セレブな学園に転入する事になったんですが、何か?
俺は、急いでいた。
大事な入学式の日に寝坊という、最高にやらかしたスタートをしたからだ。
「ったく、誰だよ、入学式前日に遅くまでゲームしてたバカ野郎は」
…まぁ、俺なんだけど。
心の中で軽くツッコミを入れながらも、俺は家の前の坂道をダッシュしている。
あ、紹介が遅くなったから今言っておく。
俺は、菅谷明人。
今日から高校生になる、全く持って普通な男子。
まぁ、強いて言えば、中学の頃「バトラー」とか、「セバスチャン」とか呼ばれるくらい、世話好きだ。
まぁ、俺の紹介はこの位にして話を戻そう。
後少しで坂を登り切る、と思った瞬間だった。
目の前で、大きなリムジンが止まったかと思うと、ドアが開いた。
俺は思わず目をつぶる。ブレーキが掛からない。もうダメだ。
視界が急に暗くなる。ふわっと体が柔らかいものの上に乗った感覚がした。
まるで、超高級なソファーにダイブしたかの様に。
俺は、自分はもう死んだのだろうと勝手に判断する。
あぁ、まるでつまらなかったな、俺の15年間。
皆から「バトラー」とか呼ばれて、パシられてばっかだったなぁ…
もっと色んなことしたかったなぁ…。
高校での勉強に、恋愛、文化祭とか色々と、やりたい事ばっかで未練が生まれる。
「はぁ…、さようなら俺の人生」
「何勝手に死んでるのよ」
上の方から声が聞こえた。
恐る恐る顔をあげて、目を開いた。
女の人の顔が、今にもキスできそうな距離にまで近付いていた。
「うわっ!?」
思わず、びっくりして、後ろに身を引いた。
「あれ? 体が動く」
「当たり前でしょ。 何を勝手に死のうとしてるのかしら」
俺は周りを見た。
どうやら車の中らしい。窓から見える景色が非常に綺麗で一瞬見入ってしまう。
「ん? 車?」
俺は異変に気づいた。
「俺何で今車なんて乗ってんだ?」
さっきまでの事を思い返してみる。
俺はさっきまで高校に向かってて、それで坂を登ろうとして、そしたら車が目の前で止まって、ドアが開いて、俺はそこに…ダイブした。
「思い出した! 俺は入学式に遅刻しかけて、坂をダッシュしてたら、急にリムジンが目の前に止まって、ドアが開いて、それで…」
「やっと理解したようね。」
女の人がふっと一瞬笑った。
「あんたが察したとおり、ここはそのリムジンの中よ。 私はあんたみたいな男子を探してたのよ」
女の人が、俺を指さす。
「俺を…?」
俺は状況が理解できなかった。
「そうよ」
女の人は、タバコをふかしながら言った。
「何で俺なんだ? 他にも男子はいっぱい居るだろ?」
俺は首を傾げた。
「ダメよ。これはあんたにしかできない事なの」
ますますわからない。
俺にしか出来ない事など、全く持って想像ができない。
俺が頭にはてなをいっぱい出していると、女の人が、にやっと笑った。
「まぁ、良いわ。 今向かってる場所に着けば説明しやすいから、詳しい説明はそこで」
「そう言えば、今俺達はどこに向かってるんだ?」
「どこって、学校に決まってるでしょ」
「学校?」
「そうよ」
外の景色を見る。だが、学校らしき建物は一個も無い。
代わりに、山の上の方にものすごく大きな建物があるだけだ。
「学校なんて無いじゃねぇか」
「有るじゃない。 あそこに」
女の人が指さした方向を見て、俺は唖然とした。
それは、先程自分が目にしたやけにバカでかい建物だった。
「あれが、学校?」
俺は顔を引きつらせた。
流石にあんなに大きな学校は初めて見る。
「学校よ。 なんてったって私が理事長なんだから」
「は?」
俺はさらに唖然とした。
自分の目の前にいるのが、あの、やけにバカかでかい学校の理事長だと言うのだから。
「自己紹介がまだだったわね。 私は楠木薔子。 あの学校…私立白好河女学園の理事長よ。 よろしくね、菅谷明人くん。 私の事は薔子で良いわ」
にこっと笑いながら、手を出してきた。
「よ、宜しくお願いします」
自分でもわかるくらい顔を引きつらせながら、握手をした。
これからどうなるのだろうと考えていると、薔子が腕時計を見ながら、「そろそろね」、と呟く。
「もうすぐ着くから、準備しておいてね」
俺は言われた通りに車から降りる準備をした。
準備が終わると同時に、車が停車した。
「着いたわよ」
そう言って、薔子が車から降りていく。
俺も見習って車から降りた。
目の前にはとても校門とは思えない、ような高さの門が、そびえ立っている。
楠木薔子は門のところまで行くと、こちらを振り返った。
「ようこそ、我が学園へ」
さっきまでとは違う、理事長としての顔になった薔子を見て、本当に来てしまったんだと、改めて実感した。
「いやしかしホントバカでけぇな、この学校」
俺は、薔子につられて、学園の廊下を歩いていた。
「あんた、ホントに知らないの? ここって結構有名なのよ?」
薔子が意外そうな顔をする。
「そうなのか?」
俺は薔子にその後、ここの事を少し教えてもらった。
