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第八話 暗躍

「いやな予感ばかり当たりおるわい」


 隣でいびきをかいているモッズを起こさないようにわしは静かに寝所から起き上がり外の様子をうかがう。御者の一人が高台の入り口付近で見張りをしている。しかし、この背後から忍び寄る気配には全く気が付いていない。


(……動物ではないな、人か……数は少ないが……)


 歩き方は素人か、すこしは鍛えているんだろうが妙に気配だけが小さい。熟練の殺し屋に近い気配の消し方と、動きがちぐはぐだ。無造作に高台への壁を登ってきているようなのに気配だけは小さい。


(ギフトだとかスキルだとかに関係しておるのかもしれんな)


 わしは気配を消し、外へと飛び出し建物の影に溶け込む。息を吐くように行ってきた慣れ親しんだ隠形じゃ。


「4人組の女だ、他は殺せ」


 驚いたことに声を出してやり取りしとるぞこいつら。声を潜めてるつもりだろうが、これだけ静かなのだから一切の声を出さずにやり取りぐらいせんのか素人か……?


 真っ黒いローブに身を包んだ3人組。一番背の高い男がリーダーなのかほかの二人に指示を出していた。短刀を抜き入口で見張りをしている御者のところへ一人が向かい、もう一人は寝所へと向かう。


(やれやれ……)


 近くにあった石を拾い上げ御者へと向かう男へと放つ、まさか自分たちが奇襲を受けるとは考えてもいない侵入者の後頭部にわしの気を含んだ石がコーンと当たって男の体が地面に崩れるように倒れていく。同時に寝所へと向かう男の影に移動して、首元への手刀の一撃で意識を刈り取る。自分の手下が一瞬で無力化されたことにも気が付かないバカなリーダーの背後に回り、先ほど手下の一人から奪った短刀を首元に当てる。

 この状況になってはじめて自分たちが置かれた状況に気が付く三流の襲撃者……流石に5歳児と成人男子の体格差いかんともしがたい。はたから見れば岩に乗った子供が大人の背後に立っている間抜けな姿だが、気配と声色を変えれば後ろを見ることが出来ずに背後に立たれている人間からすれば、得体のしれない存在に感じていることじゃろう。わしもことさらにそういう雰囲気を漂わせておるからの。


「動くな、一言でもしゃべっても動いてもお前の人生が終わる。わかったら静かに頷け」


 こくんと頷き素直にわしの言うことに従う男、まぁ少し放っている声に『暗示』も乗せておるから逆らうことはそうそうできん。特にこんな素人に毛が生えたようなお粗末な襲撃をするような輩に抵抗させるほどわしの技は錆びついてはおらん。


「何が目的だ、説明しろ」


「み、店の女が金払って抜けたから連れ去って今度は奴隷に売るつもりだそうだ。

 俺らはさらってくるだけ、雇われただけだ……」


 なんともつまらん理由じゃ……もう一点気になったことを聞いておく。


「……なぜおまえらは気配が感じ取りにくい?」


「気配遮断のスキルを使った」


「そうか」


 効きたいことは聞いたし、別段それ以上の興味もなかったので短刀の柄で後頭部を殴り意識を失わせる。やはり、スキルか。それに店女や奴隷がいる世界か、さすがにそういう話は子供が読むような本には載っておらんな……


 誰も気が付いていないが、今この場にふさわしくない三人をどうするか考えないといけない。あくびをしながら入り口だけを見張っている御者が交代するまでにどうにかしないといけない。


(とりあえずこの3人は川にでも流すか……)


 素早く三人を担ぎ上げて川のほうへと移動する。5歳児でも気と魔法を使えば成人男性3人でも軽く担ぎ上げてひょいひょいと高台を降りるなんて朝飯前だ。


 適当な板切れを沈まないように簡易的な筏に加工して、気を失っている3人を乗せ川に流す。別に命まで取らんでもいいじゃろ、クズはクズだろうがこの世界にはああいう仕事もあるだけ。


 それからそっと寝所へ戻って目をつぶる。


 なかなか、荒事も多そうな世界じゃないか。わしの助けがいるなんて世界、幸せ平和なことばかりじゃないとは思っていたが、どんな世界にだって闇や悪は存在する。別段それをどうこうとも思わない、今のわしにとってはわし自身や周りの不愉快じゃない人間にあまり不幸なことにならなければそれでええ。


「おはようございますモッズさん昨夜は見張りご苦労様でした。朝食作っておきましたので食べてください」


 早朝に起きて川で魚を獲ってきて焼き魚にしておいた。流石に幻の魚というわけにはいかないが、新鮮な魚は塩だけでもうまい。ほかの御者にも御礼と言って皆の分を渡しておいた。


「さっきは御馳走様。こんなに可愛らしい子があんなにおいしいお魚を獲れるなんてすごいわね」


 食後の片づけをしていると家族連れに続いて女性たちがお礼を言ってくれた。彼女らもやっと手に入れた自由が地獄に落とされんでよかったのぉ。


「これは御礼ね、僕ちゃん」


 ほほにキスされてしまった。ま、役得じゃな。もてる男はつらい。モッズも羨ましそうに口を半開きにしてないでわしぐらい気を使えればモテるぞ。


「いいなーラオ、いいなー」


「そういう子供みたいなことを大人がやってももてませんよモッズさん」


「ほんとにラオは大人だなぁ……中身は大人なんじゃないか? ほんとに5歳なの?」


 おしい、中身は99歳のじじいじゃよ。


 すぐに出立の準備を整えて王都へと旅立つ。この国の闇を少し垣間見た夜。これから向かう王都で出会うのは果たして蛇なのか鬼なのか……








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