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第35話 降って湧いた奇怪

「確かに、退屈が死ぬほど嫌いだとは常々言っているけれど……」


 リニアカタパルトより射出され、超音速で現地へと向かうオルトクラウドの中――――

 此度の出撃に際し、十分な状況説明を受けているにも関わらず、連奈は未だに困惑を隠せなかった。

 敗色濃厚な絶望的戦力を相手にするのでもなければ、上層部からの不条理極まる命令に納得できないのでもない。

 それが現実に起きている事態であると、未だに信じがたいだけだ。


「でも、何この……B級SFパニック映画みたいな大珍事は。私が求めている刺激はこういうのじゃないのよ……!」


 連奈は任務を遂行する上での緊張感を取り戻すため、もう一度、与えられた情報を脳内で反芻する。

 小一時間ほど前から、謎の巨大円盤状浮遊物体がメキシコ上空に続々と飛来し、市街地への攻撃を開始。

 総数は、現段階では十機。

 電波や量子、ライトモールスなどの各種通信手段でコンタクトを試みるものの応答は皆無。

 それぞれ全く同一の形状で、基本色はニュートラルホワイト、直径は約二十メートル、厚みは最大で約五メートル。

 中央には大経のレンズが嵌めこまれており、確認されている唯一の攻撃手段である収束熱線は、この部位より照射される。

 勿論ながら、連合加盟国が保有する如何なる有人航空機にも該当する機種はなく、ドローンにしては如何なる用途であろうと致命的に大きすぎた。


「まるでUFOじゃない……!」


 自身の忌避するチープな言い回しであるため、ケルケイムから説明を受ける際もけして口にはしなかったその単語を、連奈はとうとう言葉にしてしまう。

 結局は、それが最も適切な形容ということらしい。

 円盤は、メテオメイルに匹敵する膨大なエネルギーや厚い装甲、広範囲への攻撃手段などは持たない様子で、既存の現代兵器でも十分にダメージは通るとはされている。

 しかしまだ、攻撃許可の降りた戦闘機部隊との交戦が開始されてから、撃墜の報告は出ていない。

 異様なまでの高い機動性で上下移動を可能とするため、ミサイルの追尾は容易に振り切られてしまうのだ。

 そして円盤もまた上下の狭い角度にしか熱線を放てないために、横から接近してくる戦闘機の迎撃は不可と、シュールさすら感じさせる泥沼の戦闘が続いているようである。

 そこで、オルトクラウド、ひいては連奈に出撃の命令が下ったというわけである。

 ケルケイムも連合政府も、このような事態の想定はしていなかったため、出撃の可否を決めるオンライン会議は随分と混迷を極めたらしいが――――


『まさかこんな時期に、異文明の方々が来訪しただなんて思いたくはないけど……。でもあの円盤、少なくとも大気圏外から飛んできてるんだよね。後続の軌道を見るに』


 連奈以上に理論派の人間であるセリアは、更なる不可解な表情をしていた。

 破片の一つすら落としておらず、まだ円盤が何処の何であるとも断定できない現状は、だいぶセリアをやきもきさせているようであった。


「なんであろうと構わないわ、馬鹿げた襲撃者は全て抹消するまでよ」

『今回の戦闘が壮大な宇宙大戦争の始まりにならないことをせいぜい祈らせてもらうよ』

「私はそっちの方が好みの展開かしらね。奇特なおじさま方を相手にするよりは遙かに夢があるでしょ」


 連奈はそう返しながら、近付いてきた現地への降下を前に、逆噴射による微調整の用意に入る。

 より迅速な撃墜を求めるならば、敢えて飛距離を伸ばし、空中でそのまま攻撃体勢に入るのも手ではあった。

 だが、オルトクラウドが下方に向けて射撃を行う事の意味を知らない連奈ではない。

