妖怪の習性は意味が分からないな
当を先頭にして廊下を探索していると彼がジェスチャーで止まれと合図する。
何事かと思い先を見るとそこには数匹の大きな犬がいた。
「あれは・・・何だと思いますか?」
「ふむ・・・あれは送り犬だな」
流石に危険度が高いと判断したのか高笑いをやめたサウザーが答える。
「送り犬?
それは一体どんな妖怪なんだ」
「送り犬は転んだ人間に襲いかかりあの世に送る犬の妖怪と言われている」
「つまり転ばなければ襲いかかってこない?」
「こちらから攻撃せぬ限りは襲いかかってこないであろう。
危険度も鉄鼠とは比べものにならぬから無視した方が良いであろうな」
「仕方ありません。
送り犬は避けて通りましょう」
4人の意見が一致したために送り犬を無視することにした。
真横を歩くが送り犬たちは全く反応しない。
まるで剥製のようであった。
「・・・」
「どうなることかと思ったが大丈夫そうだな」
「確かに・・・幾ら妖怪とはいえ大型の犬と戦うというのは少々怖いですからね」
先頭の当が警戒しながら先を進み、続いてナイト、一と続く。
最後のサウザーが横にある部屋の扉を通過しようとした時だった。
突然、扉の少しだけ開きそこから細い糸が飛んでくる。
糸はたちまちにサウザーの足に絡みつき転ばせようとしてきた。
送り犬たちはその動きに反応して一斉にサウザーの方に顔を向けた。
サウザーは何とかバランスを取ろうとするが安定しない。
異変に気付いた当が振り向いた時にはサウザーが尻餅をついたのが見えた。
瞬時に戦闘を体制を整えて弓を構える当。
その姿を見たナイトと一も急いで後ろを振り返る。
その時にはサウザーが床に尻をついているところであり、すぐに戦闘が始まる・・・そう誰もが思っていた。
そう、当の本人であるサウザー以外は。
サウザーが床に尻餅をつき、送り犬が動き出そうとした瞬間である。
「はぁ〜どっこいしょ!
疲れたから休憩しようかな!」
とわざとらしく大声で周りにアピールする。
すると送り犬たちは再び元の位置に戻り興味を無くしたかのように動かなくなっていた。
そして糸を出した妖怪も部屋の扉を閉めて中に戻っていった。
3人は何が起こったか分からない顔でサウザーに近づく。
「一体どういうことか説明してくれますか?」
「なーに、簡単な話よ。
送り犬たちは転ぶと襲いかかってくる。
逆に奴らに転んだと認識させなければ襲ってくることはない。
吾輩はいま転んだのではなく疲れて座っただけだ!」
「そんな屁理屈が・・・通用しているんだろうな。
現に送り犬たちは動かなくなっていますからね」
「うむ、これは文献にも記されている由緒正しき大丈夫だ。
先人の知恵には感謝するべきだな」
座った状態で胸を張るサウザー。
そんな3人のスマホにメールが届く。
『さっきの糸を使う妖怪はなんだ?』
当からであった。
「糸を使う妖怪は恐らく足まがりだな。
綿を使って人間を転ばせる妖怪だからそれほど脅威ではない筈なんだが・・・今の組み合わせは中々凶悪であるな!」
確かに人間を転ばせるだけの妖怪と転んだ人間に襲いかかる犬の妖怪という組み合わせは性質が悪い。
この状況を見たサウザーは提案をする。
「もう撤退した方がいいのではないか?」
と。




