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第89話 无に挑む(その5)

「ソルゲイズ!」


 瞬の合図で、轟が再びバウショックの右手から生まれた大火球を撃ち放つ。

 ゲルトルートの頭上を通り抜けるような軌道で、限界まで遠く。

 迷いのない動作は、轟が、この陣形の有効性を理解している証拠だった。

 三人の中で図抜けた戦闘センスを持つ轟ならば、一度見せつけてやるだけで、感覚的に理屈を吸収して我が物とできる――――

 今度は轟が、そんな瞬の信頼に応えたというわけだ。


「要は霧島対策と似たようなもんだ。追えねーなら、逆に追わせりゃあいい」

「そのとおりだぜ、轟……!」


 瞬は微かに笑みをこぼしながら、叫んだ。

 ヴィグディス本体ではなく、その真逆を狙うという選択肢こそ、この場における最適解。

 バウショック、ゲルトルートという二段構えを間に挟むことで、熱量放射の時間を引き伸ばすことができるからだ。

 しかも、存在の消失がトリックである以上、ヴィグディスにソルゲイズを吸収しないという選択肢はない。

 一瞬で全身を覆い隠すほどの能力ならば、それを成す装置は、常に露出していると考えていいからだ。


「オレ達もダメージを受けるが、ソルゲイズの熱で一番困るのはあんただよな……ジュバ」


 瞬の問いかけに、ジュバが僅かに唸ってみせる。

 ジュバとしては無力化を印象づけることで自分達の心を折りたかったのだろうが、目論見どおりにソルゲイズの使用を控えれば、ますます泥沼に嵌っていくだけだ。

 撃てば必ず対応を強いることができるのだから、他の手段でどう代替するかではなく、どうやって押し通すかを考えるのが正しい判断。

 アイデアよりも前に、思考の方向性を修正できたのが、反撃のきっかけといえる。


「突っ切るのか? それとも遠回りか? どっちでも構わねえぜ」

「ああ、どっちでもいい。テメーの負けは確定なんだからよ!」


 轟がそう発した瞬間、三百メートルほど先で停止した熱量体が急速に体積を増大。

 再び戦場を暴虐の光が照らし、激しく熱風が吹き荒れる。

 かなり地表に近い位置での膨張であるため、先程よりも各メテオメイルが受ける熱的負荷は倍増していた。


「くっ、ここからでは遠い……!」


 焦るジュバの声に、嘘はないように感じられた。

 おそらくジュバに、二機の上空を飛び越えて吸収に向かう度胸はない。

 変形プロセスが完了し、巨大な黒剣となったゲルトルートが、真正面に存在しているからだ。

 ほぼ直線方向にしか移動のできないスクリームダイブ形態だが、威嚇効果は十分にあるはずだった。

 もっとも、ジュバが左右を通るルートを選んだところで迎撃に成功する確率はゼロに近い。

 ここは、あくまで時間を引き伸ばすだけだ。


「どのみち、このまま飛んだところで当たりはしねえ」


 変形後、数秒は滞空できていたゲルトルートだが、重量を支えきれずにじわじわと高度を落としていく。

 右脚のメインスラスターが破損しているのだから、当然といえば当然だ。

 だが、自身の役目は問題なく果たしていると瞬は信じて疑わない。

 接地する寸前のゲルトルートを、駆け寄ってきたバウショックが下から持ち上げたからだ。

 出任せの発言でないのは、その行動を見れば明らかだった。


「なるほどな、こういうわけか。俺にも読めたぜ、テメーの策が」

「そうだ、それで合ってる」


 轟の動きを嬉しい誤算だと、瞬は思わない。

 轟はもはや、ただ個人技を磨き続けるだけの獣から完全に脱却した。

 更なる高みを目指すための過程に、味方を利用し尽くすという道があることを知っているのだ。

 そして、セリアとの再会を果たすという目標を得たことで、より連携への意識は高まっている。

 策の根幹を閃くのは瞬の役割だが、轟はその完遂に向けて無駄なく動ける対応力を持つまでに至っていた。


