18『そして』
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ブランテの手紙をフィネティアのネロとクリムに届け終えると、スメールチはとんぼ返りでシャンテシャルムに戻った。ただただ、ブランテのことが心配だった。出来ることなら、片時も目を離さないでいたかったと思う程に。
しかし、そんな想いももう遅い。ブランテ・エントゥージアという男は、母国の騎士によって殺されてしまったのだから。
その事実を知ると、スメールチは文字通り膝から崩れ落ちた。声もなく、表情もなく、感情も抜け落ちてしまったかのように、ただただ呆然とした。ひたすら泣き続けるアムールを背景のようにしか感じていなかった。
どうして、手紙を届けるなんて約束をしてしまったのだろう。どうして、ブランテから離れるという選択をしてしまったのだろう。どうして、この城にいた者はブランテから目を離してしまったのだろう。どうして、自分たちはブランテを一人にしてしまったのだろう。どうして、この城は侵入者を許してしまったのだろう。
湧き続けるどうして、という疑問は次第に怒りに変わっていく。しかし、それを何処にもぶつけられないとスメールチは脳で分かっていたし、ぶつけたところでブランテは永遠に帰ってこないという事実が、スメールチから全てを奪ってしまった。
「……必ず、戦争を終わらせます」アムールは泣きながら、意地を張るように言った。「戦争を終わらせて、ブランテさんの身体はしっかり故郷に帰るようにして、全てが終わったら弔います。必ず……!!」
アムールの言葉に、スメールチはただ「……そう」という言葉しか返さない。それ以外には何も言うことも思うことも現時点ではないらしく、アムールへの興味も全く無いようだった。
その証拠に、スメールチは「じゃあ、もう僕がこれ以上此処にいる必要は無いね」なんて言ってシャンテシャルムを後にしてしまったのだから。
◇
「……懐かしいな」
ネロの部屋で偶然見つけた短剣と帽子とマントを見て、ブランテはポツリと呟いた。これらは生前、自分が常に身に付けていたものだ。自分の肉体がなくなってしまっても、装飾品はこうして残っているというのが何とも不思議な感覚だった。当たり前のことのはずなのに。
ブランテが死んでから、もう四年という時が経過している。時間とは早いものだ。そして、何が起こるか分からないものだ。
この四年の間に、ネロが片想いをし、ブランテが死に、クリムが死に、戦争が終わり、ネロがヴァンパイアになり、クリムが生き返り、ブランテが幽霊と復活し、そしてネロとクリムが結婚した。一生分どころか二生分か三生分ぐらい詰め込まれたような四年である。
「なんだブランテ、いないと思ったら此処にいたのか……」
ブランテが感慨に浸っていると、部屋の外からひょっこりとネロが顔を覗かせた。そして、ブランテが見ていたものを見つけると、ネロは少しだけ悲しそうな顔をした。
「そんな顔するなっての、ネーロちゃん? 俺はちゃんと、此処にいるだろ?」
「…………そうだな」
中々表情を戻さないネロに困惑しつつ、ブランテは茶化すような言葉を続ける。
「それとも、今日は開き直って俺が死んだ前後の話でも語り明かすか? 俺も、あの間何が起こってたか把握してないわけだし」
「それは御免だなぁ……あのときみたいな想いは、二度としたくないし……」
「そうか。そりゃ残念だ」
「嬉しそうに言われてもね」
そうして二人は笑いあった。過去は振り返らないと心に強く決めながら、前を向くことを選んだ。
-another story-




