第32話 人魔大戦
様々な場所で、魔人たちは突然の人間からの反撃を受けた。
もちろん、それで魔人を倒せるのとはこれっぽっちも思っていない。
現状人々の中で生活して人間を堕落させている魔人たち燻り出せれば、それでいい。
「うわー……ラオ様凄いですよ、他の魔人からの罵詈雑言が……しーらないっと遮断っと」
中心人物であるキースへのテレパシー的な悪口も惨かったらしい。
参謀のキースを見る目にはありありと殺気が混じっていたもんなぁ……
「流石にあの場で命のやり取りのような戦闘が始まらないでよかった。
魔人たちもすぐに引いていったな」
「それはもうラオ様の鍛えた人々の真の力と装備と真面目にやり合う気にはならないでしょう」
「ラオ君が参謀の魔法を簡単にはじいたのが原因だと思うけど……」
「ガルアだってその後の一撃を軽くあしらっていたじゃないか」
「あの冷静な参謀の顔がゆがむのを見ることになるとは……長く生きてみるものです」
「私だって一矢報いたんだからね!」
「ミカエラは屋根を吹っ飛ばしたことを反省しろ!
人が苦労して作った魔法防壁を突き破りおって……」
「え? 褒めてるわよね? 今の私褒められたわよね!?」
ガルアもミカエラも今ではすっかり成長した。
ワシが真面目に戦っても、かなりいい戦いを出来るようになっている。
ガルアは鉄壁の防御、ミカエラは馬鹿火力。
「ちょっと! 今失礼なこと考えたでしょ!」
やれやれじゃ。
ワシらが起こしたこのアクションは当然全ての人間、魔人の知ることになる。
長年にわたる魔人の計画が暴露し、人間たちは飼いならされていた事実に愕然とするしかなかった。
しかし、一部の人間は違和感を感じていたようで、ようやくもやもやが晴れたようなそんな状態だ。
王都では連日喧々諤々の会議が繰り返されたようじゃ、ワシも巻き込まれそうになったが、懐柔しておいた王子のおかげである程度の自由は保障されていた。
実際にはわしらの息のかかった優秀な人材を様々な場所に送り込んでおいたので、全ての情報は把握できていた。
魔人たちは長年の計画が一瞬でパーになったと大変憤慨し、人間たちに宣戦布告をしてきた。
これが人魔大戦と呼ばれる戦いの始まりだった。
「なんだか、これではわしらが戦争を引き起こしたみたいな構図にならんか?」
「なにをいまさら、飼いならされて生きていくか、立ち上がり自立するか。
いくら愚かな愚民たちでも飼われることを良しとはしないでしょう。
そのための世論操作も行ってらっしゃるのですから……」
「そうなんじゃが、まぁ王たちもわしらの仲間の力を借りないわけにもいかないから戦わないなんて選択はしないじゃろうが」
「王都はもちろん、各都市村にまで結界兵器を秘密裏に配置しておいた甲斐があったね」
「私も耐久テストに付き合ったんだから褒めて褒めて!」
「ミカエラの魔法に耐えれば魔人の魔法にも耐えるからな、えらいえらい」
「えへへへへへー」
ミカエラも成長して身長は160程か? よくわからんが学園では女神のような扱いを受けている。
今だにわしの前では出会った頃の子供のまんまのような気もするが、ま、女神さまには程遠い。
ガルアは2m近い身長によく鍛え上げられた肉体、未だに自信なさそうな態度をとるがそのギャップがいいとか言われて女生徒に絶大な人気を誇っている。あやつは優しいからな、戦いとなると安心して背中を任せられるいっぱしの戦士に成長してくれている。
キースは相変わらずだが、魔法の精度を磨き上げて職人芸のような技を使う。
魔人の成長は緩やかだが、こういった成長の仕方もあるという一つのテストケースになっている。
「魔人たちの王はどう思っているんじゃ?」
「魔王様はむしろ久しぶりに暴れられるから喜んでいると思いますよ、結果が出ていて参謀にも何も言えなくて暇そうにしてましたから」
「大昔は人間と魔人は争っていたんだろ?」
「はい。圧倒的な力を持つ我ら魔人も軍となった人には苦労をさせられていたらしいですよ。
それで長期的搦手で行くことになったと聞いています」
「気の長い魔人たちのことだ、すぐに攻めてくることは無いと考えてもよいのかな?」
「ただ、我らの仲間以外の人間は今だに魔人教育の枷が取れていませんし、逆に今のうちなら……と、考えてもおかしくないかもしれません。私もすでにブラックリスト入りして情報は入りませんのではっきりはわかりませんが……」
「ふむ、戦になるのだったら最も重要なのは情報だからな……、よし、最前線へ拠点を移動しよう。
魔人の動きをいち早く捉えて人間界への侵入を防ぐ!」
「魔人の本拠地って不帰の海よね?」
「ってことは一番近いのはシーベンスの街かな?」
「沿岸都市には警戒を呼び掛けておかんとな」
「なんか、楽しくなってきたわね!」
「ダンジョン攻略ぶりだねまとまって行動するのは」
「私たちに敵なんてないのよ! さ、準備したらすぐに移動するわよ!」
「なんでミカエラがしきっとるんじゃ……やれやれ……」
卒業生たちにはしっかりと警戒を伝えてある。
各地の要職についている人間は大体信頼のできる卒業生たちがついている。
魔道具による通信で情報の共有は忘れないようにしている。
魔人との戦争とは言っているが、実際には魔人とわしたちの戦いになるだろうと思っている。
とりあえず喧嘩するなら喧嘩するで相手の親玉の顔ぐらいは見ておきたいからのぉ、とりあえず最初の目的は魔王の顔を拝むことにしておく。
海沿いの街か……刺身で一杯といきたいとこじゃな。




