第21話 南の魚(中編)
瞬と轟、どちらにとっても二度目となる、ラニアケアのリニアカタパルトを用いた空の旅。
出発点はインド洋、目的地は南極の北部海域――――距離にして約七千八百キロメートル。
リニアカタパルトで射出可能な距離の、ほぼ限界である。
初速が音速の十数倍といえども、移動距離に比例した空気抵抗による減速を加味すれば、到着までは実に一時間以上を要する。
内壁の前半分が丸ごと外界を映し出すモニターと化している連合製メテオメイルのコックピットでは、否が応にも超高速で過ぎ去っていく風景が視界に入ってくることになるが、もはや二人にとってはさほどの恐怖感を覚えるものではない。
一ヶ月近いシミュレーター訓練において、出撃時の降下・着陸演習など数百度と体験してきたことだ。
もっとも今回の作戦は、深海救難という、メテオメイルの用途としては応用中の応用。
加えて、互いに機体を交換しての出撃という、未だ経験したことのない要素だけを詰め込んだ内容であったが。
「何となくは、掴めてきたが……」
瞬はバウショックのコックピットの中で、タブレット型端末に表示された作戦指示書を熟読しながら、そう呟いた。
バウショックの、とはいっても、連合製メテオメイルは機体構造において可能な限りの共通規格化が成されているため、内装はセイファートのそれと全く変わりはない。
ただそれでも、全く別の機体に乗っているという実感はあった。
周囲を流れる空気の音が違うのだ。
加速している状態では、空戦用に作られたセイファートは、大気を斬り裂き、金切り声にも似た甲高い音を放つ。
一方で、空力特性などをまるで考慮されていない重装甲のバウショックは、強引に大気の壁を押し通り、機体と空気との衝突によって唸り声のような轟音を響かせる。
体感としても、セイファートより遙かに重いバウショックでは、軌道の傾きが心なしか大きいように思えた。
しかし今回は、セイファートの方も中々の重装備となっている。
救助に際して必要となるワイヤー及びその巻き取り機材一式、更に救助ポッドを数基搭載した巨大コンテナが接続されているためだ。
そのため、現在の総重量では余り大差はなく、ほぼ同じ軌道を通って目標地点に降下する見込みである。
これらの機材を利用し、原子力潜水艦に取り残された乗員を救助、その後に安全圏で待機する連合軍の艦隊に引き渡すのが、作戦の概要であった。
「オレは器用で要領が良くて飲み込みが早くて機転に富んだ天才だからいいとして、問題はあいつだよな。本当にちゃんと引き上げてくれんのかね……」
救助の途中で戦闘が発生するかもしれない、というのが瞬の認識だとすれば、轟はその真逆である。
色々と忠告しておきたかったが、しかし言えば言うほど反発を買うだけだということがわかりきっているので、瞬は数十キロ後方を追従しているセイファートへ、特に言葉を投げかけることはしない。
自分の意志で動いているようにみえて、その実ケルケイムの掌の上でいいように扱われていることも、伝えれば作戦の進行に支障が生じかねないため、黙っているのが正解なようだった。
だがその沈黙は、結局ケルケイムのやっている事と同義であり、気付いた瞬は自己嫌悪に陥る。
作戦を円滑に進める上で、全てを話す必要は、確かにないのだ。
「いや、そもそも轟の奴の性格が問題なんだよ……あいつが自分勝手でキレやすいからよ」
瞬がそうして心中で完全に責任転嫁を終える頃には、着水予定地点まで、残り三百キロを切っていた。
『どうだい、レーダーに反応は』
「今のところは何もねえぜ」
瞬は注意深く周囲を見渡しながら、オペレーターのセリアに返答する。
無事着水に成功したバウショック、セイファートは、現在は水上に半身を浮かせる形で待機し、これから始まることになる複雑な手順の確認を行っていた。
これまでの任務とは異なり連合との緊密な連絡を必要とする反面、メテオメイルパイロットの素性はヴァルクス外の人間では十数名ほどしか知る者のいない最高機密である。
