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第125話 剣と弓(その1)

 退屈。

 いや、退屈にすら至らない圧倒的虚無。

 ここ最近の連奈の心中を端的に表現するならば、そうなる。


「……どうりで」


 無駄に広いリビングの中央に置かれた、大きなソファ。

 そこで、毛布にくるまって横になっていた連奈は、テーブルの上にあるデジタル時計にふと目をやり、納得に至る。

 表示されている日付は、十月十四日。

 南半球の季節は北半球と比べて半年ずれているため、今は春の半ばである。

 どうりで、最近昼寝が捗るわけだった。

 思わず、呆れ笑いがこぼれる。

 偶発的な要因がなければ、自分は、寝心地のよさの理由にさえ気付くことがなかったのだ。

 なんとなく、ただ温かさを享受していただけなのだ。


「堕落の極みね。……でも、仕方がないじゃない。やる気を出す必要なんてないんだから。出しても出さなくても、誰にも何も言われないんだから」


 気だるげに呟きながら、連奈はゆっくりと身を起こす。

 起きて何かをする気になったわけではない。

 妙な体勢で寝ていた影響で、背中や足腰にむず痒さを感じ始めたからだ。

 言ってしまえば、ただの受動的で本能的な行動。

 数分もしない内に、午後二時過ぎの暖かな日差しが、連奈を再びまどろみへと誘う。

 起きていても、特にすることはない。

 ここ数日の間にやったことといえば、食事にトイレにシャワーというような、本当に必要最低限の行動だけ。

 何をしたところで意義を感じることができず、もはや、生きる気力さえも失せかかっていた。


(……結局、一人なのね。私は、いつだって)


