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第三章

第三章少年少女のシンフォニー

 「今日からうちのクラスの一員になる転校生を紹介するぞ〜。」

なんともやる気のない顔で衝撃の事実を告げる担任。それに生徒たちはざわめく。

「あと、何でもそれまではヨーロッパの方に住んでたらしいぞ。」

「すご〜い。」

「帰国子女かよ。」

などと感嘆の声が大きくなっている。だが、そんなクラスの雰囲気と逆行して、つまらなさそうにしている人間が四人。

まずは久野稜。彼の場合は元々の顔がつまらなそうなのだが、今回はそれに加えてすでに転校生がだれであるかを知っていることもあった。

そして、渡部宗君と山城憐。彼らもまた転校生が誰であるかを知っていた。

最後に内浦小夜。彼女もプールの事件に立ち会ったため、知っている。

「じゃあ、入れ。」

ドアを開け入ってきたのは・・・、エリス・エブァン。

教室は熱狂の渦に巻き込まれる。エリスは美人だ。特に男のテンションは半端なかった。

「じゃあ自己紹介を。」

「はい、私の名前はエリス・エブァンです。まだぜんぜん日本のことを知らないですけど、よろしくお願いします。私のことはエリスと呼んで下されば結構です。」

「エリスちゃーん!」

早速男たちの大合唱。だが、女子の心証もさして悪くはなかったらしい。それどころか礼儀正しいエリスにやや感心しているらしかった。

「さて、エリスの席はあそこな。」

そう言って担任は稜の横の席を指差した。

「はい。」

エリスは稜の横へ来て、稜にしか聞こえない声で言ってきた。

「よろしく・・・、要監視者、久野稜・・・。」

ぞっとするような低く冷たい声だった。

そうこんなことになったのはあのプールでの戦いの後だった・・・。


 すでに呪術師達は撤退したあとであったため、彼らはとりあえずそこから離れた。

そして、プールから一番近かった渡部の家に立ち寄った。そこで稜は疲れを癒すために風呂に入ることにしたのだが、何の手違いか。最悪の悲劇が起った。

「お風呂、お風呂♪」

「はっ?」

稜は耳を疑った。風呂につかっていた稜は脱衣場からうきうきとした声が聞こえ、しかも女子の声。稜は激しく焦った。すぐに彼は「もう入っている。」と言おうとしたが、気づくのが遅かったのに加え、頭が真っ白になって判断が遅れたのが仇となった。

扉が開き現れたのは、エリスだったのである。

一瞬の空白が訪れ・・・。

「きゃああああああ!」

悲鳴が響き渡った。だが、悲鳴だけでそれは終わらない。何を思ったか、エリスはタオルで必死に体を隠しながら半泣きの声でしかし殺気だけはこめながら尋ねてきたのである。

「な、何であなたが・・・?」

「い、いや・・・お風呂に入ってて・・・・。」

「何故それを先に言ってくれないんです!?」

「いや、言う前に入ってきたから・・・。」

「嘘でしょ?偶然を装って私の裸見たかったんでしょ?」

「そんなわけ・・・。」

「黙れ!!!」

「ひっ!?」

稜は思わず体を縮める。それほどまでにエリスは怖くなっていた。

「宗君、憐が信用していて、あの訳の分からない女があなたの前では大人しいから私も少しは信頼していたのに・・・・。」

訳の分からない女とは小夜のこと。エリス登場時にはプールの上でぷかぷか浮いていただけの一般市民だったくせに、結果的にエリスが負けそうになったレイルともう一人を威圧感だけで退けたのだ。訳が分からないと言われるのも仕方なかった。

