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第62話 警鐘(その3)

 大気を斬り裂く甲高い音に乗せて、セイファートがヴァルプルガの頭部にジェミニソードを打ち込む。

 渾身の力を込めた、最速の振り下ろし――――まともに命中すれば、ダメージは相当なもののはずだった。

 だが、ヴァルプルガが発生する不可視の力場によって、威力は大きく減衰。

 額から顔面にかけて、やや深めの傷を負わせるのみに終わる。


「くそっ!」


 即座にヴァルプルガから離れながら、瞬は吐き捨てるように言った。

 ノーガードの状態でも、この程度のダメージでは、話にならない。

 唯一の収穫は、ジェミニソードに伝わる感触から確かめた手応え。

 この力場は、ガンマドラコニスBの防御障壁“ラードーン”とは性質が大きく異なるようである。

 ラードーンが一定量以下のダメージを完全に遮断する“壁”ならば、こちらはあらゆるダメージを段階的に殺していく“領域”。

 機体の周囲に絶えずエネルギーが充溢しているため、破るという概念がないのだ。

 ラードーンとは一長一短の特徴ではあるが、セイファートにとってはこちらの方が遙かにやり辛い。

 味方の援護があったところで、自分が与えられるダメージに変化がないからだ。

 ゆえに、せっかく上手く決まった連携も、この通りの結果である。


「これはひどいな。君たちの見事なチームワークに感心しようと思ったが、興醒めだ」

「ほざくなよ、実力で防いだわけでもねえくせに!」


 瞬は叫びながら、再びヴァルプルガの上に位置づけた。

 死角を狙うという基本戦術に基づく行動であると同時に、轟への借りを返しておく意図もある。

 バウショックは、奥の手のソルゲイズを除けば、滞空している敵に対してはクリムゾンショットくらいしか攻撃手段がない。

 セイファートの立ち回りによって、ヴァルプルガの高度を下げることができれば、それだけでも十分な成果だ。

 少しでも轟にとって攻撃のしやすい環境を作ることは、最終的には自分のためにもなる。

 そしてもう一つ理由を挙げるとするなら、オルトクラウドの展開する弾幕に巻き込まれたくはないという点だ。


「無効化ではなく軽減……実弾耐性は変態ストーカーおじさまのバリアより上みたいね」


 瞬と同じくヴァルプルガの力場の特性を見抜いた連奈が、続けて攻撃に出る。

 オルトクラウドは、海面に背中から倒れ込むようにして真上を向き、そのまま体勢を固定。

 バリオンバスター、胸部収束プラズマ砲、そこに両膝の半自動迎撃レーザー砲を加えた、非実体弾系武装のみの一斉射撃を行なう。

 地上から天に昇る、激しき光の奔流。

 ヴァルプルガは、寸前でどうにか躱し、追撃の連射も後退しながら逃げ延びる。


「残念だが、それなりの機動力はあるんだ。今の攻撃なら防ぐことも可能だったが、避けられるものは避けるに越したことはない」

「なんとも真っ当な判断ですこと」

「全てを受けるのも、全てを回避するのも、ナンセンスだ。そうだろう?」

「美学のない男はもてないわよ」

「それで構わないさ。君に興味を持たれるのもごめんだからな」


 アクラブは凄む連奈に動じる様子も見せず、相変わらずの不気味な爽やかさを保っていた。

