第五話 旅路
王立学校への入学手続きを済ませれば、あとはわしが学校へ向かうだけ。あっという間に月日は流れてわしが学校へ向かう日がやってくる。
「ラオ、気をつけていってらっしゃい!」
「ラオ大変だったら帰ってきていいからな!」
「お父さんお母さん、立派になって戻ってきます!」
「ラオちゃーん頑張ってねー!」
「ラオー達者でなー」
村の出口までみんなが送ってくれた。なんと皆でお金を出し合って王都までの馬車まで用意してくれて、わしは少し目頭が熱くなる。王立学校へ行く子が出ると村としては名が上がるそうだが、皆の好意は素直に受けておく。
「すごいな坊主! 王立学校にあんな小さな村の庶民の子が通うなんてちょっとした話題になるぞ!」
小さい村というのも特に悪意はないんだろう、馬車の御者は人懐っこい笑顔でいろいろと話しかけてくれる。まだ30前ぐらいだろうか?ようやく平坦な街道に出たおかげで馬任せで余裕が出来たみたいで根掘り葉掘りいろんなことを聞いてくる。商売柄話のネタを仕込むのが癖になっているんだろうな。
「ギフトが3個あるらしいんですが、何の役に立つかわからなくてそれを見極めるためらしいですよ。役に立たないとわかったら退学にでもさせられるんですかね?」
「すっげーな坊主! ギフト持ってるだけでも凄いのに3個もか!しかし、まだ5歳だよな? 俺の甥っ子なんてしょんべん垂らして野原走ってるだけだが、やっぱり学校に行く人間は違うんかねぇこんなにしっかりと話せるなんてなぁ」
「昔から村の皆と話していろんな話を聞いてましたから」
ネコを被っておくに越したことは無い。親に迷惑もかけられんしな。
「ところで御者さん王都まではどのくらいかかるんですか?」
「おにーさんのことはモッズでいいぞ坊主」
「でしたら僕のことはラオと」
「おお、ラオか、良い名だな! で、王都までは3日、途中2か所で宿泊する最初は宿場町だが二泊目は野営地だ!ワクワクするだろ?」
「はい!」
この世界の空や自然は美しい、野営も気持ちがいいだろう。こうして馬車で走っているだけでもその景色に心を奪われてしまう。わしが最後に住んだ庵から見える景色も綺麗じゃったが、何十年も見ていると飽きてしまうもんでな。健気にも馬車を引いて、気分よさそうにパカパカと走る馬の姿にも心が癒されるのぉ……
一日目は何事もなく宿場町に到着する。大きな街道沿いに作られた町で複数の宿屋が存在して簡単な食事をとる場所、道中で足りなくなった道具などを補充する場所などがコンパクトにまとまっている。町には何度か出て行ったこともあるが個人的にはこれくらいの街のほうが好きじゃな。人が多すぎるのはなんとも煩わしさを感じる。
「今日はこの宿を予約してある。悪いけど俺と相部屋だ!」
「構いませんよ、それにしても一日中馬車だったので少しお尻が痛いです……」
「俺はもう慣れちまってるからなぁ……この宿は安いが女将さんの食事がうまくてなぁ!」
案内された宿は小さめではあるもののよく手入れをされていて、落ち着きがありとても好印象。
「あら、モッズじゃないの予定よりも早く着いたのね? そちらはお客さん?ずいぶんと可愛らしいお客さんなのねこんにちは」
「こんにちは、今日一日お世話になります」
「あらあら、こんなに小さいのに随分としっかりしているのね~」
人の良さそうな女将さんがほんとにうれしそうに笑顔になる。なるほど、この宿から出る雰囲気は女将さんが作っておるのじゃな。
「先に部屋に案内するわね。食事はもう少しかかるからゆっくりしてね。汗を流すなら裏の井戸を使って頂戴ね」
「あいよ、それじゃぁラオ飯の前にすっきりしておくか!」
「わかりました!」
両親が用意してくれた荷物を馬車から降ろして部屋に運ぶ。5歳児の荷物なんて着替えぐらいで大した量はないが、王立の学校へ行くにあたってあの村では考えられないような上等な服を用意してくれた。感謝しかない。
「終わったかー? さ、水浴びに行こうぜー!」
「はーい」
宿の裏には水場が用意されている。井戸が作られておりその水を利用して客は体を清めることが出来る。
「いやー、水が使えるってのもこの宿のいいとこだよなー。場所によっては桶に一杯だけってとこもあるからな」
「村でも毎日水くみから一日が始まりました。でも、僕は川に入ってからだ洗っていました!」
「ああ、川が近ければそのほうが思いっきり洗えるな!街道は基本的に川に沿ってるから少し街道から外れれば大きな川に当たる。水に困ることは無いからな」
「うちは農業も畜産もやっていたので川から水を引いていました。川が無ければうちの家族は路頭に迷いますね」
「自然の恵みに感謝だな」
「はい!」
改めてみるとこのモッズなかなかに鍛えた体をしている。こういう旅馬車の御者という仕事は荒事に巻き込まれることも多いと聞く、自分の身や客を守るために体を鍛えているのかもしれないな。
「ん? どうしたラオ? 俺の体をじろじろ見て」
「いえ、凄い筋肉だなーっって」
「ああ、俺も昔は冒険者になりたくてな、体を鍛えていた時期があったんだよ。実際には剣の才能のかけらもなくて、この仕事になったけどな。やってみるとこの仕事も楽しくてな、俺は人と話すことが好きだからよ」
「はは、知ってます」
「だろ、おっと、そろそろ飯の時間だないい匂いがしてきた。先に食堂で待ってるからな」
「あ、はい。すぐに行きます」
冒険者……か……なかなか心躍る響きだな。
宿の料理は確かに逸品だった。その日はおなかも満足してゆっくりと眠りにつくのじゃった。
近いうちに