第28話 憧れのドラゴン装備
目の前で鍛冶師が竜の鱗を加工している。
単純な炎では竜の鱗は加工できないらしく、不思議な青く燃える魔石炭の炉を使用する。
炉で熱された鱗を叩いて板状に変化させ、それを素材として利用していく。
鉄とは別次元の強度と、炎系の攻撃への圧倒的な防御力を誇る。らしい。
「ファンタジーじゃのぉ」
「……もしやラオ様は迷い人なのですか?」
「迷い人?」
ワシが興味津々に鍛冶を見学しているとケーンがそんなことを言ってきた。
「この世界とは別の世界から迷い込んだ人間がいるらしく、そんな人間を迷い人と魔人の間では呼んでいます。この迷い人は画期的な進歩をもたらしてしまうので、積極的に魔人は確保するようにしているのです」
「ああ、なるほどのぉ……そうじゃな、確かに迷い人、正確には転生じゃが、そういうことなんじゃろう」
「なるほど、ラオ様の強さや知識の秘密がひとつわかりました」
「確保せんでいいのか?」
「もう、どーでもいいです。ラオ様と一緒にいることで私は今まで感じられなかったような楽しみに満たされていますから!」
「そうか、楽しいのなら良かった」
「はい~楽しいんです! 自分でも驚くほど!」
確かに最近のキースは生き生きしている。
ワシだけじゃなく、二人の面倒も積極的に見てくれているし。
ダンジョンの冒険などもわしらと同じようにワクワクと楽しんでいる。
長い、ある意味永遠にちかい魔人の人生で変化があることが楽しいんだろう、いいことじゃ。
それに、目をかけている人間が成長していく姿は、なによりも楽しいということに気がついたのかもしれんな……
そんなことを考えながら鍛冶を見守っている。
鍛冶仕事はある程度趣味的にやっていたが、基本的な仕組みは変わらない、ファンタジーな素材も扱い方は同じなら、自分でもやってみたくなるのが道理じゃが、流石に洗脳してここを使うのは気が引ける。
何か研究所みたいなものを作りたいのぉ……
「なぁキース。これ続けていけば結構まとまったお金が手に入るよな?」
「そうですねぇ、まともに換金したら国がひっくり返るくらいのお金になるでしょうねぇ」
「ああ、そうなるのかやっぱり……学校のそばにわしの研究所的な物を作って、いろいろとこの世界のことを研究したいなぁって思ったりするんじゃが……」
「おお! それは素晴らしいお考えです!
それなら簡単ですよ学校でそういう設備を作ってしまえばいいのです!
資金も用意していただけるならすぐにでも作りましょう!
ちょうどいい、ラオ様たちが思いっきり戦える設備も新設しましょう。
帰ってからの楽しみも増えました!」
キースがノリノリで計画を立案してくれる。
さらさらっと設計図を描き上げていくキース、そこにわしも面白がっていろんな機能を提案していく。
そうこうしている間にも鍛冶屋は熟練の技術で装備品を完成させていく。
ガルアにはドラゴンメイル、ドラゴンシールド、ドラゴンソード。
ミカエラにはドラゴンローブ、これは薄く細く延ばしたドラゴンの鱗をローブに編み込んである。
杖は現状の杖にドラゴンのエネルギーを混ぜ込んだドラゴンロッドにパワーアップ。
ドラゴン系の装備はドラゴンの鱗をそのまま一枚融合させてある。
こうすることでドラゴンの持つエネルギーが装備全体に行き渡りさらに強化してくれる。だけではなく、装備者自体にもドラゴンの生命力による加護を受けられる。
こんなに大量のドラゴンの鱗を用いた装備なんて、この世界には存在していないので、もしもばれたら大変なことになる。
「これがドラゴンの装備だなんてわかる人間はいませんよ、鍛冶屋の記憶も消しましたし」
そのあたりはケーンに丸投げだ。
ワシも道着と小手を作ってもらった。なるほど、なんか体が熱くなって活力に満ち溢れる。
肩こりや腰痛にも効きそうな素晴らしい装備が出来た。
ケーンは弓を作っていた。全体のバランスをとって遠距離で今後は支援してくれるとのこと、弓の形をしていながら杖のような働きも出来るそうで、ケーンにぴったりの武器になっている。
「やっぱり強力な魔物の素材はおもしろいな。よし、装備も一新したし、明日からはどっぷりダンジョンに潜るぞー!!」
「「「おーーー!!」」」
新しい強力な装備を手に入れてガルアもミカエラも失っていた冒険心に火がついてくれた。
「いまだよミカエラ!」
「わかってる!」
ドラゴンの強力なブレスも正面から受け止めるガルア、そしてその後方からミカエラが強力な攻撃魔法でドラゴンの鱗を切り裂いていく。
「すごい、いくら動いても全く疲れない!」
「魔力があふれてくるわ!!」
「鱗一枚だけでも人間にすれば膨大なエネルギーになるってことじゃな。
しかし、完全に二人でドラゴンを圧倒できるとは嬉しい誤算じゃな」
「もともとそれだけの訓練をお二人に課してきたラオ様の功績ですよ」
「いやいや、なかなか二人とも、まだまだ絞れるとわかってわしは嬉しいよ」
「……ガルア、私、今命の危機を感じたんだけどなぜかしら?」
「ミカエラも? ……なんか、一生懸命戦うほど自分の首を絞めてるような気がする……」
二人の予感はともかく、こうしてわしらはダンジョンの奥へと快進撃を続けていくのだった。