ところでそのころ稜は真剣に自分の命について心配し始めていた。

「ねえ?あなたはどっちがいいです?異空間に放り出されて餓死するか、それとも私のシールドでぼこ殴りにされるか?」

「ええと・・・。」

どっちにしても命の保証はない。

「ご、ごめんなさい・・・。」

「ごめんですめば警察はいらないんです!」

「は・・・はい・・・。」

完全に気迫負け。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

その様子を見ていたエリスは何か品定めをするように稜を見ていたがやがてふいと顔を背けて小さな声で呟いた。

「今日はとりあえずなかったことにしておきます。・・・次やれば・・・、本当に殺しますから。要監視者認定です。栄えある・・・ね。」

そう言うとエリスは鋭い眼光を残し、脱衣場に帰って行った。稜はそれを見て、ただ震えるばかりだった。


 「まったく学校まで変態と一緒とは残念無念。これからの学校生活が心配です。」

昼休みの屋上いつもの六人にエリスが加わっていた。

「いやー、エリスちゃんは可愛い!芸能人ですよね?」

朝倉は下心見え見えの笑顔でエリスに話しかける。昨日、海パン一丁で寝ていた男の行動とはとても思えないが、稜は何も言わない。

ところが、朝倉の行動に拗ねたように刺々しい言葉を放った人間がいた。

「智也!何でそんなにデレデレしてるの?かっこ悪いよ。」

佐倉沙希であった。朝倉は慌てて佐倉に弁解する。

「そ、そんなわけないです!デレデレなんて・・・。」

「私と居る時はつまんなさそうなくせに・・・。」

いつのまに一緒にいたんだ?という疑問を稜は持つが、重い雰囲気の中でとても言えない。

「それは勘違いです!僕は・・・・・。」

だが、言えない。稜にはなんとなく分かった。誰にでも敬語を使うこの男の気持ちが。

たぶん、「僕が好きなのは佐倉さんです!」とか言いたいのだろうが、そんなことを言っても今の状態ではとてもじゃないが受け入れてもらえないと思われた。

「ふん、何?何も言えないの?だったら誤解でもなんでもないでしょ?・・・もう行く。」

佐倉は鼻息荒く屋上を出て行った。それを見送った渡部は気遣うように朝倉を見る。そして励ます。

「彼女は誤解しているんだな。僕たちが誤解を解いてくるよ・・・。」

「いや、いいです・・・。」

そう言った朝倉は寂しげだった。だが、彼は気丈に振舞うことにしたのか辛そうな笑みを浮かべて言った。

「そんなことしてもらう必要はないです。元をたどれば僕がエリスちゃんにデレデレしていたのが原因なのですから。・・・それに自分の事を人に頼るのは一番卑怯だと思います。」