そのため今回は、直接的な作業のサポートを行うセリアだけではなく、北方で待機中の巡視艦隊からの指示を中継する役割を担う二名のオペレーターが増員されていた。
天候は快晴、近辺には無数の流氷が漂っているがいずれも作業を阻害するほどの質量はなく、海面の状態も良好、さしあたっての不都合はないといえた。
『なら、まずは手筈通りに引き上げ用ワイヤーユニットの組み付けだね。北沢君、いいかな』
「やりゃあいいんだろ、やりゃあよ……」
轟は気だるげな返事をセリアに送るが、最低限の従順があるだけでも儲けものといってよかった。
バウショックは、今回は戦闘に参加することを想定されていないため、右腕に装備されたギガントアームは取り外されており、両手共にセイファート同様の五指が使用可能だったが、あくまでバッテリー駆動のために余計な動作でエネルギーを消費することは許されない。
しかも、着水時の衝撃を相殺するためにレイ・ヴェールを瞬間的に展開したことで、最大二十分程度しか持たないバッテリー容量を、既に五分の一ほど消費してしまっているのだ。
これも想定通りの結果とはいえ、残りの稼動時間は十五分強。
水上での作業は全て、セイファートに任せるしかない。
「これも、バトルができるって前提での前借り的な協力だからな。これで平穏無事に済んだらそんときはマジに切れさせてもらうぜ」
『勝手にどうぞ。でもその怒りも、ちゃんとした手伝いを君がやったという事実があって初めてこじつけられる段階に至るものだということをくれぐれも忘れないで欲しいね。こちらにとって見返りのあることを自分がしていないのに自分にとって見返りがなかったと文句を言われても、こちらとしても困る』
「ベラベラと……口数の多い女だ」
轟は愚痴りながらもセイファートを操り、巻き上げ用の装置をセイファートの腕部へ、救助ポッドをバウショックの腰部へと取り付けていく。
そして、ワイヤーの先端をバウショックの背部へと接続。
全体的にかなり荒さの目立つ手つきではあったが、初めて行う細かな作業を大きなミスもなく、そして予定時間より数分早く行程を終了させるあたり、操縦訓練は怠っていないようだった。
「まあ、そこまで精密さや慎重さのいる作業でもないしな。機材だって壊れても予備があるし、全然気楽なもんだろ」
轟でここまでなら、自分は更に三分は早く終わらせられると確信した上で、瞬は言ってのける。
その自信が声色にも滲み出ていたのか、セイファートの双眸が一瞬だけこちらを捉えた。
瞬は、自分の機体に凄まれるという奇妙な感覚を味わう。
「テメーもゴチャゴチャとうるせーよ。……さて、俺の仕事はこれで九割方終わりだ。あとは何時間後か、ポッドを持ったバウショックを引き上げればいいだけだな」
『艦隊までの護送も君の仕事だよ』
「それはあっちの英雄志望にやらせろ、また後で乗り換えすればいいだろーが。俺は、弱い奴らの命を預かるなんてことは死んでもやりたくねー」
「オレもそっちがいいな。連合のお偉いさんの評価に繋がるような手柄は独り占めしたいしな」
『……どうやら、それが最良の選択のようだね。そこの所の変更に関しては、あとで司令に掛け合っておくよ』
そう答えてから、セリアが暫く無言になったことで、瞬はいよいよ自分の番が差し迫っていることを実感する。
これからバウショックは最大で深度四千メートル近くまで潜水し、救助を行う事になる。
そこは、ほんの僅かな外的刺激でさえも圧壊へと繋がる、死と隣り合わせの世界。
故障であろうと破損であろうと、もはやどちらでも大差がないといえるほどに、数千トンの水圧は重い。
おそらく、乗員を救助ポッドに移動させる一連の作業において“取りこぼし”が生まれることはない。
海底という環境下において何かをしくじってしまえば、間違いなく全滅に直結するからだ。
度合では計れない、成功か失敗かの完全なる二択制。
