第五章
第五章激動、そして終焉
鮮血が一体に飛び散る。一体何人の人間を倒したのだろうか?それすらも覚えていない。
「「先駆の刃」!」
もう飽きるほど唱えた呪術を唱え、敵を撃破する。
「「死への送花」!」
失念していた方向から呪術が飛んできて皮膚をかする。その皮膚は腐る。
痛い、苦しい、助けて・・・。
「大丈夫?稜!?」
小夜の悲痛な声が聞こえるが、疲れ果てて返事すらできない。周りで戦う人間も同様らしく、渡部も山城もエリスもレイルもぼろぼろでそれでもなお立っている。
さらに周りでも魔術師対呪術師の争いが起こっており、場は収拾がつかないほどの混乱状態にあった。
稜はさらに向かってくる呪術師と相対しながら、こうなった原因を思い出しながら、我が身を呪うしかなかった・・・。
「「異空間転生」」
稜は抑揚のない声で唱えると、目の前に暗い穴のような空間が生まれる。
稜以下六人は次々とその中に飛びこむ。術の維持のために最後に飛び込んだ稜が見たものはそれなりに森の開けた場所に場違いに立てられた三階建てのレンガ建てのモダンな建物だった。
「稜、こっちです。」
エリスが手招きしているのを見つけて、稜はそこまで行くと、大人のお姉さんといった感じの気の強そうな美しい女性が立っていた。稜は眼があったので挨拶すると、向こうもにこっと微笑んだ。その笑顔がかなりきれいだったので、稜は思わず赤面して、小夜がジト目で睨んでいることに気づき、稜は慌てて表情を引き締めた。
「私は「奏楽の魔術師」、ミリーです。よろしく。」
「どうも、久野稜です。」
ミリーは早速本件の話に入ろうとして、周りを見回し、すぐに小夜のところで止まった。
「なるほど、あなたが例の「小夜さん」?」
「あ、はい・・・。」
小夜がおどおどと頷くと、ミリーはエリスの方を見て言った。
「ここの人達皆信用できる人?」
「ええ。」
エリスがそう即答したのを聞いて稜は嬉しくなる。エリスの表情を窺っていたミリーは納得したように頷いて言った。
「正直これは「ファウストの四肢」で間違いないわ。」
「やっぱりか・・・。」
渡部は神妙な顔になる。
「それでだけど実は私たちの守っていた祭具の中に呪力と魔力を強制的に中和させて、汚染を無くすような効果のものがあったと思うの。たぶん、それでいけるかな・・・。けど、「ファウストの四肢」の拒絶反応も気になるし・・・。検査させてくれない?」
「はい・・・。」
「よしっ!じゃあ決まり!それじゃあ・・・。」
そうミリーが言いかけて、異変が起こった。
「な、何・・・・?」
突然何もないところから現れる人。それもかなりの数。
彼らは近くにいる魔術師を次々と葬っている。魔術師もようたくそれが何か理解する。そして誰かの叫びがこだました。
「敵襲!」
それからはあっという間にいたるところで戦闘が繰り広げられることになるのだった。
「くそ・・・。」
まだ終わることはない。特に自分の力が呪力である以上、敵を倒すには物理的攻撃が要求され、限られた呪術の中でしか攻撃できないため、相当苦戦していた。
殺すのは嫌だ。そんなことしたこともない平和な日本で生まれたのに。
たまに小説で見た一文だが、本当に稜は思った。自分が人の命を狩っている。それが自分の体の中に底のない暗い穴を作っているようで、それは自分の足元にある嘔吐物からも分かる。それでも彼は死にたくないから闘った。
そして、気づけば、呪術師側は撤退していた。だが、多くの呪術師が自分の足元で倒れていて、周りにいた人間がほとんど消えているのは深い傷跡を残したのは確かだった。そして、その日の夜の定例会議に連れてこられた稜はそこで今日起きたことを聞かされるのだった。