ここ、私立白好河女学園は、国内で1番大きな学校で、名前の通り女子高だ。
しかも、通っているのは皆、由緒正しい家柄の出だそうだ。
つまりは超お嬢様学校って事だ。
更にここは、全寮制なので、かなりきちんとした校風の様だ。
「それで、なんで俺がこの学校に来たのか理由を教えてくれよ」
俺は、どう見てもこの学校に入れるような家柄でもないし、それ以前に女子じゃない。
俺にこの学校に来る資格は無いのだ。
薔子は少し黙ってから、ふと立ち止まった。
「な、なんだよ。 どうした?」
思わず俺も立ち止まった。
薔子はくるりとこちらを向いた。
「着いたわよ。 ここが理事長室よ」
俺は左を見た。
あれ? 何このアニメとかに出る、地獄の門みたいなでかい扉。
「何これ」
「何って、扉でしょ」
…いや、まぁそうだけどさ。
この世にこんなにデカい扉はまず無い。
あるとすればそれこそどっかの神話か何かだ。
ぎぃ、と音を立てて扉が開く。
「入って」
薔子に促されるまま入るとそこには、おびただしい数のメイドが並んでいた。
「「「おかえりなさいませ、薔子さま」」」
一斉に扉の前にたっている俺…では無くその奥にいた薔子に頭を下げた。
…正直に言おう。
怖い。
なんなら今すぐに立ち去りたい程に、メイド達の動きは、揃っていた。
「すげぇな、こりゃ」
半ば感心しつつ、俺は言った。
薔子が奥の椅子に座る。
「さて、改めてようこそ、我が白好河女学園へ。 生徒共々お礼を言うわ」
理事長モードの薔子はいつに無く、真面目な顔をしていた。
「さっそく本題を説明するわ。 さっきも言った通り、ここはお嬢様学校よ。 それに全寮制だからあまり外に出ない。 これが何を生むかわかる?」
「ん? 何でだ? いい事だろ? きちんとしていていいんじゃないのか?」
俺は頭の中にはてなが浮かんだ。
薔子が飽きれた顔をする。
「ほんとに何も知らないのね。 そんな外の空気を知らない子達が外に出てみなさい? 現実と理想の違いに苦しんで、何時しかネットに逃げるわよ? 由緒正しい家柄の娘がそんな事になったら誰が責任取るのよ!?」
えぇ!? 俺!?
まさかの全て俺の責任みたいにしないでくれる!?
と、顔で訴えるも、完全にスルーされる。
「そこで出たのが、平民から1人、転入と言う形でお世話係を入れようと言う話よ」
平民て。 と言いたかったが、無駄になるのでやめよう。
「それで、なんで俺なんだよ。」
俺はとうとつに聞いてみた。
「だって、世話好きじゃない」
いやまぁ、そうなんだけどさ!?
「と、言うわけで、明人くんにはこれからここの生徒になってもらいます。 制服も作らせました」
何か勝手に話し進んでねぇか?
「てゆか、俺はどう帰ればいいんだよ」
「何言ってるの? あなたも寮に入るのよ? 部屋は空いてるし」
「はぁ!? いや、待てよ! そんなの俺の親が許すわけねぇだろ!?」
「あなたのお母さんもOKしてくれたわよ?」
薔子は何気ない顔で言った。
「嘘だろおい…」
どうしようもなくなった。
ほんとうちの親はバカだ。
母さん、恨むぜ。
「はぁ、仕方ないな。 入ればいいんだろ?」
もう諦めた様に俺は言った。
「ありがとう。 それでは早速…。 皆さん、もういいですよ」
そう言って薔子が扉の方に目をやった。
なんだか後ろからぞろぞろと何かが集まっている感じがする。
なかなか出てこないので、理事長がメイドに指示を出した。
メイドが、5mは優に超す大きな扉を一気に開けた。
すると、ドサドサっと大きな音を立てて、何かが崩れていく感じがした。
嫌な予感がして振り向くとそこには、大勢の女子の群れが、ギュウギュウ詰めになりながらも理事長室に入って来ていた。
「「「ごきげんよう、菅谷明人さん」」」
5m越えの扉が埋まるほどの人数が俺に挨拶してくる。
正直引いた。
こんなにも女子って恐ろしい生き物だったのか?
そんなことを思いながらも、俺もみんなに挨拶をした。
「よ、よろしくね」
飲み込まれるようになりながらもなんとか挨拶をした。
俺の正式な転入は明日からになるらしい。
俺はこのまま、メイドに部屋に案内された。
部屋に入ると、メイドがいきなり喋り始めた。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。 私は南條瑠李でございます。 今日から明人様の専属になりました。 宜しくお願いいたします」
なんと、俺にメイドがついてくれるのか!
理事長ナイス!
と、心の中で言いつつ、平然を装った。
明日から、俺の新しい学園生活が始まる。
そう考えたらワクワクしてきた。
ベッドに横になりながら、色々な事を考えていく。
まだ、明日大きな騒動が起こるなんて誰も予想してないまま。
どうも、角煮ポン太です。
久々に物語を書いてみました。
いやー、今回は久しぶりなので、挨拶はこのくらいにします。
決してネタがないとかじゃありませんからね?