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第139話 光の虚神(その3)

 エウドクソスが送り込んできた第四の刺客、無貌の神像“ヴォルフィアナ”。

 そして、それを前後左右から包囲する、ヴァルクスのメテオメイル四機。

 真っ先に行動を開始したのは、ヴォルフィアナの真正面に陣取るオルトクラウドだった。

 バリオンバスター二挺を、躊躇いなくヴォルフィアナの胸部へ向けて撃ち放つ。


「今だ!」


 数瞬遅れて、セイファート、バウショック、ゲルトルートの三機も一斉にヴォルフィアナへと飛びかかり、各々の近接攻撃を浴びせる。

 敵機の周囲に力場を展開して身動きを封じる特殊機能、“オーロラの檻セーラス・クルヴィ”の使用を制限するという、シャウラの言葉を馬鹿正直に信じている者はいない。

 まだヴォルフィアナが、幾つもの武装を隠し持っていることも承知の上だ。

 しかし、数と力で押し切る以外に、ヴォルフィアナのレイ・ヴェールを突破する方法が存在しないのも事実。

 更なる良策が浮かぶのを待つ間に各個撃破されるよりは、危険はあれど、全機で攻め立てる方が遥かに現実的な選択だと言えた。


「自分が駄目でも、他の誰かの攻撃が通れば……なんて、つまんねえ考えをしてやがる奴はいねえよな」


 瞬はヴォルフィアナの右翼にジェミニソードを押し付けながらも、仲間に向けて、意地悪く笑んでみせる。

 戦術的には、自軍最強の火力を誇るオルトクラウドの攻撃を通すため、残り三機で敵の意識を逸らすのが正しい。

 実際今は、そういう形で全員が動いている。

 だが、支援に徹しようとする生ぬるい意識や姿勢は、自身の強さを損なうだけだ。

 あわよくば自らが――――どのような状況でも、そこまでの貪欲さと図々しさがなければ、強者揃いのメテオメイル戦は生き残れない。


「当たり前だろーが……! アイツを助け出すのは俺の役目だ。他の誰にも譲りやしねーよ」


 再びヴォルフィアナに掴まれそうになるバウショックだが、襲い来る両腕を続けざまに蹴り飛ばして打ち払う。


「そもそも、能力的に、私がみんなより先に倒されるなんてあり得ないわ」


 その隙に、オルトクラウドが胴体部のプラズマ砲をヴォルフィアナの頭部めがけて発射する。


「ちょっと考えてましたが、そろそろ一機撃墜のスコアが欲しいところなので、頑張らせて貰います!」


 そして、その一射に乗じて、ゲルトルートがヴォルフィアナの右肩部にジェミニブレードを勢いよく叩きつけた。

 更に続けて、セイファートが無防備となったヴォルフィアナの背面にジェミニソードで斬りかかる。


「注意を引いてくれてありがとうよ……!」


 瞬は嫌味たらしい感謝を述べるが、それに耳を貸す者はないない。

 シャウラの注意がセイファートに移った気配を鋭敏に嗅ぎ取った三人は、間断なく次の攻撃を始める。

 各自、さすがの心構えだった。

 何度辛い現実に打ちのめされても立ち上がってきた轟。

 長期間ヴァルクスを離脱しておきながら何食わぬ顔で戻ってきた連奈。

 少しでも瞬達に追いつくため、必死の思いで食らいついてくるメアラ。

 そして瞬も、セイファート戦線復帰以降の連勝記録をこんなところで不意にするつもりは毛頭ない。

 チームの調和を乱さず、しかし各自とも、常に戦術以上の結果を追求し続ける――――精神的な部分においては、極めて良好に噛み合った連携だった。

 だが、それとヴォルフィアナの超常的な防御力を打ち破れるかどうかは全く別の話だ。


「慢心の象徴のような台詞だけど、敢えて言わせてもらうよ。……その程度の攻撃は、痛くも痒くもないね」

「くそっ、崩れねえ!」


 先程、一度だけ傷をつけられたことがあったが、その際は手を抜いていたのだろう。

 ヴォルフィアナの全身に張り巡らされたレイ・ヴェールは、先程と比べて明らかに一回り強度が上がっていた。

 四方から攻撃を仕掛ければ、それだけエネルギーの配分が散って、どこかに脆い部分が生まれるという目算だったが、これほどの超高出力。

 もはやどの機体の攻撃も、“削り”として意味を成していない。


「そろそろ、反撃させてもらってもいいかな」

「っ……!」

「“雹の嵐カラザ・スィエラ”」


 シャウラが淡々とした口調でそう発すると、ヴォルフィアナの周囲におびただしい数の小さな光球が発生。

