A-2
エレベーターでマンションの地下へと向かう。
灰色の地面をした駐車場、その中央に一台のバイクが置かれていた。スポーツタイプの純白のそのマシンは、ある人から譲り受けた中古品である。
四〇〇㏄のマニュアル操作式バイク。
アシを持った人間は生活スタイルや移動手段が変わるというが、荻野悠真はその典型例だ。少し遠いスーパーや映画館に行くのにも電車を使わなくなった。特にフォルトゥナに向かう時は必ずこのバイクで出向くほどである。
「さて」
バイクの側に来てからポケットからスマートフォンを取り出す。ハンドルの中央に備え付けられたスマホホルダーに携帯電話を押し付けると、ストッパーがスマートフォンを自動で摑む。スマホを噛んでいる部分が何の変哲もないゴムなのでたまに不安になるが、今までの運転で一度もデバイスが落ちた事はない。
ちなみに荻野悠真は、バイクのキーを持っていない。
必要ないのだ。
「ナビゲーター」
『ハロー、ボス。目的地はいかがなさいますか?』
スマートフォンから女性の人工音声が聞こえてくる。
バイクの中に搭載された人工知能が的確な声を作成しているらしい。スマホと連動しているため顔認識やら位置情報やらで個人を特定して、エンジンを掛けたり切ったりしてくれるのでバイクのキーは不要、という理屈のようだった。
らしい、ようだ、という言葉が続くのは、この純白のバイクが譲り受けた品だからだ。正直に言って、一体どういうカラクリで『こいつ』と言葉を交わせているのか不透明な部分が多いのだった。
二人乗りが可能な広いシートをコンコンと軽くノックすると、搭載された人工知能がパカリとシートを開けてくれる。中に入れられる容量は非常に少ないが、手編みのセーターくらいなら何とかなる。バイクの熱に当てられて縮んでしまうという事もないだろう。手提げ鞄を詰め込んで手を引っ込めると独りでにシートが閉まっていく。
悠真はシートまで白いそのバイクに跨りながら、ナビゲーターと呼んでいるAIにこう告げる。
「ちょっとフォルトゥナまで行く事になった。姉さんにメッセージを送ってGPSを使用、位置情報を手に入れてくれ。そのポイントを目標にするよ」
『ええボス。ナビゲーションはいつものプリセットで構いませんか?』
「ああ。用がなければ案内の音声はなし、見逃しそうな標識は案内、他も全ていつも通りだ」
『かしこまりました』
当然のようにヘルメットは被らない。一応シートの部分にヘルメットが一つだけ下げてあるが基本的に彼が使う事はない。革の手袋を着けるとゆるりとハンドルを握る。
左手でクラッチを切ると左足の爪先でギアを落とす。一速に入ったのを確認して右手でアクセルを回すと、エンジンの音を聞きながら左手の握力を徐々に緩めていく。
速やかに発進し始めるスポーツタイプのバイクは、すぐに地下を抜けて外の公道へと合流していく。ギアを二速、三速と上げて行き安全運転でその場所へと向かう。
家から一五分も走った所に、その巨大な物体はあった。
どこからどう見ても、それはただの『壁』にしか見えなかっただろう。
「あーあ、二日連続で来ちまったよ」
『ボス。ボスのお姉様・ミス真奈から連絡です。アドレスが送られて来ました』
自動でスマートフォンが操作されていく。ハンドル中央のホルダーに収まった五インチの液晶画面にマップが表示されてピンが立つ。
見覚えのない所だった。
「どこだこれ?」
『カフェです。確か以前、ミス真奈が行きたいと仰っていたお店です』
「あいつ‼」
『ええボス。おそらく忘れ物にお気づきになられたのでしょうが、ボスがお母様に使われると予想していらしたご様子です。お好きなミルクティーでも飲んで優雅に待っていらっしゃるそうですが』
