第41話 忠義
『ちょっとラオ! ちゃんと説明しなさいよ!』
『落ち着きなよ、場所を移動したら説明してくれるって言ってるんだし……』
『そうじゃぞミカエラ、ガルアを見習え』
『ラオ様、どこまで移動しますか?』
『もうこの国での用は済ませた。家に帰るぞ』
『どこまでもついていきます』
「うおっ! 急に割り込んできたのー」
「はい。寂しかったので……」
「ほ、ほんとに誰なのよラオ!」
「さっき聞いたじゃろアンジーじゃ」
「アンジーでございます。末永くよろしくお願いいたします」
高速で走りながらも優雅に礼をするアンジー、器用な奴じゃ。
「あ、はい……こちらこそよろしくお願いします……」
目を見張るほどの美女が美しい所作で挨拶をしてきたため、ミカエラもそれに習って挨拶を返す。
走りながら、ミカエラも器用だな……
「アンジー様、私はキースと申します。先輩としてラオ様のお傍に居させていただいておりますので、後輩としてよくラオ様に従ってくださいね」
「わかりました。よろしくお願いいたしますキース様」
ここにも変な意地の張り合いをする輩がおった……
「ははは、僕はガルア。これからよろしく? ってことでいいのかな?」
「はい、ガルア様。ラオ様と一緒にこれからの生活ずっとお傍で仕えますのでよろしくお願いします」
「ちょ、ちょっとラオずっと一緒ってどういうことよ!」
「あー、早いとこ帰るぞ。どうやら一部の魔族が動き出したようじゃし」
目の前で巨大な門が閉められようとしている。
すでに城から外に出る最後の扉まで来ていたが、あそこを閉められると少し厄介になる。
「魔王様が許可を出した客人に何たる無礼を……」
「魔王を思うが故の行動じゃろうて、荒事は無しで……跳ぶぞ」
身体強化に風の魔法を組み合わせてただ、地面を蹴って跳ぶ。
空間転移ではないし、自分自身にかける魔法なので城の中でも強く阻害は受けないはずだ。
「ちょっと失礼」
ワシはアンジーさんを抱き上げると同時に魔法を発動する。
「ラオ様大胆ですね」
「舌をかむぞ」
地面を一蹴りすると世界が加速する。閉まりつつある門の隙間を抜けて美しい中庭に飛び出す。
ミカエラもキース、ガルアも無事に場外へと脱出できたようで、背後では扉が閉まる音がする。
「このまま、帰るぞ」
城の敷地から出るまでは空間転移は不安なので、街まではその速度を維持して疾走していく。
アンジーの顔が近いし、なにやら首に手を回して来て、見た目が女神アルテス様にそっくりなので、どうしても緊張してしまう……
『ちょっとラオ、何鼻の下伸ばしてるのよ!
そのアンジーさんなら私たちについてこれるでしょ!?』
『そうなのか?』
『ええ、魔法の内容は理解しましたが……私はこのままの方が嬉しいですよ?』
『ちょ、ら、ラオ! ほら、いつまでも女性にそんな格好させないの!!』
『それもそうじゃな、失礼したなアンジー殿』
『あん……残念……』
ワシがそっと手を下ろすと、何事も無いようにふわりと着地し同時に加速する。
今の流れを見てもアンジーがすさまじい使い手だとわかる。
初めて見た術式を行使する際のよどみなどが一切ない。
これは凄いことだ。
ミカエラ達もそれをみて少なからず驚いている。
『まぁ、魔王を母と呼ぶような人物ですからこれくらいは……』
そう言っているキースも今行われた行動のレベルの高さを十分に理解している。
そんなことをやっていると、城の領域から脱出し、街へとかかる。
もちろん町は人混みでごった返しており、普通の道を行くのは危険を伴う、周りの人に。
『上を通るぞ』
強く地面を蹴って建物の屋根を伝って走り続ける。
目指すは外門、まだ魔王城は混乱しているじゃろうからこの混乱が収まる前に街を出て転移装置で帰還する。もう、わしにとって魔人や魔王はどうでもよくなっておる。
まだ見ぬ世界、圧倒的な強者に挑む冒険の旅への興味で胸が高鳴っている。
『なんだかラオ君楽しそうだね』
『なあに、すぐにお主らも同じ気持ちになる』
『ラオ様、魔王城から追手が出たようです』
『ふむ、街の外で待つとするか。とりあえず急いで外に出よう』
『母様の意向を組まぬ輩どもめ……』
『アンジー殿、魔王のことを思うが故の行動じゃろうから……』
『それとラオ様、殿は不要でございます。どうぞアンジーとお呼びください』
アルテス様の笑顔を見ているようでなんだかくすぐったい……。
アルテス様よりは少し柔らかさが取れて、綺麗めに寄った感じじゃが……。
以前のわしなら敬愛の念で済んだのじゃが、いかんな、身体の若さに引っ張られる……。
「よし、正面の門を出たらしばらく飛べば平原になる。そこでお待ちするとしようかの」
建物の屋根から音もなく正面通りに降り立つ、気配を抑えているので周囲の人もアレ? と思う程度で、まさか空から人が降ってきたとは思いもしない。
そのまま何食わぬ顔で正門から町の外へと歩いて出て行く。
外へ出たら再び高速で移動を開始する、背後から近づいてくる気配を確かめながら対面の場にご招待することにする。
巨躯、その体躯は身の丈は2m、分厚い胸板に丸太のような腕、怒りで逆巻く烈火のような赤き髪。
ワシらを射殺さんとする鋭い眼光は真っ赤に燃えているように見える。
対面するだけで皮膚がビリビリと震えるほどの魔力。
間違いなく魔人の中でも実力者がわしらを追って平野に降り立った。
「お待ちしておりましたぞ」
「……ふざけたことを……貴様ら、魔王様にあだなすものを自由にしておけるものか!
しかも人間共を我らに仕向けた張本人、無事に帰れると思うな!」
「母様は彼らに自由を赦しましたよ?」
「……アンジー様、それでも我々は魔王様のために彼らを倒して後顧の憂いを断つのです。
それが臣下としての私の忠義の示し方です!!」
「アンジー、手を出さずに見届けてもらおう。
この程度の苦難を乗り越えられねばまだ見ぬ苦境を乗り越えることも出来ませんからな。
ワシも自分のやりたいことがある。魔人たちの忠義は理解できるが、素直に殺されるわけにはいかん。
魔人の将よ。もし戦いに勝ったらこちらの話を聞いてもらうぞ」
「フハハハハハ、減らず口を!
そこにいる裏切者の力を魔人の力などと侮ってもらっては困る!
真の魔人の恐ろしさ、死してしかと理解するがよい!!
魔人将ラッセルが力、思い知るがよい!!」




