(8)
その日は
雪が降る聖夜だった。
夜空に映える綺麗な雪だった。
「メリークリスマス、ちーちゃん。」
人工呼吸器をつけたちーちゃんは僕を見て微笑む。
「……っ。」
口を数回動かす。
けれど、声は聞こえない。
「なに?
もう1回言ってみて。」
そう言って僕は彼女の口元へと耳を傾ける。
最初はこの行為に照れていたけど、何回もやるうちに慣れてきた。
今では当たり前の光景だ。
「……メリー……クリス、マス。
おにーさん。」
小さな、小さな声で彼女はそう言った。
「……今日はね、ちーちゃんにプレゼント持ってきたんだ。
なんだと思う?」
「………?」
不思議そうに首を傾げた。
「じゃじゃーん。」
僕はカバンを探り、1枚の紙を彼女に見せる。
その瞬間、彼女は大きく目を見開き、僕と紙を何度も何度も見比べる。
「……っ!!!」
「うん。ふふ。
ちーちゃん、前に言ってたでしょ?
遊園地。」
「―――っ!!?」
「病気が良くなったら
僕と一緒に行こうよ。」
そう言って僕は軽く彼女の手を握る。
「……ん!!」
嬉しそうにそう頷き、彼女は弱々しく手を握り返す。
「約束ね。
急がなくていいよ。焦らないで。
僕はずっと楽しみに待ってるから。」
これが、聖夜に交わした二つ目の約束。