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Ⅴ 作戦決行

 夕食はあまり食べないようにした。いや、食べられなかったというべきだろうか。

「どうやら俺が書いた紙は見ていなかったみたいだが、今日やることはちゃんと覚えているか。」

「ああ。私が新聞社のところにいって、記者を連れ出せばいいんだろ。」

「そうだ。それで集合場所だが、街の南に最近出来た公園があるだろ。そこの奥に一本のでかい木があるんだ。その木の裏か近くの草むらにでも隠れていてくれ。あと、俺が来たら、近くにいる証拠として俺に小石でもぶつけてくれ。」

 街の南は最近やってきた会社などが集まっており、新聞社なども南側にある。

「私にとっては近くていいが本当に大丈夫なのか?確かにこの時間なら人はほとんどいなそうだが。」

「ああ。こっちは任せてくれてかまわない。そっちも段取りよく頼むぞ。」

 やること自体はもう決めたことだが、私はまだ覚悟ができていない。そんな状態で黙って見ていられるだろうか。

「そうだ。これを渡しておく。さっきお前が寝ているときに書いた落書きみたいなものだが、預かってくれ。」

 友はぼろぼろにすり切れた手帳を私に渡す。何が書いてあるか少し気になるが、今日のことが終わった後に読もうと心に決めた。

「じゃあな。」

「ああ。」

 これが最後の会話なのだろうか。

 私たちは二手に分かれる。作戦開始だ。


 私は街の南にある新聞社に向かうが、足取りは重い。だが、一度引き受けた以上は止めるわけにはいかない。

 私は走った。焦っている雰囲気を出し、私が記者を連れ出す嘘の信憑性を上げるためだ。

 いや、早くこんなこと終わらせたかっただけかもしれない。どっちにしろ一人でも連れ出せば良いのだ。これから起こる一部始終を見てくれる人を。


 私は新聞社に着くと、勢いよく扉を開け、駆け込む。

 ここまで全力で走ったのはいつ以来だろう。息もかなりあがっている。

「大丈夫ですか?」

 受付らしき女性から声をかけられる。

「ハァ・・ハァ・・。南の・・公園・・で・・見たこともない・・生き物を・・・見たんだ。誰か・・・一緒に・・来てくれ。」

 できるだけ大きい声で叫んだが、声が思い通りにだせない。声もかすれ気味だ。少しやり過ぎた。

「ひとまず、待合室で休まれてはいかがですか?」

 その言葉に甘えようとするが、一人の若い男が走ってきた。

「その話本当か!?是非連れて行ってくれ。」

 その若い男は忙しそうに私の手を掴み、引っ張る。

 早速見つかったのは幸運だが、しばらくは足が動きそうにない。

「まっ・・待ってくれ・・少し休ませて・・」

 私の精一杯の声は奥からの大きな叫び声でかき消された。

「おい!新人!どこに行くつもりだ!」

 恐ろしい形相で一人の中年男性がこちらに近づいてくる。この男の上司だろうか。

「やべぇ、見つかった。」

 そう言うと、私を無理矢理引っ張り、私共々ここを出て行こうとする。

「ちょっと取材に行ってきまーす。」

 大きな声で若い男はそう言うと、私の手を取り無理矢理走らされた。


「ここまで来れば大丈夫だろう。」

 男は私を連れて公園まで来てしまった。

 男はやっと私の手を離す。その瞬間私は倒れ込んだ。

「大丈夫か?今にも死にそうだぞ。」

「ゼェ・・ゼェ・・み・・水・・。」

 誰のせいだと文句を言いたいが、それどころではない。

 男は持ってきた肩掛けの鞄から水筒を取り出して私に渡す。

「ほれ。悪かったな。」

 水筒を受け取ると、入っているすべての水を一気に飲み干す。

「どうだ?落ち着いたか?」

「あ・・ありがとう・・。」

 まだ息があがっているが、少しくらいなら話せる様になった。

「それでどこに言っていた生き物とやらがいるんだい?」

 男は周りを見渡す。まだ自己紹介もしていないのに図々しいやつだ。上司らしき男にも怒鳴られていたし、結構問題児なのかもしれない。

 少しばかり不安が残るが、取材に行くと言っていた以上、記者ということで間違いはないのだろう。

「こっちだ。」

 私は男と一緒に公園の奥にある集合場所へと向かった。


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