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二日酔いの日曜日①

 翌日の朝。


(き……気持ち悪い……)


 目を覚ました日和がまず感じたのは、二日酔いによる不快感だった。頭の中も視界もぼんやりとしている。


 再び目を固く閉じて気持ち悪さをこらえていると、背後で誰かが身じろぎをした。


(えーと……あれ? 透?)


 驚いて目を開くと、見覚えのない景色が飛び込んできた。


(ゆうべは透とホテルに泊まったんだっけ? 会社に行く前に着替えないと。……って、あれ? 今日って何曜日? 土曜……それとも日曜日かな)


 日和は前日の記憶を辿ろうとしたが、なかなか思い出せない。透が別の女といたことでさえ、脳の奥底にしまい込まれて忘れている。


 起き上がろうとして、パンツ以外は何も身に着けていないことに気づく。寒くてもう一度布団の中にもぐりこむと、透が日和の腰に腕を回して抱き寄せた。


 肌が密着する。


 彼の体温が、心地よい。


「ねえ、透。ここってどこのホテ……なっ――」


 振り返った日和の目に飛び込んできたのは、透とは似ても似つかない超絶整った顔立ちをした男の寝顔。その瞬間、前日の記憶が一気に蘇った。


(透はあの女と帰ったんだった! で、この人の家で料理を作って……え? ちょっと待って。それならどうして、私は裸なの?)


 混乱した日和はまだ眠っている亘から厚手のタオルケットを奪い取り、身体に巻きつけながらベッドから転がり落ちる。


 強烈な吐き気と頭痛に襲われながらも、腹ばいのまま衣服を求めて必死の形相で辺りを見回した。


(ない……ない! 私の服はどこ?)


 床に落ちていたのは、亘のシャツだけ。


(なに? なんで?)


 恐る恐る亘を振り返り、彼がパンツ一枚だということに初めて気づく。


(いやああああ!)


 日和は転がるように寝室を出た。


 寝室の扉の先は、リビングだった。太陽の光が差し込んでいると、夜見た風景とは少し違って見えた。


 コンロの上には、ゆうべ角煮を作った鍋が置いてあり、ソファーには日和の洋服が乱雑にかけてあった。


 ソファーの周囲を探してみたが、下着がどうしても見当たらない。


(どこ……どこ?!)


 バスルームに向かうと、入口付近に下着が転がっていた。


(まじかこれ。ここで脱いだってこと?)


 記憶がない。ビールを一気飲みしたところまでは覚えているが、その後はまったく思い出せない。


 脳みそを中から殴られているような強烈な頭痛と、足を踏み出すたびに世界が揺れているような気持ち悪さに耐えながら、キッチンへ向かう。


 備え付けの食器洗浄機を開くと、ゆうべ使った(と思われる)食器類が入っていた。ゴミ箱には、ビールの空き缶が五本。


(これ、私一人で飲んだわけじゃないよね……? いつもなら、頑張ってやっと一本飲みきる程度なんだから)


 だから一人のときはめったにお酒は飲まないし、飲むとしても缶ビールなら250mlの小さなサイズがちょうど良い。


 ――しかしゆうべは、缶から直接飲んで……


(ああ、飲みきったんだ。珍しく)


 ――それでなんだか気が大きくなって……


(あの人に文句言ったような気がする)


 しかし何を言ったのかまでは、やはりどうしても思い出せない。


 二日酔いになったことのない、まして記憶が飛んだこともない日和は戸惑い、そして不安になる。


タオルケットを身体に巻き付け直し、立っているのがつらくて床に寝転がる。


 ――それで、私はどうして裸なの?


 そう考えたとたんに再び落ち着きを失った日和は、あちこちに視線をさまよわせて自分がしたことの形跡を探す。


 争った形跡は何一つ見当たらず、洋服だって脱ぎながら放り投げたような感じだ。


(まさか、酔っぱらってストリップしちゃったとか?)


 悪い予感がする。日和は、頭痛・吐き気と闘いながら、ゆっくりと身体を起こした。


(それで全裸になって……まさかあの人と寝ちゃった? いや寝てたけど。そういう意味じゃなくて!)


 混乱のあまり、一人ボケ突っ込みをしてしまう。

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