第007話 感謝、友情、発奮
10月1日、ジャンル別日間ランキング1位になりました。
皆様ありがとうございます!
日曜日の朝、私はお母さんの運転する車に乗って、いつものグラウンドへ向かう。
お母さんはお父さんと分担して毎週土日に私の送り迎えをしてくれて、更に月に一、二回は回ってくる当番で、いわゆるお茶出しと呼ばれる作業までしてくれいているのだ。
幸い春日野東リトルシニアは監督のポリシーのもと、監督、コーチ陣の昼食などは各自で用意しているし、当番に突然「○○買ってきて」という、使い走りみたいなこともさせないようになっている。
試合などの遠征の際の車出しも、選手に関してはコーチが運転するバス移動で、応援の父母は連絡を取り合って交代で車を出して乗り合いで行くという、かなり恵まれた環境だ。
お母さんがそういった当番を請け負う一方、お父さんはと言えば、審判講習会に何度も赴き、野球経験があり慣れている他の子のお父さんにも教わったりして、こちらも当番制で審判をしてくれている。まだ試合では出来ないものの、練習の審判だけでも大変な労力だ。
安くない会費は全てがチームと選手の為のもので、監督やコーチ陣が無償で指導してくれている以上、こういった父母の負担は仕方ないと言われたりもする。
だが、私がやりたいと言って始めた野球を、当初は知識も無かったのに全力でサポートしてくれるお父さんとお母さんに、私は女子プロになって恩返しがしたい。娘の為に頑張った甲斐があったと思ってもらいたい。今日はその第一歩となる日だ。
そう、夏季大会第一回戦である。
移動のバスに乗り込む前に、コーチから今日のスターティングメンバーが発表された。私は昨日のシートバッティングから打順が一つ上がり、六番ショートだ。今日七番に下がった子は名前を呼ばれ返事をした後に、悔しそうにしていた。
由香さんは勿論二番セカンドで、球数制限の休養日中に次の試合を迎える心配がないので、先発ピッチャーはエースの貴大くんだった。勿論二番手のピッチャーももう告げられていた。
バスに乗り込む前に由香さんに手招きで呼ばれ、一緒に乗り込んで隣の席に座る。
「紗友ちゃん、初めての試合だね! 気分はどう?」
「昨日調子良かったし、今日も打てそう!」
笑顔でそう返す。すると由香さんは苦笑しながら、
「私が初めて試合に出る時なんて、練習試合だったけど緊張したのに。紗友ちゃんは凄いね」
と言った。どうやらもし私が緊張していたら、和ませてくれるつもりだったらしい。
「ありがとう! 由香さんと少しでも長く一緒に試合したいから、最後まで勝ちたいな」
「私もだよ。うちはいいチームなのに女子が少ないからね。私より上には三つ上にしかいなかったから、実は私も女の子と一緒に試合出るのは初めてなんだ」
「更に私達二遊間コンビだもんね! ゲッツー取りたいな!」
リトルリーグは学童野球と違って、投球して打者がボールを打った時までランナーが離塁出来ないというルールがある。これとグラウンドサイズの違い、更には硬式球特有の打球の速さから、守備が上手いチームはダブルプレーを取れることもあるんだよ。
特にゲッツーにお誂え向きなのが私達二遊間だ。ランナー一塁で球足の速いセカンドゴロ、ショートゴロが来たら、由香さんと私ならゲッツーに出来る自信がある。
それからも試合の話をしていたら球場に着くまではあっという間だった。
到着してからアップをして球場入りすると、速やかにベンチ内の用具等を整え、後攻の私達春日野東リトルから先に試合前のシートノックが始まる。
応援席を見ると、既に私のお父さんとお母さんを含めたくさんの保護者が見守っていた。
この夏は簡単には終わらせないよ! 安心して応援してね。
まず「ボールファースト!」と言われ、内野が順番に捕ってファーストに送球する。次に「ボールセカンドゲッツー!」の指示で、内野は二塁経由の併殺プレーをする。
ノックを受けて感じたのは、コーチが普段の練習に比べて、捕りやすい球を打ってくれているということだ。これには試合直前の選手に、気持ち良く守備をこなして緊張を解して試合に入ってもらいたいという親心と、相手チームに守備が下手と思われないように、また守備の穴を見つけられないようにという側面がある。
こういうところは変わらないな、と前世のアマチュア時代を懐かしみつつ、私はその後の外野ノックも二塁ベースカバーに中継プレイにと的確に動き回った。
最後に「内野ボールバック!」の声が掛かり、先程までよりは少し難しい打球が飛んできたが、私は前にダッシュして捕球しながらスムーズに送球体勢に移り、ホームベースのキャッチャーにストライク送球した。
よし、守備も普段通りきっちり出来るね!
規定時間内にシートノックを終えて、ベンチに引き上げる私達。各自水分補給をしっかりする。
すぐに敵チームのシートノックも始まって、私は観察しつつも考え事をしていた。
それは打順についてである。
奇しくも由香さんと私が務める二番と六番は、私が前世のプロ野球時代にその役割が見直されていた打順なのだ。統計と確率を重視するアメリカではそれより早くから大幅に見直されていた。
それ以前の野球では、二番はバントなど小技の上手い選手を、六番にはクリーンアップよりいくらか劣るが次にパンチ力のある選手を、という風に曖昧なイメージで決められていた感がある。
だが二番にはバント技術よりも、一番が出塁した際にはチャンスを拡大する為、一番が出塁できなかった際には自らチャンスメイクをする為に高い出塁率が求められ、六番には塁に出たクリーンアップをより高確率でホームインさせる為の打率と長打率が求められるようになった。
多少極端な例だが、アメリカではチーム最高の打者を二番に置くチームもあるほどだ。
いずれもチームが充実していないと出来ない打順構成だが、だからこそ二番や六番が好成績を残すチームは強いのである。
実際にそういうチームには、投手として日本でもアメリカでも手を焼いたものだ。
だからこそ私は今日の六番起用を意気に感じている。大量得点のキーマンになっちゃうよ!
お読み頂きありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。