第18話 装備
放課後の訓練は段々と生徒たちの間で噂になってくる。
そりゃそうだ、今まで目立つことなく、それどころか落第するだろうという落ちこぼれたちが、急激にその実力を伸ばして優れたギフト持ちを圧倒し始めてきたのだから。
さらにはどうせ庶民の子と放っておいた教師陣も自らの指導した武器以外でニョキニョキと頭角を現す生徒を見て焦り始めていた。
それでも直接ワシに聞くほどではない、そんな微妙な関係。
授業中のわしは従順で素直で田舎の庶民の息子であることをわきまえた優等生を演じておるからの。
そんな中放課後の訓練に参加する人数は少しづつ増えてきて、下級貴族的な位置づけの三男坊とかの微妙な立場の人間なども自分自身の力に気が付いて生き生きと参加したりして、わし個人としてはよかったのぉと温かい目で指導を続けている。
「とうとう明日じゃなガルア」
「ええ、ラオ君のおかげで、少しは自信が付いたよ」
「防御に関しては言うことは無い、ただのぉ……攻撃がからっきしじゃからなぁ……」
「苦手なんだよ人を相手に攻撃するのが……でも、考えがあるから大丈夫!」
「うむ、ガルアがそこまで言うのならわしはガルアを信じる」
「それにしても、そろそろ本番を想定してやろうって言いだして魔法を使い始めた時にはびっくりしたよ……ラオ君は絶対格闘家か何かのギフトだと思ったのに、しかも魔法も……本気を出したらこんなものじゃないんだよね?」
「ああ……そうじゃな、きっと本気を出せばもっと出来ると思う」
「やっぱりね……ラオ君は本当に計り知れないや」
対決前日、最後の訓練でガルアは明日の対決に恐怖心を抱くこともなくリラックスしていた。
毎日毎日わしとやりあっているせいで、誰と戦ってもなんとも思わなくなったなんて失礼なことを言っておった。
なんにせよ、この世界でわしにとっての初めての弟子になるガルアは、こと守ることに関してはどこに出しても恥ずかしくないほどの技量を持つに至った。
「今のガルアならわしも背中を預けて安心して戦えるのぉ」
「それは嬉しいな。もし学校退学になったらラオ君と冒険者にでもなろうかな」
「おいおい、ワシは首席で卒業予定なんじゃから!」
やれることは全てやった。
明日はせいぜいミカエラや学校の教師どもの曇った目を吹き飛ばしてやるとしよう。
「さぁて!! とうとう始まりました今日の模擬戦! 司会は学校一のトーク力で皆を盛り上げるライーーーッツィヒ!!」
会場がどわーっっと歓声に包まれる。
ガルアとミカエラの模擬戦は噂が噂を呼んで生徒主体で一大イベントに祭り上げられていた。
「あーかコーナー、万年下位が指定席、ところがこの一か月で突然才覚を表して今では鉄壁の二つ名を得ているぅぅぅーーーーーガァァァァァルゥゥゥゥゥアアアァァァァァァ!!!」
ブーブーと貴族席からはブーイングも出ているが、それをかき消す歓声も起きている。
庶民や下級貴族の熱い声援を受けてガルアもまんざらではなく手を挙げて応えている。
「あーーおコーナー、本校始まって以来の魔法の天才! さらにその一流の血脈が今ここに一人の伝説を作り出そうとしている! わが校期待の勇者候補!! ミカーーーーーーーエエエエェェェェェラアアアアァァァァァァ!!!」
大歓声が巻き起こる。もちろんブーイングするなんて恐ろしいことをやる人間はいない。
中立でいなければいけない教師たちさえも立ち上がって拍手をしている。
結局この姿がこの学園をよく表している。
「良く逃げずに現れたな、褒めてやる!」
「逃げたらラオ君が怖いから……」
「はっ!! あんなガキの言いなりか! 相変わらず情けない奴!
今日は先生も見ているし、万が一何か起きても事故だ。本気でやらせてもらう……死んでも恨むなよ」
「あ、ああ……が、頑張るよ」
「はっはっは、そうそうせいぜい死んでくれるなよ!」
でかい図体を小さく折りたたんでガルアが戻ってくる。
「なんじゃ、挑発の一つでもしてくればよかったのに」
「そ、そんなことしても意味ないよ……」
「なんにせよ、ガルアの思い通りにいくことを信じておるぞ」
「う、うん。行ってくる」
ガルアは魔法による結界の張られた闘技場内へと入っていく。
共に訓練を重ねた生徒たちからは温かい声援が送られる。
しかし、そのささやかな声援はミカエルの登場と共にかき消されてしまう。
そして……
「ラ、ラオ! ミカエル、実戦装備で来ているぞ!」
「ほう、なにやら立派な格好をしておると思ったら……」
ミカエルの身を包むローブや杖からは魔力の波動を感じていた。
かるーく『鑑定』(実際には神眼という最上位鑑定系スキル)で見てみると、HR級の装備と見て取れる。さらにはミカエル自身にも様々な補助魔法がかかっている。
「ハイレア!? す、すごい! 一流の魔導士が装備するレベルじゃないか!
止めないとラオ君! ガルアが殺されちゃうよ!」
確かにガルアは訓練用の木製のラウンドシールドと木製で刃を丸めた長槍。Nレベルの価値もない装備だ。
「大丈夫じゃ、それでもガルアが考えている方法なら問題ない」
一度闘技場に入れば、外からの補助魔法をかけることは不可能だ。
装備を見ても火力特化、耐久戦向けの装備ではない、ガルアの戦力は持久戦による魔力切れによる降参狙い、今のガルアの力量なら卑怯な手立てを積んだミカエルの攻撃でもしのぎ切れるはずじゃ……
「そぉぉぉれでぇぇぇはあああぁぁあぁぁぁ!! 試合、開始ーーーーーー!!!!」