「僕の時間を取っておきながら姉さんが余裕を手に入れるとか意味が分からない! なんだ、将棋の駒みたいに奪った分だけ使えるものなのか、時間って!?」
『壁』に見えるそれは、しかし役割としては空港の税関に近い。
地形は島。
周囲を海で囲まれたこの都市は、この硬くて高い壁によって二つに分断されている。島の右側と左側を真っ二つ、という訳ではない。ドーナツのように外側と内側に分かれており、通常この島に住む人々は外側を『外』、内側を『中』……フォルトゥナと呼ぶ。
即ち、ここに棲みつく人間は、こう覚えておけば問題ない。
『外』は安全。
『中』は危険。
小学校、いいや幼稚園の頃から有名な歌や物語と同じように教えられた言葉だ。フォルトゥナと呼ばれる犯罪島の全容は『中』にこそある。
「ナビゲーター。フォルトゥナに入りたい」
『ええボス。Bのゲートはいかがですか? おおよそ五分ほどで入れるでしょう』
少し回り道をしてBと書かれたゲートまで向かう。アルファベットの数だけ、つまり二六個存在するゲートは等間隔で配置されており、高速道路の入り口に非常に似ていた。
前にいた大型の輸送トラックがフォルトゥナに入って行くと、次は荻野悠真の番である。まるで料金所のスタッフのように、管理している女性が小窓からこちらを覗き込んでくる。華奢な女性たった一人ではないかと侮るなかれ。自由に出入りができないように金、銀、パラジウムを織り込んだ金属製の檻が目の前には広がっているし、この女性の部屋の奥には『看守』と呼ばれる当局の筋骨隆々なスタッフが少なくとも七名は控えていると見るべきだ。
バイクをニュートラルのギアに入れながらスタッフの前で停止すると、挨拶も省略されて真っ先にこう言われた。
「IDの提出をお願いします」
「免許証でも良いですよね」
「ええ、構いません」
しばらく免許証を預かり、何かの機材にカードを読み込ませていく女性職員。
そして彼女の目の前のPCに彼の情報が映し出されたのか、それに目を通したスタッフが驚いたような声を上げた。
「あら、もしかしてあなた……」
「どうもこんにちは。もう良いですか?」
「え、ええ、どうぞ」
免許証を返してもらう。ついでに『外』から来た人間だと示す銀色のペンダントも預かり、その場で身に着けてから再びギアを一速に入れる。
出る者に対しては超がつくほど厳しいが、入る者に対しては意外と甘い。……まあ、上と左右を囲むゲートが巨大な機材となっているため、全身赤外線とX線検査で持ち物から全身までくまなくチェックされているという条件付きではあるのだが。
差し歯などの素材にも使われる硬質な金属の檻が開いていき、バイクがフォルトゥナへと侵入を果たしていく。
するとスマートフォンの方から呼びかけがあった。いつものタイミングなので驚かない。
『ボス』
「毎度言うけど忠告は必要ないよ。僕は慣れてる」
『いいえボス。逆です』
「逆?」
『あまり染まり過ぎないように、と。「外」の空気が肌に合わないようになれば終わりだと、常に「彼」はそう言っていました』
「……頭の隅に置いておくよ」
そして、すでにフォルトゥナの中は極彩色。
先刻、悠真よりも先に入ったばかりの大型輸送トラックが爆発して炎上したらしく、その辺りのゴミ箱よりも悲惨な感じで転がっていた。
その周りには、目出し帽やふざけたマスクをした連中が角砂糖に飛びつくアリのように群がっていた。三〇名ほどの犯罪集団が荷台の中から運び出しているのは、おそらく麻薬か武器辺りだろう。
異変に気付いたゲートの『看守』はすでに飛び出しているようだが、最大でも中にいるのは七名。しかも全滅する訳にはいかないので四、五名で果敢に挑んでいる様子だった。だが支給品である拳銃を振り回す程度で制圧できれば苦労はしない。
