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第17話 下ごしらえ

 訓練場にブンブンと木刀が空気を震わせる音が満たしている。

 そこにはガルア以下14名の『生徒』が一心不乱に剣を振るっている。

 共通するのは平民の出で、いまいちパットした結果を出せていない、所謂落ちこぼれたち。

 タスタやバジルは参加していない。

 彼らには彼らの矜持があるのだろう。


「それにしても、皆成長が早いな……」


 まだ素振りという訓練方法を行って3日目だが、皆、初日とは別人のようなよい振りをしている。

 これは、あの神様が、本当にこの世界の人々に甘い可能性が高い。やればやるだけ成長する、そんな優しい世界の可能性があるぞ……それなら……


「よし、みんなで模擬戦方式で戦おう。もちろんコマンドは使わない。

 もちろん皆慣れていないから、いつもコマンドで戦っていた動きを思い出して自分の体でそれを再現するイメージでやってみるのじゃ。そして、大事なことは、出来る限り動きをゆっくりとやるのじゃ。

 こんな感じでな」


 早く動かすのではなく遅く動かすことで一つ一つの動きをしっかりと確認し、身体の動きをイメージしながら操る訓練。本来はもっともっと基礎をしっかりとやってから行う訓練じゃが、この世界の神の甘さにかけてみる。


「わしの相手はガルアか……この形の組手は初めてじゃな」


「ゆ、ゆっくりならついていける」


「そう、みんなそう思うじゃろ? しかしな、不思議なもので極限までゆっくり動いても、強い人間と弱い人間だと強い人間が勝つようになってるんじゃよ」


 緩やかな動きの中から相手の考えていることを掴んで先手を取って動いていく、それを連続して行っていくとちゃんと相手を追い込んでいける。

 この訓練ははたから見るとふざけているみたいに見えるが、行っていることの内容は驚くほどレベルが高い。

 予想通り、この訓練を皆難なくこなしている。普通だったらその難しさにすぐに音を上げるものがほとんどのはずだ……

 ガルアもよくわしの意図を組んで数手ほど打ち合えている。

 わしとこの組手で数手打ち合えるだけでも中堅以上の使い手と言ってもいい。

 顔に出さぬように感心する。


「ま、参った」


 わしの木剣が首元に当てられる。しかし、わずか一日の訓練で見れるだけの組手を行えるようになっていることにわしは驚愕していた。予想以上に教え甲斐がある。いや、ありすぎる。

 目の前にいる生徒全員が、教えることをスポンジのように吸収してぐんぐんと伸びていく。

 これほどの快感はあるだろうか? 3代後の月影になった者を初めて見染めた時と同じような快感をが得られる。あの者は間違いなく天才だった。つまり、この世界の人間は生まれながらにして天才ぞろいということなんじゃろうか?


「皆、素晴らしい。この戦い方を徐々に速度を上げていけば、コマンドなどにも頼らずとも、むしろコマンドよりも多彩で変化のある戦闘を行うことが出来る。

 さらに鍛錬を積めばギフト持ちだろうが努力で勝っていれば負けることは無い!」


 全員がざわめきだつ、何よりも今日一日で自分たちが確実に成長していることを体で感じているだろう。授業では得ることのできない努力の成果がこれほどはっきりと表れる世界。


「今日までは片手剣を皆に使ってもらったが、明日は、まず自分にしっくりと来る武器を探すことにしよう。ギフトが無ければ片手剣、ではなく、自分に合う武器防具を見つけよう」


 コマンドをはじめとして、ギフトにスキル。与えられたもので戦うことをあたりまえとしてきたこの世界でこの考え方は異端扱いらしい、しかし、確信している。

 この世界はもっと広い意味ですべての人間にやさしい世界だ。


「さて、ガルア早速始めようか」


 皆との2時間ほどの訓練が終わったらガルアとの個人授業。

 頑強のギフトをいかんなく発揮してもらう。

 

「冗談抜きでそのギフトは素晴らしいな! そのスタミナと頑丈さは折り紙付きじゃ」


「毎日毎日これだけぼこぼこにされれば……少しは慣れますよ」


「ほう、もう少し本気を出してもええのか?」


「う、嘘です……ほんとに、ラオ君ってなんでそんなにでたらめに強いんだよ……」


「……なんだかんだギフトに文句を言ったが、わしもギフトのおかげなんじゃろうな……」


「その噂の読めないギフト……なんなのかラオ君はしっているの?」


「たぶん……いや、おそらくそうじゃろうが、まだ言えん」


「そっか……でも、僕はラオ君に会えてよかった。最近毎日が充実しているし、2年も学校にいて自分にこんな力があるなんて知らなかった。どんどん強くなっていることが実感できる!」


「まだまだ、こんなもんじゃないぞい」


「うん! だから、もう一戦お願いします!」


「その意気じゃ!」


 事実ガルアの戦い方は劇的に変化を起こしている。

 無駄に動かしにくい大楯ではなく中型の盾に変えて、牽制にも片手剣よりも優れる槍を利用し始めてからはその防御の壁を打ち破るのはわしでも工夫が必要になってくる。

 授業ではわしの指示で今まで通りに過ごしているが、動きは別次元になっており教師たちを驚かしている。わし自身も標準的な動きをトレースして行っているので、至って目立たない、標準以下の生徒にみえておる。そんな出来の悪い生徒が最近伸び盛りの生徒と放課後に訓練場を使う健気な生徒、そんな印象でいいのじゃ。


 実際に学校の教師を合わせて驚愕させるのは、試合の時でいいのだから。

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