「いいか?そもそもこんな得体のしれない奴をいれるから今日みたいに奇襲に会って壊滅に追い込まれるのだぞ!?こいつらを引き入れた祭具守護隊の「奏楽」に連帯責任として「守宝」と「聖印」も処刑してくれる!」
「迅雷」、コーバーはこれを機と言わんばかりに声を荒げ、机を叩く。
会議の場にいる数人はそれに付和雷同するが、そこに疑問を呈したのは意外にも副将「砕土の魔術師」デトナーであった。
「お待ちください。ここで彼らを、ひいては「銀の夜」の象徴的存在を殺すのはいかがかと思います。それに彼らは戦力的に見ても重要です。特に「守宝」は再び対呪力シールドを構築するには不可欠ですし、「聖印」においては参謀としてうってつけですし、「奏楽」もその戦闘力はきっと敵の脅威になります。」
「だが、それでは今日の事をそう説明すればいいのだ?忌々しい四肢を持つ人間を招き入れるためだけに多くの同胞が犠牲になったんだぞ!?」
だが、「迅雷」はいかんせんキレていた。だが、そこに落ち着いた声が響く。
「見苦しいな、いい加減にしないか、コーバー。」
「聖印」、トゥドル。彼はやや怒りを孕んだ声で叱責する。
「貴様、いつから俺に意見できるようになった!?」
コーバーはトゥドルに噛みつくが、平然とトゥドルは受け流すと答えた。
「今、ここで憎いだなんだのと言っていれば楽かもしれんが、それでは何の解決にもならん。もちろん然るべき罰は受けるが、その前にこの場をどうするか、だ。相手は同じ人間だぞ。遅れは死を招く。全滅だ。」
「そんなものは分かっている!デトナー!防衛ラインの再構築はいくらくらいかかる?」
「たぶん、一日はかかります。元々結界の読み手は少ないがあまりにも死にすぎました。」
魔術師と呪術師との戦いにおいて大事なのはいかにして有利な場所で戦うかということである。どちらも術の特性上、柔軟性が高く、下手な場所で戦えば、それは即全滅につながる。よって、彼らの戦ではなるべく敵が小細工しないように広げた場所で戦うのである。だが、「時空転移」という術式の開発以降、敵の本陣へ突然奇襲をかけることができるようになり、当然お互いに対応を迫られ、結果的にどちらかを通さないシールドを展開するようになったのだ。しかし、それがないということは再び本陣に入られるということ。ただでさえ、見張り要員等を多数失った「銀の夜」側としてはすぐにでも構成したいのだが、それを構成していた人間も殺され、今や軍の中でもシールド展開ができる人数は大きく制限されていた。
「このままでは敵にまた攻め込まれるぞ・・・。本部には増援要請を送ったのか?」
コーバーが背後に立っていた秘書に尋ねると、秘書は冷や汗をかきながら少し焦った声で報告した。
「そ、それが・・・、本陣は南西ヨーロッパ支部の応援に行っているため人数は増やせないと。」
「何だと!?」
一時は冷静を取り戻しつつあったコーバーは再び声を荒げる。
「エドワード様は何を考えらしているのか!?今は本陣にかなり近い我らの事の方が先だろう!フェルマン!」
コーバーの呼びかけに応えて現れたのは「乱戦の魔術師」フェルマン。
その二つ名から混戦を得意とする戦闘系の魔術師であるように思われるがそうではなく、敵を乱れさせて戦うことを得意とする知将である。
「すぐさま、エドワード様に電話を!」
「申し訳ありません。エドワード様から伝言でそちらの軍勢を本部千メートル以内の対呪力シールドを張った場所まで撤退するようにと申しつけられております。」
「・・・くっ。ならば、即異空間転移を行うぞ!全軍準備に・・・。」
「申し訳ありません。それができなくなっておるのを報告するのを失念していました。ここ一帯に対魔力シールドを張られたらしく、魔術が使えなくなっております。」
「何故それを先に言わん?くそっ・・・!忌々しいが徒歩で撤退するしか得ない。」