瞬は腕に力を込め、今更のように緊張で震え出す手先を黙らせる。
『大丈夫かい、風岩君』
「……ああ。これはまあ、武者震いみたいなもんだ。びびってなんかねえよ」
『場合によっては、S3を切って手動操作に切り替えるといいよ。微調整モードを起動すれば百分の一ミリ単位で各種動作を補正できる』
「時間が余分にかかりそうだけど、最悪使わないといけないかもな。何としてでも成功させないといけねえし」
反応速度と手間の関係から思考を反映するS3が通常操縦の上位互換のように感じていたが、今回のような自分の得意分野とは異なる方面での作業においては、確かに通常操縦の方に分があるといえる。
セイファートよりはやや粗いとされるバウショックのマニピュレーターの精度によっては、通常操縦で固定ということもあり得ることを瞬は意識する。
「……成功すれば、また一歩英雄に近づける。敵を倒し損ねてる分、こういうのでしっかりポイントを稼いでおかないとな」
「おい、そろそろバウショックを潜航させる時間だ」
「わかってるよ」
通信で轟に呼びかけられ、瞬はバウショックの四肢に取り付けられていたフロートを強制排除し、機体を海中へと沈めていく――――否、自動的に沈んでいく。
これで、バッテリー駆動の現在のバウショックには、浮上する手段が皆無となった。
数百メートルならまだしも、水深四千メートルの水圧に逆らうほどの出力が得られることはない。
「バウショックをぶっ壊しやがったらただじゃおかねーぞ。そいつは結構気に入ってるんだ」
「だったらお前もセイファートを丁寧に扱えよ」
「何度も言わせるな、俺は俺の勝手にやるだけだ」
「……うぜえ」
瞬はそう漏らすと、静寂に満たされた極冷の空間を、ゆるやかに下へと降りていった。
「……今、どうなってんだ」
バウショックが潜航を開始してから、約三十分後。
轟は退屈そうに、通信機の向こうのセリアに尋ねた。
周辺空域の警戒は続けているが、メテオメイルどころか動物の一匹さえも見当たらない。
どれだけ耳を澄ませても、轟の鼓膜に届くのはコックピットの各種装置類の駆動音と穏やかな波音だけであった。
『自分で聞けばいいじゃないか』
メテオメイルの牽引を前提とした太いワイヤーの内部には、量子通信用のケーブルも仕込まれており、傍受されることのない情報伝達を可能とする。
ワイヤーでバウショックと繋がったセイファートは、巡視艦隊とラニアケアがバウショックに指示を送る上で必須とも言えるアンテナ役も果たしているというわけだ。
「俺はただ、暇潰しに何か情報を耳に入れたいだけだ。その辺り勘違いされても困るだろ」
そう答えると、どういうわけか通信機の向こうでセリアが小さく噴き出す。
理由は不明だが馬鹿にされていることは間違いなく、轟はコックピットの内壁に軽く肘打ちを決め込んだ。
『それはないよ。風岩君は、君という人間のことをよく理解している』
「どこがだ。あの薄っぺらい信念しか持ってねー野郎に、俺の何がわかる。テメーと同じで他人を小馬鹿にすることしかできねー奴だろうがよ。そんでもって、小細工だけで何とか場を繋ぐだけの雑魚だ。英雄に一番向いてねーよ」
『君がそれだけ彼のことを理解できているのと同じくらいにさ』
「……底が浅いからわかりやすいだけだ」
劣等感と承認欲求の塊で、その苦しみから解放されるべく、無謀にもレベルが一つ違う舞台にのこのこと出てきた身の丈知らずの馬鹿。
自分が手を下さずともその内自動的に脱落していくことがわかっているから見逃してやっているだけの煩わしい羽虫。
それが、轟が瞬に対して抱く印象である。
だが、内容の善し悪しはさておき、そこまで具体的に評価できるほどの人間がこれまで出会った中にどれだけの数がいたであろうかと、轟は考える。
特に、同年代ともなれば、他はあの三風連奈と――――
結論が出て、轟はもう一撃、肘打ちを内壁に見舞った。
『君だって、さして深いようには見えないけどね。それとも、実は複雑な事情を胸の内に秘めていて、敢えてそんなキャラクターを演じているのかな』
