第44話 死闘
「くっ……疾い!」
「魔法……なのか? 事象に直接変化を与えているような……」
戦闘は……全く思い通りにいっていなかった……
上空から攪乱するはずだった二人は今地上を駆けている。
飛翔魔法が何らかの疎外を受けて地面に縛り付けられてしまった、さらに全員の体には凄まじい重力を感じながらの戦闘になっている。
なんとかアンジーが相殺してくれているが、他の補助に回す余力はない。
さらに、猪は高速で動き回り、こちらの的を限定してくれないために、全員が一切気を抜けない。
攻め手にも回ることが出来ずに、相手の超回復も相まって消耗・持久戦の様相を呈していた。
「このままいけば先に息切れを起こすのはこっちじゃな」
「魔石がまるで水のように消費されていきますね、そちらも、そう長くはもたないかもしれません……」
掠るだけでも防具は損傷し、その回復に魔石が消費されていく、近接攻撃に至っては攻撃するたびに武器が損傷する始末。
「はぁ……いつの間にか武具に頼る戦いに慣れてしまっておったの……」
武器が壊され苛立っていた自分を省みて、一つ息を吐く。
己が肉体と技を練り上げたのは、武具の優劣を誇るためではなかった。
そんなことも忘れていた。
「来いよ……猪……」
闘気、いや、これは、殺気の塊を猪にぶつける。
相手を心から殺すという覚悟、本来の暗殺者はそんなものを外に出さないが、あえて全てを外に出し、敵にぶつける。
猪もわしの呼び声に答えてくれたようで、急旋回してこちらに走り出してくる。
「ラオ君?」
「ちょっとだけワシのわがままに付き合ってくれ」
こうして冷静に猪と対峙すると、とんでもないプレッシャーだ。
こんな相手に正面から戦っている愚かさと言ったら……
しかし、嫌いじゃない。
それにしてもガルアはこいつの動きを見事に止めた。成長している。
この肉体を焼いたミカエラの魔法も見事、皆、成長しているんじゃな。
「やはり、何かに挑んでいる時が、心燃える時……」
眼前に鋭い角先が迫る。フゥ、と一息を吐き風に揺れる木の葉のように先端を躱す。
すぐに猪の巨体、息の荒い顔が迫る。
ワシはあえて一歩敵に近づき、身をかがめ、その豚鼻に手をかけて潜り込み、もう一足渾身の震脚と同時に全身を用いて猪を中空に跳ね飛ばす。
前に進もうとする巨大な質量のベクトルを急速に変化させ、その巨体を空中に投げ上げてやる。
「今じゃ!」
目の前の光景にあっけに取られていた皆が、即座にわしの声に反応して攻撃に移る。
ワシも次の一手のために軋む体を動かす。
「やれやれ、まだ技の入りが硬かったな……」
完璧に入れば力ではなく理によって巨体は空に投げられたはず、少しのずれを無理やり力で押し込んだ反動が体に来ていた。
己の未熟さを戒める痛み。文字通り身に染みる。
空中に浮いて無防備になった猪には無慈悲な攻撃が降り注いでいる。
岩をも切り裂く風の刃の嵐に、獄炎が混じり、ガルアの放つ斬撃が猪の肉を断つ。
しかし、厚い脂肪に強靭な皮に包まれた猪に致命的なダメージは与えられない。
ワシは走りながら全員に合図を送る。
「グランドウェイブ!!」「アースジャベリン!」
ガルアが盾で地面を叩きつけると、地面が波打ち、キースの魔法で造られた大量の巨大な土槍が猪を串刺しにする。傷つけ防御力が落ちた鎧を貫いていく。
「食らいなさい! サンダーストーム!!」
止めにミカエラの作り出す巨大な雷の嵐が土槍に降り注ぐ、鉄含有量を多くして猪の体内に直接電撃の一撃を食らわせる。
「グギャオオオオオオオオ!!」
流石の猪も苦悶の雄たけび、しかし……
傷つけ、焼けた皮膚も順次回復していこうとする。
時間が経てば、何事も無かったかのようにまた襲い掛かってくる。
猪の巨体が魔法で造られた槍衾に叩きつけられるように落下する。
その質量を利用して落下エネルギーを用いて地面から伸びた棘にその身を傷つけさせる。
「はぁーーーーーーーーーー……」
闘気、魔力を限界まで高め、そして極限まで圧縮する。
丹田が烈火のごとく熱くなると同時に、全身に気が満ちていく……
血しぶきを上げながら、肉の塊がこちらに転がってくる。
ワシはすでに回り込み、とどめの一撃を放つべく気を練っている。
大質量が目の前に迫る。土やりを見に穿ちながらもへし折り、着地も出来ずに大地に叩きつけられ転がり続けて迫ってくる。
時間が引き伸ばされるような感覚、一寸のズレも許されない、集中力を極限まで高めていく。
先ほどと同じように、ワシは一歩、地を穿つほどの踏み込み、その力を足から腰、丹田で練り上げた気を乗せ背、そして肩に集中させ、肉塊と触れる瞬間に体内で爆発させる。
「奥義……覇極裂破鉄山靠!!」
一瞬のズレですべてが無になるが、見事に『通った』。
凄まじい勢いで迫っていた肉の塊が、慣性を無視してその場にピタリと停止する。
位置エネルギーさえも利用して、猪の体内で爆発させた。
「グボッ」
次の瞬間、大量の吐血と下血、やつの体内は今の一撃でぐちゃぐちゃになったはず。
最初はその肉体を癒そうと傷を肉芽がぶくぶくと覆っていたが、どんどんその勢いは衰え、猪の命の炎が消えるのと同時に、すべての活動が停止した。
仲間たちがようやく勝利を確信して喜び合っている。
「ぬぐっ……」
しかし、その喜びについぞ気を抜いた瞬間、全身を激痛が走った。
「未熟……」
その痛みに、思わず意識を手放してしまった……