 今回は全く事前の避難が行われていないために、まだ市街地には多くの人間が取り残されている。

 交通機関の麻痺も著しく、まさに映画通りのよくある隔絶具合というわけである。

 また、過去二回の実射記録を鑑みて、オルトクラウドの虎の子たる最強火砲、ゾディアックキャノンは当作戦に限り完全なる使用禁止令を言い渡されていた。

 斜線上の物体どころか、余波だけでも用意に建造物を消し飛ばす威力を誇るため、これは当然の決定ではあるが。


「流れ弾が多くなりそうだから、実弾系全般も止めておいた方がよさそうね……私は構わないけど、面倒なお叱りは避けたいし」


 数キロ手前の山中にオルトクラウドを着陸させながら、連奈は視界の遙か先で羽虫のように飛び交う黒点が集中する空間を見つけ、メインカメラをズームさせる。

 記録映像を見せられて尚、受け入れがたい物体が、確かにそこにはあった。

 全く情報通りの円盤状物体である。

 オルトクラウドの到着に伴い、作戦内容に従い、戦闘機部隊は現空域から撤退していく。

 それを待ってから、連奈はオルトクラウドを現在地との中間点ほどまで市街地へと接近させた。

 街中を自由に歩き回ることが不可能なため、遠方からの半狙撃で仕留めるしかないのだ。


『オルトクラウドの降下に対しては、何のリアクションも無しか。気付いていないか、もしくは興味の対象外なのかな』

「……興味なんて持って欲しくはないけどね」


 言うなり、連奈は手近な黒点を狙い、操縦桿の火器発射トリガーを左右同時に押し込む。

 同時に、オルトクラウドの両手に構えたバリオンバスターが、重粒子で構成された鮮紫の光条を放つ。

 しかし、幾ら発射速度が亜光速に達するとはいえ、目標まで約五キロ以上の距離と目標自体の変則的軌道のせいで命中させる事は極めて困難。

 二つの光条は大気を灼いて突き進んでいくのみに終わった。


「厄介ね……」


 続いて更に二発ずつ、目標が熱線を放つために減速することを期待して、より低空へ発射してみるが、これもまた掠ることさえしない。

 特別、遠距離狙撃に才能があるわけでもない連奈だが、連続の失敗に苛立ちは増すばかりであった。


「ならこれで!」


 残る非実体弾系武装は、胴体部の収束プラズマ砲と膝から突きだした半自動迎撃レーザー。

 この合計五砲の乱射ならばと、連奈は複合発射設定に切り替えたトリガーをひたすらに連打した。

 濃密な眩き閃光が、オルトクラウドの前面で何度も煌めく。

 まるで流星群の如く市街地上空を通り抜けていく、激しき光の雨。

 いずれも、レイ・ヴェールを展開できない構造体なら一発でも命中すればほぼ確実に葬ることが可能な威力を誇る。

 が、円盤の群れは上空での飛行が困難と判断したのか、ラジコン飛行機の如き俊敏さで一気に下降し、高層ビル群の影に潜り込んだ。

 サイズの関係から完全に隠れきることはできないものの、こと精密攻撃には極端なまでに不得手であるオルトクラウドにとっては、攻撃を封じられたに等しい。


「あー! もう、あー!」

『落ち着きなよ、連奈』

「わかってるわよ……!」


 連奈はぐぬぬと唸りながら、微かに姿が窺える円盤群を睨み付ける。

 このまま街の被害など度外視して踏み入り、全武装一斉射撃を放ってしまいたい衝動に駆られるが、その欲求を必死に押し留める。

 同時に数十発の弾丸とレーザーが飛び交う圧倒的弾幕を展開できれば、どれだけ楽で爽快感があるだろうか。

 その意味において、この大した性能もない円盤群は、予想だにしないオルトクラウドの天敵ともいえた。


「これってセイファート向きの任務でしょうよ……あの機体なら接近も攻撃も自在じゃない」

『借りようにも、まず絶賛修理中だしね。いや、修理というより殆ど一から組み直しかな、正確には』


