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第194話 ロッシュ・ローブ(中編)

 二十世紀の半ばに、イギリスのとある科学者が“氷山空母”なるものの構想を発表したことがあった。

 天然の巨大氷山を加工することで航空母艦や洋上の基地に仕立て上げるという、文字通りの代物だ。

 従来艦を遥かに上回る積載能力と、海水の凍結による船体の自己修復能力。

 要求通りの仕様が実現されれば、それは最強の浮沈要塞となるはずだった。

 しかし、試作段階で計画は中止の憂き目に遭ってしまう。

 そして、後の歴史においても、その構想を受け継ぐ者が現れることはなかった。

 当時の計画は、複数国家の協力体制のもとに進んでおり、妄想に取りつかれた一部派閥の暴走でなかったことは保証されている。

 だが、あらゆる観点から、それの完成は現実味に欠けていた。

 要求される技術レベル、予算、時間の全てが、当初の想定を遥かに上回っていたのだ。

 加えて、時代が進めば進むほどに通常艦艇の性能は向上し、実用性の面においても存在価値を失っていく。

 蘇る道理すらない、完全なる死。

 かくして氷山空母は、古き時代の、幻の方舟と成り果てた。

 もし仮に、その奇想が現代において実現されるとしたら、四乗の奇跡が必要となる。

 尋常ならざる技術力を持つ稀代の天才と、莫大な予算を持つ底なしの富者と、膨大な時間を持つ究極の暇人と、あらゆる合理性を意に介さない夢想家が一同に介するか。

 あるいは、四つ全ての要素を備える神のごとき主導者が現れるか。

 確率的にも、常識的にも、そんな異常事態はまず起こり得ない。

 そんなにも不条理にまみれた組織など、この世に、存在するわけが――――


「そりゃあ、いくら探したって見つからねえさ……。大陸でもなけりゃ海でもねえ、その周りをのろくさ流れてやがる氷の塊が“正解”だなんて、誰が思うかよ……!」


 輪形陣で待機する艦隊の前方を、巡航形態スターフォームのまま低速飛行するセイファート。

 そのコックピットから大海原を見渡す瞬は、呆れ笑いを浮かべながら髪をかき上げる。

 ケルケイムの指示を受けたオペレーターの口から、氷山空母についての簡易的な説明は既になされた。

 ただ、仕方がないといえば仕方がないのだが、内容の大半は概要レベルに留まる。

 基本構造すら曖昧なため、眼前のそれを攻略する上での有益なデータとは言い難かった。

 判明した事実は、わずかに一つ。

 この二年間、連合は、ありとあらゆる手段を用いて南極周辺を調査してきた。

 にも関わらず、オーゼスが氷山を加工した施設を運用している可能性に思い至れなかったのは、手がかりの見落としがあったからではない。

 人工衛星が取得した観測データを調べる限り、この数年間、どの氷山にもまったく不自然な動きが見受けられなかったそうなのだ。

 それはつまり、彼らの氷山型要塞はラニアケアと異なり自力での航行が不可能であるか、これまで一度も機能を使っていないということ。

 完成から現在に至るまでずっと、彼らは波任せ風任せに南極の周辺海域を漂流していたのだ。

 自らの行き先を、そして行く末を、天に委ねて流されゆく――――を、敵性組織の最重要拠点であると見抜けるわけがなかったのだ。


「……やられたわね。でも、ようやく見つけたわ」


 セイファートのやや後方。

 海面すれすれの高度をホバー移動で駆けるオルトクラウドの中で、連奈がつぶやいた。

 ただ、連奈の瞳に映っているものは、瞬とはやや異なる。

 景色の全体ではなく、その中の一点を、鋭い眼差しで見つめていた。

 海流の関係で自ずとそうなっているだけなのだろう――――戦略的意図がまるで感じられない、無秩序な配置のまま迫ってくる“氷山艦隊”。