 ただの皮肉屋気質なのか、それとも常人とは根本的に道を違えた精神構造をしているのか。

 どちらにしろ、どんな会話でも相手を不快にさせる男であるという一点は同じだ。


「スパイラルディスク、発射」


 アクラブの言葉と共に、ヴァルプルガの両肩に装着されていた巨大なラウンドシールドが本体から分離。

 勢いよく回転しながら、それぞれがセイファートとオルトクラウドに向けて飛来する。


「セイファートの真似かよ……だけどな!」


 瞬はウインドスラッシャーを投擲し、スパイラルディスクと衝突するように軌道を操作する。

 空中で幾度もぶつかり合い、激しく火花を散らす、二つの回転斬撃兵装。

 その勝負を制したのは、スパイラルディスクであった。

 質量と回転持続性能において、ウインドスラッシャーを大きく上回っているせいだ。

 だが、そのまま泣き寝入りするつもりはない。

 セイファートに向かって直進してくるスパイラルディスクの速度を計算に入れた上で、命中の直前に真横へ回り込んで、側面に蹴りを入れる。


「サイズが大きい分、迎撃も楽……!」


 同じタイミングで、胴体側面の複合ガトリング砲によってスパイラルディスクを弾き飛ばした連奈が、瞬の言おうとしていた台詞を取る。

 今の攻撃なら、機体が万全の状態であれば何度でも同じ防ぎ方ができる。

 そのくらいには、瞬も連奈も腕を上げていた。


「何度も実戦を経験しているだけあって、さすがの対応力だ。単発の攻撃は通用しないか」

「当然だ!」


 自動帰還したスパイラルディスクを両肩に装着しながら、ヴァルプルガはセイファートを追ってやや高度を下げてくる。

 このまま上手く、海面間際まで誘導したいところだった。


「ならば、集中砲火だ」


 今度は、スパイラルディスクの発射に加え、両腕の六連砲塔から大量の光弾が吐き出される。

 しかも狙いはセイファート一機に絞られている。

 正面の弾幕を避ければ、左右から二基のスパイラルディスクが同時に襲うという死の包囲網。

 抜け出す方法は一つ。

 瞬は敢えて、加速中にセイファートのスラスターを停止し、自由落下に移行。

 光弾の幾つかは装甲を掠めていくが、追尾してくるスパイラルディスクは減速が間に合わず、セイファートの両脇を抜けていった。

 その瞬間に半身を捻って反転、続けて再加速、スパイラルディスクが軌道を変えて戻ってくる前に、ヴァルプルガの懐へ潜り込む。

 そして、両肩のウインドスラッシャーを組み合わせることなく、それぞれを片手剣としてヴァルプルガ目がけて突き出す。

 以前に轟が使ってみせた応用パターンだ。

 力場による激しい抵抗はあったが、刀身がジェミニソードより肉厚である分、左右に揺さぶられる感触は少ない。

 そのまま押し込む腕に力を込めて、肩装甲の一部を削ぎ落とすことに成功する。


「ソーラフォースとの同時攻撃も回避するのか……想像以上の腕だ」

「あんた、攻めも守りも二流だな」


与えたダメージは微々たるものながらも、瞬は後退しながら勝ち誇るようにせせら笑う。


「言っとくけどな、オーゼスのおっさん共はこんなもんじゃねえぞ。あいつらは自分の得意な戦法を極限まで突き詰めて、無理矢理にでも攻撃を当ててくる。でもあんたからは、そんな気迫を感じねえ。操縦技術も、機体の出来も、せいぜい八十点止まりの優等生ってところか」