 あれほど大した機体ではないと見下していた、最も空中戦闘と精密破壊に特化したセイファートが、今は喉から手が出るほど欲しいという始末。

 どの機体も状況次第ではこの上なく役に立つし、逆に全く使い物にならなくなるということを、連奈は身を以て知ることになる。


『攻撃しても回避に専念するだけで近寄っては来ない……やっぱり、戦闘用の兵器ではないということかな』

「余計にタチが悪いわね……。さて、これからどうしようかしら……」


 秘匿された真実を見抜く洞察力に関しては人並み外れたものを持つという自負がある連奈だが、アイデアを閃く方面はそこまでではないという自信もまたある。

 良くも悪くも、戦術や戦略を無視し、圧倒的火力で戦場を制圧するオルトクラウド向きの人材なのだ。

 機体だけではなく、パイロットの面でもまた瞬が最も活躍できそうな任務という事に気付いて、連奈は運の巡り合わせの悪さにほとほと辟易する。

 瞬と轟に絶望を味わわせたスピキュールやプロキオンも、ああいった火力に乏しい機体は、オルトクラウドならば苦もなく撃破できていたというのに。

 と、無い物ねだりをしていても仕方ないと、連奈はかぶりを振って建設的思考を取り戻すように努める。


「市街地に攻撃できない以上、どうにかしてこちらに誘導するのが上策ではあるけれど……」

『そもそも一体、何が目的なんだろうね、あの円盤は。あの程度の威力しかない熱線じゃ、街の破壊といってもかなり時間が掛かる』

「そんな事、別にどうでも……」


 円盤がレンズ部に太陽光を収束して放つ熱線は、特別なコーティング処理が施されていないただのビルにしても一撃で貫通とはいかない程度のものであった。

 生物に対する殺傷能力は申し分ないため確かな脅威ではあったが、完全に倒壊した建造物の数はそう多くはない。

 メテオメイルの攻撃と比較すれば圧倒的に被害は軽微である。


「ん?」

『どうしたんだい、連奈』

「そっちに回ってる映像では、見えない? あれ……!」


 連奈はあと数百メートルほどオルトクラウドを市街地に近づけながら、モニターの向こうのセリアに告げる。

 地上すれすれの低空飛行を続けている円盤群が、外縁部が変形することで展開した一対のアームユニットで、周囲の乗用車を次々と掴み取っているのだ。


「……今度はキャトルミューティレーションの真似事かしら」

『内部に人が乗っているかどうか確認できるかい? 機体のカメラ映像を共有してるといっても、こちらは解像度が少し劣る』

「表に出て来た一台だけ、最大望遠でどうにか人影を確認。でも他は無理よ。第一、体を屈めてたらもう判断がつかないわ」

『非常にまずいね。全車両に人が乗っていないという断定ができない以上、その逆と仮定して動かなければならないのが真っ当な組織の辛いところだ。連合政府としては、なるべく撃って欲しくないだろうね。人命はともかくとして、支持率的にはさ』


 姑息な真似を、と連奈は憤る。

 清廉潔白な正義の味方を目指しているわけではないが、もろとも消滅させてしまえば後味が悪くなることに変わりはない。

 被害を意に介していないとは言いつつも、こうして直に命を盾に取られると無意識の内に手が止まってしまう惰弱さを、連奈は忌々しく思う。


「……司令に確認を取って、セリア」

『するまでもなく、指示が飛んできたよ。もう少し時間をくれとの事だ。ただ……途中、オルトクラウドの射程外にまで離脱するようなら、撃墜はやむなしと』

「人攫いに何の意味が……」


 いつでも発射できるよう、バリオンバスターの砲身を円盤が飛び交う上空に向けながら、連奈は熟考する。

 次の行動に移るのは全機が回収を終えてからという事なのだろうか――――まだ獲物を探し求めて空中をうろついている半数の円盤を、残り半数は滞空したまま待っているようでもあった。