 その中央に位置するとりわけ大きな台状氷山の上には、一機のメテオメイルが屹立していた。

 その機体こそが、ケルケイムの推察が“正解”であることの証左だった。

 深蒼の装甲と真紅のマント、表裏一体の鮮やかさが見る者の目を引く、荘厳なる人型。

 あらゆるメテオメイルの祖でありながら、今なお最強の称号を手にする究極の一。

 機体名称、グランシャリオ。

 先程までの快晴から一点、急速に厚みを増していく降雪のカーテン向こうで、縦に三つ並んだ独特の頭部カメラが怪しい光を放っていた。

 それらは、一定間隔での明滅を続けている。


「灯台のバイトかよ、ご苦労なこった」


 恐るべき難敵ではあったが、それを見下ろす瞬は鼻で笑ってみせる。

 絶対の王者らしく悠然と構えているようにも見えるが、実際のところは、こちらが捕捉しやすいよう目印代わりに立たされているだけなのだろう。

 グランシャリオを操る男の為人ひととなりを知る瞬には、彼がコックピットで所在なさげにしている様子が容易に想像できてしまう。


「ようこそ、世界の最果てへ」


 グランシャリオの頭部が、現況を確認するようにわずかに上下した直後。

 連合・オーゼスのメテオメイル間でのみ成立する専用チャンネルを通じて、相変わらずの気の抜けた声が届けられる。

 瞬にとってはまだ二度目の接触だが、戦闘兵器のパイロットらしからぬ気迫のなさは、逆に強く印象に残っている。

 間違いなく、“B4”と呼ばれている男のものだ。


「すまなかったね。我々の拠点ホームだから、出迎えが遅れてしまった。……まあでも、今回のようなケースは、相当にいい部類だと思うよ。時期が悪いと、合流までにもう何日かかかっていただろうから」


 どうやら本当にまともな航行能力を持たなかったようで、瞬はオーゼスの非常識ぶりにほとほと呆れる。

 彼らが繰り出す斜め上の奇想――――つまるところの“遊び心”には、もう散々驚かされてきたというのに。

 この期に及んでなお、翻弄されるとは。

 それの総量において、子供が大人に遅れをとるというのは、瞬にとっては未だに受け入れがたい事実である。

 釈然としない表情のまま、瞬はグランシャリオに視線をやった。


「久しぶりだね、連奈ちゃん。それと……そちらの君も」

「風岩瞬だ」

「重ねてすまない。おじさんは、人の名前を覚えるのが大の苦手でね……」

「いいよ、別に。オレもあんたの本名なんざ覚えちゃいねえし、興味もねえからな」

「ははは、手厳しいね……」

「あんた達の親玉のを舐めてたぜ。今、あんたが立っているそこが……というより、そこら一帯が、オーゼスの秘密基地ってわけだ」

「そうなる」


 B4はあっさり認めると、無防備にもグランシャリオを反転させ、背中を晒す。

 冷ややかな風を受けて優雅に揺れるマントが高い防御能力を備えていることは承知済みだが、おそらくB4は、余裕の表れからそんな行動に出たのではない。

 特に考えもなく、観光地を紹介する現地ガイドのような気分で身を翻しただけだ。

 この信じがたいほどの危機意識の欠落ぶりに、瞬はB4という男の異常性を再確認した。


「我らが偉大なるボスは、この氷の大船団を、“ロッシュ・ローブ”と名付けた。恒星の持つ強い重力は、周辺の物体を自身の元へ引き寄せ、傍に留め置こうとする。その効果が及ぶ範囲のことを……そういうふうに呼ぶらしい」

「どうでもいい情報だ」

「そうでもないさ。ここがどのような場所かを――――ひいては、ボスと我々がどのような関係にあるかを言い表す上で、これほど適切な言葉はない。我々オーゼスの構成員は、あの方が放つ強大な力によって引き寄せられた、小さき星々なのさ」


