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伝わるいろは   作者: 唯名柳
5/5

猫は歩く度に姿が変わる。3

 初めまして。唯名柳ゆいな ゆいです。

人と猫の不思議な日常を楽しんで頂けたらなと思います。


丸一年近く更新せず申し訳ありません・・・。


今後ともよろしくお願いいたします。

 自宅を出て徒歩数分。猫を肩に乗せ、近所の公園に来ていた。

最近は寝て起きて帰ってご飯を食べてまた眠る。それだけの生活だったからこそ、夜の散歩は新鮮だ。道中空を見上げて気が付いた事だが、住宅街の路地にしては街灯も多い。

 街灯の近くになると一人と一匹の重なった影が足元を回る様に動く。

それを見て喋る猫は楽しそうに尻尾をゆらゆら揺らすのだ。

 俺は、公園のベンチに腰掛け大きく息を吐く。

猫は興味なしと公園を駆け回る。

「炬燵で丸くなる・・・。想像つかないなぁ。」

「勝手に人間の民謡に当てはめるにゃ」

「聞こえてたのか」

 どうやら人間基準の独り言は筒抜けの様だ。

「今にゃに考えてるか当ててやろうかにゃ~。」

「顔に出てたかな?」

「それはもうしっかりとにゃ。壁に耳あり、障子に目あり、猫はいつでも地獄耳ってにゃ!だから、まぁ、諦めるにゃっ。」

「何がだよ。そんで語呂が良かったからってドヤ顔やめい。」

 猫の変わらぬ態度のデカさに思わず笑ってしまう。

「にゃはは~。今までいろんにゃ人間を見てきたにゃ。どいつもこいつもみんにゃ笑ってる時が一番生き生きしてるにゃ。・・・色も匂いも。」

「そりゃどうも。最後の方なんて?」

「べつに~。にゃんでもにゃいにゃ。」

「そうか。」

「「・・・」」

 沈黙。俺はベンチの背もたれに身体を預け空を見上げる。

猫は何も言わず砂場やブランコ、滑り台と公園の中を練り歩く。

それからどれくらいだろうか。ふと瞼を伏せ、暗転する闇を眺める。

次第に暗転の奥に微かに光る幾つもの点。大小違いはあるがどれも綺麗だ。

少しずつ体が軽くなるような感覚を覚える。

腰掛けている筈の身体が脱力していき足や腰が浮いてくる。

次第に身体が宙に浮くように仰向けとなり、呼吸もゆったりとしたものになっていく。

「何だろうこれ・・・。心地いいな・・・。」

 心の底から分厚く張られていた氷が溶かされていくような。

解れ絡まっていた意識の糸が結い直されていくような。

芯から整理されていく。

瞼を開けていないのに眼前に広がる景色がはっきりと理解できた。

無数の星と広大な暗闇。その中で漂う自身の意識。

手足を動かさずとも意識を広げれば何処へだって行ける。

あの星をめがけて。次はあの星へ。次はこれ。その次は・・・。

 そうして自由に飛び回るうちに自身が何処にいて、何処から来たのか次第に忘れていく。

それでも自由に飛び回りたい。

もっと。もっと遠くへ。

「あれ・・・。俺は何でここにいるんだっけ・・・。」

 ”俺”って何だっけ?

「戻らなきゃ・・・。」

 戻れるのだろうか。

何処で何をしていたかも思い出せないこの場所で、はたして俺はあの場所に戻れるのだろうか。

「別に戻らなくても良いのかな・・・。」

 次第に全てを思い出す。早朝から深夜まで終わる事の無い仕事。寝て起きてご飯を食べるだけのあの家。交友関係も無く。週末の楽しみも無ければ、楽しむ週末すら存在しない。

何をやっても終わる事の無い荒野。次第に荒野も暗闇に変わる。

 光の無い世界に戻るくらいなら、星の輝くこの夜空に漂うのも悪くないのではないか。

陽の光が全てではない。夜空の。星の光もまた、自分を照らす光なのだから。

 もういいや。ここにいよう。どれだけの月日が流れているかなど俺には関係ない。

独りでも消えぬ光があるなら・・・。

 そんな事を思い瞼だけではなく心を閉ざそうとした。

『それは悲しいよ。』

 声が聞こえる。柔らかな声。

「誰?」

『誰でしょう。いつか分かる時が来るよ。』

「何しに来たの?」

『殻に籠っちゃうお馬鹿さんを起こしに来たんだよ。』

「いいよ別に。望んでない。」

『そうかな?じゃあ・・・何で涙が流れるの?』

「気のせいだよ。」

『ふーん?なら、私はその雫が零れる前に君の手を取るね。』

「余計なお世話だよ。自分で歩ける。」

『ふふふ。えらいえらい。』

 そう言ってそのヒトは俺の頭を優しく撫でた。

『ほら、光が大きくなってきた。もうすぐ着くよ。忘れないでね。私はあなたの傍に居るから。』

「俺の傍に居るのは・・・。」

 星が大きく光り出し、膨らんでいく。それは俺を覆う程に膨張して、俺の意識は暗闇から遠ざかっていった。

「・・・生意気な猫。」

「うなされている所を撫でてやっていたのに、随分にゃ言い草だにゃ。」

 聞き覚えのある声がして俺は瞼を開く。

身に覚えのある天井に照明、俺の顔を覗き込む喋る猫。

俺のおでこに肉球を当てていた。

「いつ戻って?」

「覚えてにゃいのか?」

「全く。」

「まぁ、さして重要案件って訳でもにゃいし、気にするにゃ。」

「・・・?そうか。」

 何も思い出せない。猫を連れて公園に行き、ベンチに腰掛け、瞼を閉じた。

俺の記憶はそこまでだった。

他にも何かあったような。忘れてはいけない大事な事・・・。

難しい顔をしてる俺に猫はにやりと笑い。

「猫にでも化かされたかにゃ~」

 そう言って猫は俺の布団から降り、部屋から出て行った。


初めまして、こんにちわ、お久しぶりです。

前回の更新から一年近く経っていました・・・。

不定期とは言えサボりすぎ・・・と反省してまた随時更新していきます!


一人と一匹のこれからがどうなっていくのか。

唯名も楽しみです。

では、また次回でお会いしましょう。


次回【伝わるいろは ~尻尾の向きは未来の指針。1~】


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