「随分とまた力技を思いついたじゃねーか」

「方向転換ができねえゲルトルートで奴を狙うには、こうするしかねえからな」

「俺好みだ、丁度いい」

「タイミングは任せるぜ。意地でも当ててやる」


 成功率はともかくとして、意思の疎通は万全だった。

 わざわざ一部始終を説明するまでもなく、バウショックは膨張を続ける熱量体に向けて駆けた。

 ほぼ同時に、熱量体から百メートルほど脇に逸れた場所で、ヴィグディスが姿を現す。

 かかった時間から察するに、やはり予想通り、迂回を選んだようだ。


「ふふふ、どうにか間に合いましたよ。ナータスティーラー展開……! すべてを无にする絶対の加護で、私を護りなさい!」


 装甲を焦がされながらも、ヴィグディスは背面の迦楼羅炎を再度分離させ、無数の端末機として熱量体の周囲を取り囲む。

 熱量体は、既にヴィグディスの全長の倍ほどにまで直径を増やしていたが、それでも領域へ閉じ込めることは可能なようだった。

 だが、こちらも準備は万端だ。

 バウショックが持ち上げたままのゲルトルートを一旦浮かし、向きを反転――――その切っ先を、遠く先のヴィグディスへと向けた。


「させるかよ……! いいな、瞬!?」

「おう!」


 瞬は応じつつ、ゲルトルートのオーバーブーストを作動させる。

 限界を超えた推力が、残る二基の大型スラスターより解き放たれた。

 とはいえ、本来のコンディションと比べれば加速性能は三分の二。

 ヴィグディスに突き刺さる程度の威力があるとはいえ、必殺の域からは外れている。

 だが、その弱体化を、バウショックが、そして轟が補う。


「ブチ抜いちまえ!」


 轟の咆哮と共に、バウショックが渾身の力でゲルトルートを投げ放つ。

 TypeFフレームの柔軟な可動と、人体同様に大地を踏みしめて勢いを増す助走。

 加えて、バウショックの各部に搭載された補助駆動機関による絶大な膂力。

 それらが組み合わさって生み出された驚異的運動エネルギーは、スクリームダイブに本来の速度と突進力を取り戻させた。

 即座に音速の世界へ踏み込んだ巨剣は、空間を矢のごとく貫き、大気の鳴動とともにヴィグディスへと迫る。


「貫け、ゲルトルート!」


 加速用のフットペダルを全力で踏み込みながら、瞬は叫ぶ。

 全てのメインスラスターが一方向に集約・固定される関係上、本来あり得るはずのない、変形後の百八十度転進。

 しかし瞬は、バウショックの力を借りることで不可能の実現に成功した。


「なっ――――」


 ジュバはヴィグディスの身を捩り、咄嗟にスクリームダイブを避けようとするが、もはや遅い。

 ゲルトルートの先端から伸びる長大な刀身が、とうとう、その胸部中央を刺し貫いた。

 厚く強靭な物理の刃と、その側面より放たれる光刃。

 切断と溶断、二重の破壊により内部機構がえぐり尽くされ、背と腹の両方から爆炎が血のごとく噴出する。


「ようやくだ……ようやく、あんたを捉えられた!」

「まずい……まずいまずいまずいまずいまずい! まずいまずいまずい! このままでは閉幕とじる、閉幕とじてしまう! 勝利の可能性が!」

「おつむの出来がいいのは認めてやる。だけどな……踏んできた場数が違うんだよ。悪いがあんた、土壇場の粘りがまるでなっちゃいねえ」


 あんたが無能とこき下ろしたクソガキ二人は、メテオメイル戦の経験ならトップ2だ――――瞬は内心でそう付け足す。

 そして、既に致命傷を与えていながらゲルトルートの加速はまだ止まらない。

 スラスターが悲鳴を上げてもなお、瞬はフットペダルから足を離さず、ヴィグディスを浮遊する端末機から引き剥がす。

 ヴィグディスは脚部を地面に擦りつけて減速を試みるが、あと十数秒、ゲルトルートが力尽きるまではこのままだ。