結果は見えていたので、フード付きのレザージャケットを羽織る純白のバイクのライダーはそのまま事態を無視して、マップの上に立つピンの位置に向かう。
「んっ、結構遠くないか。一応、二六個もゲートを作らないと不便に感じる程度には島は大きいんだ。真反対まで行かなきゃならないなんて話になったら僕は一度昼寝を挟むぞ」
『ええボス。所要時間は三〇分です』
ふむと息を吐いてから、さらにアクセルのスロットを強める悠真。
途中で青と白で彩られたエンブレムをした車会社の看板を引っこ抜いている輩がいた。あれはひょっとして看板業者に雇われた犯罪集団の戦力……『囚人』か何かだろうか。看板を作る業者が発注を受けて儲かる、しかも看板は引っこ抜いたものが業者の手の中にあるためノーコストで販売できるという一石二鳥の荒業だろう。
遠い目で犯罪行為を見送っていると、続いて赤信号に止められる荻野悠真。
フォルトゥナで停車する時はコツがある。いつでも歩道側、車道の左側に寄って止まらなければならないのだ。ただし信号なんてあってないようなものなので、下手に第二車線のド真ん中で停車した日には、銀行強盗やらかして看守から必死で逃げる『囚人』の車に派手に跳ね飛ばされて人生終わるのがオチである。
長い間赤信号に引っかかっていると、反対車線からガラスの砕ける凄まじい音が炸裂した。車上荒らしでもあったのかと目を向けてみると少し違った。
コンビニに車が突っ込んでいたのだ。
おそらくご老人がアクセルとブレーキを踏み間違えた訳ではないだろう。通常、ペダルの踏み間違いは黄色いショベルカーでは起こらない。もし起こったとしても、建物の屋根と壁をとことん破壊しながらレジと事務室に置かれていた金庫を掻っ攫うなんて悪事は働かない。
おそらく、普段は工事現場で働いている『囚人』が工事車両を操作しているのだろう。
コンビニの有り金全部を抱えたショベルカーが逃亡を始めるという、もはやちょっと面白い光景に思わず苦笑いが浮かぶ。
「相変わらずだな、ここは」
そんな独り言を呟きながら、青になった信号に従って再び発進。
フォルトゥナは犯罪島という割りに、驚くほど施設が充実している。というよりも、『外』にあって『中』にないものはほとんど存在しない。せいぜいブティックやレストランといった店の有無で差が生じているくらいだ。
それもあの店のあれが欲しい、この店のこれが食べたい、なんて欲しいものを『外』の人間に連絡して面会の機会を増やすための工夫である。
不足しているものといえば、警察くらいだろうか。
治安維持……ができているかはとんでもなく怪しいが、その役割は『看守』が担っている。
『ボス、まもなく到着です。ミントグリーンの看板が目印です』
「あれか」
バイクを減速させ、必要以上に安全を確認してから店の敷地中に入っていく。
ゲートのスタッフからもらった銀のペンダントがしっかりと見えるように首から下げておく。これを着けておけば、不要な犯罪に巻き込まれる確率がぐんと下がる。
理論どうこうではなく、『外』の人間に手を出すのはタブーとされているからだ。ヤンチャそうな中高生が腰の曲がったお婆ちゃんに蹴りを入れないのと同じで、ここは『そういうもの』と常識が根付いてしまっているのだ。
バイクを停めてマシンから降りる。スマートフォンをホルダーから抜くと、エンジンが停止してシートが開く。
手提げ鞄を持ってカフェに近づいて行くと、目的の人物は足を組んでオープンカフェの椅子に優雅に座り、お上品にミルクティーとスコーンに舌鼓を打っていやがった。
今は五月。
ピンクの薄手のカーディガンを羽織り、ロングスカートといった格好をした茶髪ポニーテールの姉に向けて弟はこう話しかける。
「おいコラ馬鹿姉貴。その優雅な佇まいは僕を苛立たせるための秘策か何かなのかな」