魔術師は基本、不思議で強力な力をえるだけの人間であり、それが封じられるということはまったく非力な人間のまま、迫りくる呪術師から逃れねばならない。
しかし、もちろんそんな状況に懸念を示した者がいた。それが今回の軍の兵糧担当「波動の魔術師」、トリルだった。
「お待ちください。ただ丸腰のまま何の策もなく逃げれば全滅です。・・・それに非常に申し訳ないですが、兵糧も切れかけておりまして。」
「そんな事は分かっておる・・・。」
コーバーは徐々にやる気をなくしていっていた。元々最前線で戦っていた人間である。軍全体を見るのは不可能といえた。
「少し考えさせてくれ。あとの会議は「聖印」と「砕土」に任せる。」
そう言うと、彼は本部を出て、寝室へと秘書を連れて戻って行った。
「迅雷」が出ると、後の事を任せられた「聖印」トゥドルと「砕土」デトナーが会議を再開した。
「では、その撤退方法だが、なるべく犠牲を減らすためにしんがりに呪術師達の相手をさせ、その間にシールド圏外まで出て、威嚇しながら指定された場所まで逃げるという案をとったほうがいいと思う。」
トゥドルは冷静に居並ぶ人間たちに言う。だが、その中の一人がトゥドルに尋ねる。
「しんがりは誰が務めるんですか?」
「たぶん、この中で呪術を使えるものか対魔術シールドに対し、抵抗のある者、或いはそれを理解しその中でも魔術の使える人間・・・。要するに戦闘能力のあるものだ。」
「しかし、無理矢理ではよくないので志願制にするべきです。」
デトナーはそう進言するが、誰もやりたがらないのは明白だった。だが、ここで一人の人間が手を挙げた。それは「奏楽」ミリーだった。
「私は呪術に詳しいから、対魔力シールドの中での対処法なら知ってるし戦える。」
さらにもう一人、「悪魔剣の使い手」レイルだった。
「僕はそう言ったものとは無関係だから闘える。ここの人間が多く死んだのは僕らのせいだから、戦います。」
稜も手を上げようとして、自分の手が震えていることに気づいた。
分かっている、怖いのだ。それでも・・・・。
「お、俺も・・・やります・・・。」
「いいのか?」
「聖印」の声は何かを探るようだった。稜はゆっくりと頷く。
「聖印」は納得したように頷く。
「他にはいないか?」
稜の隣にいた小夜も手を挙げる。
「わ、私も・・・。」
しかし、彼女の提案には「聖印」は首を振らなかった。
「君は強い呪力を放つ四肢を持っているだけで、戦闘はできない。むしろ敵の栄養分となってしまう可能性がある。」
「でも・・・!」
小夜はまだ何か言おうとしたが何も言葉にならなかったのか、脱力したように先ほどまで座っていた椅子に再び沈み込むように座る。
「他はもういないようだな。」
「待って下さい。僕も入れてもらえませんか?」
そう言ったのは渡部だった。山城も横で同じという感じで首を縦に振る。
しかし、「聖印」はどこまでも冷静だった。
「仲間を助けたいという気持ちは分からんでもないが、お前も山城も普通の魔術師でしかない。諦めろ。」
それだけ言うと、場は静まり返った。
「ええ、ではこれを持ちまして作戦会議は終わりです。後ほどしんがりの方と補給部隊、各部隊部隊長は話し合いをするので残って下さい。」
そう言うと、場は解散していく。そんな中小夜は一人重い気分に浸っていた。
作戦会議が終わって出てきた稜に小夜は駆け寄る。
「どうだったの?」
「うん・・・、まぁ。」
稜は答えづらそうに言葉を濁す。顔色もどこか青白かった。
「やっぱり、やめようよ・・・。」
小夜は一縷の望みをかけて尋ねてみるが、稜は弱々しくそれでも決然とした口調で小夜に語りかけた。