「これまでもそうだったが……やっぱり、エネルギーを吸収している最中は姿を消せねえみてえだな。だからオレは追わなかった、あんたを油断させるためにな」


 ソルゲイズが発動している最中は、ストリームブリットやクリムゾンショットといったエネルギーを圧縮して放つ飛び道具は、撒き散らされる超高熱によって掻き消える。

 その上、ゲルトルートも真逆を向いたままの状況で、バウショックともども実弾兵器は搭載されていない。

 ならば姿を晒しても安全だと高をくくったのが、ジュバの敗因だ。


「油断しているのはあなたの方ですよ、風岩君……!」


 直後、バルジエッジが変形したゲルトルートの中央―――――エンジンブロックの付近に突き立てられる。

 損壊具合を見るに、近い内に機能停止することは必定とはいえ、それでも機体の中央機関を潰したとは思えないほどの余力だった。

 コックピットからずれたとはいえ、それでも間近に切っ先が食い込んだせいで、外部の各種センサー類と繋がった計器類の大半は死に至る。

 正面モニターも完全に暗転し、通常は使わない右脇のサブモニターが代わりに点灯する。


「瞬!」

「死んじゃあいねえ!」


 轟にそう答えた矢先、機体にかかる抵抗が一気に軽くなる。

 オーバーブースト時間の超過でスラスターの噴射が停止するまで、あと五秒程度の猶予が残されているというのにだ。

 疑問に思い、目を凝らしてみれば原因はすぐに判明した。

 ヴィグディスの下半身が、上半身から分離を果たしていたのだ。


「なるほど……そいつがボイドレギオンの仕掛けのタネか」


 死に際の一射と言わんばかりにヴィグディスの口部に光が収束するのを見て、瞬はゲルトルートのジェミニブレード部位を強制排除パージする。

 主要攻撃手段を失うことにはなるが、道連れにされるのだけは御免被りたかった。

 そのまま、間断なく人形形態へと再変形を開始。

 側面に回り込んできたヴィグディスの下半身に蹴り倒されるのは、承知の上でだ。

 スクリームダイブ形態のまま無抵抗で踏み潰されるより、立て直しは容易である。


「体を切り分けて、攻撃を躱してやがったとはな。こんなくだらねえトリックに、オレたちは散々翻弄されてたってわけかよ……!」


 最初のスクリームダイブやバウショックの近接格闘は、二つに別れたヴィグディスの間を通り抜けていたというわけだ。

 ストリームブリットやクリムゾンショットをわざわざ可視化状態で捌いていたのは、接続面の破損を避けるための措置。

 エネルギーの吸収中に分離ができないのも、半身だけでは変換処理ができないと考えれば説明がつく。

 しかも嫌らしいことに、コックピットとメテオエンジンの搭載箇所は下半身。

 上半身がジェミニブレードと共に四散してもなお、元気に動き回り続けているのがいい証拠だ。


「このまま形勢逆転とはいきませんよ……!」

「こいつ……!?」


 直後、ジュバの取った行動は完全に瞬の予測を外れていた。

 上半身が爆砕する寸前に分離していた無数の端末機が、最後の力を振り絞るようにしてゲルトルートに接近。

 四肢や胴体に突き刺さり、熱量を吸い上げていく。

 そしてヴィグディスの下半身もまた、両足の爪先と踵を蟹鋏のように変形させてゲルトルートへと組み付いた。


「くそっ、離しやがれ!」


 振りほどこうにも、肘から先が失われている上に、端末機にエネルギーを強制放出させられて出力が上がらない。

 そうしている間にも、取り込まれたエネルギーの分だけヴィグディスの熱量反応が増大していく。

 しかし上半身とは異なり、下半身にはそれを射撃武装として打ち出すような機構は見当たらない。

 今度は、機体そのものの爆発を利用した自爆というわけだ。


「“先生”が、お許しになられるわけがない! そして私自身も許しがたい! ただの一機も撃墜できずに、おめおめと敗走するなど! この“優等生”、コードδ(デルタ)のジュバが!」