 瞬はB4の返答を、詩的な表現による誤魔化しだと切って捨てることはできなかった。

 これまで瞬は、何人ものオーゼス構成員と関わり、彼らを束ねる首魁の正体について何度も尋ねてきた。

 結果として、彼らはただの一度も口を割ることはなく、この最終局面といえる状況にあってすら、把握している情報は皆無に等しい。

 だが、首魁について、一つだけ確かなことがある。

 その人物には、九人の男たちを”ゲーム”に付き合わせるだけの力があるということだ。

 唯一無二の個性を持った極めつけの破綻者たる彼らを、一応の納得に至らせる――――それはつまり、世界の全てを敵に回すという途方もないデメリットに勝るほどの、魅力的な見返りを提示したことを意味する。

 太陽の如き煌めきを持った、なくてはならないとすら思えるほどの存在。

 瞬の立場からすれば、世界を混沌に陥れた元凶を、太陽と表現する気にはなれない。

 しかしB4たちにとっては、そう呼ぶに相応しい重力を持った、星系の絶対的中心点なのだろう。


「……そいつは今、あんたの足元にいやがるのか?」

「いるよ。足元というほど近くじゃないけど……真下という意味でなら、そうかな」

「じゃあもう、あんたなんてガン無視して、本丸をぶっ壊すのもありってわけだ」

「まあ、うん、でも……ここがおじさん達の拠点ホームなら、簡単にそうできるわけがないってこともわかってるんじゃないかな? なにしろ全ての氷山が――――」


 B4が言い終えるよりも早く、瞬の眼下の空間を、二条の禍々しい紫光が奔る。

 ケルケイムからの命令を待たずして、背後のオルトクラウドが両手に構えたバリオンバスターを同時発射したのである。

 並のメテオメイルなら一度の直撃で大破させるほどの威力を持つ、凶悪な重粒子砲。

 しかしその二射は、ロッシュ・ローブの前方に展開された不可視の防壁に容易く防がれ、大気中に飛散してしまう。

 気づけばいつの間にか、各氷山の上部から、柱状の装置が露出しているのを確認できた。

 かつてジェルミが、船上のノルンを閉じ込めるために使用した電磁フィールド発生装置と同系統のものなのだろう。

 サイズと数が桁違いな分、防御力も相応に高まっているというわけである。


「無言の先制攻撃か……君らしいね、連奈ちゃん」

「らしいもなにも、戦いって本来、こういうものでしょ。敵同士なのに、益体もなくだらだらと喋り続ける男連中あなたたちの思考回路は、理解に苦しむわ」

「そういうところも相変わらずだ。……安心したよ」


 連奈が冷ややかに発する言葉を、B4はその粘土のような精神性で、ぬるりと受け止める。

 この男に、皮肉の意図はない。

 連奈の尖り具合が健在であることを、本当に喜んでいるだけだ。

 まともにやり合おうとすればするほど、毒気を抜かれてしまう。

 いや、会話を耳にしているだけでも戦意が削がれていくのを感じる。

 不気味なまで、反発力の欠如。

 瞬は呑まれまいと、見下ろす姿勢のまま、戦闘の開始を急かす。


「時間がねえのは本当だしな。……そろそろ始めようぜ、おっさん」

「そうしようか。でも、君がおじさんと戦うことはないような気がするなあ」

「そりゃあ、どういう……」


 瞬の言葉を遮るように――――ロッシュ・ローブを構成する二十以上の氷山のうち、グランシャリオが立つ中央艦を除いた七隻の内奥から、それぞれメテオメイルがせり上がってくる。