「俺はこの少しの間たくさんの経験をした。本当にわずかな時間だったけど、楽しかった。いつの間にかつまらないっていう思いは消えて、もっと一緒にいたいっていう気持ちになったんだ。だけど、そんな思いは皆がいなきゃ成立しない。だから、俺は闘うよ。・・・怖いけど。」
「・・・っの馬鹿!」
しんみりした雰囲気は小夜の一言で終わりを告げる。稜が小夜の顔を見てぎくっとする。
「何で・・・、そうやって他人のことしか考えないの!?あんたがいなくなったって成立しないじゃない!」
「だけど、俺の代わりは・・・。」
「稜は稜!私たちにとっても、私にとっても大事な存在なの・・・。」
小夜の瞳から涙がこぼれる。稜は何も言わず、ただその涙を拭いてあげた。
夜は冷たく、けれど鮮やかにふけていく。
「全軍、今日は非常に苦しい日になるだろう。だが、それを乗り越えれば我らは再び栄光の日々を取り戻すことができるだろう!」
「迅雷」コーバーは立ち台から全員に向かって大声で叫ぶ。
「さぁ!行くぞ諸君!」
その言葉に全員は雄たけびを上げる。そして、各隊の班長の指示に従って全員が動き出す。そして、全軍が出発した後、「奏楽」ミリーは稜とレイルに指示する。
すでに「銀の夜」の動きを察したのか、次々と本陣に呪術師が現れる。それはしかし、一撃の爆風で吹き飛ばされる。
対呪力爆雷装置である。
それも広大な敷地に。それだけですでに多くの呪術師が消えていたが、さらにそこにミリー、稜、レイルが混乱の最中襲いかかる。しかし、圧倒的に多い数の敵に囲まれるのを防ぐために一撃で離脱。要するにヒットアンドウェイ戦法である。
「敵がいたぞ!」
発見されたのか様々な場所からそういった声が聞こえる。だが、稜たちも逃げ切れる勝算があった。
「デビルズワード「零時の惨禍」!」
誰かの言葉が聞こえる。が、稜は逃げない。そして術は命中する。
だが・・・、効かない。稜の「中間体」のおかげである。さらにこの体質のおかげで彼はさらに強力な技を使える。
「デビルズワード「腐食の霜」!」
言葉は実体化し、一帯に雨を降らせる。・・・ただし体や大地や何もかもが腐食するというおまけ付きで。加えて呪術師は呪術を防げない。まず、そんなことがなかったからだ。
しかし、今はそれが仇になって次々と消滅し、そうでなくとも死地とかした大地に足を取られ、次々と倒れて行った。
さらに撤退するが、敵も生半可なことでは倒れない。しかも、稜たちをしんがりと認識したのか、次々と本体の方へと向かっていく。しかし、彼らはできず途中でぶつかる。
呪術師を通れなくする盾。
対魔力シールドに対して対抗策を持つ唯一の魔術師「奏楽」であった。
呪術師達は先に稜たちを殺した方がいいと思ったらしく、向かってくる。ここからが正念場だった。
その頃、本隊はあと一歩というところで全滅寸前になっていた。一人の男によって。
「幻想の呪術師」ケビンである。彼は何もできない魔術師をここぞとばかりに消していく。
いまや立っているのは小夜とコーバー、山城、渡部、デトナー、トゥドル、モリスと数人だけである。
「ふん、歯ごたえないな。まぁ、これも任務だし、しょうがないのだが。」
「このひきょう者が!」
コーバーは歯をむき出しにして言うが、ケビンは笑って受け流す。
「まぁ、君たちも任務だっていって僕の同胞殺してただろう?」
「だが、このような状況ではなかった!」
「状況で変わるんだ?人の命も何もかも。・・・そういえば、君もしかして「迅雷」?」
「だったら何だというんだ!」
コーバーはそう声を荒げ自分が言ったことがどれほどの意味を持つのかを知った。
その場にいる全員がケビンの異常な気配に気づく。
「そうか・・・。じゃあ死ね。」
そう言うと、右手を一振り。
「はぐあっ・・・!」
コーバーは木端微塵になっていた。
「これで僕のかたき討ちは終わりだ。さて・・・。」