 極限まで鈍った意識の中に、自然とそんな言葉が浮かんでくる。

 無断占拠している身とはいえ、長らくこの家の主を務めていたB4の姿は、ここにはない。

 一週間ほど前に、急遽オーゼスの本拠地へと帰還して、それっきりだった。

 当たり前のように、置いていかれてしまった。

 同行を願い出たところで、迎えに来たゼドラが、容赦なくそれを突っぱねたことだろう。

 だが、結果は同じになるとしても。

 短くない期間を共にしたB4が、自分に何の未練も執着も持っていないという事実がただただショックだった。

 もっとも、連奈自身も、B4に対して一線を引いてしまっているところはあったが。

 全てを諦め、自分に加えられる力の一切に抗おうとしない、粘土のような精神性。

 最も簡潔で最もおぞましいその本性は、近づく者の精神をも蝕む。

 連奈はその無限の闇の中へ、ついぞ飛び込むことができなかった。

 できていたら、B4から必要とされる存在になっていたかもしれないというのに。


「……どっちなのよ、私は」


 壊れたいのか、壊れたくないのか。

 結論を未だに出せないからこその、この始末。

 誰にも相手にされることのない、究極の自由――――孤独。

 煩悶するたびに、心中でエラルドが囁く。

 三風連奈は、ただ危険に恋い焦がれているだけの、真っ当な側の住人なのだと。

 戦いを途中で投げ出すという暴挙で、もう十分、常人の枠外に飛び出したつもりでいたのに、まだ発想が甘いというのか。

 だとしたら、一体どうすれば――――

 連奈は、そこから先を考えようとしたが、そうもいかなくなった。

 聞き慣れた飛行音が、鼓膜を震わせたからだ。

 どんなに怠けていようと、B4とは異なり、日中は普段着に着替える生活を徹底している連奈である。

 だから、予想外の事態に対する驚きのままに、慌てて飛び出すことができた。



「どういうこと……?」


 近くの道路に出て、上空を見上げた連奈は、早速ある違和感に気付く。

 空の彼方からこちらに向かって飛んでくる巨大なカーキ色の物体は、間違いなく、オーゼスが保有する大型輸送機“アルギルベイスン”である。

 だが、普段とはやってくる方向が異なる。

 僅かの差異ではなく、明確に真逆、北方からなのだ。

 ゼドラは生活物資を届けにくるにしても、本拠地への確実な補給を最優先事項としているため、帰路の途中でこちらに立ち寄ることはしない。

 だから必ず、南方から来るのだ。

 その法則が破られているということは、並々ならぬ事態が起きているということである。

 とはいえ、おおよその事情は、すぐに察することができた。

 直後、アルギルベイスンの後方から、また別の機体が姿を現したからだ。


「そういうこと……」


 アルギルベイスン以上に見慣れた、黒と白と金に彩られた人型のメテオメイル――――セイファート。

 空中を自在に飛行することの出来る、現状唯一の存在。

 太陽の光を反射し、ぎらりとした輝きを放つそれを目にし、連奈は眩しさ以外の理由で渋面を浮かべた。


「……やあ、連奈ちゃん。いい子にしていたかい」

「どうして真面目に応対してるのよ」

「いや、だって、連れて帰ってくれるというのなら、それが一番いいわけだし……」


 着陸からほどなくして、アルギルベイスンから降りてきたB4は、相変わらず締まりのない表情のまま答えた。

 そして、その視線は背後へと向く。

 セイファートもまた、近場の平地に降り立ち、ゆっくりと片膝を下ろしていた。

 胸部のコックピットハッチを開き、内側から緊張感の欠片もなく姿を現したのは、当然だがその正規パイロット――――風岩瞬であった。


「セイファートが真っ直ぐ南下してくるものだから、慌てて迎撃に出てみたら、君の住んでるところまで案内してくれってね」

「何を言われようが、問答無用で攻撃するのが普通でしょ。あなた達の立場なら」

「過激なことを言うなあ、連奈ちゃんは。そんな傍若無人な真似は、おじさんにはできないよ」


 これが、B4という男だった。

 個人で数百万という人命を奪ってきた、人類史において間違いなく頂点に君臨する大罪人でありながら、常人としての感性をも持ち合わせる歪さ。

 誰よりも流されやすいだけの人間。

 予定通りに行われたはずの“ゲーム”を放棄してまで、瞬の求めに応じたのだから、その主体性のなさは本物というほかなかった。


「連奈ちゃんのように、オーゼスの支配領域内で生存を許されているという特例が存在するのは様々な意味で問題だったからね。その辺りが解決できるなら、いいかなって」

「よくないわよ、何一つ」

「こんなところでいつまでも暮らしているのだって、よくはないだろう」

「そうそう、そのおっさんの言う通り」

「瞬……!」


 わざとらしくうんうんとうなずきながら、特に急ぐでもない足取りで二人の元へとやってくる従兄。

 それを連奈は、睨みを利かせながら迎えた。


「やっぱりお前は凄えよ、連奈。敵と味方の両方に迷惑かけてるの、相当だぜ」

「なったつもりはないわ。誰の敵にも、味方にも」


 約二ヶ月ぶりに再会を果たした瞬の姿は、以前と別段変わるところはなかった。

 ただ、物腰には余裕が表れており、それは瞭然であった

 もっとも、自信一割、虚勢九割という元々のひどいバランスが、ようやく半々になったという程度のものではあるが。

 だが、それでも確かな成長――――付け加えるなら、瞬とは最も縁遠い、着実な成長である。

 あの曇りに曇った眼を持ち、進退を繰り返すだけだった瞬が、積み重ねていくだけの安定軌道に乗っている。

 連奈には、それが気に入らなかった。

 自分が不在の間に、何度、誰と、何を懸けて戦ってきたというのだろうか。


「そうだな。お前はいつだってどこだって一人だった」

「プライベートを全て把握されるほど深い付き合いをしていたかしら、私達」

「じゃあ、違うのか」

「わかった風な口を利かないでって言ってるのよ」

「違わねえんだな」


 自分が凄んでみせたところで、瞬は、もう動じない。

 こちらをしっかりと見据えたままだ。

 逆に、連奈の方が気圧され、思わず視線を逸らしそうになる始末である。


「とりあえず、もう帰ってこいよ。このおっさんから、大なり小なり事情は聞いてる。オーゼスに協力してるわけじゃねえなら、軍事裁判だけは避けられるよう上手くごまかすって司令も副司令も言ってるしよ。今回のことは、突発的プチ家出ってことで、適当に流して終わりにしようぜ」