「負けにくいことと、勝つことは全くの別次元よ」


 セイファートが反撃に転じている間に、ヴァルプルガよりも上空に位置づけていたオルトクラウドが、その背面に向けてバリオンバスターを放つ。

 威力を半減されてもなお、極太の光条は光輪まで到達。

 ヴァルプルガは次々とバリオンバスターを撃ち込まれる衝撃によって、更に海面近くへと追いやられた。

 その機会を逃すまいと、浅瀬で助走を付けたバウショックが跳躍し、飛びかかる。

 TypeFフレームの強度を以てすれば、もはや五十メートル程度の高さは問題なく到達が可能だった。


「根比べと行こうじゃねーか、金ピカ野郎……!」


 力場の反発力をもねじ伏せ、ヴァルプルガの左腕に組み付くバウショック。

 巨大な異物が領域内に存在し続けることで、力場を構成するエネルギーの流れが不安定になり、不規則に拡散する。

 言うなれば、強引に堰き止められた川のようなものだ。

 当然、機体に多大な負荷がかかるのは、バウショックだけではない。

 ヴァルプルガも、常に最大量のエネルギー放出が求められ、力場の発生装置が悲鳴を上げているはずだった。

 轟が根比べと表現したのは、まさにそうした部分だ。


「暑苦しいのは嫌いなんだ、離れてくれないか」

「やってみろよ、力尽くでな」


 轟は、ヴァルプルガが藻掻く様子を楽しむかのように喉を鳴らす。

 ヴァルプルガは必死でバウショックを振りほどこうとするものの、上腕をギガントアームで強く握り込まれているために、それも叶わない。

 そうこうしている間に、バウショックは思い切って身を乗り出し、更に左腕でヴァルプルガの額を掴んでみせた。

 渾身の力で奥へと押し込まれ、ヴァルプルガの首関節がめきめきと音を立てて軋む。


「このまま、捻り切ってやる」

「野蛮な攻撃だ」


 ヴァルプルガは右腕のソーラフォースでバウショックに接射するが、皮肉にも自身の力場の影響を受け、バウショックに大した損傷を与えられない。

 スパイラルディスクが飛んでこない理由も同様だろう。

 こうまで手も足も出ない様子を見るに、ダメージ覚悟で密接戦闘に持ち込まれる事態は、ヴァルプルガを設計した人間にとっては想定外だったらしい。

 この、非常識に対する備えがまるでなっていない造りこそが、ヴァルプルガ最大の弱点といえた。


「命の取りあいに野蛮もクソもねーだろうがよ。そんなことを気にしてるからテメーは弱えーんだ。例えタイマンでも、俺達の中の誰一人、テメーには負けねーぜ」

「三人とも、威勢だけはいいな」

「テメーもだろうが、この減らず口野郎が……!」

「文句のつもりで言ったんじゃない。勝者が辿ってきた過程は、往々にして全肯定されるものだ。どんなに不条理な道筋あろうと、後付けで理に適っていることになる。同じ理屈で、勝ちさえすれば失笑ものの戯れ言ですら正論へと昇華される。その意味で、結果が出る前から大きな口を叩ける君たちのような人間が羨ましいと思ったのさ。システムの有効利用だ」

「グダグダ喋った割には、つまんねー煽りだな」


 どうにか滞空したままのヴァルプルガに、バウショックが膝蹴りを放つ。

 飛行能力を優先して奪うのが最適解だが、ヴァルプルガはスラスターの噴射とは別の原理で浮遊を果たしているようで、当該の機能がどこに内蔵されているのかは見当が付けにくい。