「聞いちゃあいねえ!」

「メテオエンジンの奪取が不可能というのなら、せめてあなたの命ごと……!」

「あんた、まさか……!」


 その言い様から、ヴィグディスに脱出装置の類が搭載されていないことを瞬は悟る。

 死人に口なしということだろうか、アクラブ然り、やはりエウドクソスのパイロットに連合との捕虜となる選択肢は与えられてないらしい。


「エンジン臨界点突破までのカウントダウンを開始……! そう、これでいいのです。少しでも、お役に立たねば……! でないと、私は……!」


 ジュバの声色に宿るのは、任務完遂に対する凄まじい執念ではなく、“先生”とやらに見捨てられることへの途方もない恐怖。

 露わになった激しい焦燥にしても、自分の死が差し迫っていることにではなく、その死が無益と化すことに向けられている。

 本人はその心理こそを忠誠と呼ぶのだろう。

 だが、真意を知らされてない盲従では、真に主を救う懐刀となることはけしてないのだ。


「そういうことなんだよ、結局はな」


 そのとき、遠方から高速で飛来した巨大な鉄塊が、ゲルトルートに組み付いたヴィグディスの右膝に命中。

 関節部を破砕し、ゲルトルートを拘束から救い出す。

 鉄塊の正体は、バウショックが投げ捨てたギガントアームであった。


「助かったぜ、轟!」

「武装までもを投擲するとは……どこまで非常識な!」

「テメーはいつだって逃げられたのに、最後まで食い下がりやがった。なんだかんだ、それはテメー自身の都合だったんじゃねーか?」

「うっ……」


 瞬とは別ベクトルで弁が立つジュバが、その一言には、沈黙で返すしかなかった。

 この戦闘において、もっとも強烈な一撃であったということだ。

 ようやく追いついてきたバウショックは、右脚を失い地面に転がり落ちたヴィグディスの下半身を容赦なく蹴り飛ばす。

 もはや構造上、受け身を取るどころの話ではなく、惨めに地滑りするしかない。

 バウショックは更に追い打ちの蹴撃を見舞い、今度は残る左脚すらもあらぬ方向に折り曲げる。


「自分が満足してーがために、“先生”様までダシに使うような奴なんだよ、テメーは……!」

「あの劣等生より、私の方がよほど出来損ないだと……!? そんな、そんなはずはありません……! そんなはずは……!」


 本当の解を求めて試行錯誤を繰り返す“人間”にも、任務を忠実にこなすだけの“人形”にもなれなかった、中途半端な存在。

 それこそがジュバ達“優等生”の正体であり、本質だ。


「私は“先生”のお考えに最も近づくことのできた生徒。あの方に不利益をもたらすことは、けして!」

「……そうだよな。テメーにはわかんねーか」


 飽和したエネルギーが、赤色の光となってヴィグディスの下半身から溢れ出す。

 メテオエンジンが、その内に蓄えたもの全てを吐き出し、辺り一帯を巻き込んで爆ぜるまで残り数秒といったところだろうか。

 しかしそれでもなお、バウショックは恐れることなく前進を続け、ヴィグディスの下半身に詰め寄る。

 そして、振り上げた己の拳を、眼前の物体へと全力で叩きつけた。


「自分で自分を見つけようともしねー奴にはな」


 渾身の一撃が繰り出された瞬間、二機は閃光に飲み込まれ、次いで瞬の鼓膜を轟音が激しく打った。

 だが、その爆発がもぎ取っていったのは、バウショックの右腕一本だけだ。

 自爆されるより先に破壊してしてしまうことで、各部へのエネルギー伝達を食い止め、ダメージを最小限に抑えるという荒技である。

 もっとも、轟がそんな合理的判断で動いたのではないということは、わかりきっている。

 勝鬨を上げるために、アクラブのような負け逃げを許したくなかったのだ。


「これで、連中に言い逃れはさせねーぜ」

「……ああ」