「戻って、何か面白いことでもあるの? 私の退屈を埋めてくれるような」

「ここよりましだろ」

「どうかしら」


 言いくるめられるのを先延ばしにするだけの、ほとんど無意味な反論だった。

 当然瞬は、呆れて眉をひそめる。

 以前とは、完全に立場が逆転してしまっていた。

 しかしそれでも、論戦で瞬に負けたくないという理由から、連奈は抵抗を続行する。


「私がヴァルクスを抜けたのは、戦うことに飽きたからよ。今の戦局がどうなっていようと、もう、どうだっていいの。だから、『私が興味を惹かれるような強敵が出てきた』なんてありきたりな説得は通じないわよ」


 その一言を受けて、瞬はいとも容易く押し黙る。

 図星だったかと、内心で連奈は嘲笑した。

 結局ヴァルクスは、戦力としての三風連奈を欲しているだけなのだ。

 じきに始まる決戦を制するべく、脱走したパイロットをどうにかなだめすかして、再び働いてもらう―――――理に適ってはいたが、良くも悪くも、普通の判断でありすぎる。

 無論、ヴァルクスがそのための行動を起こしたことについては、何とも思わない。

 連奈の気分がささくれ立っているのは、あの風岩瞬が、そんな仕事を引き受けて、わざわざこんなところにまで足を運んできたという点である。


「……すっかり正義の味方ね、あなた」

「何が悪いっていうんだよ」

「あなただけじゃないわ、北沢君もよ」


 ヴァルクスを出ていく数日前にも、轟との間で似たような会話があったことを、連奈は忘れていない。

 最初の内は暴力的かつ反抗的な態度が目立ち、誰の手にも負えない問題児として扱われていた轟が、訓練で手を抜いていた連奈を諌めたのだ。

 他人を気にかけることも、積極的に関わることもできなかった獣が、一人の少女と関わることで、驚くほど普通の人間に成り果ててしまっていた。

 いま連奈の胸中を満たしているのは、あの日と同じ失望である。


「捻じくれているなら捻じくれているで、それはそれで一つの個性だし、ほんの少しだけど、見ていて面白くもあった。……だったのに、何よ。二人とも、悲しいくらいまともな人間になっちゃって。退屈っていうのはね、戦うことだけじゃなくて、あなた達の変わりように対してもなのよ」


