プロローグ
勇者は死ぬ。
微かな希望を持って息絶える。
もう少し。あと1歩で。
一面には薊の花が咲き誇る。
独立、厳格、復習 、満足。
全て兼ね備えた花は故にこう語る。
__あぁ、お前もこの男を倒せない。
憑かれ、命も残り少ない勇者の目には彼岸の花にも見えるようなその花弁。
それは一面に咲き誇る。勇者を囲んで咲き誇るのだ。
勇者の視線の先には、王座がある。
とある魔王と呼ばれる男は赤黒い華美な装飾の王座に長い足を組んで座っている。
決して人外のような恐ろしい風貌ではない。
普通の男だ。それでどこか妖艶で、優しげな印象を受ける。
莇野 京介。
彼はそう名乗った。
日本といえど欧米やら何やらの異文化に飲み込まれた果ての時代。
蔓延る悪を倒す勇者など五万と居る。
また、悪もそれほど居る。
時代錯誤にも不落の城と恐れられる薊の咲き誇る楽園。
今日もまた栄光を夢見た戦士_勇者が死んで逝く。
莇野 京介は王座に座したまま長い手を息絶えた勇者に手を伸ばす。
パチン、と指を彼が鳴らすと勇者は花弁と共に消える。
「綺麗な花ですね」
莇野の横に控えていた者は呟く。
「汚してしまったけれどね。」
彼は静かに呟く。
「いいじゃない。また、咲きに来る。」
かく言う私も咲きに来たものの一員である。
彼は強い。逃げろ。
目を合わせてはいけない。
「僕は去るものは追わない。出られたらの話だけれどね。」
体が熱い。
内部だろうか。
直に意識も薄れ、私は薊の花となった。
……推測でしかないが。
「そういえば、昨日は素敵な夢を見たわ。
勇者をしていて、なかなか帰ってこないあの人が帰ってくる夢だったの。
手に持っていたのは……えっと、なんだかあまり見ない花だったけれど、綺麗だった。
でも目覚めたらその花だけ枕元にあったのよ。
不思議ね。」
とある勇者の帰りを待つ主婦の証言より。