月の一日
私はコーチに新しい訓練をお願いしていた。
それはナイフを使った近接戦闘の訓練。
初めての任務の日、私は貢献出来ていたとは思ってる。
しかし、弾が無くなっては何も出来ないこと。
前衛を風1人に任せることに不安を感じたことも原因だった。
そして、同じようなことを考えたのだろうか?
コーチの娘である花も近接戦闘の訓練に参加していた。
コーチは軍にいた経験があるらしく、そこで習った技術を私達に叩き込んでいく。
花の使う警棒と私のナイフは無手からの動きの延長上にあるらしく、軍隊の理論に基づいた格闘術を学んでいった。
そこでも2人のコンセプトの違いが出ており、花は風と並んで戦いたいらしくかなり攻撃的な訓練を受けていた。
一方で私は基本は右手に銃、左手にナイフを持ち相手の攻撃を捌くことに重点を置いていた。
そこで回避や捌きの基本を教わっていたのだが、それはとても面白く私を銃の次に虜にさせた。
そして、そんな練習を重ねていたある日。
今日も訓練終わりにコーチの教会にあるお風呂を借りていた。
自分はそのままでも良かったのだが
「女の子はいつでも身綺麗にしておくべきデース」
というコーチの言葉でお風呂を借りることになった。
湯船に浸かっているとドアをコンコンと叩く音が聞こえた。
扉越しに見えるシルエットでそれが花なのは分かっていたので
「いまお風呂借りてるけどどうしたの?」
と言った。
すると花は扉を開けながら
「私も汗だくで我慢できないから一緒に入るわよ」
と強引に入ってきた。
女の子同士なので別に焦る必要もないし、ここのお風呂も広いから別に文句はない。
「どうぞ。好きにしたらいい」
と私が言うと
「相変わらず愛想がないわね。
キャーとか叫んでくれてもいいのに」
と笑いながら花は答えた。
花は掛け湯をすると
「もっと前に詰めて」
と言ってわざわざ私の後ろに座った。
「あ〜いいお湯だわ。
疲れた身体に染み渡るわね」
「なんでわざわざ後ろに・・・正面から座れば良かったのに」
「それじゃ足が伸ばせないでしょ。
それよりも何、この髪!
めっちゃサラサラで綺麗じゃん〜普段帽子かぶってる上に結んでまとめてるから気づかなかったわ」
と言いながら私の髪を触った。
別に不快でもなく髪を触られるのは心地いいので放置することにした。
「それに肌も綺麗だし・・・ねぇ、なんでこんな可愛い女の子って見た目してるのに銃撃ってこんな事してるの?」
先程のチャカすような雰囲気ではなく、真面目な声色だ。
私の後頭部に顔があるから表情は見えないけど、任務の時に見せた真面目な顔をした花が頭に浮かんだ。
「別に意味なんてない。
私は銃が好きでサバゲーに参加してコーチに出会った。
あの人は女だてらにと騒ぐ人たちが多い中で私のことを認めてくれた。
だから、コーチに弟子入りしたしその手伝いが出来て銃も撃てるこの世界に入った。
それだけ」
私がそう言うと花はため息を一つついた。
「それなら近接戦闘なんて習う必要ないじゃない。
全く素直じゃないんだから・・・月も守るために戦いたいんでしょ」
「・・・否定はしない。
今は銃を撃つのも好きだけどチームで戦うのも好き。
だから、その効率を上げるために学んでるし、守ることで効率が上がるならそうする」
「ほんっとーに素直じゃないんだから!
風とは正反対よね。
なのに本質は似てるんだから本当に不思議」
花はそう言った後で月を後ろからギュッと抱きしめた。
「風が倒れた時も悲しかったけど月が倒れても私たちはみんな悲しくなるんだから無茶だけはしないでよね」
私はその腕に腕に自分の手を添えると
「分かってる。無理はしない。
約束する」
と答え暫しの間2人での入浴を楽しんだ。




