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第0章13 【魔法を教えてくれ】

シエル「まーったく、久しぶりに帰ってきたかと思えば、この儂に泣きついてきおったか」


 謎に呆れるババア。怒りを必死に抑える俺。


 約10日という船旅を終え、俺達はシージュアルの本部にまで帰ってきた。時間が時間だから仕方ないが、相変わらずこの本部は空いてやがる。本当に所属人数が多い海賊団なのか?まあ、俺らに関係のある話じゃねえけど。


「こちとら、やっぱりというかなんというか、グランストーンがステイネスの影にあるって知って、ぶっちゃけこの仕事降りようかどうか悩んでるところなんだよ!」


シエル「ほう。では、それなりに出来るところまではやったんじゃな?」


 The疑いの目って感じで睨んでくるが、俺は怯むことなく話を続ける。


「正直なところ、マスターの力を借りたいと思ってる」


シエル「随分とハッキリ言えたのう」


「一度追いかけたもんを諦めるわけにはいかねえんだ。勝つためならなんだってするし、下げられる頭は全部下げる」


シエル「そうか......。じゃが、残念な話、相手が影となれば手を出すことはできん」


 やっぱりか......。薄々ダメだとは考えていたけどな。


「資金の援助くらいはしてやる。じゃが、武力部隊を貸すことはできんな。奴らに無駄死にをさせとうないからな」


 ババアの言い分は最もだ。確かに、俺達はトレジャーハンターという名の海賊。しかし、戦争をしてまで盗む価値のある宝なんて存在しない。いや、戦争をしてまで手に入れるってのは、ただの強盗とやることが変わらねえ、俺達のプライドに反している。だから、ババアは俺達にこれ以上の支援をできない。だが......


「......いや、悪ぃ。急に無茶な頼みして」


シエル「......相手が影だと分かった今、お主らに任せた任を取り下げてやることも考えんではないが、どうする?」


 諦める......しかないのか?


 俺に、これ以上グランストーンを追いかけることはできない。しかし、元々はその宝を求めてゼラと出会ったんだ。なら、せめて悪戯な運命の導きをしてくれた宝石を一目見たい。これは、俺の我儘なんだろうな。


「......もう少し考える」


シエル「そうか。決断は早めにな」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


ゼラ「えぇぇ!?諦めちゃうんですかー!?」


 翌日、俺はシャウト、モルガン、ゼラの3人をすっからかんな本部に集め、昨日ババアと話したことを伝える。案の定、ゼラは驚き、他2人はやっぱりかという顔をしている。


シャウト「ラウス。これだけは言っておく。1ヶ月と半月。俺達の旅は完全に無駄だったとは言わせないからな」


「ああ、分かってるよ」


 どうせ、あのババアが謎にゼラを気に入ったから始まったような旅なんだ。島で1人寂しく暮らしていたゼラを、俺達が見つけ出した。そして、世界を知らないゼラに世界を教えた。グランストーンなんてものは、ただの体のいい言い訳だ。でもな......


モルガン「諦められない。そんな顔をしているな」


「ああ。ここまで来たんだ。せめて、手に入れられなくてもいいから、一目拝んでおきたいって気持ちがあってな」


ゼラ「じゃあ、諦めずに探しましょうよ!もしかしたら、お宝はとっくに影って組織から離れている可能性だってあるんですよ!?」


 それもそうなんだが、あの影が宝を簡単に手放すとは思えないんだよな。あいつら、金稼ぎの為にあっちこっちの宝を強奪してるわけじゃねえからな。まあ、なんでそんなことをするのかについての詳しい目的までは知らんが。


シエル「お主ら話はまとまったか?」


 中々話に折り合いを付けられない俺達を見兼ねたババアが、わざわざここにまでやって来る。


シエル「諦められん気持ちも分かるが、人生時には諦めも肝心じゃぞ」


「分かってるよ。でも、そんな簡単に諦めきれるほど、俺の欲は浅はかなもんじゃねえんだよ」


シエル「まあ、悩む時間はいくらあってもいいとは儂も思うが、グダグダグダグダここで話をしとるだけじゃ、何も進まんからの」


 それだけ言って、ババアはさっさと執務室に戻っていった。


「......はぁ」


「情けないのう、お主ら」


 ババアが立ち去ったかと思えば、次は口調だけババアとそっくりなガキの登場かよ。


ゼラ「ヨミさん。何か、策でもないんですか?」


ヨミ「一応、無いこともない」


ゼラ「どんな方法ですか?」


ヨミ「戦力を搔き集められない。ならば、お主らが戦力になればいいだけの話じゃろうが」


「「「 ......? 」」」


 何言ってんだ?こいつ。


ヨミ「一応確認させておくが、妾はとんでもない魔法使いじゃ。その気になれば、この世界丸ごとを壊すことだってできる」


 へぇへぇ、そりゃおっかない能力をお持ちなことで。


「んじゃ、ステイネスをピンポイントでぶっ壊せねえのかよ」


 俺は特に期待するでもなく、ただなんとなくそう言ってみた。


ヨミ「生き残りは現れるかもしれんが、詳しい座標さえ知れれば可能じゃ」


「「「 ...... 」」」


 今こいつなんて言った?


