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第二話 転生、誕生

完結させたらって言ったような気もします。


 わしが生まれ変わったのはミラ様の世界の片田舎の小さな家の息子。小さな農場で自給自足な生活をしながら、余った野菜や家畜などを売って暮らすつつましい家族だった。


「おめでとうシーラさん。珠のような男の子だよ!」


「うおおおお!! シーラ! よくやった! 大丈夫か? つらくないか!?」


 大騒ぎして一人取っ散らかっているのがわしの父親、ベルド。落ち着きはないしうるさいが、優しく真面目ないい男だ。


「ベルドさん! あんたが大騒ぎしたらシーラも疲れちまうよ!」


 近くに住むライラおばさんはこの小さな村で子供を取り上げている産婆さんだ。


「す、すまない……」


 産婆に取り上げられたのがわし。もちろん赤子にはっきりと周囲を理解する事などできない。耳も聞こえず目も見えない。この感覚は魂のなかのラオとしての、まぁ過去のわしの能力と言ったところじゃ。


「ああ、なんてかわいい子……愛する我が子、貴方の名前は決まっているの、ラオ……夢に出た神様から授かった名前よ……」


 そして、わしを優しく抱いてくれている女性が母親のシーラ。光り輝く聖女のような美しさはないかもしれんが、素朴で優しそうな女性だ。働き者で優しく村でも大変評判の良い自慢の母となる。


 しばらくはさすがのわしでも自由に動くことはまかりならない。されるがままに世話をされ、乳を飲み、排泄をして眠る。魂のわしはやることもないのでこの世界でも気などを練って過ごしていた。その時にはこの世界に存在する魔力というものの存在にも気が付いた。扱い方は気と変わらないので、そちらもいろいろと試して時間を過ごして行くことになる。


 赤子の日々はあっという間に過ぎ去っていく。二人に宝のように大事に育てられながらも、わしは自分の体の仕組みや、気、魔力など生前につかんだ様々な『ことわり』をつかむために心の鍛錬を怠らない。


 以前のわしは、父も母もおらんかった。月の女神の子たちという施設で育てられ、その才能を認められ月影の民にひきとられた。そんなわしにとって初めての親の愛というものは、心地よいものだった。それを知れただけでもミラ様とアルテス様にはどんなに感謝してもしきれないと言ってもよい。ミラ様は好きに生きるだけでいいとおっしゃってくださったが、わしは出来る限りあの方のために生きようと強く誓った。


 もうひとつ、ミラ様には感謝してもしきれない物がある。それは3歳の時、外に出た時に出会えた。


「ラオちゃん。鳥さんが食事しているね? かわいいね」


「か、かわいいですおかあさん」


 庭で小鳥たちが朝の料理で残った野菜くずをついばんでいる。田舎ではさして珍しくもないこの光景が、わしにとっては奇跡以外の何物でもなかった。


 わしが半径10m以内にいるにもかかわらず、動物が逃げ出さない。それどころか、この手で牛など動物を触れることが出来る!この素晴らしさ!!


 以前のわしはそれこそ自身で呪いと思っていたほど動物に嫌われた。月影の道具には訓練された鳥やサルなどを操る術もあるが、なぜかわしは一切の動物から生命をかけて嫌われた。わしは、殺すとき以外動物に触れたことが無かった。


「おかあさん、わ、僕は動物が大好きです!」


 わしのほうはこんなにも動物を愛していたのに……


 と、いうわけで、これはわしにとってあの方に忠誠を誓うに値する変化なのじゃ!


「牛さんたちのお部屋綺麗にしてきます!」


「ラオちゃんはいい子ねぇ、でもケガしないようにママも一緒に行きますからね」


 それからは動けるようになったら親の手伝いと称して家畜たちと触れ合う日々を満喫。馬のブラッシングをして気持ちよさそうに尾を振る姿に頬を緩ませ、子牛がわしの手から幸せそうに乳を吸う姿にはたまらなくなる。鳥たちの卵を集めながら小屋の掃除をして、豚たちに野菜の端などを与える。そういった触れ合いのすべてがわしの心を満たしていく。


「幸せだなぁ~」


「まぁ、ラオったら。ほんとうに動物が好きなのね」


「俺が子供のころはそういう仕事、嫌で嫌で仕方なかったけどなぁ。ラオは凄いなぁ」


「僕だって子供らしく外で遊んだりしますよ。動物が可愛いのは別問題なのです!それでは、今日も遊んできます!」


 朝の世話が終われば、子供らしく外へ出て遊びまわる。と、いってもわしにとってのソレは鍛錬の一環じゃ。森に入ったら周囲の気を探り、身体に気と魔力を巡らせる。前の世界と同じように身体能力が向上する。魔力がある分、前の世界よりも高性能になっている。3,4歳の幼児であっても大人顔負けの力を発揮する事が可能じゃ。