「ういっす悠真ー。私だけの宅配ライダーしてくれるなんて泣けてくるよーう」
「姉さん、コーヒー奢って。もう喉カラカラ」
「ここのドーナツ美味しいらしいよ。半分こしましょ」
実は雑誌のモデルなんかもやっている荻野真奈は、テーブルに埋め込まれたタッチパネルを操作して店内にドーナツを注文してしまう。大学生のくせにお金にも余裕があるらしく、一番高いコーヒーを選択してからふと手が止まる。
「悠真、ホット? アイス?」
「アイスで」
「なに、暑いの? なら手袋しなきゃ良いのに」
「知ってるか姉さん。バイクの事故でまず吹っ飛ぶのは頭じゃない。車体と地面に挟まれて足を折るか、受け身を取る時に勢い良く着いた手や腕が先に壊れるのさ」
「アンタなら事故らないでしょうに」
「フォルトゥナに絶対なんて存在しないだろう。この街の車の事故率を知らないのかな。まさかの測定不能だよ。強盗目的で車を突っ込ませるのは? カーチェイスで標識を次々と薙ぎ倒していくのは? 事故か否か判断できない案件が多過ぎるって話らしいけど」
「うへえ。それを知っててよくバイクでフォルトゥナに来るよね。やっぱりアンタ、どこか頭のネジが外れてるんじゃないかしら」
タッチパネルに再び指先で触れ、アイスコーヒーを選択する悠真の姉・真奈。
セーターを手渡してから、彼は少しだけ彼女のプライベートに触れる事にした。
「姉さん、それどうするの。彼氏にあげるの?」
「ぶふっ!?」
「まあ大方の想像はつくけどね」
「なら不用意に私のデリケートな部分をつっつくな! 弟からそういう事言われると指先とか背筋とかがぞわぞわするのよ!」
「どうせボランティア活動の一環だろう。孤児の施設に『外』の商品や材料でしか作れない物を持って行く。……そっちに熱中し過ぎてプライベートが疎かになっているのは改善しないのか」
「余計なお世話よこんにゃろう! どうせこの間の飲み会で男全員に完全スルーされた話をまた蒸し返そうとしているんでしょーっ‼」
「可哀想に」
「やめろ率直に哀れむな」
コーヒーとドーナツを持ってきた店員さんに会話を聞かれてしまったのも含めて可哀想な感じが止まらない姉であった。
フード付きのレザージャケットを羽織った悠真は、姉の真奈が抱える袋の中身を見て、
「というか今四月だよ。これからどんどん暑くなる時期なのにどうしてこのタイミングで手編みのセーターなのかな」
「私もそう言ったんだけど、『お手紙』では手作りの品が良いって書かれていたのよ。そう言われたらねえ。Tシャツのデザインを渡す訳にもいかないでしょう」
「……それ、服限定って書いてあったのかな? 外でしか買えない材料で作ったお菓子とかアクセサリなんかでも良かったと思うんだけど」
「あっ、ああ!?」
お上品な見た目とは裏腹にどこか抜けているらしい姉。
最近ブラックコーヒーが美味しく感じるようになった悠真は、冷たいドリンクで喉を潤しながらスマートフォンで時間を確認する。
「姉さん、時間は大丈夫なのかな? もう日が沈みそうだけど」
「ええ、ボランティアサークルのヤツが来るんだけど彼らはフォルトゥナに慣れていないからね。随分と警戒してここまでやってくるはずだからまだまだ時間は掛かるはずよ」
「確かに、もし初見の人がいたらこじれるかもしれないね。危険域に出掛ける海外旅行とそう変わらない」
「ほんと不思議な街よねえ、フォルトゥナって」
そう、不思議。ただ危険、という訳ではないのだ。
犯罪率が高い街、いわゆる治安の悪い地域というのは、どこの国や街でも存在する。
紛争地区、なんていう大仰な話ではない。飲み屋街や暗い裏路地、監視カメラの死角からコンビニや銀行。罪を犯しやすい、人を襲いやすい特徴を持つ場所は数え切れない。それこそ綻びの数だけ犯罪は存在する。