「ねーよ、そんなもん……俺はただ、遍く万人をブチのめせる力が欲しいだけだ」
生憎とセリアの期待するようなドラマチックな理由で強さを求めるようになったわけではない。
元々――――そう、元から人間として生まれてきたことが間違いだったと思うくらいに野生動物的な性質を持っていたというだけの話だ。
けして、断じて、万が一にも、それ以外では――――
「おっと……!?」
轟は突如としてシートから跳ね起き、正面モニターの一画に表示されたレーダーを食い入るように見つめる。
南東の方角に現われたのは、赤い光点。
地球統一連合軍のデータベースに存在しない、完全なる未確認熱源体であることを意味する赤。
轟は獲物を見つけた獣の如き凶悪な歓喜の笑みを浮かべ、操縦桿を握り込んだ。
『北沢君!?』
「何かがこっちに来やがるぜ……まあ、敵だろーがよ」
『すぐに監視衛星で確認させる……。風岩君との作業の兼ね合いもあるからワイヤーの切り離しはもう少しだけ待って欲しい』
「急げ、結構速えーぞ……!」
轟はセイファートの腕部に接続された巻き取り用の装置を外す準備をしながら、セリアを急かす。
一秒の間に百メートル以上の速度で接近していることから、断じて偶然に迷い込んだ船舶の類でないことは明白だった。
それから十数秒後、セリアよりも先に、他のオペレーター経由で情報を手に入れた瞬がセイファートとの回線を開く。
「おい轟、上はどうなってんだよ!」
「敵が来てるっつってんだろーが……テメーこそ、そっちはどうなっていやがる」
「今ちょうど潜水艦を発見したところだよ。普通の損傷じゃねえ、船体の表面に何カ所も切り傷みたいなのがある……!」
「切り傷だぁ……? まあいい、今からちょいとワイヤーを外すぜ。じゃなきゃ戦えねーしよ」
「おいおいマジかよ……今の深さじゃレイ・ヴェールを展開してないとバウショックだって保たないんだぜ。あと九分ぐらいしかここにいられねえんだぜ、オレも」
「……その間に全員ポッドに詰めろ。要は七分ぐらいで倒せばいいんだろーが」
轟は一方的に通信を切ると、セリアの返答を待たずして、即座に全身の機器類を外して自由の身となる。
どのパーツにもフロートが取り付けられており、そうそう沈まないような構造をしているはずだった。
「さて、敵のツラを拝みに行くか……!」
背部・脚部バーニアスラスターの噴射によって、セイファートは波飛沫を上げながら海面から脱出する。
身重のバウショックであれば海上を航行するしかないが、セイファートはそのまま空中へと舞い上がり、全身各部の装甲位置をずらして最も空力の得られる状態とすることで、外観的にはほぼ変わりがないものの実質的な航空形態へと移行する。
轟は、リニアカタパルトの使用時以外でも自由に空中を移動できる利便性を知ると同時に、やはり自分には地に足をつけて戦うバウショックの方が性に合っていることを確信する。
だが、海上が戦場となる今回だけはセイファートの力を存分に使わねばならない。
慣れない内は落下の衝撃を最小限とするため低空飛行に徹するのが基本だが、そのような守りに入った考えを轟は嫌う。
逆に千メートルは上昇し、大海原を一望する。
更に上を目指さなかったのは、赤い光点の正体である未確認機をそこから目視できる限界の場所で発見したからだ。
「船……いや、魚か?」
波を裂いて海上を突き進んでくるのは、長大な首を持つ鋼鉄の海竜だった。
鮫のような頭部に嵌めこまれた、幻想的な輝きを放つ紅い双眸。
全身から突きだした刃状の鋭い鰭は、それが泳ぐためだけに備わっている器官ではない事を如実に表わしている。
コバルトブルーに染め上げられた装甲は海の色に溶け込み、よく目を凝らさなければ、海面が自らの意志で亀裂を生み出しているようにも見えた。
全長は約五十メートルほど。
海上に露出している部分だけを見ても、とても軍隊で採用されている艦艇とは思えない明らかな異形。