その言葉は朝倉の本心だと稜は思った。そして、自然と言葉が口をついて出ていた。

「そうか・・・、じゃあ頑張れ。」

「はい。」

朝倉は力強く返事すると屋上を出て行った。それを見送った後、今まで一度も口を開かなかった女子たちがしみじみとした口調で感想を述べ始めていた。

「男の子って意外と変わるんだね・・・。」

小夜が言うと、山城も同意して

「日々精進。」

朝倉の過去の姿を知らないエリスは頭に?マークを浮かべながらも、彼女たちのいう意味が分かったらしく神妙な顔つきになる。

「ねえ・・・、朝倉君がどうなってるか見に行かない?」

そう言ったのは小夜だった。渡部はすぐにそれに同意し、山城もそれに続く。

「いいのか?二人きりにした方が・・・。」

稜は止めようとするが、

「私も付いていきます。少し気になりますし。」

エリスがそんなことを言うのはかかなり意外だった。稜は虚を突かれたように周りを見渡し、皆の眼を見て、稜は言った。

「俺も行くよ。」

皆の眼には仲間を心配する気持ちが入っていたからだ。


学校から近い街中で稜を始めとする五人は口論しながら歩く朝倉と佐倉を見つけた。

だが、五人故に気づかれる可能性があるので近づけない。会話の内容も聞こえない。

そんなときだった。

「私に任せて下さい。どれだけ近づいてもばれないような魔術をかけますので。・・・「光輝のカーテン」。」

それだけ言うと、エリスはさっさと歩きだした。他の四人は慌ててついていく。そしてエリスは二人の二メートルほど前まで来たところで彼らと同じスピードで歩きだした。

「な、何でばれないんだ?」

稜は相手から見えないと分かっても小声で尋ねてみる。それに山城が答えてくれた。

「これは光の乱反射で私たちを見えなくする魔術。だから。」

「ちなみに声は通るから音量は抑えたほうがいい。」

渡部が付け加える。

「あぁ、分かった!バスケばっかりで何も知らない私を上手くおだてて変なことするきだったんでしょ!」

「ち、違います!そんなつもりじゃ・・・。」

「けど、エリスちゃん、色気あるもんね?私なんかよりずっと!」

「そんなつもりでエリスちゃんを見ていたわけでは・・・。」

近くで聞けば聞くほど朝倉はかわいそうだった。佐倉はまるで話を聞かず、ひたすら言いたい事を言っている。いつまでも平行線だな・・・、と稜は思った。

しかし、エリスは冷めた目で二人を見ていた。何故だろうと思う前にまた会話が再開される。

「もう、いい加減にしたら?何のつもりか知らないけど私疲れたの。」

そう言うと佐倉は歩みを速めた。朝倉は呆然と立っている。

「・・・もう帰りましょう。」

エリスが突然そんなことを言い始めた。幻影を作る魔術まで張っておいて、彼女は急にやる気をなくして帰って行った。

「どうするの?」

小夜は稜に尋ねてくる。稜は暗澹とした気持で一つの結論を言うしかなかった。

「帰ろう・・・。」


 次の昼休み。屋上には朝倉も佐倉もこなかった。その景色を見たエリスは突然誰に語っているのか分からない感じで言い始めた。

「私は昨日あの二人の喧嘩の様子を見ましたけど、佐倉ちゃんが自分のコンプレックスに、或いは自分に自信がなくて朝倉君に当たっているようにしか見えませんでした。朝倉君に非はあったとしてもあれはさすがに看過できません。朝倉君は彼女のストレス発散のはけ口にしかなってなかったです。あれは正しい交際の仕方と言えるのでしょうか?」

「あの二人って交際してたのか?」

稜が驚いたように尋ねる。エリスはそんなことも知らなかったのかという感じで稜を見ると、さらに繋げた。

「私思いました。あんな付き合い方しかできない二人なんて一緒にいない方がいいんじゃないかな・・・って。」

「それは言いすぎじゃない?あの日はたまたまかも知れないし。」

小夜は反論するが、エリスは首を振る。

「普段はそんな感じではないのかもしれないけど、やっぱりふとした拍子に出ちゃうものなんですよ。・・・私、朝倉君に告白しようと思います。」

「はっ?」

渡部は自宅に強盗が入った瞬間でも見たかのように大口を開けて呆然としている。

「何ですか?その反応。・・・私別に朝倉君の事嫌いじゃありませんし。何よりも傷ついた彼を放っておくなんて、私にはとても・・・。」

稜はその様子に何故だか違和感を覚える。あまりにも突然すぎはしないだろうか?稜は周りを見るが渡部、小夜は自分と同じように驚いている。だが、山城が何かに気づいたような顔をしているので稜は山城の近くに行って尋ねてみる。

