表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

ある農民の手記

 奴は突然村にやってきた。中心街への道から外れたこんな何もない村に。

 奴は道中熊に遭遇した村長の娘を助けてくれたようで村は奴をもてなした。



 何かと見慣れない服装だったので俺は奴の出所を聞いた。

 だが、俺には知らない国の名前どころか世界を旅した村の元商人も知らない国だった。

 さらに、どうやって熊を撃退したのか聞くと、薄い板の様なものを取り出し、音楽を流した。

 奴がいうにはスマホというものらしい。

 これで熊を撃退したといっていたが、からくりはよく分からなかった。

 奴を村の人々は手品師だの旅芸人だのともてはやしていたが、本人は否定し、奴は村の現状を見るやいなや、この村をもっと発展させようと言い出した。



 よそ者が何を言い出すかと思えたが、奴が指示をして作った農具や裁縫具は従来のものよりも効率よく作業を行えるようになった。



 このことがきっかけで村のみんなは奴を信じるようになり、様々な改革を行ったおかげで、数年で第2の中心街と呼ばれるまでに発展した。

 この功績によって町長の娘との婚約が発表された。

 俺もこのときまでは奴を祝福した。

 奴ならもっとこの村、いや町をさらによりよくできるだろうと。



 結婚式の前日の夜、友人宅で酒を飲み合ったあと、帰路につく途中で奴が町の外である森に入って行くところを見た。

 俺は奴が気になり、後をつけていくと途中で立ち止まりスマホという板で誰かと話している様子であった。

 話し相手までは分からなかったが、奴は確かに「■■■■」の名前を言った。

 この国、いや世界で禁忌の存在とされているあの「■■■■」だ。

 世界を一度滅ぼし、無にした悪魔の名を口にした奴は「■■■■」とつながっているかもしれない。

 この事実はすぐに町のみんなに伝えなければならなかったが、よそ者だった奴はいまや英雄扱いだ。

 俺が言ったところで誰も信じないだろう。

 それに奴に消されるかもしれない。



 奴に反発した奴らはことごとく行方不明になり、黒焦げで発見される事件が少なからず起こっていた。

 犯人は既に捕まっているが、もしその真犯人も奴だったら・・・。

 またあの悲劇が繰り返されるかもしれない。

 奴はこの世界にいてはいけない存在だ。

 そう確信したのはこのときからだった。

 あいつは孤独でいるべき悪魔だ。



 まずは、結婚式を止めなければならない。

 俺は町長の娘をさらった。



 自宅の倉庫に町長の娘をさらった俺はまず、奴と結婚しないように説得した。

 しかし、俺の言葉を否定し、必死に抵抗していた。

 説得は無理だろう。

 そう感じたのは日が沈む頃だった。

 町長の家から離れているとはいえ、ここも、もうすぐ見つかってしまうだろう。

 最後の手段として俺は娘の足の骨を石で打撲させた。

 口をふさいでいる彼女から漏れ出るうめき声と涙を見ながら家を後にした。



 まもなく町長の娘は見つかったようで俺は指名手配された。

 拾った新聞からは町の人々の怒りや、奴の怒りも載っていた。

 俺が奴を殺しても、殺人犯として終わってしまう。

 また同じような存在がでてくれば誰も止めることはできないだろう。

 この民衆達にも奴の本性を見せつけなければならない。

 そう決心した俺は唯一頼れる友人の家に行くことにした。



 街の巡回中の警備の目をかいくぐり、友人の家に行った。友人は俺の言葉を信じてくれた。

 友人も奴の行動をあやしいと思っていたらしい。

 思わず出そうになる涙をこらえながら、一緒に作戦を練った。



 最終的には俺が発案した作戦でいくことになったが、友人は乗り気でなかった。

 それもそうだろう。

 俺が最初に死ななければならないのだから。

 最初に案を出したときは強く反対してくれたが、娘のけがが治る時間や人手を考えるとこれしかないと悟ったようでやむなく了承した。

 俺の意思はあいつに託した。後のことは任せて明日の作戦に文字通り俺のすべてをぶつけてやる。

 明日が楽しみだ。



 心残りがあるとすれば本当に奴が「■■■■」と繋がっているかということだ。

 そもそもなぜ「■■■■」という言葉がでてきたのか。

 もしかしたら俺の見当違いかもしれない。

 しかも俺はあのとき酒を飲んでいた。

 もしかしたら聞き違いだったのではないか。

 夢のようにすら思える。

 今ならまだ、引き返せるだろう。



 しかし俺が死ねばすべてが分かるのだ。

 俺には家族も恋人もいない。

 かける命は安いほうがいいだろう?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