 両手に二本のナイフを持っただけの、細身の人型機体。

 巨大なドリルの後方から六本の脚が生えた、ヤドカリを前後逆にしたような機体。

 全身の装甲に鏡面加工が施され、半ば風景に溶け込んでいる機体。

 四脚の下半身と人型の上半身が組み合わさった、ケンタウロスのような機体。

 脚の代わりに、極端に肥大化した両腕で体を支えている特異な体格の機体。

 胴体と両腕が大型の機関砲と化した、見るも明らかな面制圧型の機体。

 人体から脊椎と肋骨だけを抜き出したかのような、とりわけ異形の機体。

 いずれも、これまでに確認されたどの機種とも類似しない、全く未知のメテオメイルだ。

 個々の性能は不明だが、少なくとも、先程まで自分たちが相手取っていたような粗製乱造品には見えない。

 こちらは二機、向こうは八機。

 オルトクラウドが三機分の働きをするという都合のいい見積もりをしても、彼我戦力差にはまだ倍の開きがある。

 確かにグランシャリオ攻略に専念できそうにはないが、B4の言い回しは、また違った意図があるように感じられた。

 と、そのとき、狙いすましたかのように、瞬と連奈の動きを制する声が鼓膜を打つ。


「ああ……ええと、その、あの、そちらが置かれている状況は重々に承知しているつもりですが、あの、もう少しだけお時間を頂けますでしょうか」


 B4のものではない。

 ある意味においてB4よりも場違いな、独特の空気を醸し出す男だ。


「井原崎……!」


 井原崎義郎。

 オーゼスの代表理事という肩書きを持つが、敵からも味方からも第三者からも、そう思われていないしそう扱われていない、頂点とは真逆のところに位置する人物。

 書類上は、井原崎の身柄確保を第一目的とした作戦の遂行中だというのに、今の今まで、瞬はその存在を完全に失念していた。

 大体、記憶していること自体も少ない。


「先刻の無人機部隊による迎撃は、我々が準備を整えるまでの緊急措置だったのです。また、今しがたロッシュ・ローブ上に展開させた七体の無人機も、施設防衛用としての側面が強く、ええと、その……積極的に攻撃することは致しません。何度も不手際がありまして、信じていただくことは難しいとは思うのですが、あの、その………我々の目的はあくまで、九人の参加者プレイヤーによる地上侵攻の完遂なのです」


 井原崎の声は専用チャンネルではなくオープンチャンネルによる発信であったため、艦隊のほとんどの人間が聞くことができているようだった。


「それらの無人機は、有人機……つまり、正規メテオメイル同士の戦闘には干渉しないと考えていいのか?」


 オーゼスを直に相手取ってきた経験と手腕、そしてジェルミをやり込めた先の一件から、最も円滑に事が進むと判断されたのだろう。

 艦隊を率いる総司令官の代理として、交信にはケルケイムが応じる。


「連合側の通常戦力による攻撃が行われない限りは……ええ、はい、その通りです」


 つまり事実上、七機の無人機は存在しないも同然というわけである。

 こちらが紳士協定を守っている間は、だが。


(あの機体も、バリアも、あくまで“野暮な真似”対策。あんたらのボスは、今日も今日とてをご所望ってわけか。最後の最後まで、筋が通っていやがる……)


 瞬は素直に畏敬と感謝の念を送る。

 ルール無用の総力戦に発展した場合、戦局は確実に泥沼化する。

 最大出力のゾディアックキャノンを放てば、電磁フィールドを強引に突破した上でロッシュ・ローブを消し飛ばすことも可能だろうが、残る全戦力による苛烈な妨害が待ち受けているだろう。

 連合側の犠牲者数も相当なものになるはずだ。

 メテオメイル同士の戦闘で済むのなら、それに越したことはなかった。


「我々がグランシャリオの撃墜に成功した場合、お前達のいう“ゲーム”とやらは、どうなる。潔く終了するのか、残存戦力でまだ抵抗を続けるのか」

「終わる……のでしょうね。オーゼスに、その先の展望はありません。もしグランシャリオが敗北した場合、それを最後の戦闘だと認識していただいて結構です」

「……了解した」

「では、その、あの……戦闘に参加される機体は、ロッシュ・ローブにお上がり下さい。地表部全体を戦闘フィールドとして使用してもらって結構です。元よりそれを前提とした設計になっておりますので、メテオメイルの移動・攻撃にも十分耐えられると思います」