 ずっと溜め込んでいた不満を、当人の片割れに叩きつけることができて、胸のすく思いだった。

 これで、瞬が無難な返答しかできないようならば、すぐにでも話を切り上げるつもりだった。

 振り返った先に待っているのは、これまでと同じ空虚な生活だ。

 だが、ヴァルクスに戻った後の居辛さを考えれば、その方が幾分か楽なような気はした。

 そもそも、自ら普通の範疇に収まろうとするなどというのは、最も三風連奈らしくない行為である。


「ノルンさんが死んだ」

「――――は?」


 唐突に寄越された、何の脈絡もない返事に、連奈は怪訝な表情を浮かべる。

 内容そのものにしても、今ここでそんなことを発する意味にしても、到底、理解が追いつかない。


「遺体は見つかってねえ。だけど状況的に、ほぼ確実だ」

「何よ、それ……」

「ジェルミの野郎がエウドクソスとつるんで、ノルンさんを戦いに巻き込んだ。オレ達には、助けられなかった」

「何よそれ……!」


 目を伏せたまま声を絞り出す瞬に、連奈はそう答えることしかできなかった。

 ノルンとは、ノルン・エーレルトのことで間違いないだろう。

 民間の組織に属する立場でありながら、軍内部におけるケルケイムの発言権を高めるべく、尽力していた大人の女。

 瞬の反応を見るに、他の面子は、自分が抜けてからも何度か交流する機会があったようだ。

 だが連奈にとっては、たった一度会って、軽い挨拶を交わした程度の間柄。

 好きや嫌いになる以前の段階なのだ。

 そんな人間の訃報を聞かされたところで、どう驚き、どう悲しんでみせろというのか。

 だから、そんなことがあったのかと冷淡に受け止めてみせるのが、本来連奈が取るべき対応のはずなのだ。

 しかし、いま連奈の精神状態は、平静とは真逆のところにあった。

 心の奥底に押し込め、厳重に封をしたはずの罪悪感が、内側で膨れ上がり続けている。


「私のせいだって言いたいわけ……? 私がいなかったから、そんなことになったって……?」


 そしてようやく、連奈の中で話が繋がった。

 何の脈絡もないかのように思えた発言こそ、瞬が一度黙した理由だったのだ。

 瞬は本当なら、ノルンの死などを説得の材料にしたくなかったのだ。

 それを持ち出すのは、ひどく卑怯な真似だという自覚があったから。

 だというのに、自分が屁理屈をこねるばかりに、奥の手を使わせてしまった。

 ますます血流が激しさを増していくのを、連奈は感じる。


「お前のせいだって言うつもりはねえ。責任は、あの戦いに関わった奴らだけのもんだ。だけど、お前とオルトクラウドがいたら、そりゃあ、助けられる確率は上がってたさ」

「それを、私のせいにしてるっていうのよ……!」

「してねえだろうが……! 正直オレだって、あんなことになるまでは、お前がどこでどうしていようと知ったことじゃねえって思ってた。だからオレは、お前の脱走について、ごちゃごちゃ言う権利はねえ」


 瞬は神妙な顔つきでそう答えるが、直後、連奈に向けられた双眸は正直だった。

 自分の無力さを悔いているにしては、些か以上に威圧的だ。

 実際、瞬の話は、そこで終わりではなかった。


「だけどな、それでもやっぱり、ムカついてはいるんだよ。戦いを途中で、しかも勝手に投げ出しやがったお前に……!」


 理屈それ理屈それで、感情これ感情これ

 権利がなくとも本音を吐き散らす――――瞬らしい、身勝手な振る舞いだった。

 だが、話題を逸らしにくくなった分、上辺だけの言葉で機嫌を取ろうとしてくるより対応が厄介なのは確かだ。

 結局、瞬の言う通り、連奈に非があるというのは揺るがぬ事実なのだ。


「お前がいないせいでオレ達が痛い目を見たのは、その戦いに限ったことじゃねえ。あれからラニアケアは、オーゼスにもエウドクソスにも、ちょっかいをかけられっぱなしだ。おかげでオレ達は、色んなものを失った。……どれも、お前がいれば、もうちょっとましな結果になってたはずだ」

