第九話 王立学校
「どうだラオ、ここが王都オーベランだ!」
「うわぁー……」
美しい石組の街並み、人の数も多く、店にも活気があふれている。道にテントを張って商売を行う者、店の前で大きな声で商品説明をする者、とにかく賑やかだ!
「凄いです! こんなに人がたくさん! それにお店もいっぱい!」
「そうだろそうだろ……」
うんうんと感心しているモッズ。別にこの町が栄えておるのはお主の力じゃないがな。
「ラオとの旅も学校まで、楽しかったぜ」
「僕も楽しかったです!」
「ラオがえらくなったら俺を雇ってくれよ」
「なんていうか、夢のないことを言いますねモッズは偉くならないんですか?」
「おれにはギフトも優れたスキルもねーからな。たのんだぜラオお前なら偉くなれる可能性はいくらでもあるんだから」
まったく、まだまだ若いのに……
「わかりました。せいぜい偉くなりますよ」
「ほんとに子供らしくない、さ、着いたぜここが王立学校だ」
城壁も立派な大きさだったが、防壁? 学校を囲う壁にしては随分と立派なレンガの壁に囲まれ重厚な雰囲気のある門に連れられた。馬車を降りて荷物を下ろす。
「頑張れよラオ」
「モッズさんもありがとうございました」
握手を交わしてモッズと別れた。いなくなるとあの騒がしさが恋しく感じるのだから人というものは不思議なものだ。
いつまでもモッズを見送っていても仕方がない、この壁の向こうが今日からわしの生活する場所になる。まずはこの高い塀の中へと入らね蹴ればならない、わしは用意された推薦状を取り出す。
「すみません、今日からこちらでお世話になる者なんですが……」
門の前で微動だにしない衛兵に話しかける。
「少年、その衛兵は魔法で動いているんだ。こっちだよ」
横から人の良さそうなご老人が話しかけてくる。門から少し離れた場所に人が滞在できる場所があり、そこの係りの人らしい。
「はい、確かに本物の推薦状ですね。ようこそ王立学校へラオ君」
なにか機械のようなものに推薦状をかざすとそれが本物かわかるようだ。
わしは差し出された手を握り返す。
「よろしくお願いします、えーっと……」
「ガドじゃ。まぁ覚えんでもええよ、ここに通う生徒は外にはほとんど出ないからのぉ」
「ガドさん。よろしくお願いします」
ガドはうれしそうな笑顔を見せると一緒に門へとついてきてくれた。ガドが門番の兵士に何かをつぶやくと門の両側にいた兵士が重そうなもんを左右へと開いていく。これが、機械仕掛けとはなかなか信じられない。凄いことが出来るもんじゃ。
「あとは正面の建物でこの推薦状をだせば案内してくれるよ。ラオ君は庶民の出じゃから、色々と辛いこともあるだろうけど、この学校で頑張れば将来を約束される……頑張ってな」
「はい! ありがとうございました!」
振り返って塀の内部、学校内の様子を見回す。流石は王国一の学府だ。立派なレンガ敷きの道がまっすぐと正面の建物へとつながっている。植木なども美しく手入れが行き届いておりレンガの道と合わせて風景画のような美しさを描いている。今の時間は授業中なのか人の気配はうかがえないが、魔法的な何かか、どこからか視られている感覚がする。
「貴族の坊ちゃまやら大金持ちの子もたくさん通っている学校。そのぐらいの備えはあって当然じゃな」
とにかくガドに言われた通り正面の建物へと向かう。近づいてくるとその建物も大きく立派な作りであることがわかる。少なくとも王都に入って見た商店の作りよりは上等だ。大きな扉に取り付けられたノッカーで戸を叩く。扉も上質な気を使っているようでコンコンと小気味の良い音を立てる。
「どうされましたか?」
おお、さすがは王立学校仕立てのいい執事服を着た中年男性が対応に現れる。まずは推薦状を手渡すと同じように機械で真偽を確かめる。その上で中身を見ているとき、つぶやいた言葉、普通なら聞えないがはっきりと聞き取ったぞ。
ちっ、庶民のガキか……
見た目は立派でも心までは美しくないようだ。これならば外のガドの方が何十倍も人間として優れておる。
「どうぞこちらへ」
わしのことを一瞥もせずに奥へと歩いていく。なるほどの、ここはそういう場所か。わしは荷物を持ってその後ろについて歩く。
建物の中も見事な作りになっている。屋敷全体に絨毯が敷かれており壁や柱の一つとっても村でも町でも見たことがない。そのまま中庭のような場所を通ると、なんというか、落ち着くというか町の宿屋ぐらいの作りの建物が見えてくる。
「ここがこれからあなたが生活する場所となります。あちらに見えるお屋敷は上流階級のお子様が生活される場所、決して近づかれぬように。学長への面会は明日となります。朝9時に迎えが行きます準備をとと寝て待つように。これが部屋の鍵です決して無くさないように注意してください。それと仮の学生証になります。あなたの身分を表す大切なものなのでこれも決して無くさないように、それでは」
わしのことなど一切見ることもなく早口に説明を終えると踵を返して足早に最初の館へと戻っていく。名も知らぬ職員……
「ここがこれからの家になるのじゃな」
豪華絢爛な他の建物に比べると落ち着いた作りの建物、白地の漆喰に木造づくりの普通の建物。正直わしはこっちの方が落ち着く。部屋のカギと渡された棒状の物体には306と書かれている。荷物を担ぎなおしてこれからしばらく厄介になる部屋へと向かう。
波乱万丈な学園生活の初めの一歩であった。