。多分、そろそろあいつらが戻ってきていてもいい頃だ。2人と合流してこれが幻でないことを確認しよう!そして逃げよう!


 あの女の子に害があるかどうかなんて俺には分からない。でも、なぜだか知らないが、とても嫌な予感がするんだ。瘴気のせいなのか何なのかは知らんが、とにかくそんな気がする。何度も言うけど、そんな気がするんだ。


「はっ、はっ、はっ、はっ!」


 逃げて逃げて、逃げ続けて、どうにかして海岸へと辿り着いた。もう既に2人が戻ってきていて、俺は安堵のため息をこぼすとともに、2人の前に前のめりで倒れ込んだ。


モルガン「お、おい大丈夫か!?ラウス」


「お、女の子が......」


「「 女の子? 」」


「う、後ろの方からーー」


「おー、1人だけかと思ったら3人もいるんですかー!なるほどなるほど~。まあ、こんな大きな船を1人で操縦できるわけがありませんもんね」


 あ、追いつかれた......


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


モルガン「えーっと、嬢ちゃんの名前はゼラで、なぜか5年前の瘴気事件から生き残ってる。んで、外の世界に興味がおありと......」


ゼラ「はい!」


 話をしてみると意外と普通な奴......うーん、でも俺はまだ疑いの目を持っている。


 だって普通に考えてみろ。遠くからでも見えるほどに赤赤と燃えた島で、ただ1人の生き残りがいる。しかも、瘴気の影響を全くもって受けていない。5年前からずっとここにいるなんて言うが、瘴気の影響が色濃く残っている間を普通に暮らせる奴なんて普通はいないはずだ。


 こいつが嘘をついているのか、それとも幽霊なのか......とにかく、俺の疑念は一切晴れないままである。


シャウト(こいつの謎は後から考えろ。俺達のすべきことを思い出せ)


 シャウトが耳打ちしてきた。


 ......それもそうだな。悩んでたって俺のバカな頭じゃ何も分からねぇ。まあ、本能でたまに分かる時もあるんだが、今はそんなことがない。


(そうだな......とっとと宝取って帰ればいい話だな)


シャウト(その件だが、俺に作戦がある。成功すれば楽に宝を持ち帰れるぞ)


(へー、そうですか。一応聞いとくが内容は?)


シャウト(この女の子を利用して、宝を持ち帰る)


(もしや、この女が島から出たがってるから、それを条件にして宝を貰おうと?)


シャウト(勘がいいな、お前は。その通りだ)


 うーん、まあ悪くはねぇ作戦だな。問題はこの女のお守りをどうするかって話だが、まあ、マスターにでも積年の恨みを込めて押し付ければいいだろう。うん、これでいな。


(分かった。上手いこと交渉してみせるぜ)


シャウト(任せた)


 よーし、じゃあ早速始めるか。俺の鍛え抜かれた交渉術を得た舌がベラベラと回り出すぜ。


「あー、嬢ちゃん。俺達がなんでこの島に来たのか分かるか?」


ゼラ「はい?宝探しか何かですよね?」


「そうだ、その通りだ。んで、俺達が狙ってる宝ってのはこの島にあるはずなんだが、何か知ってるかな?」


ゼラ「うーんとー......あー、もしかしたらアレのことかもしれませんねー」


 アレ、か......。あるんだな、こんな島に宝が。


「嬢ちゃん、俺と交渉しようぜ」


ゼラ「交渉ですか?」


「そうだ。俺達はその宝が欲しい。出来ればタダでゲットしたい。でも、俺達は宝の場所を知らない。もし、嬢ちゃんが宝の場所まで案内してくれて、尚且つそれを俺達にくれるって話なら、嬢ちゃんの望みを何だって叶えてやるぜ」


ゼラ「本当ですかー!?もしや、外の世界に連れてってくれるとかー!」


「おう、そうだそうだ。連れてってやるよ!」


 チョロいな。シャウトの読み通りじゃねぇか。


ゼラ「わーい!じゃあ、早速案内してあげますから付いてきてくださーい!」


 ゼラはスキップに近い足取りで島の中の方へと歩みだした。


 あー、まあ、めんどくせぇ事になるかもしれんが、それも1週間程度で済むだろうな。マジでギルドに戻ったらあのババアに全てを押し付けてやる......

※初見の方へ

うちは基本、ここの後書きコーナーでキャラ設定を語ります。次回以降、ここに本編のお話と一切関係のないことが書かれていても気にしないてください。たまに独り言呟いてるんで。

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