 そこまで考えて、連奈は幾つかの引っかかりを覚える。

 まず、いずれの円盤にしても、一つの例外もなく乗用車を保持している点。

 自身のイメージから無意識的に拉致を想起してしまったものの、目当てが生物にんげんではなく無機物くるまである可能性は大いに考えられる。

 そして車ならば、主要道路を見渡せば数百数千台と乗り捨てられており、時間を書けて迷い箸をする必要はないように思える。

 大体、こんな技術力とこんな真似をする全く新しい勢力がこんな時期に偶然にも介入してくるだろうかというそもそもの疑問。

 以上の発見から導き出される結論は――――


「複合商業施設の大型駐車場と、あとは陸上競技場……この辺りかしら、候補地は」

『連奈……?』

「多分これが最適解よ。時間の余裕もなさそうだし、そろそろ行ってくるわ」


 正面モニター上に表示した周辺地域の地図を一通り眺めると、連奈はオルトクラウドを急加速させて直進する。

 まだ決定的な情報が出揃ったとは言い難く、本当はもう少し調査に時間を費やして裏付けを取りたいところだったが、そんな余裕が残されているとも限らない。

 それまで禁じ手としていた市街地への侵入を果たしながら、連奈は事態を呑み込めていないセリアに最低限の説明を果たす。


「私の予想が外れていなければ、あのUFOの目的は稀少な鉱物資源レアメタルの回収よ。全然詳しくはないんだけど、今捕獲されている車両の何処かしらに組み込まれているんじゃないかしら。兵器にでも転用できそうな、極めて上質な何かが」

『なるほど……そう考えれば、確かに』

「本当はもっと岩盤の多い場所での使用を想定されていたから、普段の流れで熱線を使って溶断掘削したけど、発見はならず。そして、私が地表近くまで追い込んだ事で、目当ての物質の探知に成功。……と、考えれば筋は通らない?」