 え?マジでピンポイントで狙えんの?


ヨミ「ただし、この方法じゃと宝も木っ端微塵になるがな」


「んじゃダメじゃねえか。俺らは求めてる宝を一目見てみたいだけなんだよ」


 結局、ちょっと期待しちまったが、まあ美味い話はねえわなってことで俺は考えるのをやめた。


ヨミ「まあ、待て。この話にはもう少し続きがある」


ゼラ「どんな?」


 俺達大人3人がダメだと分かっている中。ゼラだけは目を輝かせてヨミの話に耳を傾けている。


ヨミ「お主ら。魔法に興味はないか?」


ゼラ「あります!使いたいです!」


「俺はいいや」


モルガン「俺も」


シャウト「俺もだ」


ヨミ「なんじゃ。人が親切に物の1つでも教えてやろうかと、久しぶりにやる気になっておるというのに、お主らは諦めムードのままか。情けない。いいぞ、妾はゼラにだけ教えてやるわい」


「へいへい、程々に頑張れよ」


 ヨミはゼラを連れてどこかへと行ってしまった。


 なんで俺達がこんなにやる気でないのかというと、それは最初らへんの話に戻る。


「戦争をしてまで奪う宝に価値はない」




 ......まあ、こんな俺の考えも、そんなに日の経たないうちに、打ち砕かれてしまうんだがな。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それから、1週間は過ぎた日の朝だ。


 俺は、しばらくの休暇を取って、度の疲れをこの街で癒していた。グランストーンを諦めたわけではない。ただ、みんなで話し合って、少し休んでから考え直そうということになっただけだ。まあ、詰め詰めで考えたって、悪いことばかりしか思いつかねぇからな。心と体のリセットだ。


 ただ、今朝はちょっと外が喧しい。祭りかなんかやってんのか?って思うくらいには人の声がうるさすぎる。


「ラウス!ラウス!」


 ボーッと布団の中からカーテンを開けようとしていると、ドンドンドン!といった具合に扉を叩く大きな音がしてきた。多分、同じ寮に住むモルガンだな。


 俺はまだまだ眠い眼を擦りながら、未だにドンドンドンと叩き続かれるドアを開ける。


「どうした、モルガン。朝っぱらから喧しーー」


モルガン「何を呑気でいる!今すぐ本部に行くぞ!」


「あぁ?」


 何が何だか分からんが、俺は上着だけ着てモルガンの後を追いかける。


「……なんじゃ……こりゃ」


 外が妙に喧しかった理由が今分かった。


 街が燃やされ、黒装束の男達が街の人々を襲っている。オマケに、あちらこちらにどす黒い血が小さな水溜まりをポツポツと作っている。


モルガン「ボケっとするな、ラウス!」


「あ、ああ……」


 何が何だかよく分からない。でも、モルガンについて行けば何か分かると思い、血溜まりを避けながら走る。


 あちらこちらから上がっている火の手のせいで、少し呼吸が苦しい。


「クソっ、どうなってやがんだ……」


 走りながらも、俺は軽く愚痴の1つを零す。


 街を燃やし、人を殺し、血溜まりだけを作る黒装束の奴ら。一体、何が目的なんだろうな。


モルガン「まずい!ラウス避けろ!」


 モルガンがそう叫んだ直後、燃え上がる建物が俺達の前に倒れてきた。


 間一髪のところで後ろの方に避けるが、前の方に避けたモルガンと分断されちまった。向こうに渡ろうにも、火の手が凄すぎて進めない。それに、後ろの方は道が空いていても、左右の方は完全に火のせいで進めそうにない。