「そうね。どういう敵が出てきたのかは知らないけど、私とオルトクラウドなら、最低でも追い払えてはいたでしょうね」

「なあ連奈……ここが最後の一線だぜ。今ならまだ間に合う。今ならな」


 その忠告は、今まで以上に真剣味の増した口調で放たれた。

 わかっている。

 好き勝手が許されるのは、ここまで。

 この一線を越えたら――――瞬が差し伸べた手を振り払ってしまえば、事態はもう、穏便には済まない。

 その時点で、三風連奈は明確に、地球統一連合軍の対しての反逆者となる。

 先のことを考えるなら、罪状が帳消しにしてもらえるこの好機に――――いや、例え若干の罪状を負うことになっても、ヴァルクスに復隊しておくに越したことはない。

 理性は、分別を付けておとなしく帰還することを勧めている。

 ただし、それでは再び無難な軌道に戻るだけ。

 連奈の深層心理は、常に新しい変化を求めているのだ。

 求めている、はずなのだ。


「私は、そのラインの向こう側に行きたくて仕方がないのよ……!」


 苦悶の表情を浮かべながら、連奈は言い放った。

 それは紛うことなき、心からの叫びである。

 求めたものが、もう目前にある。

 平凡な人生からの脱却という、自分を長年に渡って苛んできたもどかしく呪わしい欲求が、ようやく満たされようとしている。

 なのに、最後の一歩を踏み出せない。

 原因は単純明快。

 全てを捨て去る覚悟が、この期に及んでも不足しているからだ。

 あとほんの微量でいい、自分の背を押してくれる力が必要なのだ。

 だから、そう。

 連奈は、瞬でもなければB4でもない、その間にあるものへと目をやった。


「ねえ、おじさま……」

「何だい、連奈ちゃん」

「あれ、貸してくれないかしら」


 言って、連奈は視線の先を指差す。

 自分達から二百メートルほど離れた場所に着陸しているアルギルベイスン。

 その後部、僅かに開放された巨大なハッチの内奥に垣間見える、怖気を震うほどの滑らかな青。

 それこそが、連奈が目当てとしている代物だった。


「あれって……」


 要求されたB4は、当然、困り顔を見せる。

 青の正体は、メテオメイル“グランシャリオ”――――他でもない、彼の乗機なのだから。


「私がどちら側の人間なのかを、はっきりさせたいの。そのために必要なのは、言葉じゃなくて行動。連合から送られてきた遣いを相手に、メテオメイルで戦ってみせれば、この上なく具体的に示せるでしょう? 誰に対してもね」

「……本気かよ、連奈」

「本気じゃなければ、こんなことはできないわ」


 連奈は無理に余裕の笑みを作りながら、瞬に向き合う。

 自ら戦闘行為に手を染め、退路を完全に断ち、過去の自分と決別を果たす。

 目的を達成する上で、連奈の取ろうとしている方法は、理に適っている。

 だが、前提条件をクリアできるどうかという点において、あまりにも理に適っていない。

 連合製メテオメイル以上に特定個人用の調整が施された機体を第三者に使わせることもだが、その相手が味方ではないという点において、既に論外。

 加えてグランシャリオは、オーゼスという組織にとって残り少ない戦力の一つ。

 B4に、首を縦に振る理由はなかった。

 しかし、B4はオーゼスが誇るパイロットの一人。

 他の八人と同様、唯一無二の不条理に囚われた存在。

 故に、強引な姿勢を貫けば、あらゆるリスクを差し置いて求めに応じてくれる。


「いいでしょ」

「仕方がないなあ。……なるべく、壊さないでくれよ」

「どうかしら」


 B4に礼も言わず、瞬の同意も得ず、連奈は二人の間を通り抜け、アルギルベイスンへ向かう。

 実際、意見を聞く必要性は皆無であった。


「いいぜ連奈、受けて立ってやる」


 連奈の背中に、瞬の了承が相当な圧を伴って飛んでくる。

 連奈の身勝手に対する憤慨でもなければ、本気の連奈を前にした虚勢でもない。

 そこにあるのは確かな自信。

 ここにゲルトルートではなく、セイファートでやってきたという事実が、全てを物語っていた。

 瞬は既に、自分だけの答えを掴んでいるのだ。

 連奈には、それが――――それも悔しかった。


「オレが勝ったら、無理にでも連れて帰るぜ」

「私が勝ったら、もう誰にも何も言わせないわよ。あなただけじゃなく、司令にも、北沢君にも、メアラにも。何度も押しかけられても困るもの」

「そんな心配はいらねえよ。一回こっきり、この勝負で終わりだ」

「そうなることを願いたいわね」


 だが、自分とて、もうじき確たる答えを出すことができる。

 果たして、憧れ続けてきた向こう側の空気は、自分の体に合うのか、合わないのか。

 連奈は自ら、それを確かめるべく、もう一つの蒼の巨人が眠る闇の中に飛び込んでいった。

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