表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

第33話 魔王のお膝元

 シーベンスの街。

 王国の端にある港街、街の前に広がる海は大変美しくその風景も相まって人気の高い街だ。

 その代わり、沖へは出てはいけないときつく言われている。

 海の色が美しいグリーンから底の見えない濃青に変わると別世界の入り口に立ったと考えたほうがいい。

 不帰かえらずの海と呼ばれている地帯になる。

 巨大海洋魔物が多数生息し、その先には魔人たちの本拠地があるとされている。


「いや、これは絶景」


 ちょっと空を飛んで移動してきたので、そのまま空から風景を楽しんでいる。

 こんなにも美しい海は前世でも数えるほどしか見たことが無かった。


「ちょっと遊びに来たんじゃないのよラオ」


「そういいながらその手に持ってるのはなんじゃ?」


「いや、これは……ちょっと敵前視察に海の様子を……」


「まぁまぁラオ君、たまにはいいじゃないミカエラだって頑張っていたし」


「そうじゃな、珍しくガルアも遊びたそうだし今日はたっぷりと海水浴を楽しむか……」


 そう、ガルアさえも海を楽しむ道具を取り出しながらうきうきと設営を始めた。

 たまにはね、こういう時間も取らんとな。

 よく考えれば学生生活を戦いと修行と戦いに明け暮れてしまった。

 青春らしい青春も送らせてあげられなかったのは少し後悔しておったので……


「ラオ様、ちょっと釣りしてきます」


「おお、いいのぉ、ワシもそっちに……」


「ラオ君、こっちこっち」


「いや、ワシも釣りに……」


「ラオ様、食材調達、調理は私にお任せを。どうぞご学友とお楽しみください」


 ……もう卒業したんじゃが……


「ちょ、ら、ラオ……ど、どうかな?」


 なにやらミカエラがしおらしく水着になってもじもじしている。

 普段戦闘服か制服姿しか見ていなかったような気がするから、なかなかなプロポーションをしているんじゃな。


「馬子にも衣裳ってやつじゃな」


「な、なによそのマゴニモなんとかって……」


「ああ、似合ってるって意味じゃ、気にするな」


「え、似合ってる……え、えへへへへー、そっかー似合ってるかぁ……」


「へぇ、ラオ君でもそういうこと言えるんだね。よかったねミカエラ」


 なぜこやつはこんなに布面積の少ない水着を着ておるのだ……

 まぁ肉体はなかなかいい感じで仕上がっておるな。

 周囲の女どもがぽーーっとした目で見つめておる。

 当の本人はよほど泳ぐのが好きなのかすさまじいスピードで海を縦横無尽に動き回っておった。


 そんなこんなで、美しい浜辺でゆったりとした時間を楽しんでおると、キースが大量の釣果を持って帰ってきた。


「すぐに調理いたします」


 魔法はこういう時に便利だ。瞬時に凍らせて寄生虫対策をすれば生でもいける。

 簡易キッチンとも呼べる設備もその場にすぐに呼び出せる。


「おお、立派な型の魚じゃな、どれ、ワシも少し手伝うぞ」


 久しぶりに鮮魚を扱えるのならワシの腕前を披露しよう。

 鯛によく似た青い魚をワシ特性の包丁を取り出して捌きにかかる。

 前世でも釣りは趣味の一つで捌くのも得意じゃからな。

 鰓から鰭ごと頭を落として、鱗を落としていく、尾から三枚におろしていく。

 細かな骨を処理して皮部分を軽く炙ってやる。

 予想通りに豊富な油がパチパチといい感じで溶けだしてくる。

 それを薄く切りだしていけば鯛もどき炙り刺しの完成じゃ。


「素晴らしいお手並みですねラオ様」


「キースの塩焼きも楽しみじゃ、とりあえず食ってみるか二人とも?」


 ワシらの調理から漂う香りで涎をこぼしそうになっている二人はすごい勢いで頷いてくる。

 醤油があればよかったが、まぁ塩で食っても上手い。


「うむ、旨い」


 日本酒が飲みたくなる。

 身自体にまでしっとりとした溶けて少し炙られた脂の風味が行き渡り、魚本来の甘みが塩によって最大限に引き出されている。

 締めた直後の張りのある弾力、口いっぱいに広がるうま味、最高だ。

 どうやらほかの三人も同じ感想のようだ。恍惚とした表情で一切れ一切れ大事そうに頬張っている。


「私、魚を生で食べたの初めて……」


「軽く炙ってはいるがの、低温で数日寝かせても脂が回ってねっとりとした深い味わいになってうまいと思うぞ」


「塩焼きとか野菜と煮込むのが一般的だけど、この食べ方も美味しいね」


「魔法で一度必ず凍らせるんじゃぞ? 小さな虫が生きていると酷い腹痛を起こすからな」


「なるほど、こういう魔法の使い方は斬新ですね」


「魔法の炎より木々を使った炎の方がわしは好きじゃがな、それに、わらとかの香りを移すなんて調理方法もある」


「ラオ君って食事のことになるとすごいこだわりあるよね、学園の食堂も見たことのない料理に埋め尽くされてたもんね」


「おかげで王国が新たな食の震源地になるって料理長は大喜びじゃったんだから問題ないだろ」


 個人的には、和食や中華風料理が皆の口に合ってくれたことが素直に嬉しい。

 スパイスなども旅のついでに集めて権力で薬草園で育てさせた。

 魔法を使ったビニールハウス農業は革新的らしく、これも非常に喜ばれた。

 科学、化学方面は魔法の存在によって異なる方向に進んでおり、一部においては地球時代よりもすごいシステムが存在していたりする。

 ちょっとした気づきなのだが、現行の技術で再現可能な現代技術も多かった。

 もちろん、重火器などは広めない。

 魔法を使うものが対等に技量を競って争うのは良いが、全ての人民を戦いの場に引きずり出してしまう簡単な人殺しの道具なんて、この世界に必要のない物だ。

 ……いずれ、誰かが考えてしまうだろうがな……


「ラオーなんで難しい顔して飲んでるのよー、せっかくこんなきれいなとこにきて、その、可愛い子が隣にいるんだから、もっと楽しそうにしなさいよー」


 リゾート気分で浮かれているミカエラが絡んできた。

 泳ぐのは上がって真っ赤なワンピース姿だ。

 

「ミカエラ」


「な、なによまじまじと見て……」


「その格好、似あっておるな」


「な!? ……な、なに、なにをいきなりおっしゃって!」


「いや、ミカエラは美しい金髪に肌が白いからそういう明るい色があってると思うぞ?」


「ちょっ! ……スーハースハー……そ、その……あ、ありがとう……」


「それよりも、飲みすぎるなよ? 顔真っ赤じゃないか?」


「!! 馬鹿! ラオはやっぱり馬鹿ラオよ!!」


 なんか勝手に怒ってキースの方へ行ってしまった。

 心なしかスキップしておったみたいだが、なんかよくわからんのぉ……





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