13『転機』
それから、ブランテは自分がどういった事情でシャンテシャルムに来ていて、これから何をしようとしているのか、何のためにフラヴィに頼んでアムールを呼び出したのかを説明した。案の定訝しげな視線を送られたのは言うまでもない。母国を敗戦させたいなんて考えは、どこからどう見ても異常だ。
「でも、貴方の仰有ることはよく分かりました……本当に、いいのですか? 最悪、トイフェルまで動き出して、フィネティアは本当に潰されてしまうかもしれないんですよ?」
「いいも何も、さっき言った通りもう一部は動き出してるんだ。今さら後戻りもできねえよ」
因みに、アムールがフィネティアの出した条件を飲まなければブランテはフィネティアに帰ることが出来ないということは伏せてある。必要のないところでアムールの頭を悩ませ、罪悪感を抱かせたくなかったのだ。
「事が上手く進めばそれで解決するんだ」
ブランテは自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
「フィネティアを囲いこむ為に他国に呼び掛けるという話ですが――」アムールはやや微笑んで言う。「――既に一国、呼び掛けは完了しています」
「そうなのか?」
「はい。パラネージェに」
これからは貴方のお陰で堂々と同盟が組めそうです。とアムールは笑ってみせた。そう、既に水面下でシャンテシャルムとパラネージェは協力していたのだ。
元々、商人の国であるパラネージェと、豊かな土地のあるシャンテシャルムは貿易等で親密な関係を築いていた。戦争が起こってもその関係が崩れることはなく、むしろ絆はより一層強固なものへと変わっていった。だが、それは世界にはあまり知られていない。戦争が起きたときにパラネージェ国王がシャンテシャルムに被害があってはいけないと関係を隠したのだ。
関係を隠されようが隠されまいが、他国など知ったこっちゃないと判断したアムールはパラネージェを支援し続けた。物資であったり、兵士の回復であったり、その形は様々だ。そのこともあってパラネージェはシャンテシャルムに深く恩を感じているのだが、今回、逆にシャンテシャルムが戦争を始めてもパラネージェはシャンテシャルムに何もしてあげることが出来なかった。勿論、現在進行形だ。この事を歯痒く感じていたパラネージェ国王は、きっとブランテの話に二つ返事で乗り、シャンテシャルムを守るためならなんだってしてくれる勢いだろうが、この二人はまだそれを知らない。
「あとはそうですね……風に託してみましょうか」
「風?」
「ええ、風の便りと言い換えた方が宜しいでしょうか」
そう言ってアムールはフラヴィにアイコンタクトを送る。アムールの意図をしっかりと読み取ったフラヴィは「りょーかーい」と軽く言ってニカリと笑って見せた。
一方、ブランテはその意図を読み取れないでいる。しかし、アムールはそんなブランテを見て微笑むだけで、説明する気は更々無いようだった。
翌日。状況はじわじわと姿を変えていく。
「噂で聞いた話なので真偽は分かりませんが……どうやら、色んな人たちが一斉に動き出したようです」
白々しく、やや微笑みながらアムールは言った。
「へえ、なんでまた急に?」
「みんな機会を伺っていたんですよ。それが、何らかのタイミングを得て動いたようです。何が原因なのか分からないし、そもそも噂なのでよく分かりませんけれど」
ブランテの問いに対し、アムールはあくまでも自分たちは関係ないということを主張した。そんなことを言われても、ブランテもバカではない。自分の行動と、昨日のやり取りが原因になっていることぐらい分かっている。アムールはそのことを分かっている上で、あえてこんな言い方をしているのだった。ブランテ一人にすべての責任がいってしまわないように。
「……なんかよくわかんねえけど、ありがたい話だな」
「一概にそうとも言えませんけどね」
アムールの意図をやっとここで理解したブランテは感謝の気持ちを伝えようとした。すると、アムールは心が痛むのか眉を寄せてそんなことを言う。
「……『最悪』が一番早くに来てしまったようで」もう後戻りはできない。その言葉を噛み締めながらアムールは現状を正直に伝えた。「トイフェルが動き始めるかもしれないんです」
状況をコントロールすることはとても難しい。
トイフェルが動き出した。それは、フィネティアが潰されてしまうかもしれないなんて柔な表現だけでは事足りない。平和ボケしたフィネティア国内が、一気に血生臭い戦場と化すかもしれないという可能性を示していた。