 そこで轟は、とにかく本体を徹底的に痛めつける方針に切り替えたようだ。

 重装甲に覆われた膝を幾度も胴体に打ち付けられ、激しく揺れるヴァルプルガ。

 このまま撃墜にまで持ち込めるかと、瞬は安堵しかける。

 だが、次の瞬間――――黄金の巨体のある一点に、不審な動きがあるのを瞬は見逃さなかった。


「あいつ、まだなにかを隠していやがる……!」


 ヴァルプルガの左半身側から組み付いている轟や、背後に立つ連奈の視界には入らない、絶妙な角度だった。

 腕を引き絞って、上手く右脚の陰に隠した錫杖。

 その先端部に、禍々しい紫の光が宿る。

 アクラブが妙に長ったらしい台詞を吐いたのも、反撃体制を整えるための下準備だったというわけだ。

 瞬は操縦桿を押し倒し、すぐさまヴァルプルガとの距離を詰めた。


「瞬? こいつはこのまま俺が……」

「そうじゃねえ、よく見ろ轟! 杖だ!」

「っ……!」


 瞬の呼びかけによって、轟もまた錫杖の輝きに気付くが、ほぼ同じタイミングでヴァルプルガが右腕を振りかぶる。


「君たちの操縦技術が聞かされていた以上のレベルにあったことは認めるが、それだけだ。警鐘を鳴らすという、僕の目的を覆すには到底至らない」


 アクラブが、悠然と発する。

 バウショックは攻撃の正体を見極めるため、咄嗟に離れようとするが、今度は逆にヴァルプルガがそれを阻んだ。

 バウショックの腕を掴み返し、即座に引き戻す。

 機体の挙動からも、アクラブの内に相応の自信が満ちているのがわかった。


「僕が冷静でいられるのは、性格のせいだけじゃあないんだぜ。どう判断したって、劣勢と呼ぶには程遠い戦況なんだ。君たちがここまで奮闘してもな」

「テメー、この期に及んでまだ……!」

「その理由を、まずは君に教えてやろう。バルジセプター、テスタメントモード起動」


 アクラブが唱えるように言い放った直後、ヴァルプルガは右腕を力強く振り下ろし、バルジセプターなる錫杖の先端でバウショックを狙った。

 バウショックは身をよじって回避しようとするが、今からでは間に合わない。

 しかし、セイファートが割って入るだけの時間はどうにか残されていた。


「貸しだぜ、これは!」


 瞬は加速の乗った勢いのまま、バウショックをタックル気味に弾き飛ばす。

 そして、左腕の籠手――――ストリームウォールをかざして、バルジセプターの突きを受け流すことに成功した。

 微かな傷は残ったが、アクラブの秘策じみた一撃を無効化できたのなら、十分割に合う。


「セイファートか……」

「へっ……自慢の必殺武器らしいが、発動までがとろくせえんだよ」


 瞬は勝ち誇るように言い放つ。

 ヴァルプルガの熱源反応は、振り下ろす瞬間にも異常な数値を示してはいなかった。

 内部からの破壊など、突き刺してから本領を発揮するタイプの武装なのだろう。

 バウショックが自分の傍を離れなかったのも、アクラブにとっては好都合だったというわけだ。

 ならば一撃離脱に専念するセイファートは、少なくともバルジセプターの餌食となることはない。

 そう、思い込んでしまっていた。

 直後、瞬の推論を嘲笑うかのように、セイファートの内部に大きな異変が発生する。


「君からでもいいな、その機動性はかなり厄介だからな」

「てめえ、なにを……!」


 内壁のモニター全体が明滅を始め、コンソールを操作もしていないのに無数のウィンドウが開き、夥しい英数字の羅列が流れていく。

 同時に、あらゆる計器類が異常な数値を弾き出し、コックピット内をエラーの不協和音が木霊した。

 愛機から発せられる、聞き覚えのない狂的なリズムが、瞬の思考を瞬く間に混乱へと誘う。

 

「セリア!」


 こういう時に頼りになりそうなオペレーターの名前を叫んでみるが、反応はない。

 近くにいるはずの轟や連奈との通話も同様だ。

 もはや通信装置も、まともに機能していないらしい。

 唯一鮮明に聞こえてくるのは、この動作異常を引き起こした張本人であろうアクラブからの冷淡な声のみ。

 瞬は一刻も早く、この不気味な異変を終わらせようとして、反射的にヴァルプルガに掴みかかろうとする。

 が、操縦桿による操作だけではなく、S3を用いた思考反映すらセイファートは受け付けなかった。

 完全に、操縦者である瞬のコントロールを離れてしまっているのだ。

 そしてとうとう、セイファートは力なく四肢を下ろし、浮遊霊のごとき軌道を取って、ヴァルプルガの正面へと自らを移動させた。

 ヴァルプルガの楯にする意味合いもあるのだろう。

 解放されたバウショックも、オルトクラウドも、まったく手が出せないでいる。


「どうだい、中々のものだろう。ウィルス化させた精神波の信号によってS3搭載機のコントロールを奪う、バルジセプターの聖約テスタメントモードは。まるで魔法……いや、機体のモチーフ的には法力と表現すべきだな」

「ウィルスだと……そんなもんが、あの一瞬で全身に回るのかよ」

「直接OSに侵入する方法なら、こうも簡単にはいかないさ。メテオメイルのような金のかかった兵器は殊更に、セキュリティが厳重すぎるからな。だが、精神波に含まれる信号化された思考を読み取るS3は別だ。正規パイロットのものと同じ波形さえ流し込んでやれば、すぐに