「クソっ!」


 迷ってる暇はねぇ。後ろの方に逃げて遠回りするしかない。


「あ゛ぁっ!」


 ダメだ。丁度逃げようとした時にまた建物が崩れ落ちてきた。いよいよこの街も限界が近いってことだな。


モルガン「ラウス!」


 ちっ、あいつまだいたのかよ。ここは危険だろうが。さっさと逃げろよ。


 どうする?考える時間がねぇことくらい分かってはいるが、完全に詰んだこの状況を打開するための方法を必死に頭の中で構築している。


「まーったく、助けてほしいなら助けてと叫べ、このバカが」


 なんにも出来ないでいると、空から綺麗な和服に身を包んだ少女が飛び降りてきた。


ヨミ「グランスキル・リワインドタイム」


 ヨミが右手を上げ、呪文のようなものを詠唱すると、崩れ落ちた建物が全て元の形に戻った。だが、燃えたままで危険であることに変わりはない。


「悪ぃ。助かった」


ヨミ「ありがとうくらい素直に言えんのか、お主は」


「生き残ったらいくらでも土下座して感謝してやるよ」


 ヨミは再び空を舞い、助けを求めているであろう人達のところへ向かっていく。俺は、ずっと待っていてくれたモルガンに追い付き、再び本部目指して走り出す。


「モルガン!走りながらでいいから、今何が起きてんのか軽く説明してくれ!」


モルガン「影だ!あいつらが何かを狙ってこの街に攻め込んできた!」


「影だぁ!?」


 俺の問いに秒で答えてくれたが、その答えのせいで一瞬だけ俺の足が止まりかけた。


 影っていや、俺らが現在進行形でどうするかを悩み続けてる相手じゃねえかよ。何だってそんな奴らがこの街に......


 ......


 ......


「あ......」


 気づいた。いや、分かってしまった。


 そういや、この街というより、俺ら海賊団が大量に世界各地の宝を溜め込んでたな。大体は金の為に売ってるけど、それでも貴重なもんが山ほど本部に蓄えられてる。まさかというよりも、絶対にそれ狙ってやって来たな。にしてはやることが派手だが、それが影っていう組織何だろうな。


「おいモルガン。俺らが向かってる本部って、今......」


 俺は恐る恐るモルガンにそう訊ねる。声が震えているのは、嫌な予感がしてならねえからだ。


モルガン「......マスターが、1人、俺達の仲間と、宝を守るために必死で戦っている」


 モルガンの声にも若干の震えがあった。


「クソがっ!ふざけんなよ!」


 俺は止めかけていた足を全力で回転させ、燃え上がる街の中を突っ切った。


 ふざけんなふざけんなふざけんな!


 まだ、てめえから任された仕事が終わってねえんだよ!グランストーンとかいう、誰も見たことがねえ宝を見てねえだろうが!早死にすんじゃねえぞババア!!!


 俺は走り続けた。服のあちこちが破れるのも気にせず、必死に走り続けた。大事な、大事な記憶(おもいで)の詰まった家を目指して。そして、ババアの背中を追いかけて......


「......」


 ......だが、追いつけなかった。


 俺達の家は崩れ落ちるほどに燃え上がっており、中から何人かの黒装束が撤退を始めている頃だった。いや、もう仕事は終わったとばかりに、撤退を済ませていたんだ......。


 膝から何かが崩れ落ちるような感覚がして、俺は若干の眩暈と共に地面に突っ伏した。


「クソがァァァァァァ!!!」


「ラウス......」


 俺が叫ぶと同時に、隣から俺の名を呼ぶ女の子の声がした。


「ゼラ......」


 見れば、ゼラの体にはところどころに軽いやけどの痕があり、こいつもこいつなりに頑張ったんだなと俺は察した。


ゼラ「なんていったらいいのか私には分かりません。でも......」


「いい。言わなくていい。あのババアが、こんくれえでくたばるとは思っちゃいねえ......」


 口からその言葉を吐き出すだけだというのに、俺の心臓はバクバクとでかい音を鳴らしている。


 ババアは生きてる。そう信じたいんだ。いや、そうであってほしいと願っている。


 俺は落としていた頭を真正面に向け直す。せめて、あのババアが「危機一髪じゃったわ」とか笑いごとでそう言ってくれるのを期待して......でも、そう願った時、1人の女の子が、1つの焼死体を持ってこちらに向かってきているのが見えてしまった。


ヨミ「......すまぬ。助けられんかった」


 ヨミが抱えていた死体は、信じたくねえが、ババアのものだった。


「......クソがアアアアァァァぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の叫び声が、燃え盛る街よりも大きな音を立てて空に響き渡った......。


「............ヨミ。魔法を教えてくれ。あいつら全員ぶっ殺せれるくらいのを」


ヨミ「想像の300倍はきついぞ」


「なら大丈夫だよ......」


 そんくれえ、ババアの嫌味に比べれば余裕だ。

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