 瞬はバウショックの足元にある燃え殻を見ながら、小さく頷いた。

 最重要部位であるメテオエンジンですら強制排除されず、そこに残っているのだから、パイロットが脱出しているとは思えない。

 そんな胸糞の悪い確信を抱かせるのが、エウドクソスという組織である。


「倒せたこと自体は成果だけど、セリアに関しての情報は何も引き出せなかったな。もうちょっと余裕があれば、どうにか喋らせてやったんだけどよ……」


 口惜しさを露わにして、瞬は呟く。

 ジュバが捨て身の戦法に出たことで、捕らえることが不可能となったというのは、言い訳に近い。

 正直なところ、ジュバがエウドクソスの刺客と判明した時点で、救出は絶望的なものとなったからだ。

 まだ直接出会ったこともないはずなのに、“先生”と呼ばれる人物の非情さは、幾度となく相対してきたオーゼスの男たちと同じくらい強く印象づけられていた。

 そのように立派な通称を持ちながら、あまりにも歪な教育方針を一貫し、不完全で危うい生徒を生み出す謎の存在。

 かなりヒントは出揃ってきてはいるが、まだまだ真相に至るには遠かった。

 ヴィグディスに施された二つの加護ほど安い謎でないのは確かだろう。


「ともあれ、これでオレのヘマで奪われた分のHPCメテオは奪い返せた。胸を張って帰れるんじゃねえのか」

「……今回はテメーの知恵の世話になりすぎた。手柄は半々ってことにしておいてやる。トドメを刺しただけでデカい顔をするようじゃ、みっともねーからな」

「お前そこんところ、無駄に律儀だな」

「テメーとは違うんだよ」


 もしも立場が逆なら、これで撃墜三機目であることを臆面もなく主張する風岩瞬の姿が、他ならぬ瞬自身の脳裏ににすら浮かんでくる。


「さて、上手く行けば更にプラス一個を回収できそうだがよ……」

「そうだったな、すっかり忘れてたぜ」


 言って、瞬と轟は遠くで転がったままのゴッドネビュラに目を向ける。

 十輪寺のディフューズネビュラは相変わらず、合体が解除できずに外装の内側でもがいているようだ。


「ちっ、目ざとい少年だ! ライバル同士が燃える共闘を果たした後の爽やかな空気に任せて見逃してくれてもいいだろうに!」

「ライバルでもねえし、燃える展開でもねえし、共闘ってほどの共闘でもなかったろ……」

「しかも毎度毎度アドバイスするのが遅すぎんだよテメーは!」

「ふふふ、俺の超熱血頭脳は自分が格好良く立ち回った出来事しか記憶しないのだ。……おっと、ようやく隙間ができた! とぅあっ!」


 人型ロボットの中から人型ロボットがもぞもぞと這い出してくるというなんとも珍妙な光景に、瞬と轟はそれぞれ顔をしかめる。

 ゲルトルートとバウショック、そしてディフューズネビュラ。

 お互い、かなりのダメージが残り、加えて大半の武装が欠損した満身創痍の状態。

 低いレベルで、いい勝負ができそうだった。

 しかし、そんな瞬達の気勢を削ぐかのように、ラニアケアから至急帰還するように指示が下る。


「何だろ、至急って……十輪寺を相手にするより、確実に一個持ち帰れってことか?」


 そう告げてきた割に、オペレーターはだいぶ落ち着いた様子だったので、少なくとも危機的状況ではあるまいと瞬は油断しきっていた。

 ゲルトルートとバウショックをを回収するための輸送機も予定通りの時刻に到着したため、殊更に、そう感じる。


 しかし、ラニアケアに戻った瞬達を待ち受けていたのは、予想だにしなかった最悪の事態であった。

 本人には最後の瞬間まで伏せられていたものの、ジュバはしっかりと、“先生”の目論見どおりに動けていたのだ。

 エウドクソスの大いなる計画を“開幕”させるための、身を挺した時間稼ぎとして。

 

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