28話『来てくれた』
嵐の中、あの公園に向かった。
こんな天気の中、誰もいるはずがない。なのに何で、俺がいつもすっている場所に人影があるんだよ……!
葉と枝が宙を舞って俺の身体に当たってくる。
あぁ、もう、意味わからんねぇ。
「おいっ!!」
俺の声は嵐に掻き消され聴こえないのか、人影はこちらに顔を向けない。ただ、ジャングルジムの下にあるペンチの方ににずっと視線を落としている。
俺は一呼吸吐いてから、さっきよりも早く走り出し、叫んだ。
「桐生晄杜!!」
ピクリ。少しだけ、影が動いたように見える。けど、植物たちが乱れたている中でその影はまた、動かなくなった。
ちっ。
俺は飾りの舌打ちをしてから、棒に手と足をかけて登る。雨で揺れていて滑りやすくなっている。
ザラザラした感覚が手に残る。暗くて見えないが、手にサビがついてそうだ。そのことを少し気にしながらも登り終えた時、目の前の清潔な血が回っている生き物が俺を見る。
「やっぱり、来てくれた」
びじょびじょに濡れた服と髪が下に向かう中で、彼の表情は上に上がる。俺は微笑みを返すことはしない。
お前がここにいるとは思った。けど、いて欲しくなかった。何で、お前はここにいるんだよ。何で、俺なんかを待ってるんだ?絶大なる人気を持っている子役が、なんで、俺なんかを気にするんだ?
「君、風邪ひいたんだって?」
桐生が、俺の顔をまじまじと見てくる。その表情はどこか真剣さを帯びているようにも感じる。
「なんでお前が知ってるんだよ」
「せっかくの記念日だったのになー」
俺の問は無視で桐生はつまらなそうに口を尖らせた。
記念日?何のだ?
俺はただ、桐生を見つめる。
「君、僕を心配してきてくれたんでしょ? ありがとね!」
桐生の声が明るくなる。その声は昨夜聴いたことのある、あのテレビの中での声だ。
「心配なんかしてねぇよ。 それより、なんでお前がここにいるんだよ」
見つけていた視線を外して、吐き捨てるように言い放す。
「何でって、理由なんか単純だよ。 君がいつもこうして僕を待ってくれてたから。 ただ、それだけだよ」
桐生はそれ以外何かある?と聞きたそうにキョンとした顔で答えた。
「こんな中、人を待つ芸能人がいるかよ」
そうだ。今は嵐の中なのだ。あの姉が言うには日本で一番人気のある子役らしいし、そんな奴がここにいてはダメな気がする。
こんなことをこいつのファンを知られたら俺は殺されるだろうか。
「君、そんなこと気にするんだ」
桐生からどこか残念そうな声が聞こえた。俺に失望したのだろうか。でも、何かこいつに失望させるようなことを言った記憶はない。
じゃあ、何でこいつは俺を覚めたような顔で見ているんだ?
「芸能人とかさ、一般人とか……その境界線って何?」
桐生が詰め寄ってきた。まだ小学生だから童顔とは言えないけど、綺麗に整ってる眉とか、まつ毛だとか、髪の毛だとか、そういうのを見ただけでこいつは別世界な人間の気がしてくる。
詰め寄ってきて、こいつが何をしたかったかと言われると俺は答えることは出来ない。なぜならこいつはただ俺の手を握りしめるだけでそっぽを向いてしまったからだ。
冷たい……。
桐生の手先は……いや、きっと体全体が冷めている。ここに何分いたのだろう。何分なんかじゃない。ここに、何時間いたんだ?
俺の異変な視線に気づいたのか桐生がこちらに顔を向ける。
「嘘をついていたことはごめん。けど、僕と君は別世界の人じゃない」
彼はどこか怒っていた。怒っている理由が見つからない俺はとりあえず、先程までの会話を思い出す。
……俺が怒ろうとしたことに怒ってるのか?
「僕は、普通になりたいんだ」
雨と風の音に消されてもおかしくない声が、不思議と俺の耳に聞こえてきた。
普通になりたい?普通って……なんだよ。
「クシュっ」
隣で聞き飽きたクシャミが聞こえた。
桐生を見ると、寒そうに体を震わせている。手元を見ても震えていた。
「俺が治ったのに、お前が今度風邪ひいてどうするんだよ」
「君の家で、ゆっくり、したいかな……」
真剣なのかふざけなのかわからない阿呆発言しているが、かすれかすれの声を聞いたら何も言い返せない。
「とりあえず降りるぞ」
「え、もう?」
「俺の家に連れてってやるから」
帰りたくないと言った様子だった桐生の顔を晴れる。
もし、太陽がこいつの笑顔を見たら隠れたくなくなってすぐ晴れになりそうだ。それでも今、晴れにならないのは今空を覆っている者がひねくれているか、見てないからだ。
そして太陽はそれに隠れて全く見えなくなっているからだ。
「降りれるよな?」
「うんっ!」
桐生のここまで明るくて元気な声を今日初めて聞い気がする。
それが嘘か本当かは今の俺には見破られないけど、とりあえず風邪治すぞ。お前が心配なわけではなくて、俺が殺されそうだ。
俺のせいでお前が風邪をひいたなんて言ったら俺の身近にいる奴がただじゃ済まさせねぇからな。
滑る棒を注意しながら降りて、それから2人で笑いながら走り出した。
子供なんて単純なんだ。
繋いでいる手は今ここに生きて、存在している桐生がいることを知らせてくれた。