 直後、それらは散弾銃の如く全方位へ向かって弾け、自身に肉薄していた四機の装甲を軽々と抉り取っていった。

 時間的にも空間的にも躱す余裕のない、もはや砲撃に分類されるのかどうかも怪しい濃密極まる広域攻撃。

 一発一発は大した威力を持たないが、しかし量が量である。

 四機とも、大破こそ免れはしたものの、全身に数百もの弾痕が刻まれていた。

 光球の発生および連射は依然として続き、四機は後退を余儀なくされる。


「何でもかんでも力任せかよ……!」

「それで済んでしまうのが、ヴォルフィアナなのさ。メテオエンジン四基並列稼働が生み出す莫大なエネルギーを、高度な制御システムを用いて最大効率で運用……結果として、メテオメイル四機分以上の戦闘能力を獲得するに至っている。君達がどう足掻いても、敵いはしないよ」

「四基だと……!? そもそもテメーらのところが、ヴェンデリーネくろいの以外を動かせてる時点でおかしいとは思ったがよ……まさか」

「北沢君にしては頭が回るじゃないか。そうだよ。君の推察通り、このヴォルフィアナに積まれているメテオエンジンは全て、君達ヴァルクスがこれまでに回収したHCPメテオを元に新造されたものだ」

「またパクりやがったのか、テメーらは!」

「移送の際には、ちゃんと同行して作業に最後まで立ち会うべきだったね」


 轟に対するセリアの返答を聞いて、瞬はたまらず舌打ちする。

 連合の管理下にあった、八つのHPCメテオ。

 その内、ヴァルクスのメテオメイルに搭載されていない四つは順次最高司令部に送られ、施設の最深部で厳重に保管されているはずだった。

 連合は、五年前にもエウドクソスにHPCメテオを奪われているため、保管場所のセキュリティは格段に強化されている。

 組織の内部に数多潜んだエウドクソス構成員がどれだけ暗躍しようと、それらを持ち出すことなど不可能に近い。

 しかし、元より最高司令部に正しく移送されていなかったのならば、納得がいく。

 途中で偽物とすり替えたか、あるいは、封印の完了すらも虚偽の報告で済ませたか。

 エウドクソスが、そこまで大胆に動いている可能性を予測できなかったのは、ヴァルクス側の失態だった。

 結果、現在のメテオエンジン保有数は、連合が四基、オーゼスが二基、エウドクソスが五基。

 とうとう、第三勢力であるエウドクソスに、最も多くの数が集まってしまった。

 これ以上、エウドクソスに力を付けさせれば完全な一強体制が完成してしまう。

 尚の事、打倒ヴォルフィアナに気合を入れなければならないようだった。


「やっぱり、全員の決戦兵装おおわざをブチ当てるしかねーみてーだな……。おい大砲女!」

「わかってるわよ……先発をやれっていうんでしょ。流石にダダは捏ねないわよ」


 轟の言わんとする所を汲み取って、連奈が渋々ながらも大きく後退する。

 最強最大の破壊力を実現するのであれば、各機の決戦兵装を同時に命中させることが理想だ。

 しかし、それぞれの攻撃範囲が広すぎて互いを巻き込んでしまうため、実質的には不可能。

 現段階では、連続して放つ、次善の策を取るしかない。

 その場合の、最も効果的な順番を考えると、やはり最初は一際火力の高いオルトクラウドが適任だった。

 まずはヴォルフィアナのレイ・ヴェールを破らないことには、後続のダメージも通らない。


「大トリはお前だからな、メアラ」

「はい……!」


 オルトクラウドのゾディアックキャノン、バウショックのクリムゾンストライク、セイファートの流星塵、そしてゲルトルートのスクリームダイブ。

 面から線、そして点へ。

 これが、より敵機の内奥へと破壊を到達させるための、最も理に適った順序。

 ヴォルフィアナは、四機が離れたのをいいことに、移動を再開してラニアケアとの距離を縮めている。

 シャウラが“雹の嵐カラザ・スィエラ”を解禁した以上、もう胸部の宝玉から放たれる光線を阻止することすら難しい。

 おそらく、この決戦兵装四連続攻撃を仕掛けられるチャンスは一度。

 ヴォルフィアナと並行してラニアケアの側に寄りながら、四機のメテオメイルは縦一列の陣形を作り、

 メテオエンジンの稼働状態を最大にまで引き上げた。


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