「そのデータを、てめえらは、どこから……! S3のことだって!」

「今更すぎる質問だな。筒抜けなんだよ、こちらには、なにもかも」


 ヴァルプルガの三眼が、神々しき威圧感を伴って、間近に迫る。

 セイファートが、その分だけヴァルプルガとの距離を縮めているのだ。

 無抵抗のまま敵機の眼前に立たされる恐怖に、瞬は無駄とは知りつつも操縦桿を激しく揺さ振ってみせる。


「一度中枢部位の掌握に成功すれば、あとは思いのままだ。なんだって命じられる。だから、まだ生かしておいてやっているんだ」

「まさか、セイファートをてめえの操り人形に……」

「勿論、そうした使い方も不可能じゃない。だが、同士討ちさせるやり方は下策もいいところだ。不確定要素が多すぎるし、なにより並列操作は手間もかかる」


 アクラブがそう言った直後、機体の状態を表示するウィンドウに新たな一文が浮かぶのを見て、瞬の身の毛がよだつ。


『整備モードへの移行 権限保有者の承認を確認 メテオエンジンの排除を開始』


 ケルケイムとロベルト、及びごく限られたメカニックが立ち会うことでしか行えない、メテオエンジンの交換作業。

 それが今、この場で、アクラブによる偽りの許可を得た上で始まろうとしている。

 勝利という過程を経ることのない、奪取それのみに特化した、掟破りの一手。

 これまでに築いてきた戦いの常識が、アクラブとヴァルプルガによって次々と破壊されていく。

 矜持の欠片もないやり方に、瞬は激昂しようとした。

 しかし無情にも、そこでセイファートの向きが百八十度変わり、怒りの矛先を向けるべき相手は視界から消える。

 次いで、セイファートのコックピットを襲うは微振動。

 自分に見えない場所で何が行なわれているのかを察した瞬は、玩具を取り上げられた幼子のように弱々しい叫びを上げる。


「おい、待てよ、それは、オレの……!」

「操ったままの敵機を戦わせるより、もっと確実かつ有効な戦力の増強方法がある。ヴァルプルガの設計コンセプトも、そこに集約されているといっていい。おかげでだいぶ完成が遅れてしまったが、待った甲斐はあったと思うよ」


 アクラブは応じようともせず、ただ一方的に解説じみた語りだけを続ける。

 何しろ、既に瞬とセイファートは、アクラブにとっては敵以下の存在に成り下がっている。

 返答する価値さえも喪失しているというわけだ。

 そして、瞬の背後では、メテオエンジンを奪われる以上の恐るべき事態が進行していく。


「第二エンジンベイ開放、マルチコネクター展開……サブエンジン・インサート。エネルギーバイパス接続、並列変換チェック、オールクリア。ヴァルプルガ、ファンクションデュアルにて再起動」


 アクラブが淡々と放つ、不穏な単語のオンパレード。

 瞬に、それを最後まで聞き続けることは許されなかった。

 至近距離で爆発でも起きたのかと錯覚するほどの凄まじい衝撃が、突如としてセイファートの背面を殴りつけたからだ。

 レイ・ヴェールの解除されたセイファートを蹂躙する、面の圧力。

 全身の装甲が飛散し、四肢は容易くねじ曲がる。

 物言わぬ鉄塊となって海中へ沈んでいくセイファート、そのコックピットで意識を白化させた瞬には、一体何が起こったのかなど理解できるわけもなかった。



「二基のメテオエンジンを同時に起動ですって……!?」

「ふざけたパワーだ。バリアの出力だけで、セイファートが一発かよ……!」


 セイファートの、あまりにも呆気ない敗北。

 その一部始終を傍観していた轟と連奈は、ヴァルプルガの持つ前代未聞の能力に戦慄していた。

 ヴァルプルガはコントロールを掌握したセイファートからメテオエンジンを奪い取ると、背面のハッチを開放して、それを搭載。

 途端、空間のゆらぎはより顕著なものとなり、範囲も二回り近く拡大した。

 つまるところ、セイファートのメテオエンジンは一時的に内蔵保管されただけではなく、ヴァルプルガの新たな動力源として取り込まれたということになる。

 連合では開発どころか考案すらされたという話すら聞かない、二基搭載型。

 どれほど戦闘力が向上するのかは不明だが、しかし少なくとも防御面は見てのとおり、より堅牢なものとなっている。


「美学がない、八十点止まり……確かにそうかもしれないな。僕もヴァルプルガも性能はオールラウンダー寄りだ。なにか一分野に特化しているわけじゃない。だが僕達は、隙の無さをそのままにパワーアップを果たすことができる。限界を超える万能、それこそがヴァルプルガの特性なんだ。データベースには、ヴァルプルガDとでも記録しておいてくれ」


 そう発するアクラブの声色には、確かな尊大さが宿っていた。

 慢心と取るべきか、更なる高みへと至ったがゆえの余裕と取るべきか。

 底知れぬ力に畏怖し、本能的に後ずさるバウショックとオルトクラウドを前に、ヴァルプルガDは戦闘スタイルをも大きく変化させる。

 錫杖からは長大な光の刃が現出。

 背中の光輪は左手によって取り外された後、隙間を埋めるように収縮して巨大な盾へと変形。

 どちらも戦闘の基本に準じた装備でありながら、この上ない脅威としての存在感を放っていた。


「さあ、戦いを続けよう。君たちにはまだまだ、警鐘を聞いてもらわなければならないんだからな」


 太陽の光を受け、荘厳なる輝きを放つヴァルプルガD。

 その巨体から溢れ出る聖気は、絶望を強いる暗黒に染まっていた。

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