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第26話 嬉し楽しい夏休み

 ケーンとガルア、ミカエラの3人相手の模擬戦は、だんだん気を抜けなくなってきた。

 まだ成長途中の体が軋みだしてからはより一層手こずるようになってきた。


「あたた、膝も肩も腕も、痛む……」


「ラオ君のそれは成長痛でしょ……僕たちはもうボロボロだよ……」


「どうして3人がかりであんた一人倒せないの……もうやだ……」


「ラオ様を倒すなんておこがましいですが、今日は今までで一番良かったように思いますよ!」


「ケーンの言う通り、今日は何度もヒヤッとしたぞー」


「ほんとに!?」


「それは嬉しいなぁ……いてて……」


「ガルアは一番矢面に立つから大変じゃろうが、もう少しいなすことと牽制を入れることで無理やり力で抑えつける回数が減るじゃろ」


「私は私はー!?」


「ミカエラは相変らずチャンスになると雑になる。チャンスの時こそ抑えて次のチャンスを作る動きをしていくんじゃ、この中じゃケーンが一番攻撃力があるんじゃからしっかりと裏方に回る時は回らんとな」


「はーい……だってちょっとはいいとこ見せたいじゃない……」ブツブツ……


「ラオ様、私はいかがでしょうか?」


「ケーンは流石じゃが、もう少し二人を信頼したほうがいいな、少し協力するようになってきたが、まだまだわしに言わせればてんでバラバラじゃ」


「えー、凄い三人で特訓したのに……」


「以前よりは遥かにいい。ただ、お互いのできることできないことをもっと高いレベルで共有すればもっとうまく合わせられる。この間見せたじゃろ? ワシは直接的に手を出さなくてもわしと組んだ3年生にミカエラとガルアはボコボコにされた。一対一で戦えば100回やっても負けない相手にだ。

 それが相手を活かす戦い方というやつじゃ」


「でも、あれは直接手を出さないと言っていいのか……」


「なんじゃ、文句あるならあとで100本組手の後に聞いてやるぞ」


「結構です!」


 そうはいっても、この三人。本当によく動けるようになった。

 たぶんもうこの世界に魔人以外相手になる奴はおらんじゃろ。


「ところでこの世界にはダンジョンとやらがあるんよな?」


「ええ、冒険者たちの活躍の舞台、やはりダンジョンと言っていいでしょう」


「凄いよねー、もしダンジョンを制覇したら巨万の富を得られるって話……」


「お父様も大部隊で何度も挑んでるわ、それでもダンジョンのハードルは高いわ」


「よし、今度の長期休暇はダンジョンで特訓じゃな!」


「え! いいのかな? 僕たちまだ……」


「ケーンが何とかするじゃろ」


「ああ……何とかしてみせますとも!」


「やったー! ダンジョンに挑めるなんてなんて素敵なの!」


「行っておくが、完全制覇を狙うからクリアするまでダンジョン内で寝泊まりじゃぞ?」


「か、完全制覇!?」


「ダンジョン内で寝泊まり!?」


「さすがラオ様! 歴史に名を刻みますね!」


「ちょ、ちょっとお! だ、だめよ、そ、そんな男女が同じところで……ま、まぁラオだったら……」


「ケーンとミカエラ、ワシとガウラでわかれればええじゃろ。ケーンは寝る必要もないんじゃろ?

 ミカエラを頼むぞ。わしとガウラは交代じゃな」


「御意」


「う、うん……でも完全制覇は無謀じゃ……」


「ら、ラオのバーカ!!」


「な、なんじゃいきなり……」




 そんなこんなで、来る夏休みは特別強化合宿と銘打ってダンジョン攻略へと向かう。

 この世界の魔獣との戦いはきっと3人の力になる。

 それと、村への仕送りも考えねばならないからまとまったお金もほしいという現金な面もある。


「よし、それじゃぁ休みまでは毎日対魔獣戦の特訓じゃな!」


「げ……魔獣役ってどなたが……」


「わし以外に出来んじゃろ! 張り切るぞぉ!」


「「「は~~~~~~~~~……」」」


 

 それから、わし以外は血反吐を吐く様な特訓を繰り返す。

 ワシも成長痛の痛みに耐えながら、頑張ったんじゃ。


「とうとう休みも間近、あとは体を休めて、ダンジョン探索のための準備をしよう」


「私、空間魔法で道具ならいくらでも持てますので、お任せください」


「楽しすぎな気もするが、ま、まだ子供じゃから今回はいいじゃろう!」


「よ、よかった。心の底から良かった」


「ケーン先生! 後で着替えを渡すから部屋に来てね!」


 買い出しに準備、だんだんとキャンプ気分で楽しくなってくる。


「そういえば空間魔法で食糧は痛んでしまうんじゃったよな?」


「ええ、ですので一部の食材は現地調達ですね」


「魔獣の味かぁ、楽しみじゃのぉ」


「一部の魔獣は超高級食材ですからね」


「私もお父様と一緒に食べたことあるけど……凄かった……」


「ふむ、楽しみがまた一つできたの!」


「日持ちする物は出来るだけ持ちましょう。あと調味料、それに調理器具も」


「ケーンは便利じゃのぉ……」


「ラオ様は空間魔法は使えないので?」


「どうじゃろ? 見たこともない」


「えーっと、では、このリンゴをほいっとな。

 そしてこうやれば、ほら取り出せました」


「ふむふむ、こうやって。こうじゃな。よしできた」


「な……」


「は?」


「さすがラオ様!」


「なんであんた新しい魔法なんてそんなすぐに使えるの!!!???

 新しい魔法なんて鍛錬に鍛錬して、しかも空間魔法は適性が!!!」


「もう諦めよう、これがラオ君だよ」


「あーーーーーーーもう!! この糞チート野郎!!」



 酷い罵声を浴びながらわしらは準備を終える。

 長い休みに入り、馬車でダンジョンのある都市を目指す。


 冒険者の街 ドウクーツ。多数のダンジョンに囲まれた町で、ワシらの夏休みが始まった。 


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