「なら……行くか」


 いよいよこのときが来たと、瞬と連奈は、気を引き締め直す。

 あとはケルケイムの一声があれば、戦いは開始される。

 今のやり取りの流れで、総力戦に方針転換することもないだろう。

 グランシャリオは確かに強力な機体だが、戦闘スタイルは至って正統派だ。

 一度の交戦経験と、一度の操縦経験がある連奈。

 そして、そんな連奈が操る状態だったとはいえ、一応の勝利を収めたじぶん

 二人がかりなら、勝算は十分にある。

 瞬と連奈の集中力の高まりを感じてか、ケルケイムは急ぐように、もう一つだけ井原崎に問いを投げた。


「最後に一点、確認しておきたいことがある。ジェルミが放ったガンマヒュドラーの端末機の、そちら側の対応についてだ」


 確かに、それもまた最重要事項だった。

 “ゲーム”を終了させれば、オーゼスがガンマヒュドラーを停止させてくれると決まっているわけではない。

 そもそも、ジェルミの独断についての責任を彼らが負うという保証すらなく、外部か強制停止させる手段があるとも限らない。

 瞬たちは、彼らならなんとかしてくれるのではないかという僅かばかりの希望に縋って、ここまでやってきただけなのだ。

 金輪際井原崎との通信が繋がらない可能性もあり、今このタイミングでの事実確認は必須といえた。


「……どうした?」


 二十秒ほどが経過しても井原崎からの返答がなく、ケルケイムが訝るように尋ねる。

 話すべきことは既に話し終えたとでもいうのだろうか。

 しかし、そんな瞬の予想とは裏腹に、更に数秒が経過した後、井原崎は応じた。


「……一つだけ、条件があります。それさえ呑んでいただければ、あの方の権限によって、ガンマヒュドラーの本体および遠隔操作型端末ディパージョンビット全基の機能停止を保証いたします」

「今後の処遇について交渉しようとでもいうのか?」

「いえ……なにを差し出しても今更どうにもならないことくらいは、みな理解しております。我々は最後まで、我々の戦いをするだけです」


 沈黙を挟んでからの井原崎の発言は、妙な落ち着きがあって、瞬は違和感を覚えた。

 瞬の記憶にある井原崎は、激しい苛立ちを誘う妙な癖の付いた喋り方をする男ではあっても、言うべきことを言い淀む人物ではなかった。

 どちらかといえば、職務に忠実なあまり、言うべきではないようなことさえ言い放ってしまう不器用な性格だったはずだ。

 全てを覚悟の上で、暴虐の限りを尽くしてきた彼らが、今更なにを躊躇うことというのか。

 臨戦態勢の瞬は、ロッシュ・ローブの上で待ち構えるグランシャリオに意識の大半を向けていた。

 それだけに――――不意の方向から飛んできた、その言葉に対する身構えが間に合わなかった。


「セイファートの操縦者の方……聞こえていますか」

「あん?」

「あの方は、あなたとの一騎打ちを所望されています。自らの自信作と、セイファート……どちらがより優れた機体であるのかを、是非確かめてみたいと。それが、我々が提示する条件です」


 ぞわりとした感触に、瞬の全身の毛が逆立つ。

 ――――

 オーゼス束ねる“その何者か”の視点からすれば、風岩瞬という少年は、最も多くの同胞を打ち倒した厄介な相手ということになる。

 単純に戦績だけを見るならば、そう思われることもあるだろうと、理屈としてはわかっているつもりだった。

 だが、実際に意識を向けられていることが明らかになった今この瞬間。

 初めて感じる、良し悪しの判別すらできない緊張が、瞬の全身を強張らせた。


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