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第七話 野営地

 王都への旅は過去のモッズのフードハンター時代の話で大いに盛り上がった。冒険者という生き方、聞けば聞くほど魅力的に感じてしまう。


「いいなぁ、僕も冒険者になりたくなりました!」


「ラオはギフト持ちだからもったいないかもなぁ……一般的に冒険者は取りえがない奴が夢を見てなる職業で、なんていうか、ちょっと柄が悪いんだよなぁ。王立学校へ行くようなお坊ちゃんが目指すもんじゃないぜ」


「そうですか? 聞いているととても魅力的な仕事に感じますが……」


「俺も、そう思ってたんだけど……ま、今はまず学校生活を心配したほうがいいな将来の夢よりも!」


「モッズさんが建築的な発言するんですね」


「なんだよそれは、ラオは俺に対してどんなイメージを持ってるんだよ!」


「基本的に場当たり的であんまり先のこと考えていなくて人と話すのが好きで涙もろい」


「だ、だいたいあってるな……す、するどいねラオ」


「モッズさんが単純すぎるんだよー」


 人との会話一つとってもこんなに心を許して笑うことも久しぶりじゃ。職業柄相手の表情を探るように話す癖がついてしまっておるが、すでにわしはもう別の人間なんじゃ。と、言ってもそうそうその性分は抜けそうにないがのぉー……こうやって何も探りを入れる必要もなく笑っていられるだけでも幸せじゃ。


「さて、そろそろ今日の野営地につくはずだ……」


 少し日が傾き始めているがまだ明るいうちに野営地に入って準備をするのが基本らしい。野営地というのはモッズみたいな馬車による運搬を生業にしている人たちが野宿をしたりする場所で、ひとが集まることで野生動物や賊などの危険から身を守る相互公助的な場所で、この世界ではそういう場所が各地に存在するそうだ。もちろんメインとなる街道沿いは宿場町が作られるんじゃが、王都へ結ぶ街道でもこの周囲は野生動物などが多く、なかなか人が定住できないそうだ。


「運よく強い冒険者なんかがいるといいんだけどなぁ」


「結構危険な場所なんですか?」


「いや、利用者も多いし安全なほうって言ってもいい。ただ、この辺りは山から下りた野生動物とか、ほんとうに稀だけど魔物とかが出ることもあるって話なんだよね。俺はまだ一度も出会ったことは無いけど……いざとなったら馬車は捨てて馬で逃げればへーきへーき」


 魔物か……まだであったことは無いが、この世界で気をつけなければいけない存在。わしが扱う気と対極に位置する瘴気、魔力と対極する邪気を扱う生物。瘴気や邪気が濃い場所に自然に生まれたり、死骸などがそういったものを呼び寄せて魔物化したりするそうじゃ。ダンジョンと呼ばれる場所には魔物があふれているそうで、強力な魔物は国の危機になるほどと、本で読んだ。


「魔物は……恐ろしいですね」


「大丈夫だ、ラオは俺が必ず逃がしてやる。俺も、全力で逃げる!」


 自信満々で逃げ出す宣言をするモッズに思わず笑ってしまう。


「命あっての物種ですからね、しかし、モッズさんは少しは戦おうとか思わないんですか?」


「……魔物と戦おうなんて無謀な真似、もう二度としねぇって誓ったんだ」


 予想外に、真面目な顔で答えるモッズの様子に内心しまったと舌打ちをする。調子に乗って余計なところまで踏み込んでしまった。


「なんだか、すみません……」


「いいってことよ! ラオもかなわないと思ったら逃げることだけ考えるんだぜ! それが長生きする秘訣さぁ!」


「肝に銘じておきます!」


 すぐにモッズはいつもの調子を取り戻してくれた。わしも子供らしく元気でいるように努めよう。人間一つや二つ心に何かを抱えているもんだ。悪戯にそこに触れるもんじゃない。


「おっ!見えてきたぞー!」


 モッズに言われて馬車から顔を出す。川沿いに開けた高台、なるほど周囲を一望でき、水の便も良い。野営を取るにはちょうどいい場所と言える。高台へと続く道は人工的に作られた道で、そこをふさげば高台へと通じる場所がなくなり守りやすいと言える。


 高台の上に上がると水をためる設備に火を使う場所など、小屋なども備え付けられており想像よりもはるかに宿場として成立していた。


「おお、凄いですね! もっと何もないと思っていました!」


「一応王都への街道沿いの場所だからな、いくら馬車があるとは言ってもまともな寝所も作らないとな」


 夜の食事の準備などをしていくと最終的にはもう2台ほど馬車がこの場所を利用しに来ることになった。家族連れを乗せた馬車と、女性4人連れの馬車だ。


「……まずいな……客に対して護衛が少ない状態になっている」


 モッズは状況をみて少し嫌な顔をしている。確かに子供一人に家族4人、それに女性が4人。それに対して御者は3人。何か起きた場合に戦力不足は否めない。


「何よりも……こりゃ意地でも話し合いをうまく乗り切らんとな。ラオ、ちょっと御者同士で話があるから食事は少し待っててくれ」


「はい、出来ることはやっておきますね」


「助かる―」


 食事に関しては干し肉と野菜をスープにして乾パンと食べる簡単料理、わしでも十分に調理可能だ。どこの炊事場でも同じような料理が用意されている。すれ違いざまに女性たちに偉いわねーなんて声を掛けられる。子供ってのはいいものじゃ。

 

 家族連れはどうやら王都への帰宅のようじゃが、女性たちは踊り子か何かじゃろうか? 歩き方や振る舞いが凛としていてどことなく目を引く、わしが見たこっちの世界の女性の中でも身なりにきちっと気を使っているが、服の素材などで判断すると上流な人間ではなさそうだ。総合的に判断するとそういった職業だろうと推察される。どうにも職業病で他人を探ってしまう……


 食事を器に取り分けているとモッズが喜びながら帰ってくる。


「おっしゃ! 見張りは俺が一番初めだ! これでゆっくり眠れる!」


 なるほど、御者同士で見張りの順番を決めていたのか、どうやら女性組の御者が一番つらい2番目を引いたようだ。


 モッズがついている。その事実がわしの胸をざわつかせる。こやつは不幸キャラのはずが最近つきすぎている。こういう時は何か、大きな悪いことが起こるんじゃないか? わしの予感がそう告げていた。どうやら、長い夜になりそうじゃわい。





 

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