 積み上げる形での発想は成らなかったが、逆算的に理屈を肉付けしていくことで、どうにか形になった推論。

 誰にも正解の保証などはできないにしても、かなり近い場所まで辿り着いた直感はあった。


『通りはするけど、それと君の行動にどういう関係が?』

「だから、捕獲してもらうのよ。たかが車なんかより、もっと大きくて純度の高いレアメタルの塊をね」

『まさか、連奈……!』

「本当に持っていかせる気なんかは毛頭ないわよ。ただ……飛んで火に入る夏の虫になってもらうだけ」


 地上から約五十メートルほどの低空を飛行しながら、連奈はあらかじめ候補に設定しておいた、確実に現在は無人であると思われる幾つかのポイントを目指す。

 そして最初の一つを通過する間際――――コンソール上に並んだ幾つかのスイッチを順に押した後、やや下側に設けられているレバーを、一気に手前側へと引いた。


「さあて、減量開始といこうかしら……」


 連奈がそう発した直後、オルトクラウドの両肩装甲から、重厚な炸裂音と共に薄煙が漏れ出る。

手動で強制排除パージを行ったのである。

 本体肩部との接続部を切り離され、左右に伸びていたゾディアックキャノンはユニットごと地上に落下、狙い通りに陸上競技場のトラックに沈み込む。

 連奈は一気に身軽となったオルトクラウドを操り、また別のポイントの直上で今度は脚部の増設スラスターを強制排除。

 これはゾディアックキャノンの重量を支えるための補助ユニットであり、補助対象を装備していない現状は過剰推力である。

 オルトクラウドは更にまた別のポイントで、今度は胸部両側面の複合ガトリング砲を内蔵した追加装甲、ならびに背面のマイクロミサイルコンテナを強制排除。

 これでオルトクラウドは初期仕様である軽装形態への移行を果たし、重量は一気に重装形態の五十二パーセントにまで減少する。

 連奈は、三つのポイントを三角形に結んだラインの内側にオルトクラウドを降下させ、注意深く周囲を見遣った。


「メテオメイルの構造材に用いられている特殊合金なら、回収の優先度としては同等かそれ以上……何より、質量で勝るわ。価値を正しく判断できるならの話だけどね」


 隙のない理論ではないだけに、連奈としても期待が半分といったところだった。

 だが次の瞬間、幸運にも円盤群は、それまで保持していた車両を手放して一斉に動き出す。

 直前の高度は、いずれも二メートル程度。

 落下は縦方向の衝撃であるため、乗員の負傷は免れないとしても、死亡だけはないと信じたかった。

 読みは見事に的中。

 円盤群の向かう先は、これまでオルトクラウドが強制排除してきた追加ユニット。

 三つのポイントはいずれも現在地から二百メートル以内で、遮蔽物もほとんど存在しない。

 バリオンバスターで十分に狙いを付けることが可能なのである。


「避難が完了していない今、撃墜に際しての大きな問題の一つは、飛行能力を奪った後にふらふらと不規則に飛び回られること。でも、回収しようと垂直降下している最中なら――――」


 連奈の言葉通りに、追加ユニットに誘われて次々とアームを広げて降下する円盤群。

 それらは何の問題もなく、左右に広げた二丁のバリオンバスターの連射で仕留めることが可能だった。


「――――さよなら、傍迷惑なUFO軍団さん」

『……お見事。なんだかんだ、頭脳プレーもできるじゃないか』


 オルトクラウドは、上半身を捻りながら、三方へ向けての盛大な連射を開始する。

 それから数十秒で、円盤群全機の撃墜に成功。

 装甲が異常な硬度を持つということもなく、重粒子の奔流を受けてそれらは容易く塵芥と化した。


「私にできないことなんかないわ。面倒で退屈だからやらないだけよ」


 機体のレーダー上からも未確認の熱源体が完全消失したことを確認しながら、連奈は大きく一息を吐く。

 かくして、謎の円盤状物体がもたらした、人々にとってまるで思いがけない騒動は終結を迎えるのだった。



「えー、あの、その、本日は、世界中の皆様に、その、謹んでお詫び申し上げたく……」


 戦闘が終了してから数時間後――――

 ニューヨークに置かれている地球統一連合政府本部へオーゼス名義で送り届けられた動画ファイルは、添付文書に従い、当日中に順次各種メディアで公開されることとなった。

 その内容は、代表理事こと井原崎義郎の、今回の一件に関する丁重だが癇に障る謝罪であった。


「世界中の皆様には、その、本当に、ご迷惑をおかけしました。本日、皆様がメキシコ上空にて目にしたであろう円盤型のマシンは、我々が、ええと、あの、我々が主に地球外空間で資源採掘に使用している、作業用のオートマトン、なのです。しかし、その、プログラム面での重大なエラーが複数機間で発生しまして、あの、該当機体が帰還コースを予定と大幅に違えて、市街地に降下、してしまったのです。本当に、その、大変申し訳ないのですが……。エラーによる作業の続行、といいますか、事実上の攻撃により、あの、損害を被った全ての方々に、深く陳謝いたします。とはいえ、その、我々には金銭面での補償ができかねますので、そこで、あの、一方的な決定になっては、しまうのですが……」


 数千万近い犠牲者を出すという無慈悲な侵略活動を行っておきながら、それ自体には何ら後ろめたさを感じない様子に、誰しも胸中では憤りを抱えている。

 だが、二機のメテオメイルの修復にまだまだ長い時間を要する現在の連合政府にとって、この上ない見返りもまたあった。


「明日から三週間、総合新興技術研究機関“O-Zeuthオーゼス”は、その、活動自粛という形で、あの、ええと、世界の各都市に対する攻撃の一切を、中止致します。ただ、あの、本拠地ならびに、我々の占領下にあるエリアの防衛に関しましては、その限りでは、ありませんが……はい」


 これまで五日から二週間のペースで侵攻を続けていたオーゼスの、三週間の自発的活動停止。

 言い換えれば、二回から四回分の延命。

 思いがけず舞い降りることになった時間的猶予の中、どこまで反撃の牙を研ぎ澄ますことができるか。

 今後の戦局を左右しかねない、平穏と呼ぶにはあまりにも重大な可能性を秘めた二十一日が始まろうとしていた。


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