Ⅲ 静夜の叫び
私達は昨日から今日までのことすべてのことについて夕飯を食べた汚い机の上で互いに語り合った。私が彼女を見つけたこと。友が指名手配にされた経緯のこと。友が彼女を連れ去り、説得したこと。そしてその理由として友が昨夜、異国の青年は悪魔につながっているかもしれない会話をを聞いたことを。
「それを聞いたのは間違いないのか。昨日はかなり飲んでいたじゃないか。」
彼の発言には間違いないだろうが、一応確認する。
「間違いない・・・。いやそれは俺がそう思っているだけかもしれない。」
「奴が悪者じゃないと俺はただの犯罪者だ。彼女に恐怖を与え、傷つけただけのな。」
今日はなんだか友らしくもない。
「私は君を信じるさ。それにさっきの話は私にも心当たりがある。」
私は立ち上がり本棚から一冊の本を取り出す。
「なんだ?それは。」
「これは私の父が生前、私にも知らないところで行っていた研究についての記録だ。君も知っているように私の父は2年前、焼死体で発見された。犯人は当時新しく移住してきた隣街の商会連中となっていたが、不可解な点がいくつもあり、くわしい捜査はせずに、刑が執行されてしまった。」
手にとった本を開き、机の上に置く。
「この本は父が悪魔の研究をしていた記録だ。この本から父が殺された手がかりがないかと躍起になり、ある一つの仮説が私の中にできた。」
「ここに書かれている父の考察では数千年前に世界を滅ぼした悪魔はこの世界に“使い”を出し、世界を滅ぼしたと書かれている。どのように滅ぼしたのか方法までは書かれていなかったが、使いとはどうやら私達がいる世界の者ではなく、悪魔が他の世界から召喚した者らしい。」
「つまり、あの青年が悪魔の“使い“だとしたら、私の父は邪魔な存在だろう。異国の青年こそが真犯人なのだと私は考えた。だが、彼には証拠もなく、ただの陰謀論としかならなかった。しかし、君の言っていることが正しいとすれば、私の父の敵だけでなく、世界を滅ぼす存在であるということだ。」
友は本を手に取り、じっくりと読みながら答える。
「それが俺を信じる根拠ってわけか。これこそ都合が良さそうな話に見えるが、味方が増えるのはありがたい。時間がない以上、今は奴がその悪魔の“使い”とやらである前提で奴の正体を暴く必要がありそうだな。」
私は作戦を考えるが、なかなかいい案は思いつかない。やはりこういうのは友のほうが、いい案を思いつきそうだ。
「君は何かいい手を考えてあるのか?私はあいにくいい案が見つからなくてな。」
「とっておきが一つだけある。だがこれはお前の負担が大きすぎる。それにお前も反対するだろうしな。先にお前の考えを聞かせてくれ。」
今日の友はやはり何かおかしい。いつもならもっと強気に自分の作戦を押すはずだが。
「二人で町長の娘のところに行って、話してみるのはどうだろう。彼女は今、最も彼のそばにいる人間だから、青年について何か知っているかもしれない。」
「残念だがそれは無理だな。あいつはよほどのことがないと口を割ることはないだろう。」
昨夜、彼女とどのような会話をしたのかは分からないが、話した本人がそう言うのなら無理なのだろう。あまり追求しなことにする。
「先に君の案を聞かせてほしい。」
「俺が考えた作戦は三段階だ。第一段階は俺が囮となり、奴を連れ出す。そして特定の場所でお前と最近隣の街からやってきた新聞記者を予め連れ出して来てくれ。そこで奴が悪魔と関わっていると自白できれば完璧だ。自白が取れなくても記事くらいならできるだろう。そして第二段階だが・・。」
「おい。ちょっと待て。」
私は思わず静止する。そんなことをすれば友が私の父のようになるかもしれないのは明白だ。
「ああ。言いたいことは分かる。でもこの後に必要なことなんだ。」
私は両手で友の胸ぐらを掴み、怒鳴るように言う。
「今は冗談を言うときじゃないだろ!」
「お前は俺がふざけてると思うのか?」
冗談ではないことくらいそんなことは分かっている。だが、私は許せなかった。怒りのあまり、私は友を殴り飛ばした。