Ⅱ 再開の夜
私も彼女の発見者として事情を聞くため、詰所に連れて行かれた。
発見時の彼女の様子や経緯など、下手をすれば犯人扱いされる立場だったが、犯行時刻であろう昨夜は近所の老婦の証言もあり、容疑者とはならずに済んだ。
しかし、私は自分の身を案じるばかりに昨夜のことを友人のことも含めてすべて話してしまった。
「君の友人は昨夜、君の家を出てから行方不明である。そして、彼の家で彼女が発見されたことから犯人は君の友人でほぼ間違いないだろう。」
「動機も町長の娘に気があったことが推測されることから、彼女に逆上でもしたのだろう。」
「待ってください。彼はそんなことをする人では・・・」
兵士の発言に対し、私は友を弁護できなかった。私は友を売ってしまったかもしれない。
「君は後日またここに来てもらう。今日はもういいぞ」
そう言われ、開放されたのは日が沈む直前であった。
帰り道には私の友人の名前と顔が描かれた指名手配のポスターを見かけた。
描かれた顔は昨日見た彼とは全くの別人のように見える。だが、すでに指名手配の絵ができているということは私が証言する前に友は犯人扱いされていたのだろう。ほっとする自分が嫌になる。
私は家に着く前に近所の老婦の家に寄った。
「今日は店も開けず、申し訳ありません。朝にあんな大口叩いたばっかりに。」
「話は兵士さんから聞いたよ。今日は疲れたでしょう。結婚式も娘さんの怪我が治るまで延期になったし、私のことはいいからゆっくりお休み。」
「ありがとうございます。」
きっと今私はひどい顔をしているのだろう。
彼女の言葉に甘えてすぐに家に帰る。そしてベッドへ向かい、倒れ込む。
目を閉じながら今日起こった出来事を整理した。
私の友人が一連の出来事の犯人なのは客観的に見ればほぼ間違いないであろう。ただ、彼は私欲のために想い人を攫って傷つけることはしない。たとえ友が犯人だとしても、何か理由があるはずだ。私は昨日の会話を思い出す。
「本当に諦めるのか?」
「ああ、不器用な俺よりも何でもできるあいつのほうが彼女も幸せだろう。」
「結婚は明日だ。まだ間に合うかもしれないぞ。当たって砕けたらどうだ?」
からかいながら私は言う。
「もういいのだ。それよりもこの前の話なのだが、まだ生きているか。」
「やっと決心してくれたか。君とならきっと良い商売ができるようになるだろう。」
「それに彼女より、いい女の子が見つかるかもな。」
「そうだな・・・」
微笑みながら友はそう答えていたのを覚えている。
家の扉をノックする音が聞こえ、私は目が覚めた。
あたりは既に真っ暗で夜が深い。少し眠っていたようだ。
さらにノックする音が聞こえる。どうやら音がするのは裏側の扉のほうらしい。
私はもしやと思い、すぐに裏の扉を開ける。そこには昨夜会ったとは思えない友人の姿があった。
服はひどく汚れており、フードをかぶった顔には悲しい気な目がうっすら見えた。
私は周りに人がいないことを確認すると、すぐに友を家に入れた。聞きたいことは山ほどあるが、その前に私の腹の虫がなっていることに気づいた。
「実は今日は朝から何も食べてなくてな。良かったら一緒にどうだい。」
「いただこう。」
友がフードを脱ぎながら言った言葉はその一言だけだったが、その顔は笑っていた。
友もかなり腹が減っているようだったので、家にある食べることができそうなものを適当に鍋に入れ、煮込んで食べることにした。出来上がった鍋は見た目も味も口にはしたくない出来であったが、私も友も何も言わずに、ただ夢中で食べ続けていた。
二人分にしてはかなりの量があった鍋を食べ切り、スープで一息つけたところで友は口を開けた。
「やらなければならない事ができた。俺の友人として頼みがある。」
友はそう言うと、頭と手をテーブルに置きながら私に助けを乞う。
「頭を上げてくれないか。」
友はゆっくりと頭を上げる。
「私は今日、自分の身を案じ、君を売るようなことをした。そんな私を君はもう友とは言わないのかもしれない。だが、君がもしこんな私でも力を貸して欲しいというのなら、喜んで手を貸そう。」
友はそう聞くと突然笑い出す。
「やっぱりお前は変わらないな。我が友よ。」
「君もね。」
私は手を差し出すと、友はがっしりと私の手を握りしめた。