因果応報
「どいつもこいつも醜い。殺しても殺しがいのある奴がいねぇ。人はすぐ死ぬ。すぐ壊れる。つまらねぇ。人間なんてもんはすぐ群がりたがる。のんきにお友達ごっこかっての」
ごちゃごちゃ言っているうちに一人で裏路地に入っていく俺にとっては、いけ好かない女がいた。
「嫌いな人間はっけ~ん」
俺はニヤリとしながらビルの屋上から飛び降り、防犯カメラに見つからないようにその女について行った。
「お嬢さん」
その女は、びくりとしながら振り返った。
「こんな夜中に一人って危ないよ?俺みたいながいるからねぇ……は?」
そこにいたのは、女装をした俺の兄貴のレオンだった。俺はすぐ兄貴の罠だったのだと思い知らされた。
「あ……、兄貴……?」
「あぁ、ばれちゃった。お前、嫌いな人間殺してんだろ?」
「何でそれを兄貴が知ってんだよ。」
「逆に、知らないとでも?」
「まさか……」
「そのまさかだよ。俺の仲間を使ったんだ。お前は俺にずっと監視されてたんだ。」
「っ……。」
「イザミ、お前殺しがいのあるやつ探してんだろ?なら、俺を殺せ」
「は?何言ってんだ兄貴」
俺は混乱した。他人を殺すのと身内を殺すのとではわけが違う。俺を殺せだ?ばかばかしい。お願いされたら殺す気が失せる。
「何で俺が兄貴を殺さなきゃいけないんだ。もう身内を殺したくないんだ」
「なんだよ。親二人を殺しておいて、よくそんな綺麗ごと言えるよな。俺が身内?馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前のことなんて弟として見てねぇよ。」
俺は黙ることしか出来なかった。
~十四年前~
俺がまだ五歳のころ。
「母さん、家族で隣町のショッピングモール行きたい!」
「あら、いいわね!明日みんなで行きましょうか」
翌日に行ったショッピングモールの帰り、電車が爆発した。母さんと父さんは俺をかばって亡くなった。兄貴は行きたくないと駄々をこね、家で留守番をしていた。その夜母さんと父さんの火葬が行われた。
「イザミ、お前のせいで父さんと母さんが死んだんだ。お前が殺したんだ。人殺し。お前なんて弟でもなんでもない」
「お兄ちゃん……ごめん……ね…?」
「ごめんですんだら警察いらないだろ」
俺と兄貴は別々に引き取られた。そこから、兄貴と一切口をきいていない。
~~~~~
「殺せない……」
「あ?」
「俺は、兄貴を殺せない!」
「うるせえ。だったら俺がお前を殺す。」
「何でだよ、もう兄貴しかいないんだよ!血のつながりがある奴は」
「だから殺したいんだよ。血のつながりを考えただけで吐き気がする。お前さえいなかったら、母さんと父さんは今頃生きてた。お前さえ……いなかったら……」
兄貴は涙を流した。兄貴が泣いているのは初めて見た。頬を伝う雫はとてもきれいだった。
「お前さえいなかったら!」
兄貴は隠し持っていたナイフで俺の腕を斬ってきた。痛い……。血があふれてくる。
「ちっ。外したか」
「兄貴、もうやめてくれよ」
「なんだ?命乞いか?」
「ちがう。お、俺はただ……」
「ただ?ただなんだよ。しゃべろよ」
「……」
「なんだよ。もうしゃべれねぇのか。」
なんだ、視界がぼやけて……。
俺は倒れこんだ。
「倒れたか。もうじき死ぬな」
俺は兄貴に肝臓あたりを刺された。
あぁ、何故だろう。俺の周りが異様に暖かい。死ぬのか、人に悪いことをしたら自分に帰ってくるって本当なんだな……。意識が遠のいていく……。
「あ、死んだか。もう少し苦しめさせればよかったかな。じゃーなイザミ。死んでくれてありがとよ」
そこから俺の意識は途絶えた。