第25話 学園生活
再びわしは穏やかな学園生活を手に入れることが出来た。
わしの実力を目の当たりにした生徒たちは、恥も外聞も完全に捨てて教えを乞うようになった。
むしろ教師陣も一緒に参加するほどになって、すでにどっちが生徒で先生かわからない状態になってしまった。
しかし、その甲斐もあってか学園内のレベルは外とは一線を画すレベルまで向上していく。
「これほどの差が出るほど、甘やかされてたんじゃな……、この世界の人間、ずるくないか?」
「ポテンシャルはすさまじいですから、我々が危惧したのもまさにその点でございます」
あの神様、ほんとにこの世界の人間にあまあまじゃな。
「魔人は成長するんですか?」
ミカエラが質問する。というか、こいつはガルアとわしの部屋に当たり前のようにいるな……
「魔人は生まれた時から強者は強者ですね。鍛錬で生まれ持った差を覆せるとは思えないほど、残酷に差が付きます」
すでに達観しているのか、特に悔しそうでも悲しそうでもなく淡々と事実として話すケーン。
「でも、ケーン先生強くなったよね……?」
「そうそう、私も聞いてから強くなるに決まってるじゃんって思ったんだけど」
「私が……強く?」
「ええ、はじめはケーン先生と戦っていてもあまりに差がありすぎてわからなかったけど、最近は先生の動きとか意図を考えることが出来るようになって、それがどんどん複雑になって、相手をしていてすごく勉強になって……」
「攻撃も前は雑に魔法をばらまいてるだけだったのが、他のメンバーとの連携を妨害したり、攻撃しようとしたときにうまく邪魔して来たり……すごくやりづらくて、強くなってるって感じてた」
「……しかし、魔力量も魔法の威力も変化したわけじゃあ……」
「強さというものは何も魔力がある、力があるだけで決まるもんじゃない。
それをどう生かすのか、このところきちんと頭を使って戦うようになって、戦いの中での自分の強さが育ってきているんじゃろ。なまじ生まれた時から力を持っているから、力の使い方を工夫するってことをしらんのじゃろ魔人は」
「確かに、ラオ様に指導を受けてから戦闘中に今までとは比べ物にならないほど頭をフル稼働していました。どちらかというとこういう戦い方は魔人としては小賢しいなどと言われてしまうのですが……」
「あふれるほどの力を下手に使うよりも、限られた力をうまく使ったほうが勝つことなど珍しくもない。ケーンもまだまだ強くなれるということじゃ」
「今後ともラオ様のお言葉に従って精進していきます」
「そこに行くとラオは卑怯よね。化け物級の能力に化け物級の技、化け物級の頭脳で操ってるんだもん!
勝てるわけないじゃない!」
なぜそこでワシが怒られないといかんのじゃ……
「それでもここまで来られたのはラオ君のおかげだし……」
「そんなことわかってるわよ! でも、ちょっとはラオのそばに行きたいじゃない!
あっ! ち、違うわよ、そばにって言うのはそういうことじゃなく、実力としてって意味だからね!?」
何を必死に弁明しているのかわからんが、ワシだって今までの血反吐を吐いて這いつくばって得た経験と知識のおかげじゃからのぉ……前世でじゃけども。
「学校もわしらのやることが定着して全体的に明るい雰囲気になってるのもいいことじゃな」
「どこかにあった選民意識が薄れて、お偉いさんの子も庶民の子も分け隔てなく仲良くし始めましたね」
「……選民意識も我々が関与してますので……」
「ああ、そういえば上層階級にも魔人が潜んでおるんじゃったな」
「無能なものを偉くさせておくのが組織の弱体化には有効ですから」
「……ってことは偉ければ偉いほど……無能?」
「基本的には」
父親が超上層部なミカエラはがっくりと肩を落とす。
「無能なものほど立場に固執するし、その虚栄にすがろうとする。
あとは有能なものを蹴落とすようにそっと助言すればあっという間で、もっとも簡単な仕事だったと聞いてます」
「うん、わかった。わかったけど、その話はおしまいにしよう」
ミカエラが目に見えてへこんでいくのが見ていられない。
「穴があったら入りたい……私もまんまとその考えに染まっていたってわけね」
……場を静寂が支配する。
「ちょっと!! そこは嘘でもいいからそんなことないよって言いなさいよ!
ラオ! 気が利かないわね!!」
「な、なんでワシが怒られねば……」
視察が終わり、魔人サイドでもケーンに全てを任せる流れになり、学園内は穏やかに、しかし確実に人間が成長していく本来の学びの場としての機能を回復していくのである。
教師も、そして生徒も努力すること、考えることを取り戻し、健全に成長していく。
今ではいくつかのグループに分かれてわしが居なくてもきちんと人を指導できる能力を持つものも出てきている。
彼らが社会に出て行けば、人間社会自体の大きな変化のうねりとなるだろう。
「外に出て、他の人間との差異をきちんと受け止められるように、思想教育も取り入れるか……」
「さすがラオ様、我らなみに黒いですな」
ケーンから釈然としない褒められ方をしたが、なんにせよ、学園生活は社会改変の日へ向けて着実に歩みを続けていくのであった。