「おい、憐。何でエリスはあんな風に言っているんだ?」

「いた。」

彼女はそれだけ言った。再び稜の中に疑問が生まれた。

「「いた」って何が?」

「朝倉君。」

「!」

なるほど。確かにさっきまでのエリスはどこか人に聴かせるような話し方だった。それは稜たちにではなく屋上に入口で聞いていた朝倉へ向けてだったのだ。

「って、まずいんじゃないのか?あんなこと言って・・・。」

稜は顔色を曇らせるが、山城は平然としている。山城は稜の表情を見て、少しほほ笑んだような感じで言う。

「問題ない。あれは朝倉君への挑戦状。朝倉君がエリスちゃんをとればそこまで彼は全てを失うことになる。けれど、もしあれでも朝倉君の気持ちが動かないのなら・・・。」

「そうか。けど、佐倉があんな調子じゃあ・・・。」

「大丈夫。エリスは彼女にも聞かせていた。・・・あそこ。」

山城が指さした方には屋上の入口で朝倉と話す佐倉がいた。なるほど、二人に聞かせていたのだ。

朝倉は佐倉に自分の気持ちをはっきり示すことができるし、佐倉は朝倉の正式な気持ちを聞くことができる。

と、二人は階段を降りて行った。稜はそんな二人の姿を嬉しそうに見ていた・・・。


さらにその翌日。明日は休日だという学校の日。教室でぼんやりとしていた稜は朝倉に肩を叩かれ、強引に話し相手になっていた。

「それでですね、沙希と来たらもう可愛くて・・・。また明日も遊びに行こうっていう話になってるわけですよ!」

「それは良かったな・・・。」

「そこで、エリスちゃんにはもう渡したのですが、これを・・・。」

「なんだ、これ?」

それは何かのチケットだった。見ると、最近できたばかりのアミューズメントパークの名前が。そう遊園地の入場券だった。

「どうしてお前がこんなもの・・・?」

稜は怪訝になって尋ねるが、朝倉は軽く笑い、稜の背中を一度叩いて言った。

「偶然手にいれたんです。」

「お前が使えよ・・・。」

「いえ、それ明日が期限切れの日でして。明日までに行かないとだめなんですが、明日は沙希たっての希望で水族館なのです!」

「そういうことか・・・。」

というか、他の人間には渡したのかと尋ねた稜は朝倉が言いにくそうにして結局言った言葉に結構愕然ときた。

「実はそれ二枚しかなくて・・・。エリスさんは僕たちの中を直接的に取り持ってくれた功労者ですし、あと一枚はとなると、僕の親友に渡すしか・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「で、ではまた月曜日!」

そう言うと朝倉はすでに放課後を迎えていた教室から、学校から出ていく。朝倉を見送りなら、稜は頭を抱えていた。

(何でよりにもよって二枚。しかも、俺にいい印象を持っていないエリスと二人きりかよ・・・。しかもこれを知ったらあとの三人は何と言うか・・・。)

「ねえ。」

「お、おぅ・・・。」

稜の前に立ったのはまさにそのエリスだった。

「こんなものもらったんですけど、一緒に行きますか?」

「お、おい。稜がエリスに遊園地に行かないかって誘われてたぞ!」

「まじかよ・・・。」

「何であいつなんだ?」

結構人が残っていた教室でざわめきが起きる。

それは渡部、山城、そして小夜も例外ではなかった。

まだ、波乱は起きたばかりだったということに彼が気づくのはまだ後だった・・・。


その頃、レイルは剣を研ぎながら、一人の人間の話に耳を傾けていた。

「というわけで、君の大好きなエリスちゃんはどこぞの馬の骨とも分からぬ久野稜という少年とともに遊園地に行くことが決定したわけだ。」

男はふざけた調子で言う。レイルはその男を殺したくなるのを必死に抑えて、冷静を装った。レイルがこの男に勝てる確率は何千分の一程度。それほどまでにレイルの前にいる男は強かった。

(「幻想」の呪術師・・・、フラン。何でこんなどこかの戦線なら確実に大将級の人間が、こんなところに・・・?)

「ふむ、左遷だよ、さ・せ・ん。僕の力があまりにも強いんでね。危惧したというより、サガムのお爺さんが臆病風を吹かして僕を遠くへやっただけなんだけどね。」

レイルは自分の心が読まれたという衝撃よりも「悪魔陣の創造主」の名将と謳われるサガム・バァンガードが使いきれないという事に対する驚きの方が大きかった。

「ふん、まぁあながちただの左遷っていうわけじゃなさそうだけどね。」

「どういう意味?」

「もうすぐここに例の報告書にあった奴を守護するために「銀の夜」の数人が来るらしいよ。その筆頭は例の祭具を守りし、魔術師―「審問の魔術師」らしいね。」

「審問」の二文字を聞いた瞬間レイルの頭は真っ白になった。

「何だって「審問」が・・・。」

「銀の夜」が保持する伝説の祭具を守るために作られたと言われる四人の最強の守護隊。その守護隊の筆頭が「審問」だった。

「くくく・・・おもしろいねえ。かたや、人間でありながら「悪魔剣の使い手」と恐れられるレイル君と誰にも支配されない強力な力を持った僕。かたや、本部守護隊の「堅牢」と祭具守護隊の「審問」。加えて、我らが組織の永遠の盟主と言われるファウストの四肢かもしれない四肢を持つ少女に誰かさんの夢で出てきた彼女を守るための「炎」と「水」。舞台は整ったんじゃない?」

「どうだか・・・。」

レイルは返答を濁したが、それでも彼でも分かっていた。もうすぐ大きな戦が始まると。



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