「何をするというのじゃ・・・?」
小夜の凛とした声が響く。その場の人間が全員ギョッとする。そして、全員の視線の先にいたのは通常の小夜の何十倍という呪力を出す明らかに小夜とは違う小夜の顔をした誰かがいた。
「一度妾とは会ったの。そういえばあのときは妾が目覚めておらなんだから、正確には今日が初めてか。よろしくの、童。」
「僕を子供扱いか・・・。それだけの呪力があれば当然かもしれないけど、それでも許せないなー!」
ケビンの詠唱が発動する。しかし、小夜はまったく動かずただの呪力だけで防いだ。
「な、なんて強さだ!?お前何者だ?まさかファウスト!?」
その言葉に小夜は鼻で笑う。
「愚かな。ファウストなどと一緒にするな。名はルシファー。貴様も知っておろう?呪術の神にして悪魔の上位に位置するものじゃ。」
「ばかな・・・、ルシファーだと?」
「そうじゃ。何ならその身をもって体験させようか?」
そう言うとルシファーは一言呟いた。
「デビルズワード「狂乱の嵐」。」
普通呪術は言葉が具現化させるのに時間がかかるのだが、一瞬だった。ケビンは構える暇もないまま、デビルズワード最上級に位置する奥義を受けた。
そして、消えた。圧倒的呪力に飲み込まれて。
「さぁ、早く行け。もうそこじゃ。」
「・・・君は行かないのか?」
渡部は尋ねる。小夜もといルシファーは穏やかに笑って首を振る。
「まぁ、君なら助けてあげられるかもしれない。稜たちの事頼んだ。」
そう言うと、彼らは走り出した。その後ろ姿を見て、呟いた。
「稜も助けに行きたいが、どうやらそれどころじゃなくての。」
そう言って彼女は今度はあらぬ方向を見て大声で叫んだ。
「そこにおるのは分かっておる!出てこんか!」
そして、ルシファーの前に現れたのは、エドワードだった。
エドワード・ミラン。「銀の夜」頭首は優雅に微笑んで、ルシファーに尋ねる。
「どうして気づいた?」
「貴様のように殺気をばんばん放っておれば分かるわ。それよりも何じゃ?わしを始末しにきたのか?・・・ファウスト。」
「あれ?何でお見通し?」
エドワードはひょうきんな声を上げるが、ルシファーは冷たい目で続ける。
「貴様の目的は分かっておる。魔術師と呪術師が死んだあとに残る「霊魂」を使った創造魔術。錬金術師らしい考え方じゃ。貴様はその宿主を捨て、自分の体にそんなにもどりたいのか?」
「何のことっていいたいけど・・・、そこまで知られたんじゃしょうがないね。ずばり正解。さすがは悪魔。」
「褒めてなどいらん。世界各地で起こる「銀の夜」と「悪魔陣の創造主」の戦は「霊魂」を集めるためのものと考えればすぐに分かる。世界各地に漂うことになる霊魂を線で繋ぎ、その線の持主たる貴様に全ての力を集め、今度こそ不老不死にでもなろうという魂胆じゃろ?」
「そうだな。けど、それだけじゃない。」
「ほう・・・?」
「俺はこの世の中をつぶしたい。それで、悪魔たちにぎゃふんと言わせてやるよ。」
「まったく愚かなことを・・・。」
ルシファーのあきれ果てた嘆息にもファウストは微笑みを絶やさない。
「まぁ、止められるものなら止めてみな。」
「後悔せんようにな。」
二人は視線を交わすと、すぐに高速で動く。彼らのぶつかった後は爆弾でも爆発したかのように地は大きくえぐられ、周りは台風でも来たかのようにもぎ取られていた・・・。
「くそっ!何でこいつらこんなに湧いてくるんだ?」
レイルは忌々しげに呟く。
ミリーは息を荒げ、返事もしない。それは稜も同じだった。
それでも前に進むのだけはやめない。彼らは諦めていなかった。外を出れば、助かる。しかし、強烈な突風が吹きすさぶ。
彼らはそれを見て、驚愕した。闘っているのは小夜と・・・、「銀の夜」頭首エドワード・ミランだったのだから。