「……ふむ、今日は鶏肉のスープじゃな」


 森の中の気配を探り、近くに野鳥の気配を感じる。煮ても焼いても美味しい母上の好物、これは張り切らねばならん。味はいいが捕らえるのは非常に難しい。頭がよく罠などにはかからないし、非常に憶病なので少しでも気配を悟られればすぐに逃げられてしまう。距離が遠ければ矢の風切り音を聞いてから避けるほどの敏捷性もあって非常に厄介な相手じゃ。


「月影は闇に溶け込み、無となる……」


 気配を消すことなど月影の技の初歩の初歩、たとえ森の中だろうと一切の音もたてずに空気と化して移動することなど児戯に等しい。幻の食材オー鳥の横に立っても気が付かれることは無い。


(全て余すことなく頂くぞ)


 祈りを済ませ命を刈り取る。一瞬の苦痛も感じることなくオー鳥は大地に伏せる。親にねだってもらった小さなナイフですぐに血抜きを行って木につるしておく。その際には用意していた瓶に血も全て回収しておく。一切捨てるものなどないのだ。


「大物が手に入ったし、あとは川にでも寄っていこう」


 水辺に付けば美しい小川を川魚が気持ちよさそうに泳いでいる。魚はもっと簡単だ、すっと手を入れてつかみ上げて籠に入れる。それだけだ。前は近づくだけですべての生命が逃げていくのでこんなに楽な捕り方は出来なかった。数百メートル離れて投針で仕留めていた。 


 このように、自作の弓を担いで森や川で遊べば、大量の獲物を、同じく自作のそりに担いで家に帰る。はじめこそ大騒ぎになるほど驚かれたが、今では毎日のお勤めのようになっている。山菜や木の実、果実やきのこなども道すがら集めておくとさらに喜ばれる。森なんて周りにいくらでもあるので、自然からのありがたい贈り物だ。


 わしが狩りを始めてから貧しかった我が家は目に見えて潤った。我が家だけではない、おすそ分けする村の皆も以前は飢えに怯えて暮らしていたのが嘘のようだ。おかげでわしは村で非常に可愛がられている。


 それにして、若い身体というものはよく動く。99でも現役で動いていたつもりだが、今の体の爆発しそうなエネルギーには勝てる気がしない。


 夜になればこの世界についての勉強。とうさんとかあさんといっしょにいろいろなお話を聞かせてもらう。時には村のじーさんばーさん連中が話をしに来てくれたりする。いつも、もっともっととわしがせがむもんで親も気を使ってくれていた。


 特に、前の世界にはなかった魔法の話がわしは興味津々じゃ。とうさんもかあさんも高い魔法適性がなく、かあさんがものすごく初歩の回復魔法を使える程度なのが残念じゃ。もう少し詳しく学びたかった。村で少し魔法が使えるマーグじーさんが基本的な魔法の鍛錬の仕方を教えてはくれた。


 魔法は大きく6つの力に分かれておる。 火、水、土、風、光、闇。たとえば火の魔法だと、火の火力のコントロール、同時に作り出す火の玉の数のコントロール、その火の玉を操るコントロールを訓練することで火を扱う技を鍛える。しばらく試していれば、すべて理があることに気が付く。このあたりは前の世界と同じだ。一つの属性でその理に気が付けば、あとはその属性を変えるだけ、やることは基本的に同じだ。毎日この訓練は寝る前のわしの日課になっている。おかげで4歳になるころにはすべての属性をそれぞれランダムに、バラバラに稼働させたり複数の属性を組み合わせてちょっと異なる結果を産んでみたりと様々な発見をしていた。きちんとした魔法使いと呼ばれる人が居なかったのは逆に幸運じゃった。もしそういう人が居たら、こんなでたらめな方法は咎められてやめさせられていたじゃろう……


 5歳になった朝、親に連れられて教会へと向かう。教会に行くだけでも隣の町まで行かなければならないので一大イベントになる。それでも毎日のように野山を駆け回っているわしにとっては町までの道など散歩と変わらない。


「とうさん、かあさん、今日は教会で何をするのですか?」


「今日はラオにとって大事な日なんだよ。この国の子供は5歳になったら皆、教会でお告げをもらうんだ」


「お母さんもお父さんも子供のころそうして自分の進む道を決めていくの、私たちはあまり役に立つ『ギフト』が無かったから村でのんびりと暮らしているけど、ラオは天才だからきっと素晴らしいギフトを持っているわ」


 父も母もわしのことを天才と呼ぶが、わしの生前の努力の賜物なだけだ。生まれ持ってそれを神から与えられたことを考えれば、文字通り天才なのかもしれない。


 隣町、名もないうちの村から歩いて3時間ほどの小さな町。その名をミトアという。5歳の誕生日の儀式を教会で受ける。


 これがわしの人生の最初の転換期になる。

不定期? 連続?

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