そして、攻撃手段を全身の鰭と仮定すると、瞬の証言とも一致する。
原子力潜水艦を襲撃したのも、この機体で間違いなさそうだった。
「だとするとコイツは、八番目のメテオメイルって事か……!」
轟はセイファートを滑空させながら、謎の機体へと急接近する。
だが同時に、あちらもセイファートを捕捉する。
背面装甲が開き、その内部から発射されたのは十数発の大型ミサイル。
直撃でなくとも爆発の影響下にあるだけで相当なダメージを負うことは想像に難くない。
全てを迎撃できるだけの武装はセイファートにはない。
圧倒的な機動力を活かし、鋭角的移動で誘導を切るか、或いは避けきるか。
だが正規パイロットではない轟は、判断のタイミングが瞬に比べて僅かに遅れる。
ミサイル群が、今から加速を初めても逃げ切れない距離に迫ってから、両肩のパーツを組み合わせて完成するブーメラン、ウインドスラッシャーを投擲する。
だが、S3を用いた軌道操作でも、撃墜できたのは全体の五分の一程度。
更に胴体の大型バルカンで同量を迎撃することに成功するが、残る五分の三が途中で起爆され、セイファートは全方位からの爆風を浴びることになる。
「この……!」
『機体損傷率二十七パーセント……結構な痛手だが、立て直せそうかい』
「当然だ……!」
『幸運だったのは、先に手を出したのがあちらだという事だね。オーゼスの兵器である事が確認できなくても正当防衛の目処が立った。通常なら、明らかに危険な相手だろうと、まず交信して所属を確かめないといけないのが大人の事情だからね、こういう場合は』
非常事態ということで、瞬のサポートから通常の戦術オペレーターへと復帰したセリアが、セイファートの武装リストを外部から呼びだして正面モニターに表示する。
自分がセイファートの扱いを熟知していないから、わざわざ教えてやったというところなのだろう。
だが、余計な世話もいいところだった。
轟は既に、短いながらもここまでの操縦で、セイファートの操縦感覚を掴みつつある。
そして、自身の性質に合わせた運用法も。
落下の中にあるセイファートをバーニアスラスターの噴射で滞空させ、どうにか本体の元へ帰還することができたウインドスラッシャーを掴む。
轟は、それを投擲し直すことはせず、収納時の手順通りにパーツを一度分解。
そのまま、パーツの後端に設けられた、接続・分解の際にマニピュレーターで保持するためのグリップを握り込み、二振りの短剣とした。
グリップの上ではなく側面にブーメランの半身である刃が付いているため、縦に構えれば剣として、横に構えれば前方に刃の付いたナックルダスターのように扱うことが出来る。
今この場で、轟が考えついた応用方法だ。
『北沢君、一体何を……?』
「こっちの方が俺には向いてる。すぐに折れちまいそうな細長い刀は俺の趣味じゃねー」
『拳以外には頼らないんじゃなかったのかい』
「俺とバウショックの組み合わせは最強だから、それで事足りる。だけどセイファートは弱い、俺の強さが反映できねーくらいにな。弱い機体で勝とうと思ったら、どんな手段も遠慮なく使わなきゃいけねーだろ。……弱い内は、そうやって生き残るもんだ」
轟は自分の脳裏に何かがフラッシュバックする痛みを覚えながら、セイファートを急加速させて海竜との距離を詰めていく。
再び背面からミサイルがせり上がってくるが、セイファートのスピードならば、発射前に射程の内側へと潜り込める。
「今度はテメーがズタズタになる番だぜ……!」
一気に間合いを詰められた海竜が首をしならせセイファートに噛み付こうとするが、もう遅い。
轟の動作に連動して、セイファートがその右腕を引き絞る。
狙う必要は無い、的は自らやって来る。
轟の役割は、襲い来る鉄の塊を全力で迎え撃つだけだ。
「カウンターだ、取っとけ」
直後、鞭のような勢いでスイングされた頭部へ向けて、セイファートの渾身の斬拳が炸裂した。