だがこのフォルトゥナは、そういう種類の犯罪島ではないのだ。
この島の外の国であれば、どれだけ犯罪件数が多い街でも罪を犯していない人間の方がたくさんいるはずだ。犯罪者がその地域の人口を超える事はあり得ない。
このフォルトゥナを除いては。
そう、当の島の『中』に住む人間の犯罪率は一〇〇%である。
なぜならば。
「まあ仕方がないわよね。当然と言えば当然よ、この島は元々牢獄の役割を果たしていたのだし」
「……それが今では一八〇度ひっくり返されて犯罪に溢れる街と来た。国家もないし、政治もない。管理している国は猛獣を檻に閉じ込めている状態をキープできている訳だから改善する気配も見られないって訳だ」
そう、フォルトゥナの中だけで扱われる単語があるのは、つまり隔絶された場所であるからだ。正常に監獄の役割をこなしていた頃の言葉がまだ蔓延っているのだろう。
『看守』。
『囚人』。
それに外と中を区切る『檻』。
フォルトゥナに住む人間は、そう、ゲートで渡される銀色のネックレスを首にしていない人間は、まとめて囚人と呼ばれている。これもいつ覚えたのかも分からない、みんなが知っている昔話のような『常識』であった。
看守は軍人のような格好をした治安維持組織だったが、今は勢力が反転してしまっている、というのが荻野悠真の正直な推測だった。
それでも脱獄が起こらないのは、まだ『檻』が正常に機能しているからだろう。ここが壊れれば、きっとこの犯罪率は『外』の世界まで侵食していくはずだ。
脱獄が露見した者は、懲役期間が延長されるため意外にも試そうという輩は少ない。加えてここは自由が保障された街だ。わざわざ外に出なくてもここで好き放題暴れ回って楽しく暮らせるのなら脱獄などという面倒事を起こそうとは思わないのだろう。
欲望に忠実なこの街は、あらゆる人間に有害だ。空気に慣れてしまった者には、こちらの方が住みやすく感じるのだろう。
半分に割ったドーナツを口に咥えて、姉は呆れたように言う。
「フォルトゥナってここに島流しにされた囚人達の更生を願って、幸せであれと名付けられた名前って話よ? 皮肉が効き過ぎて笑えなくなってきてるわよね」
「それは初耳」
悠真の方も手渡されたお菓子を齧ってから、ふむと考える。
どこか遠くを見るようなその目は、まるで楽しかった幼少期を反芻しているようだった。やがて過去を全て精査し終えると、彼はポツリと言った。
「『あの男』は一言もそんな事を言わなかった」
「本当に? 忘れているだけじゃないのかしら」
「僕があいつに言われた事を? それこそあり得ないと思うけど」
「かもしれないわねえ」
そして、口に咥えていたお菓子をがぶりと噛み千切った姉の真奈は、弟の目から手元のカップに視線を移した。
笑っているようで、優しいようで、その瞳はどこか異なる色を出力していた。
「で、どこまで『彼』に近づけた?」
「……」
ピタリと、空気が止まった気配がした。
オープンカフェの開放的な空間でなければ、きっとこの店がメイドカフェだろうが高級レストランだろうが全体が丸ごと凍り付いていた事だろう。
ガタリと音を立てて、荻野悠真は立ち上がった。
「もう行くよ。姉さんに荷物を渡す用事は終わったし少し寄りたい所もある」
「そう。荷物、ありがとね。子ども達の喜ぶ顔はきちんと写真に撮っておくわね」
「ああ。それと母さんが今夜はシチューだってさ」
「やったぜ追い剥ぎにあっても必ず帰る」
ドーナツを丸ごと呑み込むようにして食べ終えると、悠真は外していた革の手袋を握って純白のバイクの方へと戻って行く。
しつこいほどに、後ろから背中を摑むような声があった。
「で、愛しい弟よ。さっきの答えは?」
「さあね、だよ」